5 / 161
第1章 機械仕掛けの神
第1話(2)
しおりを挟む
ローレンシア連邦王国――その名のとおり、王都として建設された世界最大のコロニー《エリュシオン》を中心とする、立憲君主制が現在の人類社会における政治形態である。
王国の統治権は、国家元首及び各コロニーに在官する高等弁務官らが掌握しており、国の要となるローレンシア国王に政治的権力は付与されていない。ローレンシア国王の担う役割は、かつて存亡の危機に陥り、終末説によって絶望の淵に立たされた人心の拠りどころとなること。
神聖にして不可侵なる現人神としての威光を民に示す。その一事をもって、新国家における枢要の役目を果たした。
現国王は、ローレンシア王朝第8代君主クリストファー・ガブリエル。在位7年目となる。
国王を中心に人心はまとまり、王都を中心に各コロニーも行政機能を独立させつつ、連合加盟都市として王国の一翼を担う。
一見したところ、人類は立憲君主制の名のもとに、民族、宗教、思想などの垣根を越えて、紛争とは無縁の平安な世界を築き上げたかに見えた。だが実際は、それぞれのコロニーで防衛を目的とする組織が設けられ、治安維持という名目のもと、さまざまな軍事兵器や軍事システムが導入されていた。理由は、コロニーの立地からくる、天然資源の産出量の格差に起因する。
天然資源――殊に真水の存在は、現代社会において非常に貴重なものとされている。造水工場で日々生産される人工水に比べ、多くのミネラル成分を含む天然水は、市場にて高値で取引される。天然水そのものに関するいっさいの利権はローレンシア国王が独占しており、採取権を獲得した各都市の中枢が、その利益の一部を王室に還元することで経済を循環させていた。しかしながら、その産出量や品質が都市ごとに異なるため、それによる経済格差やコロニー外の湧水地における採取権をめぐる紛争が絶えないというのが現状であった。国際資源保護条約で定められた採取量調整や価格維持のための細かな規定など、たんなる形式的取り決めにすぎなかった。
芸術、学問、娯楽、各種産業など、コロニーはそれぞれの特質を活かした経済活動を中心に発展している。しかしいずれも、水面下におけるそのような不穏な情勢に備えた、要塞都市としての一面を色濃く有していることは否めなかった。
そんな中での、国家中枢部からの秘密裡の依頼。
所属組織を持たない非正規の傭兵であり、俗にいう、『運び屋』と呼ばれる未登録の運搬業を営んでいる一個人を特定して指名してくる時点で、きな臭さが漂うことこのうえない。しかし、『シリル・ヴァーノン』の名は、その世界では知らぬ者とてない、凄腕のイリーガル・トランスポーターであることもまた事実であった。
「さて、なにを運ばされるのやら」
独語した男の口許に、獰猛な笑みが浮かび上がる。テッドから依頼内容の詳細データを受け取ったシリルは、ホテルをチェックアウトしたその足でキュプロスに向け、愛機を発進させた。
王国の統治権は、国家元首及び各コロニーに在官する高等弁務官らが掌握しており、国の要となるローレンシア国王に政治的権力は付与されていない。ローレンシア国王の担う役割は、かつて存亡の危機に陥り、終末説によって絶望の淵に立たされた人心の拠りどころとなること。
神聖にして不可侵なる現人神としての威光を民に示す。その一事をもって、新国家における枢要の役目を果たした。
現国王は、ローレンシア王朝第8代君主クリストファー・ガブリエル。在位7年目となる。
国王を中心に人心はまとまり、王都を中心に各コロニーも行政機能を独立させつつ、連合加盟都市として王国の一翼を担う。
一見したところ、人類は立憲君主制の名のもとに、民族、宗教、思想などの垣根を越えて、紛争とは無縁の平安な世界を築き上げたかに見えた。だが実際は、それぞれのコロニーで防衛を目的とする組織が設けられ、治安維持という名目のもと、さまざまな軍事兵器や軍事システムが導入されていた。理由は、コロニーの立地からくる、天然資源の産出量の格差に起因する。
天然資源――殊に真水の存在は、現代社会において非常に貴重なものとされている。造水工場で日々生産される人工水に比べ、多くのミネラル成分を含む天然水は、市場にて高値で取引される。天然水そのものに関するいっさいの利権はローレンシア国王が独占しており、採取権を獲得した各都市の中枢が、その利益の一部を王室に還元することで経済を循環させていた。しかしながら、その産出量や品質が都市ごとに異なるため、それによる経済格差やコロニー外の湧水地における採取権をめぐる紛争が絶えないというのが現状であった。国際資源保護条約で定められた採取量調整や価格維持のための細かな規定など、たんなる形式的取り決めにすぎなかった。
芸術、学問、娯楽、各種産業など、コロニーはそれぞれの特質を活かした経済活動を中心に発展している。しかしいずれも、水面下におけるそのような不穏な情勢に備えた、要塞都市としての一面を色濃く有していることは否めなかった。
そんな中での、国家中枢部からの秘密裡の依頼。
所属組織を持たない非正規の傭兵であり、俗にいう、『運び屋』と呼ばれる未登録の運搬業を営んでいる一個人を特定して指名してくる時点で、きな臭さが漂うことこのうえない。しかし、『シリル・ヴァーノン』の名は、その世界では知らぬ者とてない、凄腕のイリーガル・トランスポーターであることもまた事実であった。
「さて、なにを運ばされるのやら」
独語した男の口許に、獰猛な笑みが浮かび上がる。テッドから依頼内容の詳細データを受け取ったシリルは、ホテルをチェックアウトしたその足でキュプロスに向け、愛機を発進させた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる