どこかで見たような異世界物語

PIAS

文字の大きさ
323 / 398
第十一章

第285話 大部屋

しおりを挟む

◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「これは……まずいな」

 倒せないほどではないが、手ごわい魔物が稀に出てくるようになり、迷宮碑ガルストーンを求め先を急いでいた『プラネットアース」。
 場所が罠エリアなだけに、思うように進めない事もあったが、これまでのように地図埋めは意識せず先へ先へと進むようにしたせいか、進行速度はそこそこ上がった。

 そしてようやく次の迷宮碑ガルストーンが設置されてるであろう、二十五層へと降り立った信也達。
 だがそこには迷宮碑ガルストーンが設置されておらず、がらんとした空間が広がっていた。

「……ないっすね」

「ないわね」

「ないみたいですね~」

 口々にみんなが同じセリフを吐くのも、それだけショックだったという事だろう。
 幸い悲壮感に打ちひしがれているような者はいないので、気持ち的にはまだどうにかなりそうだった。

「ロベルト。こういう事はダンジョンではよくあるのか?」

「んー、そッスね。何層ごとに設置ってパターンがやっぱ多いッスけど、最初は一層、次は三層。その次は六層とかって感じで、間隔が一層ずつ増えていくようなのもあるッス」

 他にも倍々に間隔が増えていくものや、まったく規則性を見いだせないような所もあるらしい。
 その話を聞いた信也は、リーダーとしてこれからどうするかについて考え始める。


(引き返すか? ……いや、そうなると十八層まで戻らないといけなくなる。地図はあるものの、一日二日で戻れるかどうか……。ならいっそ……)

 結局信也の中で答えは出ず、仲間とも相談した結果、このまま先へ進んでみるということになった。
 ただし、もしこの階層からまた新たな強敵が出現するようになっていたら、無理をせず十八層まで引き返す、という条件付きでだ。

 一度方針が決まれば話は早い。
 早速一行は二十五層の探索に着手し始める。

 それからしばらくの間は特に問題もなく探索は行われていた。
 出現する魔物もこれまでとそう大差はなく、若干グリオンなどの強敵の出現率が上がったかな? と感じる程度だ。


「あれ? ここさっき通ったよね?」

「そうだね~」

「あー、これはグルリと一周してきちゃったみたいね」

 由里香と芽衣の会話に、陽子が地図を見ながら状況を把握する。
 現在陽子達のいる十字路は、確かに前に南から侵入して西に抜けたことがあり、今は東から戻ってきたという形になる。

 それも陽子が地図で見る限りでは、このまだ通っていない十字路の北の先は、十字路の西と東から繋がる通路で環状線のようになっている、その内側部分に繋がっている。
 別に今は地図の穴埋めをしている訳でもないのだが、もしこの先に階段があったとしたら面倒だ。

「という訳で、この北の通路を先に潰しましょ」

「ああ、了解した」

 そうして十字路を北に進み始めて十分ほどが経過する。
 この通路は今の所一本道で罠も発見されておらず、魔物も見かけていない。
 わずか十分とはいえ、不意に訪れた平穏な時間のせいか、雑談が始まっていた。

「あー、早く拠点戻ってシャワー浴びたいわ」

「ですねえ。大分このせか……こっちの生活にも慣れてきた所だったのに、北条さんがあんなものを作ってしまいましたから」

「えー? でも、お風呂気持ちいいっすよ?」

「……だからダンジョンにいる間がきつく感じちゃうのよ」

「あー、まあ、それもそうっすね」

「でも石鹸があるだけでも、以前とは違うと思いますよ~」

「そうね。水は咲良に頼めばいいし、この石鹸は香りもいいし」

「こうなってくると、シャンプーも欲しい所ですね」


 先頭を陽子とロベルトが歩いている事には変わりないが、最前列の二人のすぐ後ろには距離を詰めた他の女性陣が一緒に歩いていた。
 ロベルトは近くで繰り広げられているガールズトークに加わる事もできず、ひたすら前方の索敵や罠の探索に集中していた。
 そんな彼が、前方に扉があるのを発見する。

「ちょっと調べてくるッス」

 そう言ってロベルトは少し先行して先に扉を調べ始める。
 地下迷宮タイプのダンジョンでは、時折こうした扉によって区切られた区画が存在する。
 そうした部屋の中には罠が仕掛けられている事もあるし、宝箱が設置されている事もあった。

「罠はないみたいッス」

 罠の調査を終えたロベルトはそう言うと、先が気になるのか後続を待たずに先に扉を開けて先へと進んでいく。

 その部屋はまさに"小部屋"といった様相の空間で、残念ながら宝箱は設置されていなかった。
 もっとも魔物がうじゃうじゃ配置されていたり、罠がてんこ盛りだったという事もないようで、休憩するのにはちょうどいい。

「たしかに。どうする? 休んでいくか?」

「あたしはまだへーきっす」

「疲れてない訳じゃないけど、私もまだいけるわよ」

「私は少し休みたい……かも」

「それなら軽く小休止を挟む事しようか」

 メンバーの意見を一通り聞いた信也が予定を決める。
 まだへーきだと言っていた由里香も反対する訳でもなく、素直に指示に従う。

「陽子さん、ちょっとした肉ないっすか?」

「ちょっとした肉ってなによ? 私からすれば肉ってだけでずっしり来るイメージなんだけど」

「アハハッ。あたしは毎食お肉でもいいっす。あー、久々にとんかつ食いたいっす……」

「とんかつ位なら北条さんに頼めば作ってくれるんじゃない? もっともソースまでは無理だと思うけど」

「うー、それはきついっす。とんかつソースも欲しいっす」

「まあとんかつはないけど、町で買った串焼きの肉はまだ少し在庫があるわ」

 そう言って陽子は"アイテムボックス"から串焼きを取り出す。
 時間が止められたまま保存されていたその串焼きは、取り出すとまるで出来立てのように湯気がたち、まぶされた香辛料の匂いが漂ってくる。

「うわああい! 陽子さん愛してるっす」

「もう、調子いいわねえ」

 そうは言いながらも、早速嬉しそうに串焼きをほおばり始める由里香に優し気な視線を送る陽子。

「ウゥ、僕も串焼き欲しいッス」

「あら、残念。あとは私の分と芽衣ちゃんと咲良の分でラストよ」

 そう言って更に追加で串焼きを取り出し、芽衣と咲良に配っていく。

「えええー! 何でッスかあ!? その二人は別に欲しいって言ってた訳じゃ……」

「あ、私も丁度たべたかったんですよ」

「陽子さん、ありがと~」

「と、いう訳よ」

「ぐぐっ……」

 嬉しそうに串焼きを受け取っている二人を前に、これ以上強く言い出すことが出来ないロベルト。
 ポカンと口を開けながら、陽子らが串焼きを食べているのをじっと見ている。

「ちょっと……。人の食べてるとこそんなジロジロ見ないでよ」

「くっ、町に戻ったら絶対僕も串焼き買うッス……」

 ようやく諦めたらしく、陽子らの下から離れ扉の方へと移動するロベルト。

「ロベルト。そういえばそちらの扉にも罠はないのか?」

「ええ。少なくとも僕の調べた限りでは罠はないッス」

 ロベルトが今近づいていったのは、入ってきたほうの扉ではなく、更に奥へと続いていそうなもう一つの扉だ。
 入ってきた扉と比べると妙に扉自体が大きく、いかにも何かありそうな雰囲気を漂わせている。
 信也がこの小部屋で小休止を取ったのも、この扉が理由だった。

「なら彼女らの間食が終わり次第、先に進むとするか」

 別に含みを持たせて言った訳ではない信也だったが、"間食"という言葉に陽子と咲良が「うっ!」と反応を見せていた。
 しかし「う、運動はしてるし……」などと言いながら二人ともきっちり串焼きを平らげてしまう。
 冒険者向けの屋台で買ったものなので、一本でもそれなりのボリュームはあったのだが、彼女らはそれを全員完食していた。

「さっ! 食後の腹ごなしに探索再開ね!」

「ああ。まずはあのでかい扉をくぐって行くぞ」

 陽子が体重の事を気にしているような様子を見て、信也は少し意外に思いながらも、気持ちを探索モードに切り替える。

「じゃあ開けるッス」

 両開きの重そうな扉を開けていくロベルト。
 扉の先には二メートルほどの短い通路というか通り道が続いており、その先には更に大きな部屋があるようだ。
 通路から覗ける範囲だと部屋の左右の広さまでは分からないが、奥行きがかなりありそうなので、左右の幅も相応に広いのではないかと思われた。

「これは随分と広そうですね」

「ええ。あの様子だと、もしかしたらこの地図の開いてる場所が全て埋まっちゃうかもね」

 そんな事を話しながら、一行は大部屋の中ほどまで進む。
 ここまでくると部屋の全容もうかがえるのだが、どうやら長方形の形をした部屋のようで、短い辺の距離でも三十メートルくらいはありそうだった。
 そして奥には更にいわくありげな扉があり、信也達はそちらの方へと歩いていく。
 部屋の中はガランとしていて、特に見るべきものもなかったからだ。

「なんだ? こんだけ広い部屋なのに、何もないのか?」

「そうですねえ。なんかゲームだとこういった場所って大体……」

「みんな、気を付けるッス! 敵ッス!」

「ってまあ、やっぱそうなるのね」

 咲良だけでなく、陽子も嫌な予感がしていたのか二人して同じような表情を浮かべている。

「来るッス!」

 すでに戦闘態勢に移行していた信也達の前に現れたのは、これまで何度も見た事のある魔物だった。
 だが、これまで見たその魔物とは違い、コイツ・・・はどちらも自由に移動をすることが出来るらしい。

 この広い部屋の中の壁、地面。あるいは天井部分。
 あらゆる所から顔を覗かせるこの魔物の名はルームイミテーター。
 その名の通り、部屋そのものに擬態して冒険者を待ち受ける魔物だ。

「あ、出口が!」

 咲良の声に釣られ、部屋の入口に目線をやると、入り口のあった部分は完全に壁に覆われて外に出れないようになっていた。


「……これはアタリを引いたかもしれないッスね」


 どこか緊張した様子のロベルトの声が、そうボリュームは大きくなかったというのに、妙に全員の耳に残った。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

優の異世界ごはん日記

風待 結
ファンタジー
月森優はちょっと料理が得意な普通の高校生。 ある日、帰り道で謎の光に包まれて見知らぬ森に転移してしまう。 未知の世界で飢えと恐怖に直面した優は、弓使いの少女・リナと出会う。 彼女の導きで村へ向かう道中、優は「料理のスキル」がこの世界でも通用すると気づく。 モンスターの肉や珍しい食材を使い、異世界で新たな居場所を作る冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

処理中です...