スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

文字の大きさ
18 / 39
第二章 レッドドラゴンの角

第18話 角は持って帰れない?

しおりを挟む
 ドラゴンの滝は、多くのドラゴンが生息する非常に危険な場所だ。
 誰も好き好んでこんな恐ろしいところに足を踏み入れる冒険者などいない。
 だから、この地の情報はほとんどなにもない。

「いつ、急に凶暴なドラゴンが現れるかわからないから注意して進みましょう」
 湿った地を歩むミルヴァさんは声を潜めてそう言った。

 僕は無言でうなずく。声を出すと、ドラゴンが襲ってくるような気がしたからだ。
 しかし。
 僕の思惑は外れた。
 声を出さなくてもそいつは現れた。
 前方の空間がうずを巻くように歪んできた。

「来るよ!」
 ミルヴァさんの声。

 渦巻く空間の中心から緑の物体が飛び出してきた。

「あれは?」

「あれは、普通のドラゴンよ。レッドドラゴンではないけど強敵よ」

 いい予行演習になる。
 僕は恐怖を振り払いドラゴンと正対した。
 もうここまで来たら逃げ帰るわけにはいかなかった。
 いや、一人で来ていたら、恐怖に負けてさっさと来た道へと走り出していたかもしれない。
 けれど、僕の横にはミルヴァさんがいる。
 いくらランキング1位といっても、ミルヴァさんは女だ。
 女性を一人残して、僕一人が逃げ出すわけにはいかない。

 作戦を試すいい機会ではないか。

「ミルヴァさん、僕がドラゴンをひきつけます」

 正面に立つと、案の定ドラゴンの目は僕をとらえて赤く光りだした。

 すごい迫力だ。
 レッドドラゴンではなく、ただのドラゴンなのだが、これほどまでの殺気を放ってくるのか。

 ドラゴンの動きが急に早くなる。
 そう思った瞬間、角を立て僕に向かって突っ込んできた。

 は、早い!

 スキル『ライト』!
 心のなかでそう唱えると、僕の体が輝きはじめる。
 そして。
 一瞬にして僕の体が横へと移動し、ドラゴンの突進を回避した。
 しかし、再びドラゴンは僕に向かってくる。

『ライト』!

 僕は簡単にドラゴンの攻撃を避け続ける。

 効いている。
 ドラゴン相手でも、しっかりと『回避』している。
 これなら、単に時間稼ぎするだけなら何とかなりそうだ。

 そうこうしているうちに空に浮かぶミルヴァさんのオリハルコンの剣がドラゴンの角を叩き斬った。

「グォー」

 ドラゴンの口から地響きのようなうめき声がもれた。
 次の瞬間、口から火炎を吐き、周囲に炎を撒き散らし始める。

 その火柱をくぐり抜け、ミルヴァさんが今度はドラゴンの額を剣で叩く。

「ゴゴゴゴ」

 ドラゴンのうめき声が広がる。
 やがてドラゴンの体から蒸気が吹き出してきた。
 そのまま巨大な体が空間に溶け込むように消え去った。

「倒した! ドラゴンを倒した!」
 興奮した僕は思わず声をあげた。

 ミルヴァさんも満足そうな顔をしている。
 けれど、その顔が曇りはじめた。

「ミルヴァさん、どうしたんですか?」

「いや、今気付いたのですが、困ったことが起こっているのよ」

「何ですか?」

「角よ」

 角。
 そう言えばミルヴァさんはドラゴンの角を切り落としていた。
 でも、その角が……。

「そうなのよ。ドラゴンを倒すと、せっかく切り取った角も、ドラゴンと一緒に消えてしまったのよ」

 確かに、ドラゴンを倒し残ったのもといえば地面に転がる魔石一つだけだった。
 角の姿はどこにもなかったのだ。

 ドラゴンを倒せば、せっかく手に入れた角も消えて魔石になってしまう。

 そう言えば……。

「道具屋の店主がこんなことを言っていました。レッドドラゴンを倒さずに角を手に入れないと駄目だと」

「角を手に入れた後も、ドラゴンを倒したらいけないってことね」
 ミルヴァさんは考え込みながら言った。
「角を取ったら、逃げるしかないってことね」

「レッドドラゴンを倒すことも難しいだろうけど、倒さずに逃げることも相当困難な気がしますね」

「そうね。でもやるしかないわ。ここまで来て何もせずに帰るわけにはいかないし」

 僕たちは湿地をさらに奥へと進んだ。
 暗く重たい雲が空を覆っていた。

 途中、オークやオーガが襲ってきたが、ランキング1位のミルヴァさんは、楽々とそのモンスターたちを片付けていく。
 けれど、肝心のドラゴンは現れなかった。結局、角を取る予行演習はできずじまいだった。

「そろそろドラゴンの滝に着くわ」
 そんなミルヴァさんの奥から、滝の音が聞こえてくる。

 ついにレッドドラゴンと対峙する時が来た。
 そう思うと、さっきまでの勇ましい気持ちはすっかりと消え失せ、足が震えてきた。
 僕はこのまま、この地で死んでしまうのではないだろうか。
 不吉な未来が次々と浮かんでくる。
 だいたい、史上最強といわれるレッドドラゴンの角を取るなんて、無謀すぎるに決まっている。
 もう、このままさっさと逃げ帰ったほうがいいのでは。

 僕の足が止まった。
 怖くて前に進めない。

「どうしたの?」
 ミルヴァさんが振り向いて言う。
「まだ何も悪いことは起こってないわよ。きっとラッキーなことが起こって、無事に角を取ることができると思うよ」

 ラッキーなことが起こる?
 なんて楽天的な言葉。
 やっぱりランキング1位の人の思考はどこか違う。

 でも。
 ミルヴァさんが言うように、まだ何も悪いことは起こっていない。
 それなのに僕ときたら。
 悪い未来ばかり予想してしまっている。

 大丈夫、きっとラッキーなことが起こるはず。

 僕はそんな言葉をつぶやきはじめた。

 マチルダさんの禁術を解く。
 そのためには、レッドドラゴンの角が必要なんだ。
 やってやる。
 僕にはスキル『ライト』がある。
 どんな攻撃でも避けることができるんだ。
 こんな、神様から与えられたとんでもないスキルを活用しなくてどうするんだ。

「行きましょう!」
 僕は自分を奮い立たせながら、止まった足を前に進めはじめた。

 やがて僕たちの前に巨大な滝が現れた。
 水が落下する音。霧のように細かい水の粒が周囲に拡散している。

「さあ、着いたわね」
 ミルヴァさんが声をあげた。
 その声からは、恐怖のかけらも感じられない。
 やはりランキング1位の人は違う。
 きっといろんな修羅場をくぐり抜けてきたんだろうな。
 そう感心しながら僕はミルヴァさんの横に立っていた。

 すると流れる水の向こうから赤く輝く2つの光が現れた。

「今度は間違いなく、レッドドラゴンの目にちがいないわ。さあ、作戦通りにいくわよ」

 ミルヴァさんの言葉で僕も覚悟を決めた。
 やってやる。
 きっとラッキーなことが起こるはずだ。
 僕は頭の中でそう唱え続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

ドラゴネット興隆記

椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。 ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...