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すべてが無為
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「きいてました。ここでキスしないともうあえないってことです。ヨニわかります」
「……」
しっかり理解している。
それもオレが曖昧にぼかしていた失敗した場合は死ぬということも含めて考えている。どうせ会えないのならキスしておいた方が得というロマンの欠片もない現実的判断だった。
第二ボタンが欲しい的なアレだ。
「諦めてくれるかな?」
そう言うしかなかった。
「ルーヴァを裏切りたくないんだ」
「好きなんですか?」
「好きになりたいんだと思うよ」
オレは正直に答える。
魔王の娘に恋愛感情を抱いているかはオレ自身よくわからない。前世から恋愛には縁遠い方だ。イケメンになったことで性的経験は積んだが、愛玩奴隷が主人とどうにかなる訳もなく、奴隷同士でも恋愛に発展させようと思ってこなかった。
精霊界では恋愛はほぼ結婚と同義だ。
女の奴隷は少なくなくて、そこでもモテたが、奴隷同士の恋愛は、新たな奴隷を生む呪いだとわかっているので避けてきたし、転生後の人生を十代で固めることに踏ん切りもつかなかった。
結果として固めつつあるわけだが。
ルーヴァは美人だし、欲望の対象にはなった。けれど、だから好きだと言えるほどお互いのことを知っているわけでもない。夫とか結婚とか、そういうのは今のところ魔王という形式のための政略だと思っている。とりあえず奴隷の身分から脱したいのは本心だから、ルーヴァを好きになりたい。
たぶんそういうことだろう。
「好きになれると思うし」
少なくとも魔族と人間の壁も、奴隷としての壁も感じることはなかった。それは優しさがあるということなんだと思う。差別が当たり前の世界で、自然と別け隔てなく振る舞えるのは、魔族でも王家ということなのかわからないけど。
ともあれ、ヨニのことをとやかく言えない程度にはオレも現実的判断で動いているな。落ち着いて分析してしまうとロマンなんて欠片もない。どうもテオという自分を他人の目で見てるようなところが時々ある。
「ざんねんです」
ヨニは脈なしだと理解してくれたようだった。
白い湯船に頭半分まで浸かって、黒い髪の毛を広げてぶくぶくと息を吐く。ナチュラルに男湯に入って、ナチュラルに隣に座る。この肝っ玉があれば、強く世渡りしていけるだろう。
「……」
あったかい風呂は眠くなるな。
バシャン!
「っ!?」
不意に冷たい水をぶっかけられて、オレは目を覚ました。湯に浸かりすぎて脱水症状でも起こしたかと思ったが別に体調は悪くない。だが両手と両足を背中に縛られ馴染みの体勢にされている。薄暗くて冷たくてゴツゴツとした岩の地面に全裸で転がされているみたいだ。
捕まった?
「ほほぉ、こらぁ確かに美しい男だぁ」
髪の毛を引っ張られて頭を上げさせられると、そこには真っ赤な身体をした大男が牙をむき出しに笑っていた。前世的に言うと、鬼。
「よくやったなぁ。これぁ金になる」
真っ黒で縮れた胸毛をわさわさと揺らして、鬼は横に立つ少女に呼びかける。オレはなんとなく状況が飲み込めてきていた。
「うん」
ヨニだ。
「道理でしっかりしてると思ったよ」
オレは言う。
ルーヴァの知り合いの屋敷ということで完全に油断していたが、冷静に考えれば、十歳で子供を放り出すあの環境は奴隷育成と考えたらもっとも手の掛かる部分をアウトソーシングしているようなものだ。そこに子供を使って紛れ込めば、従順そうな子供だけを収穫することができる。
「テオがわるい」
ヨニはそう言う。
「おめぇが悪いんだとさぁ? ひひ」
鬼が嘲笑した。
「いつからやってるんだ?」
それを無視してオレは尋ねる。
「……」
ヨニは答えなかった。
「はじめてってことはないだろう?」
手際が良すぎる。
たぶんオレが寝たのもなにかの仕掛けだろう。
十歳で放り出された子供をすぐに捕まえて売り払う。屋敷の内部にいれば売れそうな子供を品定めできるし、警戒心も解ける。マリ・カーガーが戦いの訓練もしてると言ったのは自分で生き抜く力を与えてるという自信だと思うが、それも結果的には自分より弱い相手を選べるヨニからすればむしろ判断材料のひとつになる。
「なんのためだ? 金か? 金のために友達を」
「父親のために決まってるよなぁ、ヨニぃ」
鬼がそう言って少女を抱き寄せる。
「うん」
頷きながら視線を逸らす。
「……」
最悪のパターンだ。
「奥さ行ってろぉ。これから品物の具合さぁ、確かめねぇといけねぇかんなぁ。ひひ。愛玩奴隷として使えっかよぉ?」
「……」
野卑な父親を一瞬睨んだが、ヨニは言われたとおりに奥へと引っ込んだ。洞窟のような空間、光は見えないが部屋でもあるのだろうか。
「怖いかぁ?」
赤い鬼は腰巻きを取った。
「……」
こんなことならヨニとキスしとくんだった。
「おらぁたちの魔力は汗に溶けて匂いで敵を幻惑すんのさぁ。ええだろぉ? ええんだろぉがぁ? ヨニの母親もこれでおらぁから離れられねぇ。あのガキは聡いが、母親を人質にされちゃぁ逆らえねぇ。ひひ。我慢してねぇでおめぇも鳴けぇ……」
バカは喋りすぎる。
「幻惑っつーか、臭いんだよ」
オレは唾を吐きかけた。
愛玩奴隷だったことを知らなかった。
それを口にした時点で余裕である。
大体の情報を聞き出した後で、オレは逆に鬼を縛り上げていた。攻めさせて、疲れ果てたところを逆に奉仕するフリ、簡単なことだ。従順になろうと思えば、別にオッサン相手ぐらい大したことではない。薬の類はもう散々使われていて慣れっこになっている。効き目が薄くなっているのだ。商品を壊すほどの代物なら別だろうが。
そんな魔力なら安易に試したりしないだろう。
「とりあえずチンコ斬ってやっから」
オレは憂さ晴らしを決める。
「ううううっ!」
猿轡を噛まされた鬼は怯えている。
「この部屋、拷問道具一杯じゃねぇか。使ってきたんだろ? 自分より弱い人間相手によ?」
「うぶうぶううう」
「なにを言ってるかわからねぇよ!」
オレは鬼のモノを思いっきり踏みつけた。
「ああ! 嫌な感触だ!」
「……」
鬼は気絶していた。
魔族も急所は弱いらしい。これを知れたことはひとつの収穫だが、別に感謝するほどのことでもない。まったく男でも女でもどっちでもイケるヤツにロクなヤツはいないという事実の方が大きいだろう。
「ったく」
オレは鬼の胸元にある核に、どんな拷問につかったのか血のついたハンマーを叩き込む。チンコを斬るまでもない。反省も要求しない。引導を渡してやるまでだ。容赦などしてやる義理もない。
ぱき。
ヒビが入ったと思うと鬼の肥え太った身体が灰のようにさらさらと砕けていく。魔族はこんな風に死ぬのか。呆気ないというか、もっと苦しめてやりたい気持ちもあった。
「最期の相手がオレで良かったな。地獄の前に、天国見れてさ? 上手かっただろ?」
一応、合掌。
虫かなにかに転生して世界を回せ。
「お父さん、死んだの?」
ヨニの声だった。
「オレが殺した。悪いな、こんなのでも父親だろうが、ま、アレだ。魔王を犯せば、そりゃ殺されるよって話。ひとつ勉強になっただろ?」
「ヨニも、死ぬの?」
振り向かずに言った言葉に、そう返してくる。
凄い子だ。
「これ、母親を閉じ込めてる部屋の鍵だと」
オレは鬼から奪ったものを投げる。
「どこの部屋かは知らないけど、ヨニは知ってるだろ。助けてやればいい。逃げて一緒に暮らせばいいさ。マリに見つかったらどうなるかはわからんからな」
「テオ、なんで」
「オレが同情してるのは、お前の母親に対してだけだ。お前にどうすることもできなかったのはわかるが、あの屋敷の子供を売ったならお前も父親の共犯だ。それを忘れるなよ」
オレは振り向かずに歩き出す。
「母親を大事にしろ。他のすべてを捨てても守りたかったんなら、ちゃんと最後までそれを貫き通せ。お前の賢さも、強さもそのためにある」
鬼が喋っていた。
もうヨニの母親は死んでいると。
だが、それをオレの口からは伝えられない。
支えになってやれないからだ。
すべてが無為だった。その事実は結局、自分で噛みしめるしかないのだ。その結果が異世界に転生して奴隷になることであれ、なんであれ。父親を殺して自由にはした。それでオレを恨むなら恨んでくれてもいい。あとは自分で生きるも死ぬも決めればいいのだ。残酷かも知れないが神も配置をミスる世界だ。
「……」
しっかり理解している。
それもオレが曖昧にぼかしていた失敗した場合は死ぬということも含めて考えている。どうせ会えないのならキスしておいた方が得というロマンの欠片もない現実的判断だった。
第二ボタンが欲しい的なアレだ。
「諦めてくれるかな?」
そう言うしかなかった。
「ルーヴァを裏切りたくないんだ」
「好きなんですか?」
「好きになりたいんだと思うよ」
オレは正直に答える。
魔王の娘に恋愛感情を抱いているかはオレ自身よくわからない。前世から恋愛には縁遠い方だ。イケメンになったことで性的経験は積んだが、愛玩奴隷が主人とどうにかなる訳もなく、奴隷同士でも恋愛に発展させようと思ってこなかった。
精霊界では恋愛はほぼ結婚と同義だ。
女の奴隷は少なくなくて、そこでもモテたが、奴隷同士の恋愛は、新たな奴隷を生む呪いだとわかっているので避けてきたし、転生後の人生を十代で固めることに踏ん切りもつかなかった。
結果として固めつつあるわけだが。
ルーヴァは美人だし、欲望の対象にはなった。けれど、だから好きだと言えるほどお互いのことを知っているわけでもない。夫とか結婚とか、そういうのは今のところ魔王という形式のための政略だと思っている。とりあえず奴隷の身分から脱したいのは本心だから、ルーヴァを好きになりたい。
たぶんそういうことだろう。
「好きになれると思うし」
少なくとも魔族と人間の壁も、奴隷としての壁も感じることはなかった。それは優しさがあるということなんだと思う。差別が当たり前の世界で、自然と別け隔てなく振る舞えるのは、魔族でも王家ということなのかわからないけど。
ともあれ、ヨニのことをとやかく言えない程度にはオレも現実的判断で動いているな。落ち着いて分析してしまうとロマンなんて欠片もない。どうもテオという自分を他人の目で見てるようなところが時々ある。
「ざんねんです」
ヨニは脈なしだと理解してくれたようだった。
白い湯船に頭半分まで浸かって、黒い髪の毛を広げてぶくぶくと息を吐く。ナチュラルに男湯に入って、ナチュラルに隣に座る。この肝っ玉があれば、強く世渡りしていけるだろう。
「……」
あったかい風呂は眠くなるな。
バシャン!
「っ!?」
不意に冷たい水をぶっかけられて、オレは目を覚ました。湯に浸かりすぎて脱水症状でも起こしたかと思ったが別に体調は悪くない。だが両手と両足を背中に縛られ馴染みの体勢にされている。薄暗くて冷たくてゴツゴツとした岩の地面に全裸で転がされているみたいだ。
捕まった?
「ほほぉ、こらぁ確かに美しい男だぁ」
髪の毛を引っ張られて頭を上げさせられると、そこには真っ赤な身体をした大男が牙をむき出しに笑っていた。前世的に言うと、鬼。
「よくやったなぁ。これぁ金になる」
真っ黒で縮れた胸毛をわさわさと揺らして、鬼は横に立つ少女に呼びかける。オレはなんとなく状況が飲み込めてきていた。
「うん」
ヨニだ。
「道理でしっかりしてると思ったよ」
オレは言う。
ルーヴァの知り合いの屋敷ということで完全に油断していたが、冷静に考えれば、十歳で子供を放り出すあの環境は奴隷育成と考えたらもっとも手の掛かる部分をアウトソーシングしているようなものだ。そこに子供を使って紛れ込めば、従順そうな子供だけを収穫することができる。
「テオがわるい」
ヨニはそう言う。
「おめぇが悪いんだとさぁ? ひひ」
鬼が嘲笑した。
「いつからやってるんだ?」
それを無視してオレは尋ねる。
「……」
ヨニは答えなかった。
「はじめてってことはないだろう?」
手際が良すぎる。
たぶんオレが寝たのもなにかの仕掛けだろう。
十歳で放り出された子供をすぐに捕まえて売り払う。屋敷の内部にいれば売れそうな子供を品定めできるし、警戒心も解ける。マリ・カーガーが戦いの訓練もしてると言ったのは自分で生き抜く力を与えてるという自信だと思うが、それも結果的には自分より弱い相手を選べるヨニからすればむしろ判断材料のひとつになる。
「なんのためだ? 金か? 金のために友達を」
「父親のために決まってるよなぁ、ヨニぃ」
鬼がそう言って少女を抱き寄せる。
「うん」
頷きながら視線を逸らす。
「……」
最悪のパターンだ。
「奥さ行ってろぉ。これから品物の具合さぁ、確かめねぇといけねぇかんなぁ。ひひ。愛玩奴隷として使えっかよぉ?」
「……」
野卑な父親を一瞬睨んだが、ヨニは言われたとおりに奥へと引っ込んだ。洞窟のような空間、光は見えないが部屋でもあるのだろうか。
「怖いかぁ?」
赤い鬼は腰巻きを取った。
「……」
こんなことならヨニとキスしとくんだった。
「おらぁたちの魔力は汗に溶けて匂いで敵を幻惑すんのさぁ。ええだろぉ? ええんだろぉがぁ? ヨニの母親もこれでおらぁから離れられねぇ。あのガキは聡いが、母親を人質にされちゃぁ逆らえねぇ。ひひ。我慢してねぇでおめぇも鳴けぇ……」
バカは喋りすぎる。
「幻惑っつーか、臭いんだよ」
オレは唾を吐きかけた。
愛玩奴隷だったことを知らなかった。
それを口にした時点で余裕である。
大体の情報を聞き出した後で、オレは逆に鬼を縛り上げていた。攻めさせて、疲れ果てたところを逆に奉仕するフリ、簡単なことだ。従順になろうと思えば、別にオッサン相手ぐらい大したことではない。薬の類はもう散々使われていて慣れっこになっている。効き目が薄くなっているのだ。商品を壊すほどの代物なら別だろうが。
そんな魔力なら安易に試したりしないだろう。
「とりあえずチンコ斬ってやっから」
オレは憂さ晴らしを決める。
「ううううっ!」
猿轡を噛まされた鬼は怯えている。
「この部屋、拷問道具一杯じゃねぇか。使ってきたんだろ? 自分より弱い人間相手によ?」
「うぶうぶううう」
「なにを言ってるかわからねぇよ!」
オレは鬼のモノを思いっきり踏みつけた。
「ああ! 嫌な感触だ!」
「……」
鬼は気絶していた。
魔族も急所は弱いらしい。これを知れたことはひとつの収穫だが、別に感謝するほどのことでもない。まったく男でも女でもどっちでもイケるヤツにロクなヤツはいないという事実の方が大きいだろう。
「ったく」
オレは鬼の胸元にある核に、どんな拷問につかったのか血のついたハンマーを叩き込む。チンコを斬るまでもない。反省も要求しない。引導を渡してやるまでだ。容赦などしてやる義理もない。
ぱき。
ヒビが入ったと思うと鬼の肥え太った身体が灰のようにさらさらと砕けていく。魔族はこんな風に死ぬのか。呆気ないというか、もっと苦しめてやりたい気持ちもあった。
「最期の相手がオレで良かったな。地獄の前に、天国見れてさ? 上手かっただろ?」
一応、合掌。
虫かなにかに転生して世界を回せ。
「お父さん、死んだの?」
ヨニの声だった。
「オレが殺した。悪いな、こんなのでも父親だろうが、ま、アレだ。魔王を犯せば、そりゃ殺されるよって話。ひとつ勉強になっただろ?」
「ヨニも、死ぬの?」
振り向かずに言った言葉に、そう返してくる。
凄い子だ。
「これ、母親を閉じ込めてる部屋の鍵だと」
オレは鬼から奪ったものを投げる。
「どこの部屋かは知らないけど、ヨニは知ってるだろ。助けてやればいい。逃げて一緒に暮らせばいいさ。マリに見つかったらどうなるかはわからんからな」
「テオ、なんで」
「オレが同情してるのは、お前の母親に対してだけだ。お前にどうすることもできなかったのはわかるが、あの屋敷の子供を売ったならお前も父親の共犯だ。それを忘れるなよ」
オレは振り向かずに歩き出す。
「母親を大事にしろ。他のすべてを捨てても守りたかったんなら、ちゃんと最後までそれを貫き通せ。お前の賢さも、強さもそのためにある」
鬼が喋っていた。
もうヨニの母親は死んでいると。
だが、それをオレの口からは伝えられない。
支えになってやれないからだ。
すべてが無為だった。その事実は結局、自分で噛みしめるしかないのだ。その結果が異世界に転生して奴隷になることであれ、なんであれ。父親を殺して自由にはした。それでオレを恨むなら恨んでくれてもいい。あとは自分で生きるも死ぬも決めればいいのだ。残酷かも知れないが神も配置をミスる世界だ。
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