2 / 8
アレクセイ
しおりを挟む
「あーあ、いやになっちゃうわね。あの強欲ババア、いつもより鼻息荒いわ」
寝室でニーナと一緒にベッドメイキングを手伝っていたクリスティーナは手を止めて、ため息をついた。
「しゃべってばかりじゃなく、手を動かした方がいいわよ」
ニーナはちょっと困った顔で言った。
「どうせ、ここの仕事が終わっても、次の仕事を押し付けてくるんだから、たまったものじゃないわ」
完全に手を止めてしまったクリスティーナは、ニーナに構わずおしゃべりを続けていた。
「ねえ、ねえ、それより、アレクセイ様ってどんな人だと思う」
クリスティーナはメイドの中では1番の親友である。彼女はニーナと対等に接してくれる、とても気さくな人だった。
「さあ」
ニーナは関心なさげに答える。
「だってだって、国民皆から愛される第三王子様なんだよ。こんな機会は滅多にないじゃない。ちょっとだけでもお話ししたいとか思ってないの」
「私は仕事が忙しいから、そんな暇はないわ」
「まあまあ、そんなこと言って、本当は少し気になっているんじゃない?」
「気になっているのはクリスの方でしょ」
「う、バレたか」
「でも、王子様は女嫌いだっていう話よ」
「うーん、勿体無いなあ」
「まあ、私たちには関係ないことでしょ、そろそろ始めましょう」
「はいはい」
◇
王子アレクセイが到着したという報告を聞き、アンジェリカは急いで玄関まで向かった。
そこには、金色の長い髪をなびかせた、長身の男が立っていた。上品な黒い礼服に身を包み、青みがかった翠色の瞳が優しげに輝いていた。
「どうもわざわざ、こんなところまでいらしていただいて、誠にありがとうございます」
「お初にお目にかかります。これから一週間ほどお世話になります。僕が第三王子 アレクセイです」
(とても人が良さそうに見えるわ。王国中の娘が夢中になるほどのオーラは感じないけど)
アンジェリカは心の中でそう思った。
ふと視線を横に移すと、そこに、王子と同じくらいの背丈、小汚い農民のような格好をした青年が立っていた。服も泥だらけなら、顔も埃まみれで、髪もボサボサしている。
「あの、その方は」
「ああ、従者のキールだよ。彼のこともよろしく頼むね」
「他にもう従者の方はいらしていないんですか?」
「ああ、彼一人だ。彼にも部屋を用意してやってください」
アンジェリカは少しムッとした。あんな小汚い従者を連れてくるなんて。公爵家を舐めているのではないかと思ったからだ。彼はとてもじゃないが、綺麗に磨き上げた屋敷にあげていいような人物には見えない。
(本当にこの人たち大丈夫なのかしら)
王子の方まで怪しいように見えたが、観察している限りではそれほど問題あるようには見えなかった。しかし、この従者を屋敷にあげる気には到底なれなかった。
「ベロニカ、ここにきて」
「はい、奥様」
アンジェリカはベロニカに何事かをささやいた。ベロニカは従者キールの方を見ながら頷いていた。
◇
「はいはい、お二人さん、ここはもう終わりよ」
メイド長のベロニカさんが、ニーナたちが作業をしている寝室に入ってきた。
「寝室の用意はもう必要ないわ。お客さん、たった二人なんだもの」
「えっ、どういうことですか?」
「どうもこうもないわね。従者の方がたった一人なので、これ以上ベッドメイキングする必要はないってことよ」
「ねえねえ、ベロニカさん。アレクセイ様どうでした?」
クリスティーナは興味深そうに問いかけた。
「どうって言っても…… 噂ほどではないような。あっ、今の話は誰にも言わないでくださいよ」
「はい」
「そうそう、ニーナ様。一つ奥様から仕事を仰せつかっています。従者の方のお世話にするようにと。そして、その方には自分が令嬢であることは決して喋らないようにと言っておりました」
「何よそれ、あんまりじゃない」
クリスティーナがベロニカに食ってかかった。
「命令ですからしょうがないでしょう。それから、奥様はその方を馬小屋のそばの納屋で寝泊まりさせろと言っておりました。食事は晩餐会の残り物を使うこと、そして、できるだけ、屋敷の中には入れないようにと」
「どうしてそんなひどい扱いをしろと言っているんですか?」
「見ればわかりますよ。今、連れてきますので、待っていてください」
ベロニカはそそくさと寝室を出て行った。クリスティーナは少し憤った顔で言った。
「本当はあなただって、王子様に選ばれる権利があるのに」
「私には無理ですよ。こんな格好だし、化粧っ気もなくて見栄えも悪いし」
「何言ってるのよ。あんな性格悪い見てくれだけの二人なんて目じゃないわ」
ニーナは持ち物全てを強欲なアンジェリカに取り上げられていた。だから、着飾るどころか化粧すら全くできない。
「私は幸せになりたくないの。それが私の呪いだから」
ニーナは諦めた顔で寂しげにつぶやいた。
そのとき、ベロニカの声が外から聞こえてきた。
「ニーナ、早く来て。キールさんがいらしたわ」
ニーナは急いで外に出ていった。
寝室でニーナと一緒にベッドメイキングを手伝っていたクリスティーナは手を止めて、ため息をついた。
「しゃべってばかりじゃなく、手を動かした方がいいわよ」
ニーナはちょっと困った顔で言った。
「どうせ、ここの仕事が終わっても、次の仕事を押し付けてくるんだから、たまったものじゃないわ」
完全に手を止めてしまったクリスティーナは、ニーナに構わずおしゃべりを続けていた。
「ねえ、ねえ、それより、アレクセイ様ってどんな人だと思う」
クリスティーナはメイドの中では1番の親友である。彼女はニーナと対等に接してくれる、とても気さくな人だった。
「さあ」
ニーナは関心なさげに答える。
「だってだって、国民皆から愛される第三王子様なんだよ。こんな機会は滅多にないじゃない。ちょっとだけでもお話ししたいとか思ってないの」
「私は仕事が忙しいから、そんな暇はないわ」
「まあまあ、そんなこと言って、本当は少し気になっているんじゃない?」
「気になっているのはクリスの方でしょ」
「う、バレたか」
「でも、王子様は女嫌いだっていう話よ」
「うーん、勿体無いなあ」
「まあ、私たちには関係ないことでしょ、そろそろ始めましょう」
「はいはい」
◇
王子アレクセイが到着したという報告を聞き、アンジェリカは急いで玄関まで向かった。
そこには、金色の長い髪をなびかせた、長身の男が立っていた。上品な黒い礼服に身を包み、青みがかった翠色の瞳が優しげに輝いていた。
「どうもわざわざ、こんなところまでいらしていただいて、誠にありがとうございます」
「お初にお目にかかります。これから一週間ほどお世話になります。僕が第三王子 アレクセイです」
(とても人が良さそうに見えるわ。王国中の娘が夢中になるほどのオーラは感じないけど)
アンジェリカは心の中でそう思った。
ふと視線を横に移すと、そこに、王子と同じくらいの背丈、小汚い農民のような格好をした青年が立っていた。服も泥だらけなら、顔も埃まみれで、髪もボサボサしている。
「あの、その方は」
「ああ、従者のキールだよ。彼のこともよろしく頼むね」
「他にもう従者の方はいらしていないんですか?」
「ああ、彼一人だ。彼にも部屋を用意してやってください」
アンジェリカは少しムッとした。あんな小汚い従者を連れてくるなんて。公爵家を舐めているのではないかと思ったからだ。彼はとてもじゃないが、綺麗に磨き上げた屋敷にあげていいような人物には見えない。
(本当にこの人たち大丈夫なのかしら)
王子の方まで怪しいように見えたが、観察している限りではそれほど問題あるようには見えなかった。しかし、この従者を屋敷にあげる気には到底なれなかった。
「ベロニカ、ここにきて」
「はい、奥様」
アンジェリカはベロニカに何事かをささやいた。ベロニカは従者キールの方を見ながら頷いていた。
◇
「はいはい、お二人さん、ここはもう終わりよ」
メイド長のベロニカさんが、ニーナたちが作業をしている寝室に入ってきた。
「寝室の用意はもう必要ないわ。お客さん、たった二人なんだもの」
「えっ、どういうことですか?」
「どうもこうもないわね。従者の方がたった一人なので、これ以上ベッドメイキングする必要はないってことよ」
「ねえねえ、ベロニカさん。アレクセイ様どうでした?」
クリスティーナは興味深そうに問いかけた。
「どうって言っても…… 噂ほどではないような。あっ、今の話は誰にも言わないでくださいよ」
「はい」
「そうそう、ニーナ様。一つ奥様から仕事を仰せつかっています。従者の方のお世話にするようにと。そして、その方には自分が令嬢であることは決して喋らないようにと言っておりました」
「何よそれ、あんまりじゃない」
クリスティーナがベロニカに食ってかかった。
「命令ですからしょうがないでしょう。それから、奥様はその方を馬小屋のそばの納屋で寝泊まりさせろと言っておりました。食事は晩餐会の残り物を使うこと、そして、できるだけ、屋敷の中には入れないようにと」
「どうしてそんなひどい扱いをしろと言っているんですか?」
「見ればわかりますよ。今、連れてきますので、待っていてください」
ベロニカはそそくさと寝室を出て行った。クリスティーナは少し憤った顔で言った。
「本当はあなただって、王子様に選ばれる権利があるのに」
「私には無理ですよ。こんな格好だし、化粧っ気もなくて見栄えも悪いし」
「何言ってるのよ。あんな性格悪い見てくれだけの二人なんて目じゃないわ」
ニーナは持ち物全てを強欲なアンジェリカに取り上げられていた。だから、着飾るどころか化粧すら全くできない。
「私は幸せになりたくないの。それが私の呪いだから」
ニーナは諦めた顔で寂しげにつぶやいた。
そのとき、ベロニカの声が外から聞こえてきた。
「ニーナ、早く来て。キールさんがいらしたわ」
ニーナは急いで外に出ていった。
0
あなたにおすすめの小説
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
前世で私を捨てた皇太子が、今世ではなぜか執着してきます。でも私は静王妃なので『皇叔母様』と呼ばせます
由香
恋愛
沈薬は前世、皇太子の妃だった。
だが彼の寵愛は側室へ移り、沈薬は罪もなく冷宮へ送られ――孤独の中で死んだ。
そして目を覚ますと、賜婚宴の日に戻っていた。
二度目の人生。
沈薬は迷わず皇太子ではなく、皇帝の弟である静王を選ぶ。
ただしその夫は、戦で重傷を負い昏睡中だった。
「今世は静かに生きられればそれでいい」
そう思っていたのに――
奇跡的に目覚めた静王は、沈薬を誰よりも大切にしてくれた。
さらにある日。
皇太子が前世の記憶を思い出してしまう。
「沈薬は俺の妃だった」
だが沈薬は微笑んで言う。
「殿下、私は静王妃です」
今の関係は――
皇叔母様。
前世で捨てた女を取り戻そうとする皇太子。
それを静かに守る静王。
宮廷を揺るがす執着と溺愛の物語。
婚約破棄された宰相です。 正直、婚約者も宰相も辞めたかったので丁度よかったです
鍛高譚
恋愛
内容紹介
「婚約破棄だ! そして宰相もクビだ!」
王宮の舞踏会で突然そう宣言したのは、女性問題を繰り返す問題王太子ユリウス。
婚約者であり王国宰相でもあるレティシアは、静かに答えた。
「かしこまりました」
――正直、本当に辞めたかったので。
これまで王太子の女性問題の後始末、慰謝料交渉、教会対応、社交界の火消し……
すべて押し付けられていたレティシアは、婚約も宰相職もあっさり辞任。
そしてその瞬間――
王宮が止まった。
料理人が動かない。
書類が処理されない。
伝令がいない。
ついにはトイレの汚物回収まで止まり、王宮は大混乱。
さらに王太子の新たな女性問題が発覚し、教会は激怒。
噂は王都中に広がり、王宮は完全に統治不能に。
そしてついに――
教会・貴族・王家が下した決断は、
「王太子廃嫡」
そして。
「レティシア、女王即位」
婚約破棄して宰相をクビにした結果、
王宮を止めてしまった元王太子の末路とは――?
これは、婚約破棄された宰相が女王になるまでの
完全自業自得ざまぁ物語。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?
3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。
相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。
あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。
それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。
だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。
その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。
その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。
だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる