どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第293話 ロアナとの話し合い

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「拠点? それって例の砦のことかい?」

「そうだぁ。なにせ俺達ぁ現役の冒険者で、出払っている事も多い」

「そいつは随分と無防備なんじゃないのかい?」

「一応管理人のような扱いで元Bランクの冒険者もいるし、他にも手は打ってある。……がぁ、何せあそこは広いからな。人手が足りん」

「確かに中は結構広いけど、今の所は建物もそんなにないし、ツィリルさん一人でも大丈夫なんじゃない?」

「確かにこれまではそれでよかったかもしれんがぁ、そろそろ人を増やすべきだと思う」

「うーーん、でもそれならわざわざその、彼女じゃなくても……」

 これまでの様子を見る限りでは、ロアナというこの女性は『青き血の集い』のメンバーに物思う事があったようだが、それも実際どうだったかまでは分からない。
 陽子としてはその辺りの事もあって、素直に首を縦に振る事が出来ない。

「なあに。もし彼女が提案を受け入れるんなら、きっちり"契約"はするつもりだぁ」

 話を聞いていたロベルト兄妹は、陽子よりも先に北条の言う"契約"の意味を理解する。
 少し遅れて陽子や他の面子も、北条の"契約魔法"についてを思い出していく。
 しかしそういった裏事情を知らないロアナは、勧誘を受けた辺りから戸惑いを隠せない様子だ。


「な、なんだい? 一体私に何をしようと……させようとしてるのさ?」

「話は聞いていただろう? 俺が持ちかける仕事の内容は、あの拠点の管理だぁ」

「……さっき言ってた契約だのなんだのってのは?」

「俺らには秘密が多くてなぁ。そうした秘密を洩らさないようにする為の"契約"だぁ」


 ロアナは予め信也達に声を掛ける前に、下調べをしていた。
 しかし以前から《鉱山都市グリーク》で活動していた冒険者とは違い、彼らは迷宮が発見されてから活動をしているので、実際に誰がどういった能力を持っているなどといった情報が、ほとんど出回っていなかった。

 それでも希少な"召喚魔法"の使い手がいたり、"結界魔法"の使い手がいるだとかいう情報を得る事は出来た。
 他にも何とかの血潮とかいうルーキーに話を聞くこともでき、一部の噂にあるような、逆らったらどうなるか分からない。とかいった連中ではない事も調べがついていた。

(秘密……。確かに普通の冒険者とは大分毛色が違うようだけど……)

 改めてロアナは北条たちを見回してみる。
 目の前の北条などはいかにもオッサン面をしてはいるが、全体的に見れば若者が多い。
 それも明らかに『転職の儀』前のような子供まで混じっている。

(この若さで、冒険者活動をしてからすぐにDランクへの昇格。確かにそこには秘密もあるんだろうけど)

 色々と考えてみたが、結局ロアナには北条のいう秘密というものがどんなものなのか、想像もできなかった。


「雇ってくれるっていうなら、秘密を漏らすなんて事はしないさ」

 なのでここは素直に北条の申し出を受ける方向で、ロアナは気持ちを切り替える。

「ほおう、そうかぁ。だが言葉で誓うだけなら誰でも出来る。……そうだな、話の続きは拠点の方でしよう」

「あ、ああ、分かった。ついてくとするよ」

 当初の予定とは少しズレてしまったが、今は背に腹は代えられない。
 今後も他の五人が戻らないとなれば、メンバーが宿に置いていた荷物や、ギルドの銀行に預けてある金は、パーティー登録をしてあるロアナのものになる。

 しかし荷物の方はともかく、ギルドに預けてある仲間の金はすぐに回収できる訳ではない。しばらく期間を開けないと受け取る事ができないようになっている。
 一応手持ちの金があれば、自分一人だけならしばらく凌げる位にはロアナは稼いでいた。
 しかしロアナは問題をひとつ抱えていて、その為にはお金が必要だった。

 そうした背景もあり、ロアナは北条らと共に拠点へと向かうのだった。




▽△▽



「ヒュゥッ。近くで見ると迫力あるもんだね」

 町から移動し、拠点の西門へとたどり着いた一行。
 これまで遠目で見た事はあったロアナだが、これほどの距離まで近づいて見たのはこれが初めてだった。

「ほらっ、いくぞぉ」

「ああ、分かってるさ」

 そう言いながらもキョロキョロと外壁部分や、今では水がきちんと張られている外堀部分を見て、しきりに感心しながら進むロアナ。

「わっ……。あ、あれは何なんだい?」

「見りゃあ分かるだろぉ。『ウェディングウォーター』だよ」

「うえでぃんぐうぉーたあ?」

 説明するのも面倒なのか、北条はそれだけ言ってスタスタと中央館の方へと歩いていく。
 他の面子も説明をするつもりがないのか、そんな二人のやり取りを遠目で見ている。

 実際何で北条がこんな規模のでかい割に、意味のよく分らんオブジェを作ったのかを理解してる人はいなかった。
 「これは何だ?」と言われても、彼らにも説明しようがない。

「はえぇぇぇ……」

 余りに理解できないものが目に飛び込んできたせいか、ロアナは自身でも意識しない間に口を開いた少々マヌケな面になっている。

 それから中央館へと案内されたロアナは、改めて北条から契約や仕事の内容について詳しく聞いた。
 契約に関しては、ロベルト兄妹と交わしたものより厳しいものにするようで、情報を漏らしたり裏切り行為をした場合、猛烈な苦痛が襲うという、まるで呪いのような内容になっていた。

「も、猛烈な苦痛って……。そんな効果があるって事は、呪具でも使うのかい?」

 北条は説明の際に、口約束だけではなく実際に効果のある契約を結ぶ為に、魔導具を使うと説明していた。
 それがそのような効果を付随出来るとなれば、ロアナのいう事も納得できる。

「その辺についても秘密に関わるんで詳しくはぁ言えん。俺達の情報を漏らしたり裏切ったりしなければ、何の問題もない。……これは、新しく加わったそこの二人のメンバーとも契約してる事だぁ」
 
「ま、僕らのとは罰則とかがちょっと違うッスけどね」

「あなたも契約を実際に結べば、どうしてここまでするのか分かるわよ」

「うううん……」

 ついつい口から唸るような声を漏らしながら、ロアナは考える。

(こいつは思ってた以上に裏があるって事だね。ま、この『拠点』の事を考えれば普通じゃないってのは分かるけど……)

 持ち出された契約内容が思いの他きつかった事で、少し及び腰になっているロアナ。
 しかしこれほどの力を持つ彼らの側に付くことは、うまくいけば当たりくじを引くことになるかもしれない。

 元々この周辺では悪名が高かった『青き血の集い』だが、だからといって場所を変えたところで『盗賊職』のロアナの需要は高くない。
 魔法系や回復系ならば引く手数多であり、例え『青き血の集い』の元メンバーだろうと、迎えてくれるパーティーはあっただろう。

 仕事内容は主にこの拠点の管理という事だが、元々冒険者活動に執着があった訳ではなく、運命に翻弄されるように冒険者へと落ちていったロアナなので、その辺りは特に問題には思っていない。

 問題なのは彼らの抱えているものが何なのか、さっぱり分からないという点に尽きる。


「ひとつ、聞きたいんだけど」

「なんだぁ?」

「あんた達って、ここで雇う人には毎回その契約をしてんの?」

 ロアナの視線の隅では、少しずつ症状がよくなって時折微かな感情を見せるようになっていた、ツィリルの姿があった。

「まあ、今後も人を雇う事があればそうするつもりだぁ」

「ふうん……。でも、この契約でそんなに人集まんの? これからもここは開発していくんだろ?」

 事前に北条から、拠点内部は今は伽藍洞だけど、その内メンバーの家や幾つかの施設が建っていく予定だと聞いていた。
 そうなると、管理するメンバーがツィリルとロアナの二人だけでは足りなくなってくる。

「ああ。なので、奴隷を買うか孤児でも拾って……保護しようかと思ってる」

「奴隷……ですか」

 北条がこの話をしたのはこれが初めてだった。
 そのため、「奴隷」という言葉にメアリーが反射的に眉を顰めた他に、信也もどこかショックを受けたような反応を見せている。

 逆に陽子などは自分たちの秘密の保持の為に、迂闊にそこいらの人を拠点の中に入れられない事を理解していた。また異世界モノの作品では奴隷というのは割とよく出てくるので、比較的すんなりと受け入れているようだ。

「オッサン。今、孤児を拾って……とか言いかけなかったか?」

「どっちでも結局は同じよ。路上で野垂れ死ぬよりは、まだここで雇ってもらった方がいいでしょ」

 龍之介もその手の作品はよく読んでいて、相手の為になるのなら奴隷を買うという行為に関しては肯定的な意見だ。
 悪役がろくでもない目的のために奴隷を買うというのならば、断固反対はするのだが。
 カタリナはベネティス領内で、特に亜人の孤児の酷い状況をよく知っていたので、先ほどのような言葉が出たのだろう。


「……なるほどね。なら、ちょっと話があるんだけどいいかい?」


 そう提案を持ち掛けるロアナの瞳には、強い決意が宿っていた。


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