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第12話 試練
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ついに森の出口が見える場所に到達した。小高い丘から敵の大軍が、森から出ることを阻むために布陣している。その様子を見て、師匠が苦い顔をしていた。
「このままでは難しいな」
「どうしましょう師匠」
「まずは馬を調達することからだな。徒歩でまともにここを突破するのは難しい」
転々と場所を変えながら、ここまでやってきた。しかし、相手がここまでとは思いもしなかった。森の中では大群も思うように動かせないが、平地のように開けたところだと一斉にこちらにかかってくるだろう。囲まれて仕舞えば、たとえ、馬がいても突破は難しい。
ジョージ殿下も絶望の色を隠せない。
森からの出口は完全に抑えられていた。引き返すにしても逆に捕まってしまうかもしれない。それに、万が一公爵領まで戻れたとしても、父が私たちの味方になってくれるかどうかもわからない。
「一旦、戻るぞ」
師匠の一言で、休憩地へと戻って話し合うことにした。
◇
「作戦としては、誘導作戦を取るしかないが、相当派手に暴れないとうまく行かないかもしれないな」
師匠の話を熱心に私と王太子殿下は聞いていた。
「王国軍が来るのを待つのはどうでしょう。あえて危険を犯さないでも、森の中を逃げ回って持久戦に持ち込めば、その頃には王国軍の巻き返しが期待できるのではないでしょうか」
確かに敵国内に入ってきている敵軍の方が、補給の面でも大変だろう。ただ、王都の情報が乏しいことが不確定要素と言えた。王国軍の動きが全くわからないのである。
「どこまで王国軍が期待できるのか…… 王都に侵攻しているはずの敵の部隊がどのくらいいるのかが問題だな」
「国力であればこちらの方が優っていますし、ここは王国領なので地の利はこちらにあります。王国軍が立て直して巻き返すのは十分あり得るのではないでしょうか。こちらは森の中を逃げ回っていればなんとかなると思います」
「それも一つの手だな。だが、王太子が生死不明だと王国軍の士気に関わる。現に敵国の奴らはそれを狙ってわざわざこっちにも兵をさいている。お前を捕まえたら、かなり戦局は有利になるからな」
「そうですね」
殿下はため息をついた。
「殿下が生死不明なので、敵はそのことを利用して王太子殿下を捕まえたとかデマを王都に流しているかもしれない。そうなると、王国軍も敵に対して容易に攻めることができなくなる。そういうこともあるから、殿下が王都に戻るのが本当は一番いいんだが」
焦りすぎて無理にこの包囲網を突破しようとすると殿下が捕まってしまう。そうなると、戦争はかなり不利になってしまう可能性がある。しかし、このままだと、時間ばかり経ってしまうし、殿下が不在なことで王国軍に不利な状況が生まれてしまう。難しいところだった。
「実は俺の右肩がもう限界なんだ」
アーロン師匠がそう言って、右肩を見せてくれた。赤くパンパンに腫れ上がっている。王都に行けば薬もあるのだろうが、このままでは右手を失ってしまうかもしれない。
「俺が倒れてお前たち二人になると、より一層ここを突破することが難しくなるかもしれない。だから、ちょっと考えたんだが」
そういうと師匠は小枝を使って地面に図を描き始めた。
大まかに迷いの森を描き、それから、周囲を広範に囲っている敵の部隊を大まかに描いた。そして、三角を書いて敵の大将の場所を示し、森からの出口に何ヶ所か罰をつけた。
「この最も縁にある部分には実はあまり知られていない出口がある。この辺りは敵の数も少ないので、ここを突破するという手がある」
「じゃあ、そこにしましょう。一か八かやってみましょう」
ジョージ王太子殿下は少し興奮した様子で乗り気になっていた。
「でも、近くに予備の部隊もいましたよね。応援に駆けつけるにはそんなに時間がかからないくらいの距離に」
私が指摘すると、師匠は頷いた。
「そうだ。だから、敵の目を引くために誰かが奴らに仕掛ける必要がある。できればひと暴れして注意を引いているうちに、殿下を隠れ出口から連れ出すのだ」
「では、誰がその役を」
「もちろん俺さ。お前らは二人でなんとか逃げ延びてくれ」
「でも師匠の方は……」
「俺はもう十分生きた。それに、ドミニク・バリエのやつには借りがあるからな。十分最後まで嫌がらせをしてやるさ」
「どうしてもなんですか? 他の方法はないのですか?」
殿下が必死にアーロン師匠に言っているが、私にはわかった。これ以上の策はないのだろう。師匠の右肩は限界に来ているように見える。時間が経てば経つほど、殿下不在の王国軍も不利になる。
それに、包囲網もだんだんと狭まってきている。王国軍がいつ巻き返すかどうか分からないのに、それを期待して逃げ回っていても、結局逃れきれなくなる可能性が高くなるだけなのだろう。
「師匠、やりましょう」
私が言うと師匠は強く頷いた。殿下は信じられないという顔をしたが、他に良い考えも浮かばなかったのだろう。黙って同意してくれた。
「まずは、馬の確保からだ。それから、すぐに、作戦を決行するぞ」
◇
私が先行して藪の中に潜む。殿下はその様子が見えるような場所で弓を構えている。師匠の合図に従って開始する手筈になっていた。
殿下の弓の腕は異常なほどに上がっている。元々センスがあったのだろう。
騎士を乗せた三頭の馬が道を走っていた。この周囲を偵察する部隊だ。仕掛けても彼らを倒し損ねるとすぐに味方を呼んでくるので、確実に倒す必要がある。
師匠の合図をもとに、私が馬の前に立ちはだかる。驚いて、急に立ちどまった彼らに容赦無くうなりをあげて、次々と矢が突き刺さった。
私は直接敵を倒すまでもなく、すでに敵は倒れていた。あとは馬を回収するだけだった。師匠と二人で二頭の馬を手に入れた。もう一頭は逃げてしまった。
「うまくいきましたね」
「ああ、随分殿下の弓の腕が上達したじゃないか。お前が殿下に惚れるのも無理はないな」
「別に、そういうことで好きになったわけではないですから」
「へー」
その時に、ジョージ殿下が持ち場から離れて近寄ってきた。
「どうだい。無事? 怪我はない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「ジョージ殿下、どうやら、ナイアスはこの程度の弓の腕では惚れたりしないと言ってるんだが」
「え、本当?」
殿下がびっくりしている。
「そんなこと、一言も言ってません」
師匠が笑い始める。殿下も釣られて笑っている。私一人で困った顔をしていた。
◇
夜になり、夕食を終えた。これが三人の最後の晩餐になるかもしれない。私たちは自然と無口になった。徐々に辺りは暗くなり、夜に包まれていった。
「明日はここの地点で二手に別れることになる。ナイアス、もし、誘導が失敗して、警備が手薄にならなかった場合はどうする?」
師匠は最後の確認のために、地面に図を描き説明していた。
「誘導が失敗して状況が変わらないことが分かったなら、夜になるまでどこかに潜んで、それから、強引にでも敵の包囲を突っ切ります」
「そうだな。それしかないか。とにかく、敵の動きに注意して行動してくれ。突破する時は荷物を全て捨てて、身軽にしてから逃げるんだな。あとは運次第かもしれん」
「やはりこの勝負、賭けには違いないのか……」
殿下がつぶやく。
「まあ、きっとなんとかなるさ。大丈夫、大丈夫。おっとそれより、俺はちょと偵察しに行ってくるわ。少々時間がかかるかもしれないから、お前たちは寝ててもいいぞ」
そう言って師匠は私の方にウィンクをして、それから、休憩地を出て行った。
「このままでは難しいな」
「どうしましょう師匠」
「まずは馬を調達することからだな。徒歩でまともにここを突破するのは難しい」
転々と場所を変えながら、ここまでやってきた。しかし、相手がここまでとは思いもしなかった。森の中では大群も思うように動かせないが、平地のように開けたところだと一斉にこちらにかかってくるだろう。囲まれて仕舞えば、たとえ、馬がいても突破は難しい。
ジョージ殿下も絶望の色を隠せない。
森からの出口は完全に抑えられていた。引き返すにしても逆に捕まってしまうかもしれない。それに、万が一公爵領まで戻れたとしても、父が私たちの味方になってくれるかどうかもわからない。
「一旦、戻るぞ」
師匠の一言で、休憩地へと戻って話し合うことにした。
◇
「作戦としては、誘導作戦を取るしかないが、相当派手に暴れないとうまく行かないかもしれないな」
師匠の話を熱心に私と王太子殿下は聞いていた。
「王国軍が来るのを待つのはどうでしょう。あえて危険を犯さないでも、森の中を逃げ回って持久戦に持ち込めば、その頃には王国軍の巻き返しが期待できるのではないでしょうか」
確かに敵国内に入ってきている敵軍の方が、補給の面でも大変だろう。ただ、王都の情報が乏しいことが不確定要素と言えた。王国軍の動きが全くわからないのである。
「どこまで王国軍が期待できるのか…… 王都に侵攻しているはずの敵の部隊がどのくらいいるのかが問題だな」
「国力であればこちらの方が優っていますし、ここは王国領なので地の利はこちらにあります。王国軍が立て直して巻き返すのは十分あり得るのではないでしょうか。こちらは森の中を逃げ回っていればなんとかなると思います」
「それも一つの手だな。だが、王太子が生死不明だと王国軍の士気に関わる。現に敵国の奴らはそれを狙ってわざわざこっちにも兵をさいている。お前を捕まえたら、かなり戦局は有利になるからな」
「そうですね」
殿下はため息をついた。
「殿下が生死不明なので、敵はそのことを利用して王太子殿下を捕まえたとかデマを王都に流しているかもしれない。そうなると、王国軍も敵に対して容易に攻めることができなくなる。そういうこともあるから、殿下が王都に戻るのが本当は一番いいんだが」
焦りすぎて無理にこの包囲網を突破しようとすると殿下が捕まってしまう。そうなると、戦争はかなり不利になってしまう可能性がある。しかし、このままだと、時間ばかり経ってしまうし、殿下が不在なことで王国軍に不利な状況が生まれてしまう。難しいところだった。
「実は俺の右肩がもう限界なんだ」
アーロン師匠がそう言って、右肩を見せてくれた。赤くパンパンに腫れ上がっている。王都に行けば薬もあるのだろうが、このままでは右手を失ってしまうかもしれない。
「俺が倒れてお前たち二人になると、より一層ここを突破することが難しくなるかもしれない。だから、ちょっと考えたんだが」
そういうと師匠は小枝を使って地面に図を描き始めた。
大まかに迷いの森を描き、それから、周囲を広範に囲っている敵の部隊を大まかに描いた。そして、三角を書いて敵の大将の場所を示し、森からの出口に何ヶ所か罰をつけた。
「この最も縁にある部分には実はあまり知られていない出口がある。この辺りは敵の数も少ないので、ここを突破するという手がある」
「じゃあ、そこにしましょう。一か八かやってみましょう」
ジョージ王太子殿下は少し興奮した様子で乗り気になっていた。
「でも、近くに予備の部隊もいましたよね。応援に駆けつけるにはそんなに時間がかからないくらいの距離に」
私が指摘すると、師匠は頷いた。
「そうだ。だから、敵の目を引くために誰かが奴らに仕掛ける必要がある。できればひと暴れして注意を引いているうちに、殿下を隠れ出口から連れ出すのだ」
「では、誰がその役を」
「もちろん俺さ。お前らは二人でなんとか逃げ延びてくれ」
「でも師匠の方は……」
「俺はもう十分生きた。それに、ドミニク・バリエのやつには借りがあるからな。十分最後まで嫌がらせをしてやるさ」
「どうしてもなんですか? 他の方法はないのですか?」
殿下が必死にアーロン師匠に言っているが、私にはわかった。これ以上の策はないのだろう。師匠の右肩は限界に来ているように見える。時間が経てば経つほど、殿下不在の王国軍も不利になる。
それに、包囲網もだんだんと狭まってきている。王国軍がいつ巻き返すかどうか分からないのに、それを期待して逃げ回っていても、結局逃れきれなくなる可能性が高くなるだけなのだろう。
「師匠、やりましょう」
私が言うと師匠は強く頷いた。殿下は信じられないという顔をしたが、他に良い考えも浮かばなかったのだろう。黙って同意してくれた。
「まずは、馬の確保からだ。それから、すぐに、作戦を決行するぞ」
◇
私が先行して藪の中に潜む。殿下はその様子が見えるような場所で弓を構えている。師匠の合図に従って開始する手筈になっていた。
殿下の弓の腕は異常なほどに上がっている。元々センスがあったのだろう。
騎士を乗せた三頭の馬が道を走っていた。この周囲を偵察する部隊だ。仕掛けても彼らを倒し損ねるとすぐに味方を呼んでくるので、確実に倒す必要がある。
師匠の合図をもとに、私が馬の前に立ちはだかる。驚いて、急に立ちどまった彼らに容赦無くうなりをあげて、次々と矢が突き刺さった。
私は直接敵を倒すまでもなく、すでに敵は倒れていた。あとは馬を回収するだけだった。師匠と二人で二頭の馬を手に入れた。もう一頭は逃げてしまった。
「うまくいきましたね」
「ああ、随分殿下の弓の腕が上達したじゃないか。お前が殿下に惚れるのも無理はないな」
「別に、そういうことで好きになったわけではないですから」
「へー」
その時に、ジョージ殿下が持ち場から離れて近寄ってきた。
「どうだい。無事? 怪我はない?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「ジョージ殿下、どうやら、ナイアスはこの程度の弓の腕では惚れたりしないと言ってるんだが」
「え、本当?」
殿下がびっくりしている。
「そんなこと、一言も言ってません」
師匠が笑い始める。殿下も釣られて笑っている。私一人で困った顔をしていた。
◇
夜になり、夕食を終えた。これが三人の最後の晩餐になるかもしれない。私たちは自然と無口になった。徐々に辺りは暗くなり、夜に包まれていった。
「明日はここの地点で二手に別れることになる。ナイアス、もし、誘導が失敗して、警備が手薄にならなかった場合はどうする?」
師匠は最後の確認のために、地面に図を描き説明していた。
「誘導が失敗して状況が変わらないことが分かったなら、夜になるまでどこかに潜んで、それから、強引にでも敵の包囲を突っ切ります」
「そうだな。それしかないか。とにかく、敵の動きに注意して行動してくれ。突破する時は荷物を全て捨てて、身軽にしてから逃げるんだな。あとは運次第かもしれん」
「やはりこの勝負、賭けには違いないのか……」
殿下がつぶやく。
「まあ、きっとなんとかなるさ。大丈夫、大丈夫。おっとそれより、俺はちょと偵察しに行ってくるわ。少々時間がかかるかもしれないから、お前たちは寝ててもいいぞ」
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