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第十三章
第339話 限界突破の条件
しおりを挟む二人の了承の返事を受けた北条は席を立ち、まずはユーローの方へと近づいていく。
そして「手を触れるぞぉ」と忠告してから、ユーローの肩部分に手を当て、しばし集中した様子を見せる。
「んー、こりゃあ他の条件は満たしているなぁ。つまり、後必要なのは純粋に経験値だけだぁ。だがぁ、それも大分溜まっているし、そう近くないうちにレベルアップすると思うぞぉ」
「……ッ!! そうか……」
北条の言葉を信頼したのか、疑っているのか、ユーローの態度は分かりにくい。ただそれ以上何か言ってくることはなく、北条の言葉に納得しているようにも見える。
「次はアンタだなぁ」
そう言って次はマージの肩に触れる北条。
マージとしては未だに半信半疑であったのだが、北条に肩を触れられた瞬間、何かが体を走り抜ける感覚と、わずかな違和感を覚えた。
(これは……"鑑定"を使われた時の感触に似ている……。しかし、"鑑定"とは別物だという事は確かだ。特殊な鑑定系スキルとは一体……)
ほんの微かな違和感に意識を捕らわれていたマージは、北条が発言し始めたことで、一旦意識をそちらへと戻す。
「あー、あんたは経験値がそっちのユーローに比べるとまだまだ足りんようだぁ。それと、スキルの熟練度が足りていない」
「スキルの……熟練度?」
「高度な鑑定の魔導具を使用すると、"剣術"やら"火魔法"やらに等級が表示されるのは知っているなぁ?」
「勿論だ。俺たちもその魔導具は所持しているからな」
「おー、さっすが一流の冒険者だぜっ!」
「ちょっと、龍之介。黙って話を聞いてなさいよ」
「……あー、まあそれでだなぁ。レベル百の壁を突破する条件の一つは、"剣術"や"格闘術"などの戦闘系スキル。もしくは、"火魔法"、"風魔法"などの魔法系スキル。これらのスキルの熟練度を上げ、『特級』レベルを二つ達成する事が条件になる」
「特級を二つ……。確かに俺はあちこち魔法に手を出してるから、特級にまで達してるのは一つだけだ。上位魔法は関係ないんだろう?」
「ああ。限界突破に必要なのは、くら……下位スキルの特級レベルが二つだ。これは別に"剣術"と"火魔法"の組み合わせでも大丈夫だぁ」
「特級レベルでその二種類の組み合わせはきつそうだ」
「ホージョーなら条件満たしてそうやけどな」
何故か少しドヤ顔のゼンダーソン。
「あと、"体術"や"纏気術"。"拳闘術"などの、等級が表示されないスキルに関しても、実は内部で等級が分けられている。これらのスキルも特級レベルになっていれば、限界突破の条件を達成する事が可能だぁ」
「それはどのように見分ければいいんだ?」
「まぁ、普通には見分けられんだろうなぁ。俺みたいな特殊な鑑定系スキルを使うか、魔導具の更に上。神器級の鑑定アイテムでも使わないと多分分からんだろう」
「神器級の鑑定アイテム……。『ローレンシア神権国』の国宝、〈写し見の太陽鏡〉は鑑定機能を持つ神器だと言われているが、流石に私たちでもおいそれと使わせてもらう事は出来ないな」
ユーローはマジックアイテムの知識に関しても豊富だ。
それらの知識はマージにも一部継承されている。
「あそこは帝国みてーな亜人差別はしてないが、〈写し見の太陽鏡〉は国宝だからな。ところで、レベル百の壁を超えるには、特級スキル二つと膨大な経験値だけでいいのか?」
「あとは当然ながらレベル百に達しているのが条件だぁ。それと、九十レベル以上の魔物を一定数倒す必要がある」
「そいつは初耳だな。経験値はともかく、スキルは確かに学者の間では条件に含まれるのではとは言われていた。ま、具体的な目安は分かってなかったが……」
そこで一旦言葉を区切るマージ。
そして一瞬辺りを見回して何かを考える仕草をした後、続きを話し始める。
「最後の条件についてはまったく聞いたことはなかった。一定数ってのは具体的にどれくらいなんだ?」
「あー、千とまではいかないが、百の単位の数だなぁ。百レベルの壁を越えようというのに、身の安全のために弱めの魔物とばかり戦っていては、限界の壁は超えられんって事だぁ」
「なるほど、確かに道理ではあるな。その条件なら恐らく俺たちは誰もひっかからんハズだ」
「せやな。後はガンガン魔物をいてこまして、マージがスキルを磨けば、戦力大幅アップや!」
レベル百の壁を突破してレベル百一になると、三つ目の職業枠が解放される。
この影響はかなり大きいもので、単純に職業ボーナスにより能力が強化されるだけでなく、他にも利点がある。
職業に就くことで、その職業に応じたスキルの熟練度獲得にプラスの補正がつくし、職業枠が三つになることで、一度により多くの職業レベルを上げやすくなる。
職業レベルは、レベル五十一以上で二つ同時に就けるようになっても、経験値が分散されるということがない。
つまり、職業を同時に多数持っていたほうがお得だ。
「レベル百以上って、つまりSランクって事よね? 一パーティーに三人もSランクがいたら、凄いことになりそう」
「あー、百レベルの壁を越えたからいうて、すぐSランクになる訳やないけどな。せやけど、帝国にいる二人のSランはパーティー組んどる訳やないから、もしそうなったらウチだけが独走やな。ガハハハハッ!」
「あー、ところでゼンダーソン。約束は覚えてるかぁ?」
「あぁ? 約束ぅ? ……せやった。確か俺のスキルが見たい言うてたな」
「ああ。参考にしたいんで、一つ一つ見せてもらいたいんだがぁ」
「おっしゃ。ほなら、行こか」
「ゼンダーソン、もう行くのか?」
「こっちの用件は済ましたからな。ほれ、お前らも行くぞ。さっきの門入って左手のとこに訓練スペースがあるんや」
口より先に手足が動くタイプのゼンダーソンは、すでに席を立ち会議室のドアを開ける。
マージ達も慌てて席をたち、その後に続く。
「そいじゃあ、ちょっくらスキルを学ばせてもらってくるわー」
そう言って北条もマージらの後に続こうとしたのだが、そこに由里香が被せてくる。
「あ、私も見に行くっす!」
「ん~、由里香ちゃんが行くならわたしも~」
「え、じゃ、じゃあ私も……」
由里香、芽衣、咲良と次々声が上がっていった結果、結局ツィリルを除くこの場にいる全員で訓練場まで向かう事になった。
「おう、嬢ちゃんたちも見に来たんか。こらあ、カッコエエとこ見せなアカンな!」
すでに戦闘の邪魔になるものを脇に置いて、準備運動のような事をしていたゼンダーソン。
傍らにはマージらが控えている。
「ゼンダーソン。準備が出来たら戦闘系スキルから順に見せてくれぃ!」
「ええで! 目ん玉よーく見開いとけよッ!」
ゼンダーソンの装備は動きやすさを重視しているせいか、耐寒性能はかなり低そうなのだが、この冬空の下でもまるで寒さを感じている様子がない。
脳みそが筋肉で出来てるから寒さを感じねえんだろう、とはマージが時折口にする言葉だ。
しかしこれだけ動き回っている様子を見れば、少々の寒さなど気にもならないのかもしれない。
ゼンダーソンは基本である"格闘術"から、拳による攻撃メインの"拳闘術"、蹴りがメインの"蹴闘術"。
更には獣人らしく、自前の爪でもって戦う"爪術"などを、まるで架空の相手がいるかのごとく披露していく。
どこかシャドーボクシングと似てはいるが、ゼンダーソンがそれを行うと、まるで戦っている相手がその場にいるかのような錯覚すら覚える。
心なしか、仮想の相手からの攻撃をもらったさいに、ゼンダーソンが苦しそうな表情を浮かべたりしているので、よりリアリティーのようなものが感じられた。
「おー、なんかあーゆーの、どっかの漫画で見たことあんぞ!」
そんなゼンダーソンの様子を見て龍之介が言った。
「人間サイズのカマキリとでも戦ってるのかしらね」
その漫画の事は陽子も知っていたらしい。
しかし、この世界では実際に人間サイズのカマキリの魔物も存在している。
そしてそういった魔物と一対一で戦って倒せるような人間も、また数多く存在している。
「ふむふむ……なるほどなぁ」
「これは参考になるっす!」
北条と由里香は、ゼンダーソンの立ち回りを興味深そうに観察している。
そして一通りの戦闘スキルを見せ終わったゼンダーソンは、次に闘技スキルを披露していくのだった。
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