セイクリッド・レガリア~熱砂の王国~

西崎 仁

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第7章 追憶

第2話(1)

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 本契約が結ばれて以降、科学開発技術省側でもなんらかの対策を講じるようになったのか、追撃の頻度が落ちて、移動がしやすくなっていた。だが、ここに来てさらに、追っ手の攻撃のしかたに変化があらわれはじめていた。戦いの場に身を置いてきたシリルなればこそ肌で感じる、微妙な変化だったといえる。

「なにか、気になることでも?」

 静かに問われて、シリルは目の前の麗人に目を向けた。

「ああ、いや。たいしたことじゃない」

 応えて、手もとの作業をつづける。
 キュプロスを出て3週間半。王都までの全行程の、3分の2ほどを消化したあたりまで来ていた。追っ手の出かたを見ながら流動的に向かう先を定めていることと、急ぐ必要はないという依頼者側の意向もあり、ここ最近は比較的のんびりとした旅程となっていた。

 これまでの総移動距離はおよそ1万5000キロ。キュプロスから王都まで、直線にして1万7000キロの距離も、陸路を使ってさまざまな地形を勘案し、追っ手の目を眩ましながら移動するともなれば、やむを得ないロスである。むしろトータルで考えれば、3週間半でこれだけの距離を稼いでいるのは上出来の部類に入るといえた。
 残り3分の1。追撃部隊はもちろんのこと、ラーザの存在がもっとも気掛かりなところではあったが、シリルはその件には触れず、別のことを口にした。

「ここに来て、また野宿に付き合わせる羽目になって悪かったな」

 岩場の多い丘陵地帯の一角を野営地に定めたシリルは、組み立てたテントの中で傷の手当てをしながら旅のパートナーにあらためて謝罪した。負傷した当初に比べ、火傷を負った傷口はだいぶきれいになり、保護シートを貼る面積も順調に小さくなっている。王都に着くころには、皮膚再生の塗り薬のみで落ち着くようになるだろう。だが、傷が完全に癒えたとしても、痛ましい火傷の痕ははっきりと残りそうで、長時間放置したことがいまさらながら悔やまれた。

「私なら大丈夫です」
 思ったタイミングで返された答えは、野宿についてのものだった。

「ホテルの一室でも外でも、あなたが傍にいてくださることに変わりはありませんから」

 全幅の信頼をおいての迷いのない言葉に多少の面映おもはゆさをおぼえつつ、シリルはからかいまじりに片眉を上下させた。

「そうは言っても、おまえ、テント苦手だろ」
「そんなことはありません。今日は風が吹いていないので大丈夫です」
 思いのほか強い口調で返してから、後半が余計だったことに気がついて美貌のヒューマノイドは口を引き結んだ。途端にシリルは吹き出した。それを見たリュークの口許が、さらに強く結ばれる。それから不満げにシリルを見た。

「最近のあなたは意地悪です」

 リュークなりの精一杯の抗議を向けられて、シリルはなおも笑いながら謝罪の言葉を口にした。
「いや、悪い。だんだん反応が素直になってきたんで、ついな」
「私の受け答えかたに問題があるということでしょうか?」
「違う違う。そういうことじゃない」
 真面目に考えすぎるヒューマノイドに、シリルは即座に訂正を入れた。
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