どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第294話 ロアナの申し出

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「他にも雇って欲しい者がいる?」

「ああ。農民の家族を二家族分、ここで雇って欲しいんだ」

 思わぬ提案に北条がカタリナの方を向く。
 異邦人たちもこの世界に来て数か月は過ごしていたが、基本はダンジョンに潜ってばかりなので、未だにこの世界の常識などには疎い部分がある。

「……農民って基本的に領主の許可なく移動させたらダメなんじゃないの?」

 北条たちが日本の出身である事までは知らないが、遠い異郷の地の生まれだという話は、すでにロベルトと共に聞いていた。
 北条が顔を向けてきた理由を悟ったカタリナは、代わりにロアナへと問いかける。

「それなら問題ないさ。彼らの領主は私だからね」

「ああ、なるほど。それなら確かにって……えぇ!? どういう事よ?」

「もうすでに領地も失っているけど、かろうじて私は女男爵の身分なのさ」


 ロアナの話によると次のような事情があるようだ。
 彼女は元々モンティエ領という、男爵家の次女として生まれたらしい。
 しかし、領地であるモンティエ村では流行り病によって多くの命が失われ、更にそこへ魔物の襲撃が加わって、手ひどいダメージを受けてしまう。

 最初の流行り病ではロアナ以外の家族が軒並みやられてしまい、一人残ったロアナが女男爵として後を継ぎはしたが、懸命の努力もむなしく、魔物による襲撃で壊滅状態となってしまった。

 仕方なくロアナは、残っていた僅かな農民に他の場所に移り住むように言い渡し、近隣の領主にも便宜を頼んでいた。
 だがすべての村人が受け入れられた訳ではなく、どうしても受け入れ先が見つからなかった二家族だけは、今でもロアナの庇護下の元、《鉱山都市グリーク》で暮らしているらしい。


「そんな状態でも女男爵の身分は失われていないのか?」

「ああ。一応、領内に新たに村を作りなおした際には、再び領主として復帰できるとは言われたよ。もっとも、それも無理な話なんで、このままだと私が死ねばモンティエ家は断絶する事になる」

 そう語るロアナには、女男爵位に対する執着心はないように見える。
 元々ひょんな事で、本来継ぐ筈もなかった跡目を継いだせいだろうか。
 それよりも、今のロアナは領主としての最後の責務として、最後に残された農民をどうにかしてやりたいという気持ちの方が強そうだ。

「そんな訳でね。成り行きで女男爵なんてモンになってしまったけど、領主としては領民に対して最後まで責任を持たなければいけない」

「それでぇ、どうしてその農民家族をここで雇わせようって事になるんだぁ?」

「彼らは今グリークで暮らしてはいるけど、彼らの扱いは三級国民だから、もらえる給金は少ない。私が援助しなければ、家族揃って借金奴隷になっていたかもね」

 『ロディニア王国』の人口の大半を占める農民たち。
 彼らは三級国民という扱いではあるが、実質は農奴であり、領主の所有物のような扱いをされている。

 村では口減らしのために町に出稼ぎに行くものもいるが、大抵は自分一人が食っていくので精一杯。それどころか、まともに職に就けなかったりする者も多く、そうした者たちが冒険者やならず者になっていく。

 ロアナはそんな農民たちを援助しながら過ごしていたが、ようやっとDランクにまで上がって少しは収入も増えたというのに、肝心のパーティーが崩壊してしまった。

 そこで北条から拠点の話を聞いたロアナは、ここで逆転のための大勝負に出る事に決めたのだった。

「なーるほどぉ。ちなみにその農民というのは人数の内訳はどうなってるんだぁ? 年齢はぁ?」

「人数は全部で十四人。年は……確か下は七歳の子が二人。上はその子たちの祖父母で、共に五十歳位ね」

「ふうむ……」

 農民たちの内訳を聞いて、考え込む北条。
 "嘘感知"スキルや"洞察眼"のスキルによって、ロアナが嘘を言っていない事は既に判明している。
 となると残りは提案を受けるか否かという話になる。

 北条としては、最初言ったように奴隷を買うか、孤児を受け入れるかするつもりだった。
 そうすれば最初にこちらで"解析"した相手を選べるので、掘り出し物も見つかるかもしれない。

「うー、北条さん。その人たち雇うのはだめっすか?」

「由里香ちゃん。ペットの猫を拾ってくるのとは話が違うのよ~?」

「で、でも! あっ、和泉さんはどう思うっすか?」

「う、俺か? ううむ、長尾の言うように、他人の人生を決める話だ。そう簡単に決めていい話では……」

「この話は私から持ち掛けたんだ。彼ら農民たちの人生まで気にすることぁないよ」

「む、むむ。それなら……」

「ちょっとシンヤ。そういう話でもないでしょ。彼らの人生云々の前に、人件費と私達の財布の状態がまず肝心よ」

「それならあんた達にそこまで負担はかけないよ。私はともかく、農民たちは特殊な技能がある訳じゃないし、三級国民である彼らに支払う賃金はDランク冒険者なら十分賄えるさ。なんなら住む場所と食事さえ確保できるなら、タダ同然で使ってもいい」

「……という事みたいだが、皆の意見はどうだぁ?」

「あたしは賛成っす!」

「私は奴隷を雇うというのよりは抵抗が少ないと、思います」

「んー、まあ別にいいんじゃね?」

「金銭的にそこまで負担がかからないなら検討の余地はあるけど、果たして今すぐに雇う人を決める必要があるかどうかってのはあるわね」

「その人たちを雇うとして、福利厚生の事も考えないといけないから、そうなると……」

 と、色々な意見が出たが、積極的に反対という意見はなかった。
 そこで、最終的な判断は北条へとゆだねられた。
 そもそもこの拠点で人員を増やしていくという予定も、北条がこの先拠点を発展させていくという青写真があったからだ。
 どのような人材が必要になるのかなどは、その青写真が頭にある北条が一番理解がある。

「ううううむ、分かった。その農民たちも雇い入れよう。ただし雇うからにはこちらの命令には従ってもらうぞぉ」

「もちろんさ! これで私も気兼ねなくここで働く事ができる」

「町民ならともかく、農民が転居するとなると、ここの責任者にも話を通しておかないといけないわね」

「責任者……、アウラの所かぁ」

「その辺は悪いけどお願いするよ。手続きに私が必要になったらいつでも声をかけてくれ」

 そう言って、ロアナは拠点を去っていく。



 かくして、拠点では新たにロアナと、彼女の領民である農民たちが加わる事になった。
 とはいえ今はまだ話が決まったばかりだし、農民たちも今は《鉱山都市グリーク》にいるので、実際に雇い始めるのはまだ先になるだろう。
 また農民たちの暮らす住居の問題もある。

「こりゃあしばらくは、ダンジョンよりはこっちの整備に力を入れた方が良さそうかぁ?」

 これまでは帰還方法を探すという目的のために、我武者羅にダンジョンにアタックしていた異邦人たち。
 そして実際に一つのエリアを制覇した事で、目標を達成するにはもっと長期的に見ないといけないだろう、という事も分かってきた。

 北条がいればある程度ごり押しは出来るだろうが、北条のレベルに合わせて進むと他のメンバーの負担が大きい。
 かといっていくら北条とはいえ、一人でエリア制覇を目指すのは流石に無謀だ。

 信也やメアリーなどは早く帰りたいという強い想いを抱きつつも、そういった事はきちんと理解しているので、北条の拠点を整えていくという方針にも異議は唱えていない。
 流石にあの隙間風の吹いてくるボロ家で生活を続けるというのも、それはそれで厳しいものを感じていたのだ。


「また北条さんが調子に乗って、訳分からないもの作りそうね」

「いやー、そう褒めるなって。照れるぞぉ」

「ちょっと、話聞いてた? ねえ?」


 大分遠慮のなくなってきた陽子に、いつもの飄々とした様子の北条。
 その様子をジッと見ている楓に、話に加わりたそうにしている咲良。

 すっかり"いつもの光景"と化した時間は、ゆっくりと過ぎていくのだった。



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