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第十二章
第299話 バルドゼラム受領
しおりを挟む「あー、そこはそのままでいいッス」
「ちょっと兄さん。台所はもう少し広くしないとダメよ」
「あー、それでこの部屋に繋ぐ排水管なんだがぁ……」
「そうなると、ここのスペースは広くとっておいた方が良いって事だな?」
明けて次の日。
中央館の会議室では、ロベルト兄妹が見つけて来た建設業者の人たちを交え、拠点内に建設予定の二人の家についての話し合いが行われていた。
その場には前もって言ってあった通り、排水関係の話を通すために北条も同席している。
二人は元々『巨岩割り』のメンバーであり、悪魔との闘いで命を落としたジババらの手荷物なども全て受け継いでいたので、元々金銭的には余裕があった。
それに資金も兄妹二人分あるので、豪華な家も建てようと思えば建てられる。
だが二人は特に家に拘りはないようで、大きすぎず、小さすぎず。そんな無難な注文を出していた。
「じゃあ、そういう事で宜しくお願いするッス」
話し合いも終わり、最後にロベルトが挨拶をすると、業者の人は中央館を後にしていく。
これから一旦町に戻ってから、色々やる事があるらしい。
「しかしこんな朝早くから来るなんて、随分と行動が早いなぁ」
「こーゆーのはパッパと済ませちゃった方がいいッスから」
「私たちは住むところにそんな拘りがある訳じゃないしね」
「まぁ、水を生み出す魔法道具や、調理用の魔法のコンロなんかは設置してやるから、暮らすだけなら十分かぁ」
「うー、それはホント助かるっす!」
「なあに、簡単な魔法道具くらいならそこまで手間がかかるもんでもない。さて、俺はルカナルの新居作りに戻るぞぉ」
「うぃッス!」
「ふぅ、私はどうしようかな」
「町にでも買い物にいくか?」
「んー、それもいいわね」
ロベルト兄妹の声をバックに、北条はそのあと建設途中であったルカナルの新居づくりの作業に戻った。
すでにメインである鍛冶場部分は完成しているので、後はルカナルの……いや。ルカナルとエリカの暮らす住居部分を仕上げないといけない。
「にしても、ルカナルの奴。ちゃっかり恋人まで作ってやがるとはなぁ」
自分から提案した事とはいえ、幸せカップルのための新居づくりをしてる事に、どこかやり場のない虚しさ、やるせなさを感じる北条。
「ぷるるん……ぷるん」
そんな北条を慰めるかのように、体を震わせるアーシア。
「ふんっ!」
それを見た北条は、魔法を二つ同時に発動させる"ダブルキャスト"のスキルで、【炎の矢】と【水弾】の魔法を"無詠唱"で同時に放つ。
「ぷるるるるるっ!」
北条の魔法を受け、全身を喜色に染めるアーシア。
更にそこへ、【土弾】と【風の刃】。【光弾】と【雷の矢】。続けて【闇弾】と【氷の矢】を放っていく。
多くの魔法系スキルを有している北条のMPは相当なものだ。
更に"魔力消費軽減"や"魔力自然回復強化"のスキル効果で、回復も早い。
そのため、暇があったらこうして魔法を行使している。
……とはいえ今回のは北条のやっかみも若干含まれてはいたが。
そんなこんなで北条が建築作業を進めていると、中央館の方からツィリルがやってくるのが見えた。
「ホージョーさん。西門にお客さんデス」
「分かったぁ。すぐ行くぅ」
どうやら拠点に訪問客が訪れたらしい。
ルカナルの奴がまた来たのかな? などと思いつつ、北条はキリの良い所まで作業を続ける。
「私は先に失礼シマス」
そう言って中央館へと戻っていくツィリル。
作業を続けながら、北条は器用にその背を見送る。
(記憶は元に戻っていないが、大分よくはなってきたか)
あれからも時折ツィリルの状態を経過観察していたが、少なくともこれ以上悪化するという事はなかった。
記憶の方はまだ戻っていない部分はあるが、これは記憶を失ったというよりは、魂が傷つけられた事が影響しているように見える。
"悪魔"とか、ジババなど仲間の名前を聞くだけで、拒絶反応のようにツィリルは頭痛を訴えるのだ。
悪魔に"暗黒魔法"を掛けられた付近の出来事。その時の事を彷彿とさせる言葉がどうやらマズイらしい。
しかし北条はロベルト兄妹の了承も取って、時折そうした言葉をツィリルに聞かせていた。
その成果がでたのか、しばらくしてツィリルが"精神耐性"のスキルを取得した。
それによって大分感情の希薄さも抜けてきて、拒絶反応も以前より鈍くなってきている。
果たしてこれがツィリルにとって良い事なのか、ただの押し付けじゃないのか。
ロベルト兄妹もツィリルが"精神耐性"スキルを取得するまで悩みもしたが、最後にはエゴを突き通す事に決めた。
そうした事を思い返しながら、キリの良い所で作業を止めた北条は、訪問客に会いに、西門へと向かった。
▽△▽
「ではこちらが報酬の品となります。お確かめ下さい」
そう言って男は荷台に乗せられた大きな木箱を開ける。
中には一振りの大剣が鞘に納められた状態で入っていた。
黒を基調として、金なのか金メッキなのか金色の模様が入った鞘は、どこか高級感を感じさせる。
「ほおう、こいつがぁ……」
中身を確認した北条は、徐に大剣を手に取って鞘から抜き放つ。
月白色をした刀身は鞘の黒色とは真逆だ。
その刀身と鞘のコントラストは、北条の好みの色に合致していた。
フォォンっ。
百七十センチはあろうかという大剣を、北条は軽々と振り回す。
その見事な剣捌きに、ここまで運んできた男は「おぉ」と感嘆の声を漏らす。
ここまでこの大剣を運んできただけあって、剣の重さについては重々承知している。
この大きな剣が一般人では軽々と振り回せるものではない事も。
「お見事ですなあ。〈バルドゼラム〉をすでに使いこなしているように見えます」
「ふっ、ただ適当に振ってみただけなんだがなぁ」
あれだけ重い物を振り回していたというのに、北条は汗一つかかず呼吸に乱れもない。
「いやいや。その大剣〈バルドゼラム〉は持ち主を選ぶと言われておりまして、資格がない者が持つとより重さを増すと言われております。それだけ軽々と振り回すという事は、選ばれたという証かと」
「ふむ、そんなもんかねぇ」
何の気なしに平坦な声で答えている北条だが、既にこの剣に対して"解析"スキルを使用しており、詳細については把握済みだ。
光属性を帯び、悪魔に対して特攻効果がある〈バルドゼラム〉。
この剣には"光魔法"の使い手であるか、光属性の適性がないと、まともに剣を振る事ができなくなるという特徴があるらしい。
実際に重量が増すというよりは、物が重くなるという暗示をかけられたような状態になるようだ。
「確かに〈バルドゼラム〉は受け取った。グリーク卿にもよろしく伝えておいてくれぃ」
「はい、お伝えしておきます。……それと、こちらもお渡しするように言付かっております」
男が手渡したのは、拠点の周囲一キロ圏内の土地の権利書だ。
これは以前アーガスがこの拠点を訪れた際に、北条が出した要望に応えて用意してくれたものだった。
「これも助かる。ただ、例の約束はいつになるかは分からん。手が空いたらやっていくつもりだがぁ、時間はかかるかもしれないと伝えておいてくれぃ」
「承知しました」
例の約束とは、この農地用に確保した土地で、ダンジョン産の作物が育った際には、アーガスの元まで成果物と種子を送るというものだ。
ロアナと共に、元農民だった家族たちを受け入れる事になってはいたが、まだ農民家族を迎える準備すら整っていない。
まだまだ予定が詰まっているなと思いながら、北条は荷物を送り届けて来た男を見送った。
そして北条も、作業に戻るか先に昼食を取るか迷いつつ戻ろうとした所、威勢のいい声が聞こえてきた。
「おお、オッサン! 丁度よかった。オレ様の『龍之介御殿』を建ててくれる業者を見つけてきたぜ!」
「……確かに俺達ぁ短期間でそこそこ稼ぎはしたがぁ、そんなご立派な建物を建てられるのかぁ?」
「その辺はまず見積もりをしてもらってかららしいぜ」
「勉強させてもらいますです、はい」
龍之介の連れてきた業者の男は、建設に関わる者には見えないナヨナヨっとした体格の男だった。
もっともこの男が直接現場に立つとは限らないし、"悪意感知"などにも引っかかっていないので、とりあえず北条は二人を連れて中央館へと移動するのだった。
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