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第7章 追憶
第1話(3)
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メランデルとの通話を切ったケネスは、静寂の戻った室内で、クッションの効いた贅沢な革張りの椅子の背にゆったりと凭れかかった。
目を閉じて浮かぶのは、ある人物の姿。
執務卓上のパネルを操作して、ひとつの映像を再生させたケネスは、その中に映るふたつの人影のうち、一方を注視して渇いた笑い声をあげた。
迂闊だった。じつに迂闊だった。
爆発事故の現場から、ひとりの男がヒューマノイドを保護して連れ去るシーン。
何度も繰り返し見たはずなのに、まるで気づかなかった。
映像にとらえられた人物の姿は決して大きくはなく、それゆえ、わかるのは背格好のみで容姿の詳細は判別できない。殊にヒューマノイドに関しては、スラリとした長身の男に庇われるかたちで映っていることが多く、白煙と黒煙が入り乱れる現場を映す特殊カメラの結ぶ像では、余計に細部を見極めることは困難だった。なによりこの映像では、連れ出されたヒューマノイドよりも連れ出した男の側に焦点が当てられがちだった。あまりに桁外れの戦闘力と操縦技術が見る者の目を奪い、それ以外に注意が向きにくくなっていたためである。だが、こうしてあらためて見れば、はっきりとわかる。この背格好。黄金の髪。
ユリウス・グライナー――そうか、おまえが噛んでいたか。
ケネスの眼差しの中に、剣呑な光が浮かび上がった。
ならば話は早い。
ケネスはすぐさま隣室のハロネンを呼んだ。現れた秘書官に、気まぐれな上司はただちにあらたな決定事項を告げた。その内容を聞いて、覇気のない茫洋とした顔に戸惑いが浮かんだ。
「……は? 作戦変更?」
「そうだ。追撃部隊の長にいますぐ命じろ。ヒューマノイドを始末してはならない。必ず生け捕りにするように、とな」
「はあ……」
どうにも腑に落ちない様子でマヌケな相槌を打つハロネンに、ケネスはかまわず命令を追加した。
「それから、部隊に所属する隊員の中に、ジャック・カーペンターという男がいるはずだ。部隊長のスミスには内密で、その男と渡りをつけろ。個別に極秘の任務を与えたい」
さらに当惑の表情を見せたハロネンだったが、余計な詮索をすれば、気むずかし屋の上司が瞬時に機嫌を損ねることは目に見えている。命ぜられた内容のみを忠実に遂行するため、気苦労の多い秘書官は早々に長官室からしりぞいていった。
残されたケネスの視線が、ふたたび執務卓上の映像を見据える。
危うく、取り返しのつかないミスを犯すところだった。
ケネスは内心で独りごちた。
データさえ入手できればどうとでもなるなど、とんでもない。あのヒューマノイドが機能しなくなったその時点で、計画は間違いなく、すべてが水の泡となる。ユリウス・グライナーが関係している以上、そのように設定されていることは疑いなかった。
ユリウス、どこまでもいまいましい。死してなお我が眼前に立ちはだかり、邪魔立てをしようとは。だが、見ているがいい。
ケネスはその口許に、邪悪な笑みを閃かせた。
おまえの存在をこのタイミングで把握したからには、運命は私にこそ味方したも同然。賢しらな企てなど、この手で握りつぶしてくれる。おまえ亡きいまこそ、すべてを手中におさめるのだ。
王家の秘密を握る『鍵』を手にしたその瞬間に、世界は我が物となる。
ユリウス、おまえは地獄の底で己の無力を呪い、うちひしがれるがいい――
目を閉じて浮かぶのは、ある人物の姿。
執務卓上のパネルを操作して、ひとつの映像を再生させたケネスは、その中に映るふたつの人影のうち、一方を注視して渇いた笑い声をあげた。
迂闊だった。じつに迂闊だった。
爆発事故の現場から、ひとりの男がヒューマノイドを保護して連れ去るシーン。
何度も繰り返し見たはずなのに、まるで気づかなかった。
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ユリウス・グライナー――そうか、おまえが噛んでいたか。
ケネスの眼差しの中に、剣呑な光が浮かび上がった。
ならば話は早い。
ケネスはすぐさま隣室のハロネンを呼んだ。現れた秘書官に、気まぐれな上司はただちにあらたな決定事項を告げた。その内容を聞いて、覇気のない茫洋とした顔に戸惑いが浮かんだ。
「……は? 作戦変更?」
「そうだ。追撃部隊の長にいますぐ命じろ。ヒューマノイドを始末してはならない。必ず生け捕りにするように、とな」
「はあ……」
どうにも腑に落ちない様子でマヌケな相槌を打つハロネンに、ケネスはかまわず命令を追加した。
「それから、部隊に所属する隊員の中に、ジャック・カーペンターという男がいるはずだ。部隊長のスミスには内密で、その男と渡りをつけろ。個別に極秘の任務を与えたい」
さらに当惑の表情を見せたハロネンだったが、余計な詮索をすれば、気むずかし屋の上司が瞬時に機嫌を損ねることは目に見えている。命ぜられた内容のみを忠実に遂行するため、気苦労の多い秘書官は早々に長官室からしりぞいていった。
残されたケネスの視線が、ふたたび執務卓上の映像を見据える。
危うく、取り返しのつかないミスを犯すところだった。
ケネスは内心で独りごちた。
データさえ入手できればどうとでもなるなど、とんでもない。あのヒューマノイドが機能しなくなったその時点で、計画は間違いなく、すべてが水の泡となる。ユリウス・グライナーが関係している以上、そのように設定されていることは疑いなかった。
ユリウス、どこまでもいまいましい。死してなお我が眼前に立ちはだかり、邪魔立てをしようとは。だが、見ているがいい。
ケネスはその口許に、邪悪な笑みを閃かせた。
おまえの存在をこのタイミングで把握したからには、運命は私にこそ味方したも同然。賢しらな企てなど、この手で握りつぶしてくれる。おまえ亡きいまこそ、すべてを手中におさめるのだ。
王家の秘密を握る『鍵』を手にしたその瞬間に、世界は我が物となる。
ユリウス、おまえは地獄の底で己の無力を呪い、うちひしがれるがいい――
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