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第十三章
閑話 北条と吸収スキル その1
しおりを挟む"吸収"というスキルがある。
これは単体では何も効果が発生せず、例えば名前通りに何かを吸収したりといった事は出来ない。
その部分だけを切り取れば、何も効果がないぶん、全スキルの中でも一番使えないスキルのようにも思える。
しかし、このスキルは他のスキルが霞んで見えるほどの可能性を秘めていた。
北条がその事に気づいたのは、この世界に飛ばされてすぐの事だった。
一番最初に目を覚ました北条は、未だ意識を失ったまま倒れていた者に、"解析"のスキルを試していた。
そして何人目かに"解析"をした人物――ツヴァイのスキル構成だけが、すでに幾つもスキルを習得した状態だった事に気づく。
その事に疑問を持った北条は、改めてツヴァイのスキルを調べていくうちに、"リバースファイア"というスキルに気づいた。
そして"解析"スキルでこのスキルについて詳細を調べた北条は、死んでも一度だけ生き返るというこのスキルが、すでに発動されていることに気づく。
「…………という事はつまり、この男は一度死んでからここに戻って来た?」
思わず考えが口から洩れる北条だが、未だ目を覚ました者は他にはいない。
その後も倒れていた全員の"解析"を終えた北条は、突然上がった叫び声に思わず体をビクンと竦ませる。
声のした方向を振り向いた北条は、そこであの特異なスキルを持つ男が叫んでいたことに気づく。
それからツヴァイとのやり取りがあり、他の人たちが意識を取り戻していく中、北条は自身のもう一つのスキル、"吸収"について調べていた。
("解析"スキルで、"解析"スキルを調べると、ユニークスキルに分類される事
と、スキルの効果についての詳しい情報を知ることが出来た。しかし、"吸収"スキルの方は……)
北条が再び"吸収"スキルに対して"解析"スキルを使用してみるが、帰ってくる情報は以下のものしかなかった。
≪吸収 種別:レジェンドスキル≫
解析の結果はこれだけしか表示されず、スキルの詳細についての情報などは一切表示されない。
(レジェンドスキルってのは、どう見てもユニークスキルよりは凄そうだから、詳細を見れないという事か?)
倒れている連中のスキルを"解析"した時には、このようなことはなかった。
そもそも、他にはユニークスキルの所有者すらおらず、それより格の低いと思われるレアスキル所有者が若干名いた程度だ。
(吸収、吸収……。何かを吸収するスキルだというのなら、例えばエネルギー吸収のような事が出来るのか?)
その時北条の頭の中に浮かんでいたのは、とある漫画に出てくる緑色の皮膚をした敵役のキャラクターだった。
試しにそれをイメージして"吸収"スキルを試そうとした北条だが、すでに幾人か起き上がっている人がいる中、人に対して試す気にはなれなかった。
そんな折、北条は視界の隅に、成人男性の握りこぶし位の大きさのカエルを発見する。
(あれで試してみるか)
大きさとしては地球にもいそうなサイズのカエルではあったが、念のため背中部分ではなく、腹の部分からカエルをつかみ取る北条。
北条のなんとなくのイメージでは、毒を持つカエルは背中の辺りから毒を出すイメージがあったからだ。
ひょいっとつかみ取られてしまったカエルは、北条の手の中で手足を暴れさせる。
そんな必死な様子のカエルに、北条は"吸収"スキルを意識して、何度もイメージを膨らましてスキル使用を試してみる。
(む……、なかなか上手くいかないな。イメージの仕方が悪いのか? もっと、こう……明確に、HPを吸収するようなイメージで……)
試行錯誤しつつ、何度目かのスキル行使を意識した時。カエルを掴んでいた方の手から、温かい熱のような何かが伝わってくるのを北条は感じた。
それと同時に、微かな赤い光が北条の視界に走る。
(今のは成功した、のか?)
感覚としては、手から流れてきた温かい何かが、じんわりと体全体へ広がっていくような微かなものだった。
だが効果は確実にあったようで、あれほど手足をバタバタさせていたカエルの動きが、赤い光が走った後はグッタリとしてしまい、すでに息がないように見える。
(つまり、この"吸収"スキルというのは相手のHPを吸収するという事なのか?)
そう思いつつ、何の気なしに再度自分を"解析"した北条は、最初に調べた時にはなかった、新たなスキルが生えている事に気づく。
≪生命力吸収 種別:レアスキル≫
:スキル効果
有機ステータスを持つ相手に直接触れることで、触れた箇所に赤い光を発し、相手のHPを直接奪う。
ただし、奪った分はそのままの数値分、使用者に還元される訳ではない。
同種属相手や、それに近い種族に使用した場合は還元率は高い。
ライフドレインの上位スキル。
(これは……)
最初に選択した"解析"と"吸収"のスキルの他に、新たに"生命力吸収"のスキルを取得した北条。
もう少しスキルに関する詳しい実験をしたい所であったが、部屋の中央ではすでに意識を取り戻した全員が話し合いを始めている所だった。
「あ、あそこに!」
という女子高生らしき少女の声を聞いた北条は、スキルについてのあれこれは置いといて、とりあえず他のみんなと合流する事にした。
……実験用に握っていたカエルの事を忘れたまま。
▽△▽
自己紹介の時、北条が咄嗟に自分のスキルとして挙げた"ライフドレイン"のスキル。
『レジェンドスキル』という、何やら大層なスキルの存在を隠そうとした北条は、同じ『吸収』という名前の付く"生命力吸収"のスキルを伝える事を咄嗟に避けた。
その代わりに頭にポンと浮かんだのが、先ほどのスキル説明文に名前が出ていた"ライフドレイン"のスキルだ。
もう一つの"成長"スキルに関しては、本当に咄嗟に浮かんだもので、そんなスキルが実在しているかどうかは不明だ。
ただこの名称のスキルなら、誰かに"解析"スキルでも使われない限り、傍から見ただけでは判別出来ないだろうという目算があった。
加えて、"生命力吸収"スキルのように、今後もポンポンスキルを覚えられるなら、"成長"スキルのお陰で成長が早いんだと言い訳もできる。
こうして一先ずスキルを誤魔化した北条は、その後も"吸収"スキルについて実践を交えながら試していく。
その実践の最中、"生命力吸収"で相手のHPを吸収する際に、他にも吸収出来ないかと試した所、"身体ステータス吸収"というユニークスキルを新たに取得出来た。
これは、触れた相手の筋力や体力といったステータスを吸収するスキルだが、"生命力吸収"同様に、幾割かは吸収時に減衰してしまう。
また、相手のステータスをそのまま吸収出来る訳ではない。
筋力、体力などのステータスにはそれぞれ個別に経験値が設定されている。
これは筋トレをすれば筋力の経験値があがり、魔法を使えば魔力の経験値が上がるといったものだ。
他にもレベルアップの時に、前衛職なら筋力や体力などに経験値が加算され、ステータスが上昇する。
"身体ステータス吸収"で吸収出来るのは、この経験値の方だ。
ただし、現在のレベルによって上限があるようで、無限にステータスが強化されていく訳ではないし、HPやMP、それから運といったステータスなどは吸収することが出来ない。
魔物が弱ければ、吸収出来るステータスも微々たるものであり、更に吸収時にも減衰してしまうので、一体から得られるステータス経験値は僅かだ。
しかしそれでもただのオッサンだった北条が、"剣術"などのスキルを持っていた信也たちと同じレベルで戦えたのは、その僅かなステータス強化のお陰でもあった。
("吸収"スキル自体は効果が分からないから機能してるか分からんが、派生スキルの方はやばいな)
そう考えていた北条だが、レジェンドスキルはまさにその名の通り『レジェンド』なのだと実感する事になる。
それは、"身体ステータス吸収"の次に取得した、"吸収"スキルの派生スキルが余りに破格であったからだ。
"吸収"というスキルの名称と、これまで読んだことのある異世界ファンタジー作品が、北条にそのスキルの発想をもたらした。
(……お、おおぉっ! まさか上手くいくとはっ!)
そのスキルこそ、後に『ラーニング』という名称で信也たちに伝えられる事になる、"スキル吸収"のスキルであった。
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