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第四章 魔王討伐とマチルダさん
第31話 クローがマチルダさんを……
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(クローside)
俺は、コーリーに連れられ、魔王城へと足を踏み入れた。
暗く不気味な廊下を抜けると大広間があり、そこに目的のお方がおられた。
「貴様がクローか」
黒い羽を持つ大柄な男が俺をにらみつけている。
もうそれだけで、俺の体は恐怖で震えてしまっていた。
圧倒的な存在だ。近くにいるだけで、体の芯から震えが生じてくる。
「はい、私がクローです。この度は魔王様にお目にかかれたことを光栄に存じます」
「そう堅苦しくなるな」
魔王ザットはそう言うと、声の調子を弱めた。
「ところで、クロー、お前は私に勇者の情報を持ってきたと聞いておる。さっそくだが、それを聞かせてくれないか」
俺は声を震わしながら、マルコスのことを話した。
どんな攻撃をも避けるスキルを持ち、選ばれたものしか扱えないオリハルコンの剣を所持していること、レッドドラゴンから簡単に角を取ってきたこと、多くの冒険者がマルコスのことを勇者になる男だと評していることなど。
それを聞いたザットが声をうならせる。
「なんだと、あの最強モンスターであるレッドドラゴンを角を取ってきたのか!」
隣りにいるコーリーも声をあげる。
「レッドドラゴンは、ザット様でも一目置いているモンスター。そのためドラゴンの人質まで取って警戒している相手なのに、そのレッドドラゴンの角を簡単に……。信じられません」
「魔王様、このままでは憎きマルコスは本当に勇者になってしまうかもしれません。そうならないうちに、魔王様の手でマルコスを葬ってほしいのです」
「確かに、レッドドラゴンの角を取ってくる冒険者など、見過ごしておく訳にはいかないな。ただ、話を聞く限りもうすでにかなりの力を持っているのではないか」
コーリーもうなずく。
「はい。オリハルコンの剣と攻撃を必ず回避できるスキル、ザット様と言えどもかなり手強い相手かもしれません」
「おい、クロー、そのマルコスという冒険者に何か弱点はないのか?」
弱点……。
俺は考えた。
マルコスに弱点……。
腹立たしいが、今のあの男に、弱点と言えるものがあるのだろうか?
こちらがどんな素早い連続攻撃を仕掛けても、やすやすとそれを回避してしまう。また、噂では、そのスキルはどんどんと進化していき、ますます手に負えないものとなっているらしいし。
あの男の弱点……。
憎きマルコスの弱点はなんだ?
俺は頭の中で繰り返す。
するとある人物が頭の中に浮かんできた。
そうだ、マルコスに弱点があった。
間違いない、これならあいつは魔王様に手出しなどできなくなる。
それに、俺様をコケにしたもう一人も一緒に葬れるというものだ。
「魔王様、ありました。マルコスには大きな弱点がありました」
「ほう、言ってみろ」
「はい、マルコスの弱点は……」
俺は大きく息を吸って続けた。
「マルコスの弱点は、マチルダです」
「マチルダ?」
「はい、マルコスが好きで好きで仕方のない女です。もしその女を人質にとれば、マルコスなど簡単に捻り潰すことができます」
「そうか、そんな女がいるんだな」
魔王ザットは不気味な笑みを浮かべたのだった。
※ ※ ※
マチルダさんが僕の母に会った。
しかも、マチルダさんから会いたいと言ってきた。
病気の母の話し相手になろうとしてくれたなんて。
やっぱりマチルダさんは優しい人なんだ。
僕はあらためて実感していた。
あのときの、母と一緒に料理をしていた時のマチルダさんの笑顔が頭から離れない。
そして、僕の頭の中にある二文字が浮かびはじめた。
結婚。
そう、僕はお付き合いを通り越して、マチルダさんと結婚したくてたまらなくなっていた。
でも、マチルダさん、完璧な女性だもんな。
僕みたいな欠点だらけの人間とはどう考えても結婚なんて……。
いや、そういえばマチルダさんにも欠点はあったな。
マチルダさんの欠点は……。
マチルダさんの欠点は、男を見る目がないこと。
あの、女たらしのポールのことが好きだなんて、どうかしているよ。
そうだ。
僕はある事実に気がついた。
マチルダさんの禁術は無事に解けたので、もうクローのことは何とも思っていないはずだが、ギルドの荷物運びをしているポールのことはどうなんだろう。
もともとマチルダさんは禁術とは関係なくポールのことが好きだったんだから、おそらく今でもポールに対して気があるに違いない。
ポールなんて、優しいふりをしてギルド女性に近づき、片っ端から手を出しているような男だ。
そんな男にマチルダさんを渡すわけにはいかない。
でも、渡すわけにはいかないというが……。
二人ともギルドで働いているのだから、僕なんかよりポールはずっとマチルダさんの近くにいるんだ。
マチルダさんとポールとの距離は、僕なんかよりずっと近いんだ。
なんとかしなければ。
僕はとりあえず冒険者ギルドに足を向けた。
毎日ギルドに通って、マチルダさんに笑顔で挨拶をしよう。
まずはそこからのスタートだ。
僕は間違っていた。
マチルダさんの言葉を真に受けて、マチルダさんは強い男が好きだと思っていた。
なので僕は強い男を装って、今まではマチルダさんに会っても、顔を引き締めほとんど笑うことなく鋼の男を演じていたんだけど、それでは駄目だったんだ。
だって、マチルダさんは、本当はポールのようなニコニコしている男が好きなんだから。
毎日、ギルドに通って、マチルダさん笑顔で挨拶することで、僕の優しさをアピールしなくてはならない。そこからのスタートだ。
そして、いつか、僕はマチルダさんにプロポーズするんだ……。
行きなれたギルドに到着すると、僕は深呼吸をして自分の顔を笑顔いっぱいにしてみた。
そして、入り口の扉を開けた。
「おはよう、マチルダさん!」
明るい声でカウンターに向かい挨拶をした。
けれど、カウンターには誰もいなかった。
そして、ギルドの室内がやけに騒がしいことになっている。
「おお、マルコス、大変だ!」
一人の冒険者が、僕に駆け寄ってきた。
「どうしたのですか?」
「マチルダが、マチルダが……」
「マチルダさんがどうかしたのですか?」
「マチルダが、クローに連れ去られた!」
聞き間違いではなかった。
その冒険者は、間違いなくそう言ったのだった。
俺は、コーリーに連れられ、魔王城へと足を踏み入れた。
暗く不気味な廊下を抜けると大広間があり、そこに目的のお方がおられた。
「貴様がクローか」
黒い羽を持つ大柄な男が俺をにらみつけている。
もうそれだけで、俺の体は恐怖で震えてしまっていた。
圧倒的な存在だ。近くにいるだけで、体の芯から震えが生じてくる。
「はい、私がクローです。この度は魔王様にお目にかかれたことを光栄に存じます」
「そう堅苦しくなるな」
魔王ザットはそう言うと、声の調子を弱めた。
「ところで、クロー、お前は私に勇者の情報を持ってきたと聞いておる。さっそくだが、それを聞かせてくれないか」
俺は声を震わしながら、マルコスのことを話した。
どんな攻撃をも避けるスキルを持ち、選ばれたものしか扱えないオリハルコンの剣を所持していること、レッドドラゴンから簡単に角を取ってきたこと、多くの冒険者がマルコスのことを勇者になる男だと評していることなど。
それを聞いたザットが声をうならせる。
「なんだと、あの最強モンスターであるレッドドラゴンを角を取ってきたのか!」
隣りにいるコーリーも声をあげる。
「レッドドラゴンは、ザット様でも一目置いているモンスター。そのためドラゴンの人質まで取って警戒している相手なのに、そのレッドドラゴンの角を簡単に……。信じられません」
「魔王様、このままでは憎きマルコスは本当に勇者になってしまうかもしれません。そうならないうちに、魔王様の手でマルコスを葬ってほしいのです」
「確かに、レッドドラゴンの角を取ってくる冒険者など、見過ごしておく訳にはいかないな。ただ、話を聞く限りもうすでにかなりの力を持っているのではないか」
コーリーもうなずく。
「はい。オリハルコンの剣と攻撃を必ず回避できるスキル、ザット様と言えどもかなり手強い相手かもしれません」
「おい、クロー、そのマルコスという冒険者に何か弱点はないのか?」
弱点……。
俺は考えた。
マルコスに弱点……。
腹立たしいが、今のあの男に、弱点と言えるものがあるのだろうか?
こちらがどんな素早い連続攻撃を仕掛けても、やすやすとそれを回避してしまう。また、噂では、そのスキルはどんどんと進化していき、ますます手に負えないものとなっているらしいし。
あの男の弱点……。
憎きマルコスの弱点はなんだ?
俺は頭の中で繰り返す。
するとある人物が頭の中に浮かんできた。
そうだ、マルコスに弱点があった。
間違いない、これならあいつは魔王様に手出しなどできなくなる。
それに、俺様をコケにしたもう一人も一緒に葬れるというものだ。
「魔王様、ありました。マルコスには大きな弱点がありました」
「ほう、言ってみろ」
「はい、マルコスの弱点は……」
俺は大きく息を吸って続けた。
「マルコスの弱点は、マチルダです」
「マチルダ?」
「はい、マルコスが好きで好きで仕方のない女です。もしその女を人質にとれば、マルコスなど簡単に捻り潰すことができます」
「そうか、そんな女がいるんだな」
魔王ザットは不気味な笑みを浮かべたのだった。
※ ※ ※
マチルダさんが僕の母に会った。
しかも、マチルダさんから会いたいと言ってきた。
病気の母の話し相手になろうとしてくれたなんて。
やっぱりマチルダさんは優しい人なんだ。
僕はあらためて実感していた。
あのときの、母と一緒に料理をしていた時のマチルダさんの笑顔が頭から離れない。
そして、僕の頭の中にある二文字が浮かびはじめた。
結婚。
そう、僕はお付き合いを通り越して、マチルダさんと結婚したくてたまらなくなっていた。
でも、マチルダさん、完璧な女性だもんな。
僕みたいな欠点だらけの人間とはどう考えても結婚なんて……。
いや、そういえばマチルダさんにも欠点はあったな。
マチルダさんの欠点は……。
マチルダさんの欠点は、男を見る目がないこと。
あの、女たらしのポールのことが好きだなんて、どうかしているよ。
そうだ。
僕はある事実に気がついた。
マチルダさんの禁術は無事に解けたので、もうクローのことは何とも思っていないはずだが、ギルドの荷物運びをしているポールのことはどうなんだろう。
もともとマチルダさんは禁術とは関係なくポールのことが好きだったんだから、おそらく今でもポールに対して気があるに違いない。
ポールなんて、優しいふりをしてギルド女性に近づき、片っ端から手を出しているような男だ。
そんな男にマチルダさんを渡すわけにはいかない。
でも、渡すわけにはいかないというが……。
二人ともギルドで働いているのだから、僕なんかよりポールはずっとマチルダさんの近くにいるんだ。
マチルダさんとポールとの距離は、僕なんかよりずっと近いんだ。
なんとかしなければ。
僕はとりあえず冒険者ギルドに足を向けた。
毎日ギルドに通って、マチルダさんに笑顔で挨拶をしよう。
まずはそこからのスタートだ。
僕は間違っていた。
マチルダさんの言葉を真に受けて、マチルダさんは強い男が好きだと思っていた。
なので僕は強い男を装って、今まではマチルダさんに会っても、顔を引き締めほとんど笑うことなく鋼の男を演じていたんだけど、それでは駄目だったんだ。
だって、マチルダさんは、本当はポールのようなニコニコしている男が好きなんだから。
毎日、ギルドに通って、マチルダさん笑顔で挨拶することで、僕の優しさをアピールしなくてはならない。そこからのスタートだ。
そして、いつか、僕はマチルダさんにプロポーズするんだ……。
行きなれたギルドに到着すると、僕は深呼吸をして自分の顔を笑顔いっぱいにしてみた。
そして、入り口の扉を開けた。
「おはよう、マチルダさん!」
明るい声でカウンターに向かい挨拶をした。
けれど、カウンターには誰もいなかった。
そして、ギルドの室内がやけに騒がしいことになっている。
「おお、マルコス、大変だ!」
一人の冒険者が、僕に駆け寄ってきた。
「どうしたのですか?」
「マチルダが、マチルダが……」
「マチルダさんがどうかしたのですか?」
「マチルダが、クローに連れ去られた!」
聞き間違いではなかった。
その冒険者は、間違いなくそう言ったのだった。
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