セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第1章 機械仕掛けの神

第1話(2)

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 ローレンシア連邦王国――その名のとおり、王都として建設された世界最大のコロニー《エリュシオン》を中心とする、立憲君主制が現在の人類社会における政治形態である。

 王国の統治権は、国家元首及び各コロニーに在官する高等弁務官らが掌握しており、国の要となるローレンシア国王に政治的権力は付与されていない。ローレンシア国王の担う役割は、かつて存亡の危機に陥り、終末説によって絶望の淵に立たされた人心の拠りどころとなること。
 神聖にして不可侵なる現人神あらひとがみとしての威光を民に示す。その一事をもって、新国家における枢要すうようの役目を果たした。


 現国王は、ローレンシア王朝第8代君主クリストファー・ガブリエル。在位7年目となる。

 国王を中心に人心はまとまり、王都を中心に各コロニーも行政機能を独立させつつ、連合加盟都市として王国の一翼を担う。
 一見したところ、人類は立憲君主制の名のもとに、民族、宗教、思想などの垣根を越えて、紛争とは無縁の平安な世界を築き上げたかに見えた。だが実際は、それぞれのコロニーで防衛を目的とする組織が設けられ、治安維持という名目のもと、さまざまな軍事兵器や軍事システムが導入されていた。理由は、コロニーの立地からくる、天然資源の産出量の格差に起因する。

 天然資源――殊に真水の存在は、現代社会において非常に貴重なものとされている。造水工場で日々生産される人工水に比べ、多くのミネラル成分を含む天然水は、市場にて高値で取引される。天然水そのものに関するいっさいの利権はローレンシア国王が独占しており、採取権を獲得した各都市の中枢が、その利益の一部を王室に還元することで経済を循環させていた。しかしながら、その産出量や品質が都市ごとに異なるため、それによる経済格差やコロニー外の湧水地における採取権をめぐる紛争が絶えないというのが現状であった。国際資源保護条約で定められた採取量調整や価格維持のための細かな規定など、たんなる形式的取り決めにすぎなかった。

 芸術、学問、娯楽、各種産業など、コロニーはそれぞれの特質を活かした経済活動を中心に発展している。しかしいずれも、水面下におけるそのような不穏な情勢に備えた、要塞都市としての一面を色濃く有していることは否めなかった。
 そんな中での、国家中枢部からの秘密裡の依頼。

 所属組織を持たない非正規の傭兵であり、俗にいう、『運び屋』と呼ばれる未登録の運搬業を営んでいる一個人を特定して指名してくる時点で、きな臭さが漂うことこのうえない。しかし、『シリル・ヴァーノン』の名は、その世界では知らぬ者とてない、凄腕のイリーガル・トランスポーターであることもまた事実であった。


「さて、なにを運ばされるのやら」

 独語した男の口許に、獰猛な笑みが浮かび上がる。テッドから依頼内容の詳細データを受け取ったシリルは、ホテルをチェックアウトしたその足でキュプロスに向け、愛機を発進させた。
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