どこかで見たような異世界物語

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第十一章

第285話 大部屋

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは……まずいな」

 倒せないほどではないが、手ごわい魔物が稀に出てくるようになり、迷宮碑ガルストーンを求め先を急いでいた『プラネットアース」。
 場所が罠エリアなだけに、思うように進めない事もあったが、これまでのように地図埋めは意識せず先へ先へと進むようにしたせいか、進行速度はそこそこ上がった。

 そしてようやく次の迷宮碑ガルストーンが設置されてるであろう、二十五層へと降り立った信也達。
 だがそこには迷宮碑ガルストーンが設置されておらず、がらんとした空間が広がっていた。

「……ないっすね」

「ないわね」

「ないみたいですね~」

 口々にみんなが同じセリフを吐くのも、それだけショックだったという事だろう。
 幸い悲壮感に打ちひしがれているような者はいないので、気持ち的にはまだどうにかなりそうだった。

「ロベルト。こういう事はダンジョンではよくあるのか?」

「んー、そッスね。何層ごとに設置ってパターンがやっぱ多いッスけど、最初は一層、次は三層。その次は六層とかって感じで、間隔が一層ずつ増えていくようなのもあるッス」

 他にも倍々に間隔が増えていくものや、まったく規則性を見いだせないような所もあるらしい。
 その話を聞いた信也は、リーダーとしてこれからどうするかについて考え始める。


(引き返すか? ……いや、そうなると十八層まで戻らないといけなくなる。地図はあるものの、一日二日で戻れるかどうか……。ならいっそ……)

 結局信也の中で答えは出ず、仲間とも相談した結果、このまま先へ進んでみるということになった。
 ただし、もしこの階層からまた新たな強敵が出現するようになっていたら、無理をせず十八層まで引き返す、という条件付きでだ。

 一度方針が決まれば話は早い。
 早速一行は二十五層の探索に着手し始める。

 それからしばらくの間は特に問題もなく探索は行われていた。
 出現する魔物もこれまでとそう大差はなく、若干グリオンなどの強敵の出現率が上がったかな? と感じる程度だ。


「あれ? ここさっき通ったよね?」

「そうだね~」

「あー、これはグルリと一周してきちゃったみたいね」

 由里香と芽衣の会話に、陽子が地図を見ながら状況を把握する。
 現在陽子達のいる十字路は、確かに前に南から侵入して西に抜けたことがあり、今は東から戻ってきたという形になる。

 それも陽子が地図で見る限りでは、このまだ通っていない十字路の北の先は、十字路の西と東から繋がる通路で環状線のようになっている、その内側部分に繋がっている。
 別に今は地図の穴埋めをしている訳でもないのだが、もしこの先に階段があったとしたら面倒だ。

「という訳で、この北の通路を先に潰しましょ」

「ああ、了解した」

 そうして十字路を北に進み始めて十分ほどが経過する。
 この通路は今の所一本道で罠も発見されておらず、魔物も見かけていない。
 わずか十分とはいえ、不意に訪れた平穏な時間のせいか、雑談が始まっていた。

「あー、早く拠点戻ってシャワー浴びたいわ」

「ですねえ。大分このせか……こっちの生活にも慣れてきた所だったのに、北条さんがあんなものを作ってしまいましたから」

「えー? でも、お風呂気持ちいいっすよ?」

「……だからダンジョンにいる間がきつく感じちゃうのよ」

「あー、まあ、それもそうっすね」

「でも石鹸があるだけでも、以前とは違うと思いますよ~」

「そうね。水は咲良に頼めばいいし、この石鹸は香りもいいし」

「こうなってくると、シャンプーも欲しい所ですね」


 先頭を陽子とロベルトが歩いている事には変わりないが、最前列の二人のすぐ後ろには距離を詰めた他の女性陣が一緒に歩いていた。
 ロベルトは近くで繰り広げられているガールズトークに加わる事もできず、ひたすら前方の索敵や罠の探索に集中していた。
 そんな彼が、前方に扉があるのを発見する。

「ちょっと調べてくるッス」

 そう言ってロベルトは少し先行して先に扉を調べ始める。
 地下迷宮タイプのダンジョンでは、時折こうした扉によって区切られた区画が存在する。
 そうした部屋の中には罠が仕掛けられている事もあるし、宝箱が設置されている事もあった。

「罠はないみたいッス」

 罠の調査を終えたロベルトはそう言うと、先が気になるのか後続を待たずに先に扉を開けて先へと進んでいく。

 その部屋はまさに"小部屋"といった様相の空間で、残念ながら宝箱は設置されていなかった。
 もっとも魔物がうじゃうじゃ配置されていたり、罠がてんこ盛りだったという事もないようで、休憩するのにはちょうどいい。

「たしかに。どうする? 休んでいくか?」

「あたしはまだへーきっす」

「疲れてない訳じゃないけど、私もまだいけるわよ」

「私は少し休みたい……かも」

「それなら軽く小休止を挟む事しようか」

 メンバーの意見を一通り聞いた信也が予定を決める。
 まだへーきだと言っていた由里香も反対する訳でもなく、素直に指示に従う。

「陽子さん、ちょっとした肉ないっすか?」

「ちょっとした肉ってなによ? 私からすれば肉ってだけでずっしり来るイメージなんだけど」

「アハハッ。あたしは毎食お肉でもいいっす。あー、久々にとんかつ食いたいっす……」

「とんかつ位なら北条さんに頼めば作ってくれるんじゃない? もっともソースまでは無理だと思うけど」

「うー、それはきついっす。とんかつソースも欲しいっす」

「まあとんかつはないけど、町で買った串焼きの肉はまだ少し在庫があるわ」

 そう言って陽子は"アイテムボックス"から串焼きを取り出す。
 時間が止められたまま保存されていたその串焼きは、取り出すとまるで出来立てのように湯気がたち、まぶされた香辛料の匂いが漂ってくる。

「うわああい! 陽子さん愛してるっす」

「もう、調子いいわねえ」

 そうは言いながらも、早速嬉しそうに串焼きをほおばり始める由里香に優し気な視線を送る陽子。

「ウゥ、僕も串焼き欲しいッス」

「あら、残念。あとは私の分と芽衣ちゃんと咲良の分でラストよ」

 そう言って更に追加で串焼きを取り出し、芽衣と咲良に配っていく。

「えええー! 何でッスかあ!? その二人は別に欲しいって言ってた訳じゃ……」

「あ、私も丁度たべたかったんですよ」

「陽子さん、ありがと~」

「と、いう訳よ」

「ぐぐっ……」

 嬉しそうに串焼きを受け取っている二人を前に、これ以上強く言い出すことが出来ないロベルト。
 ポカンと口を開けながら、陽子らが串焼きを食べているのをじっと見ている。

「ちょっと……。人の食べてるとこそんなジロジロ見ないでよ」

「くっ、町に戻ったら絶対僕も串焼き買うッス……」

 ようやく諦めたらしく、陽子らの下から離れ扉の方へと移動するロベルト。

「ロベルト。そういえばそちらの扉にも罠はないのか?」

「ええ。少なくとも僕の調べた限りでは罠はないッス」

 ロベルトが今近づいていったのは、入ってきたほうの扉ではなく、更に奥へと続いていそうなもう一つの扉だ。
 入ってきた扉と比べると妙に扉自体が大きく、いかにも何かありそうな雰囲気を漂わせている。
 信也がこの小部屋で小休止を取ったのも、この扉が理由だった。

「なら彼女らの間食が終わり次第、先に進むとするか」

 別に含みを持たせて言った訳ではない信也だったが、"間食"という言葉に陽子と咲良が「うっ!」と反応を見せていた。
 しかし「う、運動はしてるし……」などと言いながら二人ともきっちり串焼きを平らげてしまう。
 冒険者向けの屋台で買ったものなので、一本でもそれなりのボリュームはあったのだが、彼女らはそれを全員完食していた。

「さっ! 食後の腹ごなしに探索再開ね!」

「ああ。まずはあのでかい扉をくぐって行くぞ」

 陽子が体重の事を気にしているような様子を見て、信也は少し意外に思いながらも、気持ちを探索モードに切り替える。

「じゃあ開けるッス」

 両開きの重そうな扉を開けていくロベルト。
 扉の先には二メートルほどの短い通路というか通り道が続いており、その先には更に大きな部屋があるようだ。
 通路から覗ける範囲だと部屋の左右の広さまでは分からないが、奥行きがかなりありそうなので、左右の幅も相応に広いのではないかと思われた。

「これは随分と広そうですね」

「ええ。あの様子だと、もしかしたらこの地図の開いてる場所が全て埋まっちゃうかもね」

 そんな事を話しながら、一行は大部屋の中ほどまで進む。
 ここまでくると部屋の全容もうかがえるのだが、どうやら長方形の形をした部屋のようで、短い辺の距離でも三十メートルくらいはありそうだった。
 そして奥には更にいわくありげな扉があり、信也達はそちらの方へと歩いていく。
 部屋の中はガランとしていて、特に見るべきものもなかったからだ。

「なんだ? こんだけ広い部屋なのに、何もないのか?」

「そうですねえ。なんかゲームだとこういった場所って大体……」

「みんな、気を付けるッス! 敵ッス!」

「ってまあ、やっぱそうなるのね」

 咲良だけでなく、陽子も嫌な予感がしていたのか二人して同じような表情を浮かべている。

「来るッス!」

 すでに戦闘態勢に移行していた信也達の前に現れたのは、これまで何度も見た事のある魔物だった。
 だが、これまで見たその魔物とは違い、コイツ・・・はどちらも自由に移動をすることが出来るらしい。

 この広い部屋の中の壁、地面。あるいは天井部分。
 あらゆる所から顔を覗かせるこの魔物の名はルームイミテーター。
 その名の通り、部屋そのものに擬態して冒険者を待ち受ける魔物だ。

「あ、出口が!」

 咲良の声に釣られ、部屋の入口に目線をやると、入り口のあった部分は完全に壁に覆われて外に出れないようになっていた。


「……これはアタリを引いたかもしれないッスね」


 どこか緊張した様子のロベルトの声が、そうボリュームは大きくなかったというのに、妙に全員の耳に残った。


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