スライム倒し人生変わりました〜役立たずスキル無双しています〜

たけのこ

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第四章 魔王討伐とマチルダさん

第32話 魔界からの使者

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 どういうことだ!
 クローには、もう二度とマチルダさんと会わぬように約束させたはずだった。
 そのクローが、マチルダさんを連れ去った……。

 あの野郎!
 こんなことをして、タダで済むと思っているのか?
 あたり前のことだが、人を連れ去ることは犯罪行為だ。当然罰せられることになる。
 クローはそれを承知でマチルダさんを連れ去ったというのか?
 だったら……。
 やつは、まさか、決死の覚悟でこんなことをしているんじゃないだろうな……。

 とりあえずは、一刻も早くクローを探し出してマチルダさんを助け出さなければ。
 しかし、どこに行けばいいんだ?
 クローがマチルダさんを連れ去る場所など、皆目検討もつかない。

 まずは、クローが住んでいる家に向かうことにした。

 冒険者ギルドを急いで出た僕は、クローの住むノースきっての高級住宅が並ぶスリーウェイ地区に向かった。
 クローは、この街ではいわゆる成功者の部類に属していた。
 冒険者としてはAランクパーティーを率いて多くのダンジョンを攻略している。僕と違って、金なら余るほど持っている男だ。
 その暮らしを捨ててでも、クローはマチルダさんを連れ去り、犯罪人の道を歩むというのか。
 危険だ。今のやつの行動は常軌を逸している。

「クロー!」
 僕はやつの住む高級住宅の前で声をあげた。
「クロー! いるんだろ! 出てこい!」

 しかし、僕の声はむなしく響くだけで、家からは誰も現れる様子はない。

 もうここにはいないのか。

 そう思っていた時だった。
 僕の前の空間が急にゆがみはじめた。

 な、なんだ?

 ゆがんだ空間から一人の男が姿を現した。黒ずくめの服で、背中には羽が生えている。
 間違いない、魔族の男だ。

「お、お前は誰だ!」
 僕は、なけなしの勇気をふりしぼり声を出す。一般的に、魔族は人間よりも強い種族と言われている。

「私は魔王ザット様の第一部下であるコーリーという者だ」

「魔王ザットの部下?」

「そうだ。さっそくだがマルコス、お前に見せたいものがある」
 コーリーはそう言うと、衣服の間から水晶玉を取り出した。
「さあ、これを見てみろ」

 水晶玉が怪しく光り、その中にある光景が浮かんできた。

 これは!

 絶望的な思いが、波のように押し寄せてきた。

 僕が覗く水晶玉の中には、ある人物の姿が映っていた。

 間違いない。

 そこに映っているのはマチルダさんだった。

 いつもは明るく輝いた笑顔を振りまくマチルダさんだったが、水晶玉に映る彼女の表情はまったく違うものだった。

 そこに映るマチルダさんの表情は、苦痛でゆがんでいた。

「どういうことだ! マチルダさんに何をした!」

「人間が生きるには適していない世界に閉じ込めているだけだ」
 コーリーは続けた。
「この女を助けたければ、魔王山に行き、魔王ザット様に彼女の開放をお願いするがいい」

「……」

「しかし」
 コーリーは目を光らせ言った。
「わざわざ、魔王山に行くまでもないな」

「どういうことだ?」

「お前と会って、考えが変わった。お前のような低レベル冒険者、わざわざザット様が手をわずらわす必要などない。ここで私がお前の息の根を止めてやる」
 コーリーはそう言うと、人差し指を天に向け何やら呪文を唱えはじめた。

  ※ ※ ※

(コーリーside)

 マルコスと会ったコーリーは、こう思った。
 なんと低レベルな冒険者だ。
 ステイタスを見ると、レベル4しかない。しかも攻撃力は10で、魔力に至っては0と出ている。
 信じられなかった。
 こんな低レベルな冒険者が勇者候補だというのか?
 あのクローという男、いい加減なことを私たちに吹き込んできたのではないのか。

 こんなやつ、わざわざ魔王山までおびき出す必要などない。
 ザット様の手を煩わすまでもない。
 私がここで、この男を葬ってしまえばそれで済むことだ。

「私がお前の息の根を止めてやる」
 私はそう宣言すると、自分の人差し指を天に向けた。
 これで終わりだ。
 魔界の術式の前では、こんな低レベル冒険者など一瞬で消え去ってしまうだろう。

「エルベール、ムージアス!」
 得意の術式を唱える。
 次の瞬間、天空で雷電が轟き、一瞬にしてマルコスの立つ場所へと落下した。

 ふん、これであの男はこの世から消え去っているはずだ。

 私がそう思った瞬間。
 何?

 マルコスの体が光り、瞬きもせぬ間に体を移動させると、落下する雷電を避けたのだった。

 な、な、なんだと!

 私の術を避ける人間がいるのか?
 この、魔王様第一部下であるコーリーの秘伝魔術を簡単に避けるなんて!

 目の前で起こったことがすぐには信じられない私は、雷電降下を繰り返す。
 天から幾筋もの高圧電流が降り注いできたが、マルコスは体を輝かせながら、それらすべてを簡単に回避していく。

 やはり駄目だ。
 私の攻撃がまったく通用しない。

 やがて、マルコスはこんなことを言ってきた。

「コーリー、これ以上攻撃を続けるなら、僕はお前を斬ることになるがそれでもいいか?」
 そう言いながら、腰に備えた剣を抜いた。
 剣刃が青白く輝いている。
 見ればわかる。
 あのような輝きは、ただの剣では出せない。
 そう、あれは、単なるオリハルコンの剣ではない。
 あの剣は、世に数本しかないオリハルコンの中でも特に選ばれし者しか扱うことができない伝説の剣。
 マルコスが持つあの剣は、魔族が恐れている伝説の聖剣、オルマイザーに違いない。

 私の攻撃をいとも簡単に避け、聖剣を持つ男。
 間違いない……。
 この男は、マルコスという男は、間違いなく勇者の卵だ。
 このままでは……。
 魔界はこの男に滅ぼされてしまう。

 そんな男に、私は無謀にも挑んでしまったのか。
 マルコスの持つ青白く輝く剣刃が、私を睨むように向けられている。

 殺される。
 私など、簡単に殺られてしまう。
 それだけ、マルコスと私の間には力の差がある。
 この魔界で第二位の力を持つ私が、魔王様の第一部下の私が、恐怖で震えてしまっている。

「マルコス、お前の力は認めてやる」
 私は後退りしながらなんとかそう声を絞り出した。
「魔王山へ来い。女を救いたければ魔王山へ来るんだ。一週間の猶予をやる。その間に来なければ、女の命は無いものと思え」

 私はそれだけのことを伝えると、呪文を唱え、魔界空間へと急いで逃げ帰ったのだった。
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