スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

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第二章 レッドドラゴンの角

第17話 ブルカイトの秘密

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「どうやらマルコスさんも選ばれた剣士の一人なんだね」
 砕かれ粉々になった岩の前でブルカイトはつぶやいた。

 僕はまだ信じられない。
 攻撃力3しかない僕が、一太刀で強固な岩盤を砕いてしまうなんて。

「いいよ。その剣、貸してあげるよ」
 ブルカイトは簡単に言った。

「えっ?」

「オリハルコンの剣、マルコスさんに貸してあげる」

「いいんですか!」

「うん、そのかわり、ちゃんと返してね」

「もちろんです」

「まあ、マルコスさんが私の剣を持ち逃げするような人には見えないから、そこは心配してないんだけど、正直ちょっと不安なことがあるんだよね」

「不安なこと?」

「ええ、いくらオリハルコンの剣に選ばれし剣士だとしても、レッドドラゴンを相手に簡単に勝てるとは思えないんだ」

「……」

「もし、仮にマルコスさんがレッドドラゴンに負けたらその剣は戻ってこないよね。そこだけが正直心配なんだよね」

 そうだった。
 レッドドラゴンはランキング1位のブルカイトでも手が出せないモンスターだ。298位の僕なんかが敵う相手ではないのかも……。
 でも。
 僕の頭の中にマチルダさんの顔が浮かんできた。
 マチルダさんは苦しそうに顔を歪めている。
 彼女を自由の身にしてあげないと。
 でも、そうなのだ。
 最強モンスターと言われているレッドドラゴンを相手にして、僕が無事に帰ってこられる保証なんてどこにもないんだ。
 死んでしまうかもしれない。
 簡単に言うとそういうことだ。

「いいよ」
 ブルカイトは僕の心を見越したように言った。
「その代わり、その戦いに僕も参加させてよ」

「ブルカイトさんも参加?」

「そう、一緒に連れて行ってよ。なんだか面白そうだし。駄目かい?」

「そんな、駄目だなんて。ランキング1位のブルカイトさんが付いてきてくれるなら、これほど心強いことはありません」

「そうかい、じゃあ決まりね」

「でも、剣は? 僕がこの剣を借りたら、ブルカイトさんの剣がなくなりますが」

「それなら大丈夫。名剣は他にもあるし。オリハルコンほどじゃないけど、良い剣を持ってるから」

「そうなんですか」
 そう返事をした時、僕はあれっと思った。
 ある物が気になったのだ。
 ブルカイトが履いているクツ……。
 どこかで見たような……。

「そのクツ、ブルカイトさんが今はいているクツ、ミルヴァさんと全く同じものですね?」

「ええ?」
 ブルカイトがあわてた顔をした。

「僕をブルカイトさんに引き合わせてくれたミルヴァさんと同じクツをはいているのですね」

「そ、そうかい? 単なる偶然だよ」

 偶然?
 僕は思った。
 女性であるミルヴァさんとブルカイトが同じクツをはくなんて。
 そう言えばこのくつ、女性物のようなデザインだ。クツに赤いラインが入っている。

「さあ、冒険の準備を始めよう」
 ブルカイトはミルヴァさんの話題を避けるように言った。
「私の家で作戦会議をはじめよう。さあ、行こう」
 そう言うとブルカイトはさっさと歩き始めた。何かから逃げるような感じだ。

 僕はブルカイトを追いかけ、二人っきりになったところで改めて聞いた。

「もしかして……」
 よく見ればそうなのだ。
 背格好といい、体のラインの細さといい、僕の勘は多分当たっている……。

「もしかして」
 僕はブルカイトに聞く。
「ブルカイトさんって、ミルヴァさんと同一人物なのですか」

「ええ?」
 さっきと同じ、ブルカイトがあわてた表情をしている。

「同一人物ですよね」

「……」

 しばらく黙っていたブルカイトだったが、
ついには観念した顔でこう言った。

「バレちゃったかな。クツを履き替える時間を惜しんだのがいけなかったのね」

 ブルカイトの口から出てきた声は、今までとは違う女性のものだった。
 間違いない。
 その声は、ミルヴァさんの声だった。

「ど、どういうことなんですか? ブルカイトさんって女装が趣味なんですか?」
 僕はミルヴァさんの声になったブルカイトに聞いた。

「女装? うーん、そんな趣味はないんだけど、なんと説明したらいいのかな」

 もしかして。

「そもそもブルカイトさんて、男なのですか? それとも女なのですか?」

「どっちだと思う?」

「男ですよね。ランキング1位の冒険者ですから」

「それが……、実は女なのよね」

「ええ!」
 僕は思わず声が大きくなった。
「この世で一番強い冒険者が、実は女だったんですか?」

「まあ、そうなのよ」

 ブルカイトが女だった……。
 その事実に、僕の頭はついていけなくなっている。
 なにか理由があるのだろうか?
 女なのに男として生きていく理由が……。

「なにか事情があるのですか? 男の格好をしなければならない」

「いろいろ理由はあるんだけどね」
 ブルカイト、いやミルヴァさんは苦笑いしている。
「ただ、今この話は止めておきましょう。時期が来たら説明しますから。今はレッドドラゴンの角をどうやって手に入れるか考えましょう」

 そうだった。
 ミルヴァさんの事情も気になるけど、今はレッドドラゴンの角に集中しなければ。
 僕には時間がないんだ。
 禁術マヤカシは、時間が経てば経つほど解けにくくなると聞いている。
 今だってマチルダさんはクローに操られた状態でいる。
 なんとしてでも、一刻も早く、愛するマチルダさんを開放してあげないと。

「レッドドラゴンの角を取る作戦なんだけど、私に一つ案があるのよ」とミルヴァさん。

「どんな作戦ですか?」

「さきほどのブルカイト軍団との戦いで、マルコスさんは驚くほどの攻撃回避能力を見せてくれたわね。あれはスキルか何かなの?」

「はい」
 僕は自分のスキル、ライトの能力を説明した。
 ただ単に、自分の体を光らせるだけだったスキルが、攻撃回避能力を身に着けたこと。
 今の所、どんな攻撃も回避していることを。

「だったら、その力を利用して、マルコスさんがレッドドラゴンの注意をひきつけておいてよ。私は、気配を消しながら、そのスキにレッドドラゴンの角を奪うから」

「気配を消すなんてこと、できるのですか? それにレッドドラゴンは恐ろしく素早い動きをすると聞いています。そんな簡単に角を奪い取れるんでしょうか?」

「私を誰だと思っているの?」
 ミルヴァさんはニコニコと笑っている。
「これでも一応、最高位の冒険者なんだけど」

 そうだった。
 これ以上の助っ人はいないんだ。
 戦闘経験のほとんどない僕と違って、ミルヴァさんは百戦錬磨の剣士だ。
 彼女の言うことに従って間違いはないはずだ。

「わかりました。僕が注意をひきつけてミルヴァさんが角を取る、その作戦で行きましょう」
 ということは、オリハルコンの剣はミルヴァさんが持つとことになる。まあ、持主はミルヴァさんなのだから、それが当然だ。

「決まりね。だったらさっそくレッドドラゴンの居場所に向かう?」

「はい。できるだけ早く角をとりたいんで」

 話が決まると、僕とミルヴァさんはレッドドラゴンの住処、ドラゴンの滝へと向かった。
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