どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第301話 雪

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ダンジョンから帰還し、休日を過ごしていた龍之介は、冒険者ギルドへと足を踏み入れる。日課……という程ではないが、ギルドに訪れるのも最早習慣化してるといっていい。

 元々外交的な性格をしている龍之介は、ギルドを何度も訪れる内に、顔なじみの冒険者というのも増えてきている。
 最近ではそうした顔なじみと話をしたりするのも、龍之介の楽しみの一つになっていた。

「おう、リューノスケ! 聞いたか? 鉱山エリア二十層に新しい分岐が見つかったらしいぜ」

「お、リューノスケじゃねえか。今日はあの獣人族の嬢ちゃんはいないのか?」

「リューノスケ!」 「よおっ!」 「相変わらず元気そうだな!」


 龍之介に声を掛ける者は日に日に増えている。
 ダンジョンの探索もあるというのに、短期間の間に一般冒険者の間に「リューノスケ」の名前は浸透していく。
 冒険者の間での知名度でいえば、北条と並んでいるくらいであり、『プラネットアース』のリーダーである信也よりも上だろう。

 別に龍之介は情報が欲しいからとか、そういった打算的な理由でこのような活動をしている訳でもなく、単にこれも龍之介の性格といってよかった。

「あ、リューノスケ。来てたのか」

「わあああっ、リュ~~~!」

 龍之介がギルドでわずかばかりの時間を潰した後、適当に町をぶらつこうとしていた所で声を掛けてきたのは、『獣の爪』の面々だった。
 彼らも初めは命の恩人という認識で龍之介と接していたが、今ではすっかり気心の知れた仲間といった関係になっている。

「おわっ、ルー。会うなりに抱き着いてくるのはやめてくれって言ってるだろ?」

「だって、お互いダンジョンに潜ってるから中々会えないんだもん」

「だもんって……。普段はそのような口の利き方はせぬくせに、リューノスケ相手だと面妖な……」

 出会うなり真っ先に龍之介へと飛びついていくルーティアに、ジェンツーがやれやれといった口調で言う。

 初めの頃は純粋な好意を押してくるルーティアに、龍之介もタジタジといった様子であったが、近頃はルーティアの対応にも慣れてきたようだ。
 なお龍之介の態度は、向けられた好意に応える事はなく、保留という状態になっている。

 一応ルーティアには、「今は女に現を抜かす気はねーんだ」という事は伝えてある。
 これまで彼女が出来た事もなく、日本にいた時も、恋愛よりは友達とワイワイはしゃいでる方が楽しいと思っていた龍之介。
 密かに好きだった女の子もいたりはしたのだが、自分から行動を起こしたりはしなかった。
 要するに恋愛経験値が低いのだ。

 また、それ以外にもルーティアの好意を素直に受け取れない理由はあった。
 それは勿論、自分がこの世界の人間ではないという事だ。
 龍之介自身は初めの頃は、いざ日本に帰れる時が来た場合、自分はどうするのか迷っていた。
 というか、そもそもそう言った事を考えないようにしてきたと言ってもいい。

 もし気軽に双方の世界を行き来できるのなら迷う必要もないが、一度日本に戻ったらここには戻ってこれない、という事になったらどうするか。
 その事がルーティアとの間に壁を一つ作っていた。

「ハハッ、お前らは相変わらずだな」

 そして今日もまた、自分が将来的にどっちの世界に残るのか。
 そういった事を頭の端から追いやりながらも、龍之介はこの世界の人たちとの交流を深めていく。




▽△▽△



 あれから龍之介は『獣の爪』と昼食を一緒に取り、その後少しだけ町中を一緒に巡ってから、拠点へと戻ってきていた。
 近頃はめっきり寒くなってきているので、外を出歩くのが好きな龍之介も、自然と出歩く時間が減ってきている。

「雪……か」

 空を見上げた龍之介は、一面の白い雲に覆われた空から降って来る雪を捉える。
 魔法というものが存在するこの世界でも、雪は普通に白いようで、一瞬だけ龍之介は自分が異世界にいる事を忘れる。

 町中を走る道には、数日前に降った雪がまだ残っている。
 数センチ程積もっていた雪は、雪かきや人の通りによって地面の土が多く露出した状態になっていたが、新たに振り始めた雪によって、また白く塗りつぶれていきそうだ。

 先月……暗光の月に初雪が降り、明光の月となってからも断続的に雪が降っている。
 町の住人に話を聞くと、このまま降雪量は徐々に増えていって、新年が開けて暗闇の月の頃になると、一番雪が多く降り積もるのだという。


「わー、まてよー!」

「へへーん、やれるものならやってみなー!」


 ぽつぽつと雪が降る中、子供たちは雪合戦のような事をして遊んでいる。
 龍之介も、日本にいた頃は関東地方の雪が余り積もらない地域に住んでいたので、最初にこちらの世界で雪を見た時は、目の前の子供たちと同じようにはしゃぎまわっていた。

「…………っと。らしくねえな」

 不意に訪れたセンチメンタルな気持ちを振り払うかのように、龍之介は顔を横に振る。

「よし。ぬかるんだ地面の上でも問題なく移動できるように、練習でもするか!」

 自分に言い聞かせるように龍之介はそう言うと、町の外れから拠点までの道を走り始めるのだった。



▽△▽



「アンタ、バカなの?」

「……っせーな。お前には関係ねーだろ」

「はぁ……。どうせまた雪が降ったからってはしゃいでたんでしょうけど」


 拠点にたどり着いた龍之介は、道中を走って移動したために、外套やブーツ、ズボンの下の部分などが泥まみれになっていた。
 龍之介の家は既に完成していたので、そちらに戻ってもよかった。
 だがせっかくの新居を泥で汚すのを嫌がった龍之介は、拠点西門から入ってすぐにある、農業エリアへと移動していた。

 農業エリアといっても、ここでは本格的な畑などは作らずに、家庭菜園レベルの畑と、魔法林檎などの果樹系を植えるにとどまっている。
 本格的な畑は、アーガスから権利書をもらった、拠点の周囲に作る予定だ。

 龍之介はその農業エリアに設置された水場で、汚れた衣服を脱ぎ、水洗いをしていた。
 ここの水場も贅沢に北条のこさえた魔法装置が設置されていて、水だけでなくお湯まで出せるようになっている。

 とはいえ、この冬の寒い中で着ていたものを脱ぎ、その場で洗い始める様子など、見てるだけで寒くなる光景だろう。
 しかし、龍之介は寒さに震えるといった様子がさっぱりない。

 農業エリアには他にもロアナの連れて来た農民が農作業をしていたが、彼らにも寒さに凍える様子が見られなかった。
 それもこれも、北条がこの農業エリアにだけ設置した、結界魔法装置の恩恵だ。

 "結界魔法"の用途は何も戦闘だけに限らず、音を遮断する結界や、光学迷彩のような光を遮断するものまで存在する。
 その中には、熱の流れを遮断する【断熱結界】という魔法も存在し、この農業エリアにはその【断熱結界】の効果が刻まれた魔法装置が設置されていた。

 結界を維持するにはそれなりに消費魔力が必要なのだが、『サムライトラベラーズ』、『プラネットアース』がダンジョンに潜る度に魔石を大量にゲットしてくるので、十分賄えている。


 常に一定の気温を維持している農業エリアは、最近拠点で暮らす人たちにとって人気のスポットになっていて、マンジュウなんかはここでよく昼寝なんかをしている。
 先ほど龍之介に悪態をついていたカタリナも、冬なのに暖かいこの農業エリアが気に入っていて、ちょこちょこ訪れていた。

「にしても、ここって雪が積もらねーよな? このエリアだけじゃなくて、拠点内も全部」

「あ、そーいえばそうね。ここは温かいからわかるけど、そもそも雪が地面まで落ちてきてないのよ」

「そーゆー結界も張ってあるからなぁ」

「あ、ホージョー」

 龍之介とカタリナが水場で話をしていると、北条がやってきて話に加わってくる。
 最近は拠点の東の方、『スーパー銭湯』や『ルカナルの鍛冶屋』のある北の方に、自分の家を作り始めているので、正反対の方にあるこの場所に北条が姿を現す事は珍しい。

「結界って雪が積もらねーようにか?」

「あぁ。どういう原理かは知らんがぁ、雪を弾く紋様というか魔方陣のようなもんがあってなぁ。それを"刻印魔法"や〈魔水晶〉と繋いでちょちょいと、な」

「ちょちょいとって……、それだけで十分食べていける凄い能力よ、それは」

 呆れた様子のカタリナ。

 この北条の施した雪避けの結界は、降ってきた雪そのものも利用する事ができる。
 拠点の四隅には雪避けの結界装置と共に、大甕が設置されていて、その中に降ってきた雪を変換した水が溜まるようになっている。
 冬に川や池の水も凍るような場所では水資源としても有用だが、この拠点では水を生み出す魔法道具や魔法装置が各所に設置されているので、そういった意味ではあまり有用的ではない。

 こういった雪避けの結界は、ダンジョンから産出する魔法道具にも同じ効果を持つものがあって、そういったダンジョン産の便利道具を、どうにかして自分たちでも生み出そうという、先人の努力の賜物であった。

「で、オッサンは何しにきたんだ? もう家の方は完成したのか?」

「いや、まだだぁ。今日はちょっと息抜き……というか、そろそろ試作品が出来そうなもんがあってなぁ。それを試しにきたぁ」

「試作品? なんかまたとんでもないモンでも作ってるのかしら?」

「いや、別にそんな大それたもんでもないぞぉ。これから試そうとしてるのは、拠点防衛用のゴーレムだぁ」

「ゴーレムゥゥゥ!?」


 驚く二人を気にした様子もなく、北条は"アイテムボックス"から何やら素材と思しき者を取り出していく。

 こうして北条の実験タイムが始まった。


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