強くてニューゲーム!~とある人気実況プレイヤーのVRMMO奮闘記~

邑上主水

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3巻

3-2

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 放課後DC部は、ログインを強制したり、現実世界の生活、特に学業に支障をきたすようなプレイは、どのような理由であれ禁止していた。クランが推奨すいしょうするのは、現実世界に影響を及ぼさない程度にゲームを楽しむこと。つまり、いつゲームにログインしてもいいし、いつログアウトしてもいい。ゲームの知識がなくても問題なく、気ままなゲーム生活を楽しもうというのが指針だ。

「え? なんですか? その格闘ゲームみたいな名前」

 港街クレッシェンドのハンターズギルド前広場。これから狩りに向かうプレイヤーと、狩りから戻ってきたプレイヤーとでにぎわうその場所に、ウサとエドガーたちの姿があった。

「PvPの大会。というか、ウサんとこにもメール届いているはずだろ」
「えーっと……えへへ」

 その笑顔から察するに、メール関係は全く見ていないのだろう。
 なんという適当なやつだ、とエドガーはあきれる。事細かく説明するまでもなくクランのルールを理解してくれたのはありがたいが、これほどまで適当だったとは思ってもみなかった。

「それで、その大会に参加するんですか?」
「クランを立ち上げてまもないし、皆で参加するのもいいかなって。賞金も出るみたいだし」
「え、賞金?」

 すずの口から放たれた「賞金」というフレーズに、ウサの耳がわかりやすいくらいに反応した。

「賞金ってつまり、リアルマネーがもらえる?」
「そういうことだ」
「うひょっ!」

 今度はその大きな両目がきらきらと輝き出す。

「うわあご主人、わっかりやすくお金に釣られたなあ。目が円マークになってるよ」

 ウサのコンパニオンである黒猫モモが突っ込みを入れる。

「……ッ!? な、なにを言ってられ! そんな、そんなわけあるかあ!」

 と言いつつも、あわててごしごしと目をこすりはじめるウサ。

「それで、どうだ? 参加することには賛成か?」
「もちろんデス! 皆と一緒に大会に出るってなんかこう、一体感があっていいですよね! 賞金目当てとかじゃなく参加したいです! 諭吉ゆきちさんとか関係なくです!」
「あ、そう」

 嘘くさすぎるセリフに、エドガーは冷めた視線を返す。
 だが、疑うことを知らないすずは、真に受けてしまったようだった。

「よかった! 実は、みんな参加しようって意見だったんだけど、ウサさんに聞くまで参加は保留にしてたんだ」
「まあ、聞くまでもなかった感はあるけどな」

 そんなことをぼやくアンドウに、エドガーも同意してしまう。

「ただ、私、仕事があるので頻繁ひんぱんにログインできないかもしれないけど、大丈夫ですかね?」
「もちろん。メンバーのログインを強制しないことと、現実世界を犠牲ぎせいにしない程度に楽しむのが放課後DC部のルールだから」
「ずっと思ってたんですけど、それ、すばらしいルールです!」

 ウサがエドガーに向かって小さな親指をびしっと立て、にっこりと満面の笑みをこぼす。

「ところで、さ。例のクランに入りたいってヒト、もう来てンのかね?」

 ヤマブキが口を挟んできた。きょろきょろと辺りを見渡し、どこか落ち着かない様子だ。

「なにそわそわしてんのさ、アンタ」
「新しいメンバーの加入だから、そりゃあそわそわするだろ。どんなヒトが来るのか」
「……アンタの頭の中って一回見てみたいのよね。多分、女だけでできてるんだろうけど」

 鋭い視線で斬りつけるメグだったが、ヤマブキは全く意にも介さず、まもなく現れるであろう新たな女性メンバーに想いをせているようだ。
 そんなふたりのくだらないやりとりを片耳で聞いていたエドガーも周囲を見渡した。
 五十嵐と話をする前、アランでログインしたときに、クロシエへメッセージを送っていた。そろそろティンバーから、なにかしらの返答があってもおかしくない。
 だが、辺りにはティンバーらしき姿はなかった。代わりに目に映ったのは、これから狩りに出るのか、楽しそうに会話に花を咲かせている戦士ファイターに、難しそうな表情でウインドウを眺めている聖職者クレリック。しかし、エドガーの視線がハンターズギルドの入り口にたどり着いたときだ――
 扉の陰からこそこそとこちらをのぞいている、赤いフード付きのローブを着た女性の姿が見えた。
 黒い髪に褐色かっしょくはだが、より彼女の妖艶ようえんさを際だたせている女性プレイヤー。大変怪しいデーモン種の女性ウィザード魔術師ウィザード。間違いなく、ティンバーだ。

「……先に言っておくけど、これから来るプレイヤーには、皆かなり驚くと思う」
「驚く? どゆコト?」

 メグが頭の上にクエスチョンマークを掲げながら首をかしげた。

「説明は直接彼女にさせるよ。俺から言えるのは……彼女は悪い人間じゃないってことくらいだ」

 エドガーは、あの女性に小さく手を挙げた。びくり、と身をすくめたのが遠くからでもはっきりとわかる。おっかなびっくりな雰囲気ふんいきを見る限り、彼女は意外と臆病おくびょうなのかもしれない。

「お、来たのか? 驚くってことは、有名人なのか?」
「誰誰? 誰よ?」

 期待でほおがほころぶアンドウとメグ。だが、こちらに向かってきている女性の姿に気がついたとき、その表情は一瞬で強張こわばった。

「あ、チョー可愛かわいい」

 静寂に包まれた周囲にぽつりと浮かんだのは、にやけたヤマブキの声。

「……ティ、ティンバー……です」

 気まずそうにうつむいたまま、ティンバーがかすれるような声を放つ。

「先日はとても……すまないことをした」

 そして、重苦しい空気の中、謝罪の言葉を続けた。


 しかし、場の空気は固まったままだった。予想していなかったプレイヤーの登場に、どう反応すればいいかわからないのか、メンバーたちの表情は動かない。

「あ、う、すまない」
「……え? あ、ちょ、おい!」

 目を白黒させ、来た道を引き返そうと、くるりときびすを返すティンバー。まさかそんな行動に出るとは思っていなかったエドガーは、あわてて彼女の腕を掴むのだった。


       ***


「実は、動画で君を知ったとき、俺の身体に電流が走ったんだ」
「そうか。だが私の得意魔術は炎系だ」
「これは運命だと思わないかい? 俺たちは出会うべくして出会った」
「そうだな。私もこの魔術師ウィザードという職業には出合うべくして出合ったと思う」
「障害があった方が君も燃えるはずだ」
「そのとおりだ。魔術師ウィザードがソロプレイに向いていないという話を聞いて、私の心に火がついた」

 プレイヤーたちで混み合っているハンターズギルドの一角。エドガーたちが座るテーブルから少し離れたところで、ティンバーとヤマブキが何やら話し込んでいる。
 すずとウサがKODの参加登録に向かっている時間で、ヤマブキはここぞとばかりにティンバーを口説きはじめた。だが、傍で聞いているエドガーが「一体何の話をしているんだ」と突っ込みたくなるほど、その会話は噛み合っていなかった。

「つーかさ、あいつマジで見境なく……ってやつだよな」

 エドガーと同じテーブルを囲むアンドウが、しぶい顔をしている。
 その表情のとおり、アンドウは機嫌がよろしくない。原因は、ティンバーを必死で落とそうとしているヤマブキ……ではなく、現れたティンバーの存在だった。
 回れ右をして去ろうとしたティンバーを引き止めた後、固まっていた場の空気がようやくやわらいだのは、改めてエドガーが彼女を紹介したときだった。
 その空気にようやく安堵あんどしたティンバーは、ラバスタ林地で魔術を放ってしまったことをもう一度謝罪した。
 そんなティンバーに優しい言葉を返したのは、被害者のひとりであるすずだ。
 すずは困惑しつつも、エドガーの知人ということでティンバーの加入を承諾する。だが、メンバーの中でアンドウとメグは否定的だった。

「ヤマブキの変態はどうでもいい! それよりも、なんであいつがエドの知り合いで、それもクランに入りたがってるワケさ?」
「つーかエドガー、動画見ても、知らないヤツだって言ってなかったけ?」

 じろりとにらんでくるメグとアンドウに、エドガーは頭をフル回転させて言い訳を考える。

「い、いや、すずさんに動画を見せてもらったときは……えーと、思い出せなかったんだ。知ってたときと髪型が違ったし……ほら、やめたのはだいぶ前だろ?」
「んなの、名前でわかるだろ!」
「なっ、名前を変えてたんだよ! 前に調べたときも、プレイヤー名でヒットしなかったし」

 以前、学校でティンバーの名前を検索したときにヒットしなかったのは、正体がバレないように、定期的に名前を変えているからだろう。

「彼女はレベルも高いし、プレイヤースキルもある。KODに参加するならこれ以上の援軍はないと思うぞ」

 ティンバーは確かに経験豊富な熟練者だが、彼女のステータスを見て、エドガーは驚いた。サブキャラだと言っていたティンバーのレベルが予想以上に高かったからだ。
「もうひとりの私であり、ティンバーでプレイするのは心の底から楽しい」と言っていただけあって、レベルだけでなく、スキルツリーもかなり上位まで育てていた。【炎系】上位魔術である【インフェルノ】は動画で見たが、その上位である【イグニス】まで取得しているあたり、かなりのやりこみだろう。
 それに、彼女はメンバーに必要だと思っていた後衛のアタッカーでもある。チームメンバーとしては最高のプレイヤーだ。

「……まあ、さ。本人は悪かったって反省してるみたいだし、許さないこともないけど」
「加入を承諾するのは、KODに参加するため、だかんな」

 どうやらその説明で、メグとアンドウも多少納得したようで、しぶい表情ながらも小さくうなずいた。
 クランメンバーの中で誰かしらが異を唱えるかもしれない、というのはエドガーが事前にティンバーに話していたことだった。
 プレイヤーキラーPK行為はゲームルールにのっとった行為だが、以前よっしーがおこなったリアルマネートレードRMTのような違反行為よりも、プレイヤーににくまれることがある。
 大事なクエストの途中で被害にあったり、PKによって大切なアイテムを失ったりすれば、「末代までたたるぞ」と言わんばかりに憎悪ぞうおを抱くのは当然だろう。
 未遂だったとはいえ、ティンバーがおこなったことはPK行為であることには変わりない。
 ティンバーもそのことは理解していて、「加入を承諾してくれたのなら、皆から許してもらえるよう努力する」とメッセージで語っていた。

「それで? ティンバーはエドのなんだったワケ?」

 メグが、ぽつりと切り出した。
 噴き出さなかったのは、そういった質問に慣れてきたからだろうか。ごほん、とひとつせきをはさみ、エドガーはメグを見据える。ツンとくちびるをとがらせ、「それを教えてくれたら許したげる」とでも言いたげな表情だ。

「質問の意味がわからない。彼女はただのフレンドだ」
「マジかよ」
「まっ、マジに決まってるだろ」

 逆方向から放たれたアンドウの攻撃に一瞬狼狽ろうばいしたエドガーだったが、なんとか心を平静に保つ。
 ティンバーと自分は、まぎれもなくただのフレンド。隠し事があるとすれば、彼女の正体が今現在、動画視聴ランキングトップのクロシエで、ともに雑誌の表紙を飾った仲だということだ。
 そんなこと、口が裂けても言えないが。

「ふーん。なら、そういうことにしといたげるけど、すずは気にしていると思うよ。そこんとこ」
「な、なぜだ」
「さあね。直接すずに聞いてみたらあ?」

 よこしまな笑みをこぼしつつ、メグは目の前にウインドウを表示させた。ハンターズギルドで購入できるドリンクメニューが書かれたウインドウだ。テーブルの上に【はちみつ酒】がすぐに現れた。

「それよりもエド。去年の予選突破ラインが二〇万DPだってのはわかったんだけど、それってどれくらいの数値なワケ?」

 美味おいしそうに【はちみつ酒】をあおるメグ。大会について色々と調べたと豪語していたが、そこまで調べなかったのだろうか。深く調べず、勢いで済まそうとするのは彼女らしいが。

「DPがもらえるMobの中で最弱のヤツが、確か五DPくらいだ」

 さらりと言われた答えに、メグとアンドウの表情がひきつる。

「ご、五DP!? なんだそりゃ! たった五DPを積み重ねて、二〇万DPまでいく必要があンのか!? ひとり何匹狩んだよそれ!?」
「五DPのやつでいくとすれば……ひとり六〇〇〇匹くらいだな」
「はあ!? なにそれ! 絶対無理でしょ!」

 KODの予選期間は一週間。その期間で五DPのMobを六〇〇〇匹狩るなら、ひとり一日八五〇匹程度を狩る必要がある。下校してすぐログインしたとして、プレイできるのは最大五時間ほど。単純計算だと、一〇秒で一匹倒さないと無理な数字だ。

「まあ、一匹五DPというのは最低ラインの話だけど。もっとレベルが高いMobは数十DP、ボスクラスのMobだったら一〇〇DP以上になる。それに『ボーナスMob』ってのも配置される」
「ボーナスMob……そういえば、学校でメグさんがそんなこと言ってたな。なんだっけ?」
「期間が限定されているけど、取得DPが多いMobのこと」

 メグがドヤ顔で答える。

「一週間の期間のうち、偶数日に現れるボーナスMobをうまく狩れば、二〇万はいける数字だ」
「なるほどな。そんなモンがあるなら、いけるかもしれねえな」
「まあ、あくまで『いける可能性がある』レベルだけど」

 エドガーの言葉に、再びアンドウの表情が曇った。
 これまでのKODの歴史で、優勝候補筆頭のチームが予選であっけなく姿を消した話を、エドガーはいくつも知っていた。予選ではプレイヤースキルが勝利に直結せず、大番狂わせが普通におこるからだ。ゆえに、優勝候補チームは、補欠リザーバの二名に予選突破用の廃人プレイヤーを起用することが多い。
 ちなみに毎年、予選の上位は廃人プレイヤーで構成されたチームが占めるが、彼らがの目を浴びることはない。昼夜問わずひたすらMobを狩り続けるというのはとてつもない労力なのだが、PvPのような派手さに欠けるため、公式放送で流されないのだ。

「とりあえず、すずさんたちが戻ってきたら作戦考えようぜ。無理しないレベルでやるっつっても、一〇〇位までに入りてえし」
「そだね。予選突破のマニラとアイテム欲しい」

 そう言って、メグが再びドリンクメニューを開く。
 先日のよっしー事件でまだふところが温かいはずなのに、「一杯おごってくれ」とすがりつくアンドウがメグに頭突きを食らった。そんなふたりを見て、エドガーが冷笑したとき――

「みんな! 終わったよ!」

 ハンターズギルドに、甲高かんだかい女性の声が響き渡る。
 エドガーたちのもとに、すずとお供のウサが小走りで近づいてきた。相変わらずふたりは仲がいいようで、手を繋いでこちらに向かっている。

「……お、終わった」

 エドガーの背後からどんよりと放たれたのは、魂を抜かれたかのごときヤマブキの声。死の宣告を受けたような絶望に打ちひしがれた表情に、エドガーはぎょっとしてしまった。

「な、なんだよ、どうした?」
「ガードが……固い」
「……え?」

 状況がつかめないまま、しばし呆然ぼうぜんとしてしまうエドガー。
 だが、ふとヤマブキの隣に立っていたティンバーを見て、気がついた。
 ヤマブキは、ティンバーの心の天然防壁を突破することができなかったのだ。

「みなさん、KOD受付は完了しましたデスよ! ステータス画面にKOD参加マークがついてるか確認してくださいな!」

 そう言ってウサは、とあるアイテムを皆に配りはじめた。

「なにこれ?」
「それを使えば、いつでもKODの情報が見られるんだって。予選の順位とか、参加チームとか」

 アンドウの問いに、すずが答える。

「へえ……あ、ほんとだ。参加チームにアタシらの名前がある」

 メグも嬉しそうな声で言った。
 配られたのは、小冊子タイプの【ロスター】と呼ばれるアイテムだった。
 KODの情報は、公式WEBサイトに設けられた大会専用ページで確認できるが、更新にはタイムラグがあり、生の情報は手に入らない。
 そこで、参加者がリアルタイムで情報を入手できるように用意されたのが【ロスター】だった。
【ロスター】は今後の大会スケジュール、予選の順位、参加チームやクランの情報にはじまり、周囲マップのリアルタイム表示や、自身のアイテムインベントリへのショートカットなど、大会を戦う上で便利な機能が多く備わっている

「よし、これで手続きは完了だな。スタートは明日からだ」
「うん、なんだかグランドミッションのときよりドキドキしてきた!」

 エドガーの言葉を受けて、かすかにほお紅潮こうちょうさせる、すず。
 先日のバレンタインイベントと違った本気の戦いに、エドガーも多少高ぶりを覚える。

「アンドウ、ヤマブキ、念のため言っとくけど、グランドミッションのときみたいに暴走したら、今度こそヤバいからね?」

 にこやかなすずとは対照的に、ドスの利いた声でちくりと刺すメグ。アンドウとヤマブキは言葉を発することなく、ひきつった笑みで答えた。

「とにかく! 結果うんぬんよりも大会を楽しもう!」
「楽しんだもの勝ちですからね! 大会って初めてだから、わくわくする!」
「よし。それじゃあ、明日からの計画を練ってから、狩り場を見に行こうか。ティンバーの歓迎も兼ねて」

 メグやすずの楽しそうな声を受けて、エドガーがそう提案した。

「あ、そうだね、簡単な歓迎会的な」

 良いアイデア、と柏手かしわでを打ったすず。だが、当のティンバーは困惑顔だった。

「か、歓迎会? わわ、わっ、私のか?」
「ティンバーさんのこと、いろいろ教えてください」
「そうです! 師匠とどんな関係なのか、とか!」
「え? いや、しかしだな」

 すずとウサに手を引かれ、ハンターズギルドの外へと連行されていくティンバー。見知らぬ人間ばかりという状況で、空気に慣れてもらうには、なかば強引に輪に入れてやる必要がある。だが、今ティンバーを助けに行けば、あれこれと質問攻めにあい、墓穴を掘ることになりかねない――

「お、おい、エドガー、彼女たちは一体………待て、なぜ手を振っている」

 困惑した表情のティンバーへ、別れの挨拶あいさつをするように、エドガーははらはらと手を振った。
 そして、心の中で「がんばれ」と小さくエールを送るのだった。


       ***


「さあ、いよいよ始まった『The King of Dragons』ッ! 参加チーム八〇〇オーバーの中で、栄光の王冠クロンヌを手にするのはたった一チーム、七人だけだッ! この壮絶な戦いを制するのはどのチームなのかッ!? KODの熱い戦いは今年もこの俺、アンドレアが熱い実況を交えてお届けするぜッ! Check
it outッ!」

「……なんだこりゃ」

 KOD予選一日目――
 学校から帰宅し、ゲームにログインしたエドガーの視界にでかでかと現れたのは、KOD開催を告げる短い告知映像だった。動画に現れたこのアンドレアというDJは、現実世界でも番組を持っているプロのDJだとか。だが、昨年こんな動画を見た記憶は、エドガーにはなかった。
 今回は八回目で別に記念すべき回でもない。なぜ急にこんな動画を流すようになったのか。

「聞くところによると、今回から大会スポンサーが増えたらしい。生放送にもスポンサー企業の広告が出るだろうし、視聴者数を確保するために宣伝を出したというところだろう」

 そう言ったのは、ここクレッシェンドの風景がやけに似合うティンバーだ。海沿いのさくに腰を預け、海風に漆黒しっこくの髪をさらさらとなびかせているその姿は、神々こうごうしさすら感じてしまう。

「なるほど。視聴者数がダメダメだったら、来年からスポンサーが減ってしまうからってわけか」
「運営にとっては大会も大事な『収入源』だからな」

 ティンバーによると、あの動画はKODがはじまって最初にログインしたときにだけ流れるものらしい。去年と違い、公式サイトもKOD一色になっているようで、運営の力の入れようがわかる。

「参加チーム八〇〇って、去年よりかなり増えてるな」
「【ロスター】を見る限り、特に私たちのような新手のクランが増えているようだ」
「大手クランは?」
「去年と変わらずだ。ほとんど参加している……ほら」

 ティンバーは、ほおにかかる髪を小指でかきあげると、エドガーの前に【ロスター】ウインドウを表示させた。すでに予選のランキングが更新されていて、参加チームの一覧も表示されている。

「Grave Carpentersも参加しているな」
「お前が昔所属していたクランか?」
「よく知ってるな。できれば遭遇したくないクランだな」

 彼らは、メンバー全員が動画視聴ランキングの上位にいるような、プレイヤースキルに特化したクランだ。しかも、クランマスターのクロノをはじめ、血の気が多い連中が多く所属している。Mob狩りをしている最中に出くわしてしまえば、問答無用で襲いかかってくるだろう。

「それよりも、これはなんだ」

 ティンバーが見せたのは、「フォーチュン」と書かれたチームだった。

「……? なんだそのチーム」
「それはこっちのセリフだ。お前はアランでも出場しているのか」

 思わずどきりとしてしまったエドガーだったが、ティンバーがアランの存在を知っていることに気がつき、安堵あんどする。そして、しばし記憶を辿たどった。
 推測するに、フォーチュンは五十嵐が登録したチームだろう。

「色々あってな。DICEからの要望で、KODに出場することになった」

 他のメンバーが気になり、チームメンバー一覧を見てみたが、やはり知らない名前ばかりだった。

「予選はどうするのだ?」
「予選は俺以外のメンバーで何とかすると言っていた。予選はこっちに集中する予定だ」

 自分以外の六人は、五十嵐が手配した予選突破要員だ。あっちは任せておいて大丈夫だろう。

「そういうことか。私に一位を取られてあせっているのだな。サブキャラにかまけてメインキャラをおろそかにするから、そういうことになるのだ」
「……耳が痛いよ」
「ふふ、まあ、アランが本気を出すまで、いっときの一位を堪能たんのうさせてもらうさ」

 いたずらっぽく笑っているのは、半分冗談じょうだんのつもりなのだろうか。
 だが、三位に転落したという事実を突きつけられているエドガーにとって、それは笑い事ではない。

「放課後DC部が予選突破した場合、どうするつもりなのだ?」
「ちょうど春休みで学校が休みになるし、実家への帰郷ということにして、しばらくはアランでプレイするつもりだ」
「そうなると、もし予選を突破したら、グループトーナメントはお前抜きで、ということか」
「そういうことだ。でも君がいてよかったよ、ティンバー」

 エドガーが何を言いたいのかすぐに理解できたようで、ティンバーは任せろと言いたげにうなずいた。
 グループトーナメントは五対五のチーム戦になるが、直接五人同士が戦うわけではない。専用のフィールドで先鋒、次鋒、中堅、副将、大将の順で勝ち抜き戦を行う団体戦だ。
 団体戦において重要になるのが、豊富な知識を持ったリーダーの存在だ。
 リーダーは各クラスの相性や弱点など、知識に裏付けされた的確なアドバイスを行う役割をになう。エドガーが考える中でリーダーとして適任なのは、ティンバー以外にいなかった。

「アランの件がなかったとしても、大会ではできるだけ目立たないようにしたい。君が言っていたエドガーの正体を探っているやつらに見つかりたくないからな」
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