灰かぶりの公爵令嬢と、従者に化けた王子様

おしどり将軍

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王子と従者

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「なあ、僕の言った通りだったろう」

「バレないかと思ってヒヤヒヤしていましたよ」

王子のために用意された豪華な二階の一室に、二人の男がいた。一人は王子の格好をしていて、もう一人は農民のような格好をしている。しかし、その格好とはうらはらに、話す様子は全く反対の立場のようだった。

「第三王子の顔なんてどうせ覚えてないだろ、数回しか会ったことないし」

「ですが、もしバレたら大変ですよ。公爵家と一悶着あったらどうするんですか。そうなったら責任とってくださいよ」

実は王子の格好をしている方がキールで、従者の格好をしている方が第三王子 アレクセイだったのだ。

「大丈夫、大丈夫。もし、何かあっても僕が責任取るさ」

「本当ですか」

キールはため息をついた。アレクセイとは幼少期からの付き合いだが、キールは彼にいつも振り回されていたからだ。

「全く…… 窓から忍び込んでくるなんて、怪我でもしたらどうするんですか」

「ここ、なかなかいい部屋じゃない」

アレクセイは話を逸らすように部屋の中を見回しながらそう言った。

「そんな格好をしているから納屋なんかに入れられるんですよ。いくらなんでもそこらにいる農民と私の服を交換するなんて…… 今更部屋を交換してくれって言っても、もう遅いですからね」

「なかなか似合っているだろ。ここまでやれば王子とはバレないさ。あの納屋もなかなか快適だよ。屋根に穴が空いていて、部屋にいながらにして星空が見えるんだ」

「それはそれは、大変ロマンチックでございますでしょうね」

キールは呆れ返っていた。

「ところでどうだった?」

アレクセイは真顔でこう切り出した。

「ああ、令嬢たちですか。まあ、綺麗なんじゃないんですか、どっちも。3人いるって聞いていましたが、一人は病気で部屋を出られないっていう話でした。なので、僕は二人しか会っていないですけどね」

「そうか、どんな感じ?」

「まあ、おしとやかのようには見えますが、どこか違和感が…… おそらくどちらも殿下の嫌いなタイプでしょうな。それよりも驚いたのはあの母親ですね」

「どうした」

「僕にこっそり耳打ちして、後で、どちらか気に入った方を寝室に連れてくるっていうんですよ。ありゃあ、もう公爵どころが売春宿の女将みたいなもんですね」

「まさか、お前……」

さすがのアレクセイも驚いた。

「もちろん断りましたよ。でも、あんまり長く滞在していると、とんでもないことになりかねません。こうなるんだったら、今頃、街の酒場で飲んだくれているデミトリーたちと一緒の方が良かった」

護衛の従者たちは本当は4人いて、3人はアレクセイの命令により街の宿屋で泊まるように言われていた。人数が多いと身バレする可能性があったからだ。

「明日にでもここを出ましょうよ。それとも何かあった場合、殿下が責任取ってくれるんですかね」

「うーん、だけど」

「何言葉濁しているんですか、何か理由でもあるんですか」

「理由か、理由がないわけではないな」

「ふふーん」

キールはニヤリとして言った。

「もしかして、メイドの中で気に入った子がいたんじゃないですか」

「うるさいな。黙ってろ。とにかく時間を稼ぐぞ。そうだ、こんなのはどうだ、もう一人の令嬢に会わないと婚約者を決められませんって言ってだな」

「えー、病気がちの子をわざわざ引っ張り出すんですか」

「しょうがないだろ。ニーナさんは特別なんだよ。貴族の女性とは全然違って、なんでも気がついてくれて、お淑やかで、高慢だったり腹黒いところなんかいっさいない、教養だってちゃんとある、とても可憐ないい子なんだ」

「身分違いは悲劇を生みますよ」

王子と結婚するには伯爵以上の爵位が必要だった。メイドと結婚するなんて前代未聞だ。

「もう少し仲良くなりたいんだよ。お願いだからちょっとだけ我慢してくれないか」

「本当にもう。僕は決まった日数以上滞在期間を伸ばす気はありませんので、その間だけですよ」

「わかってる、わかってるって」

キールは深くため息をついた。



ニーナはぼんやりした様子で部屋の中で椅子に座っていた。先ほど見た光景がまるで夢のように感じられた。

「何、ぼーっとしているのよ、珍しいわね」

気がつくとクリスティーナがいつの間にか目の前に立っていた。

「なんでもない。なんでもないわ」

ニーナが慌てる様子を見て、クリスティーナは何かを感じ取った。

「ふーん。もしかして、あの従者の人を気に入っちゃったの?」

クリスティーナはニーナの顔を覗き込んだ。

「違います。違います」

「そんなに慌てなくてもいいじゃない。悪い人じゃあなさそうだし、何より、ここの生活より外の方がまだマシよ。いいわね。駆け落ちってやつ」

「そんなんじゃあないんです。私なんてそんな」

「何言ってるの。あなたは公爵令嬢様よ。自信持っていきなさいよ。本当に綺麗なんだし」

クリスティーナはニーナの後ろに回って髪をとかし始めた。

「私が明日、化粧をしてあげる。きっとあの人びっくりするわよ。結婚してくれ、なんて言われちゃうかも」

「そんなんじゃあ……」

ニーナは頬を赤く染めてうつむいた。

「うーん、嘘は下手ねえ」

実はこの時、物陰で二人の話に聞き耳を立てている人物がいた。しかし、当の二人に気づく様子は全くなかった。
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