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第十三章
閑話 北条と吸収スキル その3
しおりを挟む(さあて、ダンジョンは無事に脱出出来たが、一つ気になる事があるな)
北条がダンジョンを脱出し、最初の夜の時に考えていたのは、長井の持つ"魅了の魔眼"のスキルだった。
同じスキルでも、由里香や咲良がこのスキルを持っていたなら、そこまで警戒はしなかっただろう。
しかし、長井はこれまでの態度が態度だ。
(この女のスキルは、もう一つの方のスキルも気になる所だし、両方ともチューチューさせてもらうか)
それからというものの、北条は定期的に長井の"魅了の魔眼"のスキルを吸収し、熟練度が上がらないように維持していた。
また、それと同時に申し訳ないと思いながらも、新種のスキルを覚えた仲間からもこっそりと、スキルを取得するまで吸収をしていた。
そして"スキル吸収"は、《ジャガー村》に到着してからも積極的に行われた。
村人たちにこっそり糸を延ばし、まだ覚えていないスキルをチューチューと吸収し、取得していく。
それは《鉱山都市グリーク》に着いてからも同様だ。
都市ともなれば人の数も膨大で、冒険者登録や転職などを行いつつも、北条は裏では"スキル吸収"を使い倒していた。
夜中こっそり宿を出てまでして、スキル集めに励んでいたほどだ。
この時に得たスキルはかなり多く、最近になってダンジョンの探索が進むまでは、大半のスキルが《鉱山都市グリーク》で吸収したものだった。
こうして、"スキル吸収"によって急激に力を身に着けていった北条。
信也との二パーティー制でダンジョンに潜るようになってからは、主にダンジョンの魔物からスキル吸収をして、既存のスキルも強化していく。
村人や町の人から過度にスキルを吸収した場合、熟練度が低下した事に気づかれ騒ぎになると、北条は考えていた。
そこで北条は、よほど珍しいスキル以外は、一人から吸収する量を抑えて活動していた。
だがダンジョンの魔物相手ならそうした心配もない。
他にも《ジャガー村》の帰還途中に襲ってきた山賊などは、入手した様々なスキルの実験台にしつつも、限界までスキルを吸収してから止めを刺していた。
それからはダンジョン探索の日々が始まったが、そうなると別パーティーで活動している長井との接触の機会が徐々に減っていく。
それでも、最初の方は長井の"魅了の魔眼"のスキルを吸収していたのだが、徐々にその回数も減っていく。
それは単に会う機会が減ったからというだけでなく、なんだかんだでこれまで信也達に異常が見られなかったからだ。
これまでの経験から、北条は"解析"スキルに多大な信頼を寄せている。
なので、まさか"解析"スキルをもってしても、「魅了」などを含む、状態異常を見分けられないという事実に気づく事がなかった。
仲間には定期的に"解析"スキルを使用しており、その診断に魅了という言葉が載ってない事で、すっかり油断していたのだ。
結果として、長井は北条の知らぬ間に信也への魅了の仕込みを終わらせ、あのような結果となってしまう。
この結末に至るまでの間も、色々な出来事があった。
身の危険を感じるほどではなかったが、『流血の戦斧』と関わることになった時。
あの時は、厄介な連中と関わりを持ってしまったと感じていたし、ツヴァイから悪魔の話を聞いてからは、自身の生命を脅かす脅威と捉え、悩んだこともあった。
しかし思いのほか悪魔とは互角に遣り合う事が出来、欲が沸いてしまった北条は、悪魔との戦闘を長引かせつつ、"スキル吸収"でスキルを幾分か吸収する余裕も出来ていた。
以前、《鉱山都市グリーク》に訪れた直後に出会ったゴールドル。
当時の北条は、彼から"スキル吸収"でスキルを吸収する事が出来なかった。
それは"スキル吸収"の熟練度がまだ低かったことも理由の一つだったが、北条のレベルがまだ低かった事も影響していた。
"スキル吸収"はレジェンドスキル故、詳細が未だに把握できていないスキルだ。
しかし何度も使用していけば、見えてくるものもある。
北条は、ダンジョン通いでレベルが上がれば上がるほど、"スキル吸収"が通りやすくなるのを感じていた。
だが、それでも悪魔との対戦時では、悪魔の方のレベルが高かった。
そんな悪魔相手に"スキル吸収"が幾分か通用したのは、スキル熟練度が高かったのと、称号効果でスキルの効果がアップしていたからだ。
そうして恐らく悪魔以外の種族が所持していないと思われる、"悪魔の肌"や"悪魔手"などのスキルを取得する事も出来た。
だがどうやらこれらは悪魔専用スキルらしく、"分裂"スキル同様に人間には扱えないものらしい。
"解析"でスキル効果は確認できていて、その効果もなかなか良さそうなものだというのは判明していた。
その分、自分で使用できない事を残念がる北条。
しかし、今はそれよりも悪魔との闘いの際、これまで隠していた能力を仲間に見せてしまっていた事が問題だった。
秘密主義……というよりも、利己主義で、自分の命を一番に考える北条としては、"吸収"とそこから派生するスキルについて、全てを明かすことを選べなかった。
それに「相手のスキル熟練度を吸収する」といったスキルは、スキルが大きな意味を果たすこの世界では疎まれるに違いない。
更に、これまで北条は由里香や咲良たちから、新種のスキルをちょこちょこ吸収して覚えていた後ろめたさもある。
そういった北条の思惑があり、ネタ晴らしの時も素直に"スキル吸収"について語るのではなく、『ラーニング』という表現で誤魔化した。
これにはもう一つ付随効果があった。
その名称と北条の説明からして、スキルを実際に見ることで覚える、といったような印象を与えられる事が出来た事だ。
後にゼンダーソンが拠点にやってきた際も、彼らはそのように誤解をしている。
この事によって、北条の『ラーニング』は厄介だが、スキルを見せなければ『ラーニング』される心配はないし、一度や二度見せた位では真似されない、と油断させる事が出来る。
もし北条の『ラーニング』の事が他所に知られたとしても、実際は糸を延ばして接触した相手からスキルを吸収しているので、相手がスキルを使用せずとも相手のスキルを吸収する事が可能だ。
とはいえ、エスティルーナやゼンダーソンと出会った北条は、強者相手にこの先どれだけこの方法が通用するかと悩んでいる。
というのも、最初エスティルーナに出会った際に、いつも通り糸を張り付けスキルを吸収しようとしたのだが、微かに感づかれたような反応をしたのだ。
これでも北条は"絶糸"という、糸の気配をほぼ消すことが出来るスキルや、楓から吸収した"透明化"スキル。それに、"影魔法"や"気配遮断"などの遮断系スキル。
それに加え"隠密"スキルなど、とにかく指先から出ている糸を誤魔化すためのスキルを、多重に発動しながら"スキル吸収"を使用していた。
それでもエスティルーナは微かに違和感を感じたのか、微かな反応を見せていた。
幾ら糸の気配を消しても、スキルを吸収される感覚までは完全に誤魔化せないのだろう。
同じAランクのアホの勇者の方は、全く気付く素振りもなかったが、この件で高レベルの相手には気づかれる可能性がある事を学んだ北条。
結局ゼンダーソンには、糸で触れるなどという事をせず、マッサージと称して直にゼンダーソンに触れることで、彼のスキルを吸収する事に成功していた。
吸収時の違和感も、あえてマッサージで強く刺激した瞬間と合わせるように、絶妙な力加減でゆっくりと、時には大胆にスキルを吸収していく。
そのおかげで、ゼンダーソンのとっておきである"獅子炎獄殺"や、自分にしか効果がないが、強固な防御力を誇る"頑命固牢"などのスキルもゲットする事が出来た。
なお仲間であるマージらの方は、気づかれる危険性を考えて、今回はスキル回収を見送っている。
(ゼンダーソンからはレアで強力なスキルを幾つも得た。最近はダンジョンに潜ってレベルも大分上がり、すでにレベル的にはCランク相当だ)
ゼンダーソンらを見送り、中央館へと戻りつつ、北条は物思いにふける。
一緒にゼンダーソンのマッサージの様子を見ていた由里香らは、すでに先に中央館の方へ戻っている。
周囲には自分以外誰もいない状況だという事を理解していた北条は、いつも浮かべている余裕に満ちた表情を消す。
そして浮かび上がってきたのは、普段仲間には見せないような、不安気な北条の表情だった。
(大分実力も身に着け、Sランクであるゼンダーソンとも渡り合う事も出来た。…………だというのに、時折猛烈に感じるこの不安感は何だ?)
それはある時期から不定期に、北条の身に訪れるようになっていた。
日本で暮らしていた頃に感じたことのあるモノとは、似ているようで違う気もする。
モヤモヤとして、心がざわつき、いてもたってもいられなくなる。
(余りに上手くいきすぎている現状に、逆に不安を感じているのか?)
かつての日本での暮らしの事を思い、ついそのような事を考えてしまう北条。
しかし、北条のその心の問いかけに答える声は、どこからも聞こえてこなかった。
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