どこかで見たような異世界物語

PIAS

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第十一章

第290話 スキル称号の効果

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「必要な熟練度を下げる……」

「あの、スキルレベルってのは、そのスキルの習熟度って事ッスか?」

「概ねその認識で間違いない。スキルの熟練度を上げていくと、ある瞬間から自分が上達した事を実感できるだろう? たまたま上手くいった場合もあるがぁ、その状態がその後も続いたんなら、それはスキルレベルが一つ上がったという事だぁ」

「そのスキルレベルが上がるのに必要な分の熟練度が、引き下げられるのね?」

「そうだぁ。例えば毎日五時間、スキルの訓練に励んでいた人がいたとする。そして努力の結果、一年後にそいつはスキルを無事習得する。そこでもし最初から五段階目の称号を得ていたら、一年もかけず、数か月でスキルを覚える事が出来る、といった具合だぁ」

「んー、それは確かに凄いっすけど、エグイって程っすかね?」

「ああ、そりゃあもう……」

「ちょっと待って」

 いまいちピンと来ていない様子の由里香。
 だがそれは由里香だけでなく、まだ北条の言うエグさというのがしっかり伝わっている者はいない。
 そこへ待ったを掛けたのは、何かに思い至った様子の陽子だ。

「なんだぁ?」

「今の話はまだ覚えていないスキルの話でしょう? すでに覚えてるスキルの扱いはどうなるの?」

「そう。それだよそれ」

 陽子の指摘に、我が意を得たりとばかりに北条が頷く。

「五段階目の称号効果は、例えば闘技スキルなら未取得の闘技スキルも、既に取得している闘技スキルも、すべてに対して一律熟練度低下が適用される」

「そ、そうなるとつまりどうなるんですか?」

「これまで獲得した熟練度にもよるがぁ、取得済のスキルレベルが軒並みアップする」

 例えば、スキルレベルを五に上げるのに、熟練度が千必要だとする。
 しかし称号効果によって、熟練度が千もあればスキルレベルが七にまで上がるようになってしまうという事だ。

「……先ほど北条さんは闘技スキルの場合、四十八個取得する事で四段階目の称号が得られると言っていましたね。では、五段階目にはいくつ必要なんですか?」

「種別によって異なるがぁ、闘技スキルの場合は確かえーと……八十個だな」

「つまり、五段階目の称号を得た人は、最低でも取得済みの八十個ものスキルが全て強化されるという訳ですね?」

「そういうことになる」

 信也の指摘により、北条の言うエグさが全員に伝わる。
 確かにスキルをそう覚えていない状態ならば、この称号の効果はエグイと言われる程ではないかもしれない。

 しかし五段階目の称号を得るという事は、須らくその種類のスキルを多く所持している事になる。
 そうした数多くのスキルが、一斉に強化されるのだ。

「うぅ、なんか頭痛くなってきたわ」

 五段階目の称号効果について理解を深めた事で、カタリナは北条の破茶滅茶さに思わずそう発言してしまう。

「和泉が"器用貧乏"でどこまでスキルを覚えられるかは分からんがぁ、『ユニークスキル』というだけの意味はあるという訳だぁ」

 それに北条は口にこそ出さなかったが、元々信也達異邦人には『異界の来訪者』という、通常の経験値の他にスキル熟練度取得にもプラス補正がかかる称号を持っている。
 なので、"器用貧乏"とのシナジー効果でよりスキルが覚えやすくなる事だろう。

「正直今の段階ではどうなるのか予想出来ないが、とりあえず一つのスキルに集中するよりも、新しいスキル取得を目指すべきだという事だな」

「その方が良いだろう。和泉の場合、魔法系スキルは"光魔法"と"闇魔法"しかないから、狙うなら"剣術"などの戦闘系スキルと、"光剣"などの特殊系スキル。……あとは耐性系スキルもすでに大分覚えているから、それでもいいかもなぁ」

「なるほど」

 短く答えた信也の返事の後は、神碑による祝福の話はこの辺で一先ず終え
て、それからはダンジョン探索中の出来事など、思いついたことを話し合っていく。

 メアリーは道中で出会った『獣の爪』の件について、話題に出そうかと思い悩んでいたのだが、結局言い出すことはできず、他のメンバーからもその話題が出ないまま話し合いは終了した。

 話し合いの結果としては、これから両パーティーとも数日間ゆっくりと休息を取り、それから次のダンジョン攻略に臨むという事になった。
 とはいえエリア制覇に積極的に動くのではなく、まずはCランクの魔物相手にもう少し余裕を持って戦える位には、レベルを上げようという方向性にシフトする事に決まった。



▽△▽



 あれから時間が経過し、陽も暮れて闇が訪れる静かな夜。
 うとうとと眠りに就こうとしていた北条は、物音を聞いて意識をそちらへと集中させる。

 彼ら異邦人たちは未だに『男領』と『女寮』と呼んでいる、昔からあった方の村の一角で寝泊まりしている。
 部屋の内装など徐々に整えられていったとはいえ、家の大きさまではどうしようもなく、一つの大部屋に何人かで寝ているような状態だ。

 ダンジョンの中では野宿なども当たり前なので、大分この世界に来た当初に比べればそうした不便な生活にも慣れては来ている。
 しかし、同室ということはこうしたちょっとした動きも他者に悟られてしまうという事だ。

 北条はそこまで眠気も感じていなかったので、その物音の主――信也の後を追う事にした。
 このみんなが寝静まった夜中に、家のドアを開け外に出ていった信也の事が、少し気になったのだ。

 いびきがうるさいので一人だけ居間で寝ている龍之介の脇を通り、いびきの音に半分かき消されながらも、よく音が出やすいボロ扉を開いて外にでる北条。
 すると、信也はどこかに向かうのでもなく、家のすぐ近くで空を見て佇んでいた。



「北条さんか。どうしたんですか? こんな夜中に」

「……それはお前さんも同じだろう」

「まあ、そうですね」

 それっきりしばし無言の時間が続く。
 北条は信也に倣い、夜空を見上げる。そこまで星座には詳しくなかったが、明らかに星の配置が違う事だけは分かる。
 そもそもこの世界の月の大きさが、そもそも地球で見る月よりも大きく見えるのだ。

 月との距離が近いのか。はたまた、月の大きさが違うのか。
 そんな事に想いを馳せていると、信也がポツリと話し始めた。

「北条さんはこの世界の事、どう思ってますか?」

「俺かぁ? ……そうだなぁ。まあ、ゲームみたいだなとは思ってるよ」

「ゲーム……。そうですね。俺は余り詳しくないけど、レベルだのなんだのが歴として存在してるんだ。確かにそう感じてもおかしくはないですね」

 そう言ってから再び口を閉ざす信也。
 その表情を見るに、何か心の中で様々な思いが行き交いしてるように見える。

「けど、ゲーム的だとしても、今俺たちはここに存在している。そして、今感じている事や、これまで経験してきたことも決してゲームの中の世界の話ではない……」

「…………」

「俺はここに来て、これまででは考えられないような経験を幾つもしてきました。それはそれで、決して悪い事だけだったとは思っていませんし、この世界そのものに関しては、特に悪く言うつもりもありません」

 そこで一端信也は言葉を区切る。

「……ただ、それでも俺は元の世界に少しでも早く帰りたいと思ってます。北条さんはどうですか?」

 そこで信也は振り返り、見上げていた夜空から北条の方へと視線を移す。
 いつもどこか飄々とした表情をしている北条だが、信也の目には今はどこか神妙に映っている。
 それはこの場の雰囲気がそう感じさせたのかもしれない。

「俺ぁ、この世界に骨を埋める覚悟をしている。例え戻れるとしても、その選択を選ぶ事ぁないだろう」

「そう、ですか……」

 戻るつもりがないという北条に、理由を尋ねてみようと思った信也だったが、いつもと違う北条の表情が、二の句を告げるのを躊躇わせた。

「でも、今は帰る手段を探すのに協力してくれてるんですよね?」

「まぁ、な。俺も突然この世界に投げ出されてしまった事だし、目標だとか目的だとかも特になかったからなぁ。……結果として、今の環境は悪くないと思ってるよ」

「……確かに、みんなで一つの目標に向かって共に行動をしていくのは、俺も嫌いではないです」

「ふっ、そうかぁ……。ところで前から気になっていたんだがぁ」

「なんです?」

「俺に対して無理に敬語を使う必要はないぞぉ」

「あ、これは、その……」

 一番最初、北条に相談に乗ってもらった頃から信也は北条に対して敬語を使うように意識してはいたが、時折素で話しかけている事もあった。
 その事は本人も認識していて、毎回気を付けようと思っていたのだが、本人から敬語不要と言われると、それはそれで逆に戸惑ってしまう。

「ははは。まあ、俺としては話しやすい方で構わんぞぉ」

 そんな信也があたふたする様子を見て、ようやくいつもの飄々とした顔に戻る北条だった。



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