どこかで見たような異世界物語

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第十二章

第319話 立ち会う二人

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 ダンジョンから帰ってきた北条たちは、その後中央館に荷物を置いて、しばしお茶を飲みながら休息タイムに入った。
 暖かい室内でゆったりとしながらのティータイムを楽しんでいた北条だったが、ゼンダーソンの催促の嵐に耐え切れず、四半刻ほどしてから再び雪が降ってきそうな寒空の下へと繰り出す事になる。

 もちろん龍之介や咲良など、他のメンバーも興味深そうにこの寒い中を付いてきており、訓練場の端にある休息スペースにたどり着くなり、焚火を炊いて熱源を確保していた。


「ほんなら始めよか」

 訓練場には二十メートル四方の、対人用の時に使用されるリングが二つ存在する。
 リングといってもロープで囲ってある訳ではなく、十センチほどの高さの石で囲われたもので、あくまでこの範囲内をなるべく出ないようにといった程度の意味合いしかない。

 二つのリングは、間に少しだけ距離を開けつつも隣同士に配置されていて、その片方の中央にゼンダーソン。もう片方の中央には北条が立っている。
 本来はこのように使うのではなく、それぞれ独立していて二か所で別々に試合を行うための敷居なのだが、今は二面を用いている形だ。

「あー、その前に、念のために周囲に結界を張らせてもらうぞぉ」

 早く戦いたくて仕方ないといった様子のゼンダーソンに、北条はそのような事を言って、戦闘会場となるリングの四隅を一つずつ回っていく。
 それぞれの四隅の部分では、魔方陣が描かれ、その魔方陣に沿って魔石を幾つか配置していく。

 「なんやなんや?」と不思議に思いながら、北条のやる事を見ていたゼンダーソン。
 四隅のセッティングが終わった北条が、"刻印魔法"と"結界魔法"を併用した結界を展開させると、ゼンダーソンは口を開いて驚きの表情を浮かべる。

「自分……。てっきり魔導具か何かを使うのかと思いきや、今のはオノレの魔法か?」

「さあてなぁ。俺は謎が多い所がウリなんで、その質問には答えられんなぁ」

「ハッハッハ! 抜かしよる! なら俺がその謎解いたるわ」

「それは構わんがぁ、解いた謎は周囲には言いふらさんでくれよぉ」

「当然や。立ち会うてくれ言うたのは俺の方やからな」


 そこまで会話が交わされると、両者は口を閉ざし、互いに戦闘モードに突入していく。
 ゼンダーソンは、竜の革で作られたというドラゴンレザーアーマーを身に付けているが、体の重要な部分を特に守るように作られているので、露出部分は多い。
 防御を捨てて、動きやすさを最重視して作られている事が見て取れる。

 格闘系をメインに戦うゼンダーソンの武器は、両手に握りこむようにして持っている鉄甲のような武器だ。
 形状としては先端部が尖っていたりはせず、打撃力に特化したような形状をしており、Sランク冒険者が使用している以上、ただの金属で出来てるハズはない。

 五円玉に近い色合いをしているこの鉄甲は、オレイカルコス製であり、とにかく硬く折れにくい金属として知られている。
 魔力伝導率ではミスリルなどに劣りはするが、前衛の使う武器の素材としては、トップレベルの希少な金属であり、その分値段も目玉が飛び出るような値がつけられている。

 この金属は他にも両腕に身に付けた籠手や、肩当の部分などにも使われている。
 そして他にも、パッと見では効果の分からない、アクセサリー系の装備も幾つか身に付けているようだ。
 流石に素手で戦うせいか、指輪の類は身に付けていないようだが……。


 一方北条は、ルカナルに作ってもらった装備を中心に身に付けている。
 属性ウルフの皮を元にして作られたレザーアーマー。ブラッディウルフの毛皮を元に作ってもらった、黒い外套とグラブ。
 全体的に黒で統一されたカラーリングの北条は、右手に持つ〈サラマンダル〉の赤い色が対比的によく目立つ。


 互いの装備をまず観察し合うかのような、静かな時間から戦いは始まった。
 「始め!」の合図などはなかったが、二人が戦闘モードに入っただけで、見ている信也達は妙な緊張感を感じ始める。

 いつまで続くのかと思われたこの静かな立ち上がりだったが、最初に動いたのはゼンダーソンの方だった。
 二つの異なるリングの中央にそれぞれ立っていた両者の間は、距離にして二十メートル以上は離れていた。

 だというのに、一瞬後には北条の至近距離にまでゼンダーソンが接近している。

(まずは、軽く様子見といこか)

 移動系の闘技スキル"縮地"で間を一瞬で縮めたゼンダーソンは、その勢いのまま北条の腹部へと下からえぐりこむようなパンチを繰り出す。
 一瞬右手に構えた〈サラマンダル〉で受け止めようか、回避に専念しようか迷った北条は、出だしのその攻撃に対処する事はできず、しょっぱなからまともに攻撃を受けてしまう。

 初っ端から"縮地"で間を詰めて来たのも想定外であったし、何より"縮地"からの動きが滑らかでいてとても素早かった。
 エンジンがかかっていなかった事もあって、北条は驚きと共に攻撃をもらってしまい、後ろに自ら飛ばされるようにしてダメージを逸らしつつ、後ろへと下がる。

 この時驚いていたのは北条だけでなく、ゼンダーソンもまた同じだった。

(あの鎧……、恐らく素材としては大した事ないハズやが、当てた感覚が妙やった。オレイカルコスの鎧を着た相手をぶん殴った時より、硬い・・……)

 もう一度その感触の正体を見極めようと、続けてゼンダーソンが北条へと殴りかかりにいくが、今度は北条も上手く〈サラマンダル〉と体術を駆使して、攻撃を見事に捌いていく。

 そうした力の探り合いのようなやり取りは、この先十分以上も続けられ、両者攻めつ攻められつつの、一進一退の攻防を繰り広げていた。
 両者ともに、まだ互いの力を見るための準備運動の段階のこのやり取りだが、すでに信也達の目に追える速度の限界を迎えていた。

「うおっ、なんだっアレ!?」

「……初めて北条さんが本気で戦うところを見たが、凄まじいな」

「うー、まだギリギリ眼で追えてるっすけど、これ以上早くなるとついてけそーにないっす」

 前衛でもこのような反応をしているのだから、後衛である陽子や咲良からしたら、もはや漫画やアニメの世界の戦闘を見ているような気分だった。
 彼女らが理解できているのは、とりあえず今の所魔法らしきものは使われていないという事位だ。

(何やこの男は!? 何かがおかしい……。けどそれが何なのか分からへん)

 戦いを続ければ続けるほどに、ゼンダーソンの内心での混乱は強まっていく。
 これまでの冒険者生活では、魔物だけでなく、人間相手にも散々戦ってきた経験はあった。
 だからこそ、ゼンダーソンは余計目の前の北条という男が異質に見える。

(当てた感触が異様に硬く感じんのは、"打撃耐性"なんか? 確かに人間でも所有してる奴は少ないが、おらん訳でもない。でも、それだけやない。他にもなんかある筈や)

 これまでの戦いの記憶の中で、"打撃耐性"や"物理耐性"を持つ相手とは、個別で戦った事はある。
 "鋼の肉体"や、"硬皮"スキルも同様だし、"鉄の皮膚"のスキルを持つ魔物とも個別では何度も戦った経験がある。

 しかし、いくら経験豊富なゼンダーソンといえど、それら全て・・・・・を持ち合わせた相手と戦った経験はなかった。
 拳を重ねていく内に、何度も「あり得ない」と思っていた考えが、ゼンダーソンの中で膨らんでいき、それはやがて確信に近い領域にまで引き上げられていく。

(……間違いない。ネタは分からへんけど、スキルをぎょうさん使うてる感じや)

 徐々にボルテージを上げていくゼンダーソンに、難なくついていく北条。
 ゼンダーソンがこの事に思い至ったのも、北条がいつになく複数のスキルをフル活用しているせいだ。

 エスティルーナとの模擬戦の時は、向こうも全力を出した訳ではなかったが、それでもある程度の余裕が北条にはあった。
 しかし今回はそのような余裕は一切ない。
 むしろスキルをフル活用して、ようやく立ち回れてるといった感じだ。

 両者ともに、まだまだ使用していないスキルなどを隠し持ってるとはいえ、ヒートアップしてき二人の戦いはすでに、一番目が良い由里香にも追えなくなってきている。

(これはごっつ厄介やな……。どんなスキルを使うてるか、想像もつかん! あの目の様子からして、魔眼系スキルだけでも複数種類発動しとるな)

 近接戦闘の際に、相手の目というものから得られる情報は多い。
 何を見ているのか、どこを狙っているのか。
 そういった物を見る器官としての動きから、気の迷いなどといった精神的なものまで、目は多くの物事を語る。

 しかし魔眼持ちを相手にする場合は、相手の魔眼能力をどうにかする方法がない限り、相手の目から情報を得る事が出来なくなってしまう。
 ゼンダーソンはレベル百を超え、職業を三つ持ち、並大抵のものなら耐性がなくても精神抵抗で打ち破るくらいは出来る。

 しかしこれまでの戦いの中で、すでにゼンダーソンは何度か魔眼の影響を受けており、北条の目を窺う事が出来ない。
 被害を受けたのは、一時的に動きが拘束された事から"拘束の魔眼"と、動きが鈍くなった事から"鈍足の魔眼"辺りだと、ゼンダーソンは睨んでいた。

(それと……)

 ゼンダーソンは、"縮地"を連続して発動させるような効果を持つ、"縮地奔走"を使用し、向かい合った状態から一瞬で北条の背後へと移動し、そのまま蹴りによる攻撃をしかける。

 一瞬で背後へと移動され、更に移動と同時に攻撃まで仕掛けられた北条は、しかしまるで背中に目があるかのように、背後を取られた状態のまま前へと飛んで攻撃を躱す。

(これや……。これは恐らく俺の持ってる"野生の勘"なんかとはちゃうな)

 ゼンダーソンは前へ飛んで避けた北条に追撃をかけようとするが、今まさに先ほど頭の中に浮かんだ"野生の勘"スキルが働き、咄嗟に追撃をやめてその場で踏みとどまる。

(今、突っ込んどったら何かあったやろな。"野生の勘"は意識して使えるもんやないし、効果も瞬間的や。せやけどホージョーの場合、前もって・・・・体が動いとる。……先読み系のスキルもあるっちゅう事かい)


 由里香にすら目で追えない攻防の中、両者は実際の戦闘以上に目まぐるしく頭を働かせながら、戦いを続けていく。
 二人ともまだ本気を出していない状態の中、不意に北条が距離を取る。

 意図が読めなかったゼンダーソンは、その北条の動きの意図が掴めず、警戒の意味も兼ねて自分も少し後方へと下がり、ジッと北条の出方を窺う。
 その判断が間違っていた事にゼンダーソンが気づいた時には、既に手遅れ状態になっていた。
 


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