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第十三章
第341話 北条の査定
しおりを挟む「ハアァッ……ハァッハァッ……」
スタミナを消費したわけではないのに、ゼンダーソンは肩で息をしている。
北条の"整体"によってバキボキと骨を鳴らされたせいだ。
「よおし、これで終わりだぁ」
「ぐごぉっ!」
最後に、脱臼した骨を無理矢理嵌めた時のような音が響くと、北条は施術の終了を宣告した。
「ハハハハッ、これは面白いものを見れたな」
「ゼンダーソンのあんな様子はあんま見れないからね」
「お、おまえら……。他人事だと思って好き勝手言いよって」
「でもマッサージの効果はちゃんと出てるはずだぞぉ。ちょっと体動かしてみなぁ?」
「ぬ、ぬう……」
北条に促されたゼンダーソンは、肩を回したりして体を動かし始める。
すると違いを感じたのか、体の各部をひとつひとつ確認するかのように、順に動かしていく。
「お、おおおぉ? なんや体が軽い……?」
「ああ。お前の体は百レベル越えの身体能力でゴリ押ししてるせいか、体の一部に負担がかかってる感じだったぞぉ。そこをちょいとほぐしてやると、今のように少しはマシになるってもんだぁ」
「こらあ凄いわ! 体が柔こくなったみたいや」
「まあ体の扱い方を変えない限り、またしばらくすれば元に戻るだろうけどなぁ」
「む、そうなんか」
「ほう、施術中のゼンダーソンはやばそうだったが、ちゃんと効果はあるんだな」
「まあなぁ。マッサージもそこそこ自信はあってなぁ」
「ふう、まあやられてる時は生きた心地せんかったけど、あんがとなっ」
北条に礼を言いながら、外していた装備を再びつけ始めるゼンダーソン。
「ほな、俺たちはこの辺でおいとまさせてもらうで」
「分かった。またなぁ」
「まったね~!」
「おじさま、さようなら~」
こうして最後に北条のマッサージを受けたゼンダーソンは、仲間のマージらとともに拠点を去っていく。
▽△▽
「フッ、おじさま……か」
最後の芽衣の挨拶の言葉を思い出し、マージはニヤリと笑う。
「あんな呼び方されたんは初めてやったが、なかなかええもんやで」
「ハハハッ! ゼンダーソンは地元では英雄扱いだからね」
ゼンダーソンは地元である『ユーラブリカ王国』では知らぬものがいないほどの有名人であり、子供たちは憧憬の眼差しを彼に送る。
なので由里香や芽衣の反応は、ゼンダーソンにとっては新鮮に感じられていた。
「……ところであのホージョーという男だが」
僅かに上がっていた口の端を引き締め、マージが北条について話し始める。
「確かにゼンダーソンの言う通り、只者じゃないな。最初に俺が見た感じだと、せいぜいCランク程度に感じたが、どこか妙な感じも受けた」
「あー、それなぁ。俺が最初に会うた時は、それこそ強いか弱いか分からんかったかったわ」
「なんだそれは? お前が敵の強さを測れないってのは聞いたことがないぞ」
「やろ? でな、俺がその事を言うたら、『こうすればどうだ?』って、瞬時に気配を切り替えよってな。その結果がさっきまでのホージョーや」
「ってことは、意図的にCランク程度に見せるようにしてるって事か。……俺が微かに感じた違和感も、予めお前に只者じゃないって言われてなければ気づけなかったような些細なもんだ。見事な偽装だな」
「……スキルの中には偽装系のスキルもある。それを使っているのかもしれない」
「ヘー、オイラはその微かな違和感も感じなかったよ」
「私達相手にそれだけ欺けという事は、偽装系スキルの腕も確かということだ」
マージらとの会話に冷静に答えているように見えるユーローだが、内心では北条という謎の存在に対して好奇心を膨らませていた。
いくらエルフが長寿種族だとはいえ、ユーローが知識系スキルを多く所持しているのは、単にこの好奇心によるものだ。
「それに、あの"特殊な鑑定系スキル"とやらも気になる」
「ああ、あれな。使われた時の感触は鑑定系スキルを使われた時と似ていたが……」
「あ、思い出したわ」
「どうした、ゼンダーソン?」
「その謎の鑑定っぽいスキルやけどな。俺もホージョーと初めて会う前に、同じような感覚を受けてたわ」
「なに? だが、お前は〈防鑑のアミュレット〉を持っているだろ?」
「せやけど、〈防鑑のアミュレット〉には何の反応ものうてな。気のせいか思て今まで忘れてたんやが……」
「……"スキル鑑定"や"魔物鑑定"。鑑定系スキルは何種もあるが、〈防鑑のアミュレット〉で全て防げるはず。となると、上位の鑑定系スキルなのかもしれない」
「上位ってえと、〈写し見の太陽鏡〉みたいな奴か」
「そうだ。あの男もそのような事を言っていただろう」
「む……たしかに」
「百レベルの壁の突破条件も、もしかしたらその上位鑑定スキルで調べたのかもな」
「それは……そんな事が出来るのか? いや、しかし……」
ユーローの推測に、あれこれ考え始めるマージ。
だがゼンダーソンとコーヘージャーの二人は、そういった細かい事は気にしていないようで、すでに別の話題に移っていた。
「そーいや、最後のスキルを見せてたのは何だったの? "獅子炎獄殺"まで披露してたけど」
「ああ、アレな。マージたちのレベル百突破の条件を調べてもらう代わりに、俺のスキルを見せる約束をしたんよ」
「へー、ってことは、あのホージョーってのは格闘系のスキルでも使うのかな?」
「奴がいうには自分は魔術士やって言うてたわ」
「魔術士ぃ? ってことは、隣にいた娘の為かな。なんかゼンダーソンの闘技スキルを見て、一生懸命真似しようとしてて可愛かったよ」
「んー、いやあ……。まあ、それもあるんかもしれへんけど、多分あれはスキルを"覚える"ためやろな」
「覚える?」
ゼンダーソンの言葉に疑問符を浮かべるコーヘイジャー。
スキルというのは、身振り手振りセリフやスキル名などを覚えた所で、真似して使えるようなものではない。
もちろんある程度の参考にはなるが、見ただけのスキルを再現するには元々の才能なども必要になってくるし、時間もかかる。
「せや。奴は……ホージョーは多分、己の目ぇで見たスキルを覚えられるんやと思う」
「そうかあ、なるほどね。…………ん? は、ハァァァ?」
普段はニコニコとしてお調子者のコーヘイジャーが、素の表情に戻って驚く事はそうそうない。
そしてゼンダーソンの驚きの言葉は、北条の鑑定スキルについてぶつぶつ考えていたマージにも届き、一瞬遅れた後にグイッっと顔をゼンダーソンの方に向ける。
「な、ゼンダーソン! それは本当か!?」
隣ではユーローが声を上げてはいないものの、目を見開いて驚きの表情を見せている。
「ま、本人に確認はしてないけどな」
ゼンダーソンとしても確信はしていなかったが、多分そうなんだろうと判断していた。
「……どうしてそう思った?」
ユーローがゼンダーソンに問いただす。
その声は若干だが震えていて、興奮を抑えているのが仲間であるマージらに伝わる。
「せやなあ……。実際にホージョーと立ち会うて分かったんやが、あの男はスキルの引き出しがえらい多い」
「多いっつっても、さっきのお前みたいに一つ一つ丁寧に見せてもらった訳じゃないだろ?」
「それはそうや。ただ、魔法系スキルだけでも六、七……、いや、もっとか? 上位魔法も入れたらぎょうさん使いこなしてたわ。それも"結界魔法"なんちゅう、レアなもんも使うてたな」
「なっ、"結界魔法"だと!?」
「それも、どの魔法も相当な……今思うとマージの使う魔法の威力を超えとった。それにあの拠点の様子からして、"刻印魔法"も使えるのかもしれへん」
拠点を覆う結界や、外壁から感じられる魔力。
そして拠点内をうろつくゴーレムとくれば、"刻印魔法"の使い手の存在が見え隠れしてくる。もし北条本人が使い手でなくても、協力している術者がいるのは明らかだ。
「……やというのに、ホージョーは近接戦闘もAランクの戦士並かそれ以上にこなす。奴を殴った時の感触からして、"打撃耐性"のスキルも持っているかもしれん」
「"打撃耐性"……。"斬撃耐性"など物理攻撃に対する耐性は、得ようと思ってもそうそう得られるものではないハズだが?」
「せやから『覚えた』言うとるんや。他にも"鋼の肉体"や、"硬皮"。"鉄の皮膚"なんかの"感触"もしとった。それぞれ個別で持ってる相手とは何度も戦っとるが、全て持ち合わせた奴なんぞホージョーが初めてやわ」
更に立ち合い中に、複数の魔眼系スキルも使用していたとゼンダーソンは告げる。
普通ならありえない話に、しかしそれがゼンダーソンが語っている事によって、嘘偽りない事実であるとマージらは理解させられる。
「それにな? さっき"獅子心中"スキルを使うた時に感じたんやが、ダメージが完全に入っとらん感じやった」
「ダメージが完全に入ってない? それは守護者に使った時のような感じか?」
「いや、ちゃうな。アレは完全にダメージが入っとらん感じやが、ホージョーにはダメージが通ってるのは感じた。ただ軽減されたような感じやった」
「……あの手の防御を貫通して一定のダメージを与える攻撃は他にもあるが、それを軽減する方法は知られていない。もしかしたらそういった耐性スキルがあるのやもしれぬ」
「ああ、そんな感じやったな。それにお前らがゲラゲラ笑いながら見とったマッサージかて、きちんとスキルとして身に着けてなければあれほど効果は出えへん」
「ふむ……、確かにお前の言う通り、個人が扱うスキルの量を逸脱してるみてーだな」
「……実際立ち合いの時に、お前が使えるスキルの中でも使い手が少ないようなスキルを、真似されて使ってきたりしたのか?」
「いや、どうやったろうな……。途中からいかつい魔法を連打されたもんで、他が記憶からすっとんでてな。ただ……」
「ただ……?」
「立ち合いの後にスキルを見せる約束したっちゅう事は、スキルを覚えられる言うても、じっくり落ち着いて見んと覚えられんのかもしれへんな」
「それはありえるな。一度見ただけでそのスキルを使えるんだったら、とんでもねーバケモンだろ」
「というか、ホージョーはどうやってスキルを覚えてるんだろうね?」
「そらあ……相手をよおく見て、気合で覚えてるんちゃうか?」
コーヘイジャーのもっともな疑問に、ゼンダーソンもハッキリとした答えを導き出せないでいる。
そこへ、この中で一番の物知りであるユーローが推測を語りだした。
「もしや"シークレットスキル"かもしれんな」
「シークレットスキルちゅうと、あれか。普通の鑑定じゃ見えんちゅうスキルやな」
「そうだ。〈写し見の太陽鏡〉の鑑定によって、ようやく明らかになるスキルというのが、これまで幾つか確認されている。それらのスキルはどれも強力な効果があるとされているので、ホージョーもそのケースかもしれない」
この"シークレットスキル"に関しては、調べる方法が〈写し見の太陽鏡〉位しかない上に、そうしたスキルの所有者がそもそも極まれである事から、ほとんど伝説的な存在と化している。
歴史に名を残しているような英雄。
冒険者ギルドを創設し、のちに初代『ユーラブリカ王国』の国王となった、『ギーダ・ユーラブリカ』。
そして、『ジャファー共和国』の建国の祖。希代の大魔術士である『ジャファー・アウグスト』などは、そうしたシークレットスキルを所持していたのではないか、と学者の間では目されている。
「……せやな。それやったら納得できるわ」
拠点から《ジャガー町》へと戻る道すがら交わされた、北条に対する査定。
それは流石に現役最強とも呼ばれる『バスタードブルース』だけあって、大分的を射たものだった。
その後も、北条に対するあれやこれやについて話し合いながら、ゼンダーソン達は町中へと消えていくのだった。
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