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第十二章
第317話 拘る理由
しおりを挟む「あれ? でも魔物の数が減ってませんか?」
確かに慶介の言う通り、アーシア以外にも十体ほどの魔物を召喚して傍につけていたのだが、 二体ほど数が減っている。
「ん? なになに。途中で魔物と交戦した? 奥は行き止まり?」
"召喚魔法"だけでなく、他のスキルなどでも契約を結ばれた者同士は、簡単な意思の疎通が行える。
言葉で交わすものと比べれば、あやふやなイメージのようなものだが、北条の場合は"以心伝心"などのスキルによって、より正確にアーシアの伝えたい事を感じ取る事が出来る。
「……という事みたいだぞぉ。細川さん、ちょっと地図を貸してくれぃ」
「はい、どうぞ」
メアリーから地図を受け取った北条は、アーシアの報告を下に地図を書き足していく。
「これでよしっと。んー、召喚した魔物はまだ残り時間は残ってるがぁ、邪魔だから戻しておくかぁ」
北条は二体ほど数を減らしていた召喚で呼んだ魔物たちを、【デポテーション】で送り返す。
といっても、北条もどこに送り返しているのかは分かっていない。
"召喚魔法"で呼びだされる魔物が、どこから来てるのかというのも謎だ。
「それじゃあ、戻るぞぉ」
「残念ですけど、仕方ありませんね」
口惜し気な様子のメアリーだが、この階層の危険性は理解出来ているので、大人しく指示に従う。
「次からは、ここの一つ上の階層辺りを回ってレベル上げかしらね」
「そうだなぁ。レベル五十は欲しい所だなぁ」
「げー、そりゃー大変そーだな」
「だが今でも十分無理をして、Cランクの魔物がうろうろしてる階層でやってるんだからなぁ?」
「地道にやっていくしかありませんね」
基本的に堅実で安全志向なメアリーも、このエリアに関しては意気込みが少し違っている。
それは慶介なども同様で、ここまで自分達よりレベルの高い魔物のいるエリアでも、先へ先へと進んできた。
それもこれも、このエリアの特性が大きな理由だった。
ミラーエリア。
壁の全てが鏡のように光を反射するこのエリアは、侵入して少ししてからある一つの疑惑が浮かんでいた。
それはふっと浮かんだ考えを北条が口に出したのが発端で、それ以降メアリーと慶介がこのエリアに強い関心を抱くようになった。
その疑惑が何か、というと、このエリアがミラーエリアであることそのものに関係する事柄だった。
彼ら異邦人がこのダンジョンに潜っている大元の目的。
"日本への帰還"に大きく関わると思われる、三種の神器の捜索。
三種の神器の中には八咫鏡という鏡が存在している。
その事を踏まえると、こじつけかもしれないが、この鏡張りのエリアというのは怪しく見えてくる。
しかしだからといって、無理をして進んで命を落としてしまっては元も子もない。
幾ら北条がいるとはいえ、Bランクの魔物まで姿を見せ始めるような場所は流石に危険が過ぎる。
こうしてミラーエリア三十七層を後にした『サムライトラベラーズ』は、ダンジョンを脱出し、拠点へと向かう。
「――あのエリアに拘らず、他のエリアを探索するのもアリかもなぁ」
「……そうでしょうか?」
「急がば回れってねぇ。今の俺達じゃぁ、Bランクの魔物が徘徊するような場所はまだまだ早い。それなら他のエリアを探索して、いけそうならそのエリアを踏破してしまえばいい」
「そーだな! 和泉リーダーも、ダンジョンの祝福でユニークスキルもらってたしな。クリアできそーなとこを回ってけば、結果的に強くなってんだろーし」
まだまだダンジョン《サルカディア》には、探索していないエリアが幾つも存在している。
特にこれまで見た中でも一番広いと思われる、五層の北東部の扉の先にある《フロンティア》に関しては、あれからまったく手を付けていなかった。
あれから金の箱の魔物も見かけていないので、今は手元にあの扉を開ける〈金の鍵〉はない。
異邦人たちは、皆あのエリア開始地点にある迷宮碑に登録してあるから転移で飛んでいけるが、ロベルト兄妹はそうもいかない。
そもそもあのエリアは広すぎて、どこを探索すればいいかも分からないような場所なので、何だかんだで後回しにされてきている。
「今は五層の北西にある下り階段の先を大体探索したから、次は鉱山エリアか無灯火エリアの先ね」
「他にも一端和泉さん達と合流して、エリア踏破を目指してレイドエリアに挑戦するのはどうでしょうか?」
慶介の提案に、幾つか意見が帰ってくる。
こうして一つ壁に当たったところで、今後の探索方針についてを語りながら、森の小道を進む一行。
途中、二度ほど他の冒険者パーティーとすれ違う。
その度に北条がこっそり"解析"スキルでチェックを入れ、冒険者の情報を頭にインプットしていく。
これまで北条が、"解析"スキルを使って相手に気づかれた事はない。
……もしかしたらあの高位の悪魔には気づかれていたのかもしれないが、少なくとも人間相手では、気づかれた事はないと思われた。
Aランク冒険者であるエスティルーナに使用した時も、まったく気づいた様子がなかった。
しかし何らかのスキルによって、"解析"を使っているのを見破られる可能性もあるので、北条は単体で"解析"を使うのではなく、他の隠遁系のスキルと併用して、更に相手に気づかれにくいようにして使用している。
「――そうだなぁ、それも確かに…………っ!?」
「確かに……なんだ? オッサン」
話の途中で不意に口ごもった北条に、訝し気な視線を向ける龍之介。
すでに拠点はすぐ目の前であり、全員かなり気が抜けた状態だっただけに、北条の態度を見て他のメンバーも緩んでいた気を引き締め始める。
「これはっ……。あの男とは明らかに違うな。一体誰なんだ……?」
「おい、オッサン! どーしたんだよ? なんかあったのか!?」
「ん、いやぁ。俺の"気配感知"が、拠点の中に見知らぬ人物の気配を感じ取ってなぁ」
「侵入者でしょうか?」
「いやぁ。悪意などは全く感じないし、近くにいる和泉達もこれといった反応をしていない。客人を招いているって所なんだろうがぁ……」
「なんだよ。何か気になる事でもあんのか?」
「この見知らぬ気配の持ち主。恐らくあの『勇者』シルヴァーノよりレベルが上だぁ」
「え? マジか! って、そーいやアイツのレベルって聞いてなかった気がすんな。Aランクだからたけーんだろうけど」
「奴のレベルは九十四だぁ。肩書だけでなく、ちゃんと実力も持ち合わせている」
「それより高いって……普通じゃないわよ?」
カタリナは『巨岩割り』時代に、色々と高ランクの冒険者と接した事はあったが、レベル九十代などお目にかかった事はない。
もちろんレベルを公表していない者の中には、隠れた凄腕が混じっていた可能性はあるが。
「まあ敵意はなさそうだし、実際会ってみないと何とも言えんなぁ」
なんとも言えない表情のカタリナたちだが、足を止める事はなくそのまま拠点へと向かっていく。
北条は常に意識して張っていた、感知系スキルによる警戒網がちゃんと働いた事に満足していた。
前みたいに気構えもなく、いきなり高位の悪魔と偶然バッタリってのは、今の北条としても避けたい所だ。
そこで"気配感知"のスキルを中心に、指向性をもたすように意識して、高レベルの存在を検知するように調整していた。
検知対象をレベル百以上に絞っていたせいで、これまで反応する事がなかったこのシステムだが、どうやらちゃんと機能はしていたらしい。
(これならまたあの悪魔がこっそり近くにいても、逃げるなりなんなりの対処位は出来そうだな)
北条がそんな事を思い浮かべる中、東門を抜けて拠点へと戻ってきた『サムライトラベラーズ』。
謎の人物の事は気になりつつも、帰還した北条らはまず中央館へと向かうのだった。
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