1 / 55
プロローグ
しおりを挟む
絶望とは、こういうことを言うのだろうか。
黒のネクタイを締め直した俺は、葬儀場の入り口で立ち尽くしていた。
このまま会場に入ってもいいのだろうか。
正直、怖かった。
なぜなら……。
勇気を振り絞り、葬儀会場へと足を進める。
参列側の席に座り、周りを見る。
冷たく重い視線が俺に向けられている。
極言すれば、ミナエを殺したのは俺なのだ。
あのとき、俺がミナエを呼び出さなければ、ミナエは死なずに済んだのだ。
お経が終わり、俺が焼香台に向かったとき、遺族側に座るミナエの母親が声を上げて泣き始めた。
あんたのせいで、こうなったのよ。
そんな言葉を投げかけられているかのように思えた。
母親の泣き声が響く異様な空間で、俺はなんとか焼香を済ませ、亡くなったミナエに向けて手を合わす。
あの日、ファミレスのバイトを首になった俺を励ましてくれたミナエは……。
俺の住むアパートから自宅へ戻る途中、交通事故に遭い死んでしまった。
まだ、二十三歳だというのに。
もし俺が、ミナエに会いたいなんて言わなければ、彼女は今も元気な姿を見せていたはずだ。
死のきっかけを作ってしまった人間が、この場に居続ける訳にはいかない。そう思った俺は、出棺を待たずに葬儀会場を後にした。
そう、最後の見送りもせずに、俺は一人、自分の住むアパートの部屋へと戻ったのだ。
俺なんか、何の価値もない人間だ。
調理師学校を出たのはいいが、どこも俺を正社員で雇ってくれるところなどなかった。結局フリーターとなり、ファミレスで働くことになったはいいが、そこも人員整理で簡単に首になってしまう。
仕事もない俺が、どうやってミナエを幸せにできるというのか。
仕事もない俺が、ミナエと家庭を持つなど、夢のまた夢でしかない。
そんな、八方塞がりでどうしようもない俺を、ミナエは笑ってこう言ってくれた。
「大丈夫よ。あきらめなければ何とかなるわよ」
そして、その言葉を残して、ミナエはあの世に行ってしまった。
葬儀場を後にし、アパートの部屋に入ると、俺はずぐにテレビの電源を入れた。
すでに繋いであるゲーム機の電源も入れる。
このゲーム、もう何度やったことだろうか。
シミュレーションRPG『ハッピーロード』だ。
何度もこのゲームを繰り返すには訳がある。
ハッピーロードは、勇者が魔王を倒して終わる、まあ普通といえば普通のシミュレーションRPGだった。
しかし、一つだけ普通ではないところがあった。
というのは、このゲーム、いつもヒロインのローラ姫がゲームの終盤に亡くなってしまうのだ。
何回繰り返しても、ローラ姫が死んでしまう。そして、その死を受けて勇者アークが覚醒し、魔王を倒すというパターンなのだ。
そんな変わった終わり方をするゲームなので、ゲーマーの間では伝説に近い言い伝えができあがってしまった。
ハッピーロードには、ローラ姫が死なないエンディングのシナリオが隠されているはずだ、と。
そのため、日本中、いや世界中のゲーマーたちが、ローラ姫の死なないエンディングを求め、何度もこのゲームを繰り返すようになる。
しかし、ネットを見渡す限り、今現在に至って、ローラ姫が死ぬことなくゲームをクリアした人物は現れていない。
もちろん俺も、クリアできていない中の一人である。
葬式の後に、すぐさまゲームをするだなんて、今更ながらに情けない。
ほんと、俺は何の価値もない人間だ。
そう思いながら、ゲームを始めようとしたときだった。
この数日、ほとんど寝ていないからだろうか、俺はゲームの電源をいれたまま、自分の意識が薄れていくのを感じていた。
黒のネクタイを締め直した俺は、葬儀場の入り口で立ち尽くしていた。
このまま会場に入ってもいいのだろうか。
正直、怖かった。
なぜなら……。
勇気を振り絞り、葬儀会場へと足を進める。
参列側の席に座り、周りを見る。
冷たく重い視線が俺に向けられている。
極言すれば、ミナエを殺したのは俺なのだ。
あのとき、俺がミナエを呼び出さなければ、ミナエは死なずに済んだのだ。
お経が終わり、俺が焼香台に向かったとき、遺族側に座るミナエの母親が声を上げて泣き始めた。
あんたのせいで、こうなったのよ。
そんな言葉を投げかけられているかのように思えた。
母親の泣き声が響く異様な空間で、俺はなんとか焼香を済ませ、亡くなったミナエに向けて手を合わす。
あの日、ファミレスのバイトを首になった俺を励ましてくれたミナエは……。
俺の住むアパートから自宅へ戻る途中、交通事故に遭い死んでしまった。
まだ、二十三歳だというのに。
もし俺が、ミナエに会いたいなんて言わなければ、彼女は今も元気な姿を見せていたはずだ。
死のきっかけを作ってしまった人間が、この場に居続ける訳にはいかない。そう思った俺は、出棺を待たずに葬儀会場を後にした。
そう、最後の見送りもせずに、俺は一人、自分の住むアパートの部屋へと戻ったのだ。
俺なんか、何の価値もない人間だ。
調理師学校を出たのはいいが、どこも俺を正社員で雇ってくれるところなどなかった。結局フリーターとなり、ファミレスで働くことになったはいいが、そこも人員整理で簡単に首になってしまう。
仕事もない俺が、どうやってミナエを幸せにできるというのか。
仕事もない俺が、ミナエと家庭を持つなど、夢のまた夢でしかない。
そんな、八方塞がりでどうしようもない俺を、ミナエは笑ってこう言ってくれた。
「大丈夫よ。あきらめなければ何とかなるわよ」
そして、その言葉を残して、ミナエはあの世に行ってしまった。
葬儀場を後にし、アパートの部屋に入ると、俺はずぐにテレビの電源を入れた。
すでに繋いであるゲーム機の電源も入れる。
このゲーム、もう何度やったことだろうか。
シミュレーションRPG『ハッピーロード』だ。
何度もこのゲームを繰り返すには訳がある。
ハッピーロードは、勇者が魔王を倒して終わる、まあ普通といえば普通のシミュレーションRPGだった。
しかし、一つだけ普通ではないところがあった。
というのは、このゲーム、いつもヒロインのローラ姫がゲームの終盤に亡くなってしまうのだ。
何回繰り返しても、ローラ姫が死んでしまう。そして、その死を受けて勇者アークが覚醒し、魔王を倒すというパターンなのだ。
そんな変わった終わり方をするゲームなので、ゲーマーの間では伝説に近い言い伝えができあがってしまった。
ハッピーロードには、ローラ姫が死なないエンディングのシナリオが隠されているはずだ、と。
そのため、日本中、いや世界中のゲーマーたちが、ローラ姫の死なないエンディングを求め、何度もこのゲームを繰り返すようになる。
しかし、ネットを見渡す限り、今現在に至って、ローラ姫が死ぬことなくゲームをクリアした人物は現れていない。
もちろん俺も、クリアできていない中の一人である。
葬式の後に、すぐさまゲームをするだなんて、今更ながらに情けない。
ほんと、俺は何の価値もない人間だ。
そう思いながら、ゲームを始めようとしたときだった。
この数日、ほとんど寝ていないからだろうか、俺はゲームの電源をいれたまま、自分の意識が薄れていくのを感じていた。
5
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる