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第十一章
第286話 ルームイミテーター
しおりを挟む「アタリ……?」
「そうッス。この魔物、もしかしたら守護者かもしれないッス」
「つまり、ここが最後という事か」
ロベルトがこのルームイミテーターを守護者だと判断したのは、守護者の中には戦闘に入ると、出口が閉ざされるケースがあるという事を知っていたからだ。
ルームイミテーターが部屋に偽装し、中に入ってきた者に襲い掛かる時には元々入り口を閉ざすという行動をする事は、知らなかったようではあるが。
実際の所は彼らのあずかり知らぬところではあったが、こうして閉じ込められた以上は否が応でも戦わざるをえない。
身構える信也達は、まだ敵が襲い掛かってこない事を利用して、陽子に"付与魔法"を順に掛けてもらう。
筋力増強などのステータス強化系は、この罠エリアの深層になってから常時切らさないように最低限維持し続けてきたが、今陽子が使ったのは【プロテクション】という防御力を一時的に上げる魔法である。
相手の弱点属性が分れば武器に属性付与もありだが、ウォールイミテーターなどと戦った際には、特に弱点属性はなさそうだったので今回はナシだ。
信也達がそうして戦闘準備を整えている間、ルームイミテーターもただジッとしていた訳ではなかった。
壁や床に同化することなく、少し離れた場所で本体を晒していたルームイミテーターは、魔法なのかスキルなのか。
その辺りいまいち判別がつかなかったが、石で出来た口を大きく開けると声なき声を上げる。
すると、石で出来ている周辺の床から人型をした石の塊が四つ、せりあがって来る。
そしてすぐさまやるべき事を理解したのか、その四体の人型の石――ストーンゴーレムたちは、信也達の方へと襲い掛かる。
「俺が前に出る」
「あなた達も和泉さんに加勢してね~」
ゴーレム達を見て颯爽と敵の方へと向かう信也。
その後を芽衣が召喚していたオーガ達がついていく。その数、二体。
残りの召喚枠はウィンドウルフ、アースウルフ、ファイアウルフの三種の属性ウルフ達で、その三匹には遠距離からの魔法攻撃を指示しておく。
「う~ん、あいつら相手なら途中で呼びなおした方がいいかな~」
ただでさえ石で出来たイミテーター系の魔物が相手だというのに、更にそこにストーンゴーレムまで追加されてしまっては、属性ウルフ達の牙では分が悪い相手に思える。
ひとまず芽衣は召喚はそのままでいく事にしたようで、〈フレイムランス〉を手に取ると、既に戦端が開かれている信也と由里香の下へと走りこむ。
「うー、こういう奴相手は得意じゃないんッスけどお」
泣き言を言いながらも、ロベルトもあとに続く。
確かに短剣では攻撃は通しづらいだろうが、ロベルトは"クリティカル率上昇"のスキルを持っているので、クリティカルが出ればダメージを通すことは出来る。
この辺りも咲良や陽子からすれば『ゲーム的』に感じてしまうのだが、ロベルトらこの世界の人からすればこれが当然の事だ。
攻撃をしてダメージを与える際に、時折妙に手ごたえを感じる攻撃が出来るときがある。
実際に攻撃を受けた側にもそれは伝わるので、気のせいとかではない。
しっかりとクリティカルという、概念というかシステムが存在する事の証左だ。
このクリティカルが発生するとダメージが上がる他、相手の防御の一部を貫通すると言われている。
このように硬い魔物相手に不向きな短剣であっても、ダメージをきっちり与えられるのだ。
もっともダメージを与える手段があっても、逆にあの石の体を持つストーンゴーレムに殴られれば、大きなダメージをもらうことは間違いない。
ロベルトは攻撃を当てるよりは、相手の攻撃をもらわない事に注意しながら慎重に戦いを進める。
「和泉さん、その右の奴に魔法いきます! 【フレイムランス】」
「うーん、私はちまちまコイツでも投げておきますか」
後衛では咲良が得意の"火魔法"を。陽子が魔弾などの投擲武器の援護射撃に入る。
相手方のストーンゴーレム四体はきっちり信也らが止めているので、二人の所まで近寄って来ることはない。
ただ……、
「うわっ」
部屋のどこかに潜んで、時折遠距離攻撃をしてくるルームイミテーターの攻撃が、後衛の陽子らの方へも飛来してくる。
ウォールイミテーターも使ってきた、"岩弾"のスキルだ。
もはや世に出れば結界術士として、一人前と呼ばれる程の領域に達している陽子。
各種結界を張りながらの戦闘にもすっかり慣れている彼女は、そうした遠距離攻撃を食らって強度が下がる度に、魔力を追加して結界を補強させる。
一度で結界を貫く威力の攻撃だったり、短時間で雨あられのように攻撃を受けない限りは、そうそう陽子の結界は破れはしない。
こうして着実に相手の戦力を削っていき、呼び出されたストーンゴーレムが一体、また一体と地に沈んでいく。
こういった石の体を持つ魔物の特徴として、打撃以外の攻撃が通りにくく厄介な相手ではあったが、ルームイミテーターもストーンゴーレムもランクとしてはDランク。
つまりここに来るまでに悩まされた、グリオンやスケアリーフェイスよりは下のランクだった。
「これならいけそうね」
「んー、最近はカタイ奴を殴るのも少し慣れてきたっす」
「あと残ってるのはストーンゴーレム二体と、ボスッスね」
戦っている彼らの中にも、このままなら問題なく勝てるだろうという気持ちが湧き上がってくる。
そんな彼らの気持ちが陰り始めたのは、更にもう一体のストーンゴーレムを倒した時だった。
「わ、ズルイっす!」
「えぇぇ? ちょっと……」
残りのストーンゴーレムが一体となったところで、再びルームイミテーターが大口を開け、追加のストーンゴーレムを呼び出したのだ。
その数、三体。
再び元の数に戻ったストーンゴーレムたちは、再び意思を感じられない動きで信也達へと襲い掛かる。
「みんな、大丈夫だ! 今まで通りやれば問題ない!」
そう声を張り上げる信也だったが、内心では違う事も考えていた。
(今はまだいいが、再現なくこいつらを呼ばれでもしたら、体力的にもMP的にも持たないな)
そうした内心の事は表に出さず、自分で言った言葉の通り、これまでのように前に出て積極的にゴーレムのタゲを引き受ける信也。
そうこうして再びゴーレムの数を減らすことには成功したのだが、再びゴーレムが呼び出されてしまい、メンバーの顔にも焦りの色が浮かび始める。
「これは、先にあのボスを倒さないとだめそうね」
「でも陽子さん、アイツちょこまか隠れてるから攻撃がし辛くて……」
「そうね……。ちょっと、ロベルト! アンタ、あのボスの居場所を調べて!」
「い"ぃ"っ!? で、でも、こいつら生き物でもないから、僕の"生命感知"には反応しないし……」
「いいから、つべこべ言わずさっさと探すのよ!」
「はいいぃぃ! 分かったッス、姐さん!」
そう言うとロベルトはソロリソロリと前線から移動して、辺りを探り始める。
だがロベルトの持っている感知系スキルでは、直接ルームイミテーターの居場所を特定する事は出来ない。
ただ奴もずっと壁や床に同化していられないのか、それとも単に攻撃を仕掛けたいだけなのか。
時折姿を見せては遠距離から攻撃をしかけてくることがあった。
その姿を現した瞬間を追えば、居場所をつかめるかもしれない。
味方がストーンゴーレム相手に持ちこたえる中、不意に現れて攻撃してくるルームイミテーターに気を払いつつ、意識を集中させていくロベルト。
そのお陰か、視界の端で床からせり上がっているルームイミテーターの一部を捕らえる事に成功する。
「そこッス!」
ロベルトの声にいつでも反応出来るように待機していた陽子と咲良は、その声の指し示す方に向かってつぶさに攻撃を仕掛ける。
「え、あっ! 【フレイムランス】」
「そこね」
若干の反応の遅れはあったものの、二人の攻撃がルームイミテーターへと飛来していく。
陽子は投擲攻撃ではなく〈雷鳴の書〉を使用したようで、ピカっとした光が一瞬目に入ってくる。
発動が早く避けにくい、【落雷】と同様の効果をもたらす陽子の攻撃は、見事に命中。
しかし、咲良の方は半分ほどは命中したものの、完全にはヒットしなかった。
「ああん、もう!」
「シンヤさん! 次に奴が出たら、体のどこかに明かりをつけて欲しいッス!」
「明かり? ……あぁ、分かった! その時は魔法に集中するので、二人ともフォローしてくれ」
「りょーかいっす」
「わかりました~」
ロベルトは先ほどルームイミテーターの姿を捕らえはしたものの、すでに相手は完全に姿を現した状態だった。
臆病な性格なのか、慎重な性格なのかはわからないが、あんだけ頑丈な体をしているくせに、ちょっと攻撃を受けただけでまた姿を眩ませてしまう。
あの調子ではいつまでたっても倒せやしないだろう。
それをどうにかするには、奴自身に目印をつけるのが手っ取り早い。
このロベルトの作戦は功を奏し、次にルームイミテーターが姿を現した時に、その体の一部に"光魔法"の【ライティング】を張り付ける事に成功する。
こうしてこれまで守勢だった『プラネットアース』に、反撃の態勢が整うのだった。
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本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
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