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ノラネコ(血統書付)
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唇が重なって、ゆっくりと離れた。
「幸せですわ」
ミコシーはうっとりと言った。
「わたし、はじめてなんだよ?」
正直に言ってみる。
「あ……ごめんなさい。リツさん。わたくし、実ははじめてではありませんの。その……」
だが、ミコシーは首を振る。
「え? それはぜんぜんかまわないけど」
謝って欲しい訳ではなく、なんかこう感慨を分かち合いたいというか、もっと喜ばれるかと思ったんだけど。そうでもないのかな。
やっぱ、今日の今日だとタメがないかな。
プレミアム感?
ビッチ対応はやっぱり気持ちの盛り上がりを欠いてしまうかもしれない。おなかを空かせないと美味しいものも美味しさが半減するというか。
「そっかー。はじめてじゃ……」
「わたくし、幼い頃にリツさんのはじめてを奪ってますの。遊び疲れて眠ってしまったところを、何度も、その……はしたない女で」
けれど、わたしの予想よりミコシーの言葉はとんでもなかった。そんなに昔から想われてたという事実もそうだけど、なに、ロリコン?
わたしのあんまりない胸とか。
重症度アップ。
「……そーだったんだ」
わたしが受け入れなかったらどうなってたんだろう。思いあまって刺されるぐらいの展開があったかもしれない。惜しいことをしたのか、命を失うにはちょっと早いのか。
「ま、よかったじゃん。記憶にあるのもないのも、ミコシーが最初ってことだ。ダブルファーストキス達成おめでとー」
もう自分でもなに言ってるかわからない。
「リツさんっ!」
徹底的にキスされた。
唇からはじまって、顔も、首も、肩も鎖骨も腕もおなかも、脚も腰も、わたしの全身にくまなく印をつけるみたいに、ミコシーは動く。
「外しますわ」
「うん」
下着を取られたときには、もうわたしも熱くなってた。頭がボーッとして、溶けてしまいそうだった。気づけばこっちからもミコシーの身体にキスをして、舐めて、そして舌を絡め合う。
そして身体を重ねて、触り合った。
「こんなになってますわよ」
「そっちこそ」
ミコシーのおかーさんはもともと同性愛の人だったのだけど、家の事情で普通の結婚をすることになり、その気持ちをずっと抑え込んでいたのだそうだ。娘が生まれて、生活が幸せな間はそれでなんとかやっていけたけど、それが壊れてからはどうしようもなかったらしい。
「父は再起のために今も奔走していますけど、そんな日がくるかはわかりませんわ。一人で残された母の寂しさを、わたくしが埋めなければと必死で、幸い、嗜好は合っていましたから」
後悔はしていないようで、それは良かった。
「おかーさんは、もーいーの?」
わたしは言った。
「最近は職場でパートナーに恵まれたようですわ。すっかり元気になって、わたくしも安心してリツさんのことだけ考えていられます」
「おとーさんの立場ないけど」
「父も薄々気づいていて、あまり帰ってきませんの。いずれは離婚するでしょうね。どこか別の土地で立候補できる見通しが立てば」
ミコシーは言うと、話題を打ち切りたいように下半身に顔を埋めた。行為は次第に激しくなってきていた。たぶん、上手いのだと思う。わたしは声を抑えられなかったし、もう全身がくにゃくにゃだった。
でも、気持ちいいだけかも。
「あっ、ン」
恋愛感情が湧くかと思ったけど、ミコシーに対してそんな予感はしなかった。思ったより楽しいのだけど、なんか想像してたのとは違う。なんなのだろう。もう一枚、壁を越えられない。
「あー」
「どうかなさいました?」
わたしが素の声を出したら、ミコシーは不安そうにこちらを見た。なにか失敗したように思わせたみたいだけど違う。
「攻守交代だっ!」
わたしは言ってミコシーの脚を掴んでひっくり返す。受け身だからだ。なんとなく経験がある方に任せてたけど、タチかネコかはやってみてから考えた方がいい。
「リツさん?」
ミコシーは脚を広げられて戸惑っている。長くてすらっとして、うらやましい脚にわたしは顔をこすりつけ、土踏まずを舐めてみる。
「こーゆーのルール違反?」
「あ、あの、わたくし、どちらかと言うと」
「まーまー、やってみよーよ」
意見を求めた訳じゃなかった。ただ、ミコシーがちょっと躊躇っているのを見たことで、わたしのハートが甘い汁で満たされた感じはあった。こっちっぽい。この血統書付のノラネコを鳴かせたくなっていた。
「ほにゃあああっ」
楽しかった。
「ひー、汗だくになっちゃった」
ミコシーが鳴き疲れて眠ってしまうまで攻めて、わたしはすっかり暗くなった部屋の電気をつけた。うん。なんか好きになってきた。今度は道具を用意しよう。
「?」
ふと部屋のドアを見ると、隙間がある。
ちゃんと閉めた記憶はないけど。
「……」
わたしはミコシーの裸をシーツで隠してから、ゆっくりとドアを開く。勘を働かせるまでもない。わたしたちを覗き見して、身動きがとれなくなっている人の気配がだれかなんて。
「セン」
「……」
目を赤くしたおにいが申し訳なさそうにこちらを見る。涙の後が頬に残ってる。泣いていたらしい。女装制服姿のまま、膝までパンツを下げて、手はスカートの中にあった。
握りしめてる。
「「どうしてこんなことを?」」
わたしとおにいは同時に言った。
双子に時々あるパターン。
「聞くまでもなかったね」
でも、今回はこっちが余計たった。どうしてかなんて見ればわかる。一体化なんて無理だってことだ。いくらわたしの格好をしたって、わたしにはなれない。
「オレのせい、なのか」
おにいは言った。
その視線が、わたしの裸を見ているのはわかる。スカートから手が出せないのも、要するにそういうことなんだろうとは思う。別に嫌悪感はない。ただ、おにいは思い切りが足りないと思う。
「なにが?」
「オレが、リツに告白なんてしたから……」
「カンケーないよ」
わたしは、食い気味に答えた。
自分の姿で気落ちしているおにいを見つめるのは苛立たしかった。こんな制服なんかビリビリに破って、男としての井岡センと対面させてやりたい。わたしにはなれないのだと教えてやりたい。双子であってももう別の生き物だと。
「リツ」
「ちゃんと着替えて。女装でも男でもいいから、人前に出れる顔にして。ミコシー、今日は泊まっていくから。わかった?」
言うだけ言って、ドアを閉める。
隣の部屋のドアも閉まった。
「……!」
ゾクゾクしていた。
おにいってば変態すぎる。ミコシーが寝てるってことがなかったら、わたしはスカートをめくって辱めていたはずだ。家に女を連れ込んで派手にバタバタしている妹を止めることもできた。なのに、我慢できなかったんだ。
そしてわたしに見下されるなんて。
「ふふ」
つい、笑いが漏れた。
ナルセンを焦らせようと思ったけど、おにいは結局、わたしを諦めていないのもわかった。さらに楽しみが増えたってことだ。どっちが先に押し倒しても、禁断の恋ははじまる。
「リツさん?」
シーツを胸に当てながら、ミコシーが起きる。
「おはミコシー。寝てたのはちょっとだよ。夕ご飯のまえにシャワー一緒に浴びよ? まだ親は帰ってないから」
「ええ、そうですわね」
吐息を漏らして、わたしを見つめる。
「わたくし、知りませんでしたわ。好きな相手だと、こんなにも……違うなんて。もう、リツさんから離れられませんわ。ずっと」
「下手じゃなかった?」
「まったくそんなこと。才能ですわ」
「いやー、自分でもビックリだねー。いやー」
攻めていけばいい。
わたしは自分にはじめて確信が持てた。波乱は待ってるだけじゃ来ない。わたしが攻めていくことで、世界は波乱に満ちあふれていく。簡単なことだったんだ。
「リツさん」
背後からミコシーが抱きしめてくる。
やわらかい感触、やわらかい身体、またキスをしながら、わたしは愛おしさを感じる。わたしが二股、三股をかけようとしてると知ったらどうなっちゃうんだろう。おかしくなっちゃうかな。
そうしたらたぶん好きになる。
「ん、夜はこれからだよ?」
わたしはミコシーを強く抱き寄せた。
「もう。あんなにしたのに」
おにいは隣で聞き耳を立てているかな。
ナルセンはメールしているかな。
想像するとウズウズして、わたしはまたミコシーを乱れさせたくなったけど、おなかがクゥと鳴ったので夕ご飯を優先することにした。ちょっと我慢するときっともっと甘くなる。わかってきた。恋の食べ方が。
「幸せですわ」
ミコシーはうっとりと言った。
「わたし、はじめてなんだよ?」
正直に言ってみる。
「あ……ごめんなさい。リツさん。わたくし、実ははじめてではありませんの。その……」
だが、ミコシーは首を振る。
「え? それはぜんぜんかまわないけど」
謝って欲しい訳ではなく、なんかこう感慨を分かち合いたいというか、もっと喜ばれるかと思ったんだけど。そうでもないのかな。
やっぱ、今日の今日だとタメがないかな。
プレミアム感?
ビッチ対応はやっぱり気持ちの盛り上がりを欠いてしまうかもしれない。おなかを空かせないと美味しいものも美味しさが半減するというか。
「そっかー。はじめてじゃ……」
「わたくし、幼い頃にリツさんのはじめてを奪ってますの。遊び疲れて眠ってしまったところを、何度も、その……はしたない女で」
けれど、わたしの予想よりミコシーの言葉はとんでもなかった。そんなに昔から想われてたという事実もそうだけど、なに、ロリコン?
わたしのあんまりない胸とか。
重症度アップ。
「……そーだったんだ」
わたしが受け入れなかったらどうなってたんだろう。思いあまって刺されるぐらいの展開があったかもしれない。惜しいことをしたのか、命を失うにはちょっと早いのか。
「ま、よかったじゃん。記憶にあるのもないのも、ミコシーが最初ってことだ。ダブルファーストキス達成おめでとー」
もう自分でもなに言ってるかわからない。
「リツさんっ!」
徹底的にキスされた。
唇からはじまって、顔も、首も、肩も鎖骨も腕もおなかも、脚も腰も、わたしの全身にくまなく印をつけるみたいに、ミコシーは動く。
「外しますわ」
「うん」
下着を取られたときには、もうわたしも熱くなってた。頭がボーッとして、溶けてしまいそうだった。気づけばこっちからもミコシーの身体にキスをして、舐めて、そして舌を絡め合う。
そして身体を重ねて、触り合った。
「こんなになってますわよ」
「そっちこそ」
ミコシーのおかーさんはもともと同性愛の人だったのだけど、家の事情で普通の結婚をすることになり、その気持ちをずっと抑え込んでいたのだそうだ。娘が生まれて、生活が幸せな間はそれでなんとかやっていけたけど、それが壊れてからはどうしようもなかったらしい。
「父は再起のために今も奔走していますけど、そんな日がくるかはわかりませんわ。一人で残された母の寂しさを、わたくしが埋めなければと必死で、幸い、嗜好は合っていましたから」
後悔はしていないようで、それは良かった。
「おかーさんは、もーいーの?」
わたしは言った。
「最近は職場でパートナーに恵まれたようですわ。すっかり元気になって、わたくしも安心してリツさんのことだけ考えていられます」
「おとーさんの立場ないけど」
「父も薄々気づいていて、あまり帰ってきませんの。いずれは離婚するでしょうね。どこか別の土地で立候補できる見通しが立てば」
ミコシーは言うと、話題を打ち切りたいように下半身に顔を埋めた。行為は次第に激しくなってきていた。たぶん、上手いのだと思う。わたしは声を抑えられなかったし、もう全身がくにゃくにゃだった。
でも、気持ちいいだけかも。
「あっ、ン」
恋愛感情が湧くかと思ったけど、ミコシーに対してそんな予感はしなかった。思ったより楽しいのだけど、なんか想像してたのとは違う。なんなのだろう。もう一枚、壁を越えられない。
「あー」
「どうかなさいました?」
わたしが素の声を出したら、ミコシーは不安そうにこちらを見た。なにか失敗したように思わせたみたいだけど違う。
「攻守交代だっ!」
わたしは言ってミコシーの脚を掴んでひっくり返す。受け身だからだ。なんとなく経験がある方に任せてたけど、タチかネコかはやってみてから考えた方がいい。
「リツさん?」
ミコシーは脚を広げられて戸惑っている。長くてすらっとして、うらやましい脚にわたしは顔をこすりつけ、土踏まずを舐めてみる。
「こーゆーのルール違反?」
「あ、あの、わたくし、どちらかと言うと」
「まーまー、やってみよーよ」
意見を求めた訳じゃなかった。ただ、ミコシーがちょっと躊躇っているのを見たことで、わたしのハートが甘い汁で満たされた感じはあった。こっちっぽい。この血統書付のノラネコを鳴かせたくなっていた。
「ほにゃあああっ」
楽しかった。
「ひー、汗だくになっちゃった」
ミコシーが鳴き疲れて眠ってしまうまで攻めて、わたしはすっかり暗くなった部屋の電気をつけた。うん。なんか好きになってきた。今度は道具を用意しよう。
「?」
ふと部屋のドアを見ると、隙間がある。
ちゃんと閉めた記憶はないけど。
「……」
わたしはミコシーの裸をシーツで隠してから、ゆっくりとドアを開く。勘を働かせるまでもない。わたしたちを覗き見して、身動きがとれなくなっている人の気配がだれかなんて。
「セン」
「……」
目を赤くしたおにいが申し訳なさそうにこちらを見る。涙の後が頬に残ってる。泣いていたらしい。女装制服姿のまま、膝までパンツを下げて、手はスカートの中にあった。
握りしめてる。
「「どうしてこんなことを?」」
わたしとおにいは同時に言った。
双子に時々あるパターン。
「聞くまでもなかったね」
でも、今回はこっちが余計たった。どうしてかなんて見ればわかる。一体化なんて無理だってことだ。いくらわたしの格好をしたって、わたしにはなれない。
「オレのせい、なのか」
おにいは言った。
その視線が、わたしの裸を見ているのはわかる。スカートから手が出せないのも、要するにそういうことなんだろうとは思う。別に嫌悪感はない。ただ、おにいは思い切りが足りないと思う。
「なにが?」
「オレが、リツに告白なんてしたから……」
「カンケーないよ」
わたしは、食い気味に答えた。
自分の姿で気落ちしているおにいを見つめるのは苛立たしかった。こんな制服なんかビリビリに破って、男としての井岡センと対面させてやりたい。わたしにはなれないのだと教えてやりたい。双子であってももう別の生き物だと。
「リツ」
「ちゃんと着替えて。女装でも男でもいいから、人前に出れる顔にして。ミコシー、今日は泊まっていくから。わかった?」
言うだけ言って、ドアを閉める。
隣の部屋のドアも閉まった。
「……!」
ゾクゾクしていた。
おにいってば変態すぎる。ミコシーが寝てるってことがなかったら、わたしはスカートをめくって辱めていたはずだ。家に女を連れ込んで派手にバタバタしている妹を止めることもできた。なのに、我慢できなかったんだ。
そしてわたしに見下されるなんて。
「ふふ」
つい、笑いが漏れた。
ナルセンを焦らせようと思ったけど、おにいは結局、わたしを諦めていないのもわかった。さらに楽しみが増えたってことだ。どっちが先に押し倒しても、禁断の恋ははじまる。
「リツさん?」
シーツを胸に当てながら、ミコシーが起きる。
「おはミコシー。寝てたのはちょっとだよ。夕ご飯のまえにシャワー一緒に浴びよ? まだ親は帰ってないから」
「ええ、そうですわね」
吐息を漏らして、わたしを見つめる。
「わたくし、知りませんでしたわ。好きな相手だと、こんなにも……違うなんて。もう、リツさんから離れられませんわ。ずっと」
「下手じゃなかった?」
「まったくそんなこと。才能ですわ」
「いやー、自分でもビックリだねー。いやー」
攻めていけばいい。
わたしは自分にはじめて確信が持てた。波乱は待ってるだけじゃ来ない。わたしが攻めていくことで、世界は波乱に満ちあふれていく。簡単なことだったんだ。
「リツさん」
背後からミコシーが抱きしめてくる。
やわらかい感触、やわらかい身体、またキスをしながら、わたしは愛おしさを感じる。わたしが二股、三股をかけようとしてると知ったらどうなっちゃうんだろう。おかしくなっちゃうかな。
そうしたらたぶん好きになる。
「ん、夜はこれからだよ?」
わたしはミコシーを強く抱き寄せた。
「もう。あんなにしたのに」
おにいは隣で聞き耳を立てているかな。
ナルセンはメールしているかな。
想像するとウズウズして、わたしはまたミコシーを乱れさせたくなったけど、おなかがクゥと鳴ったので夕ご飯を優先することにした。ちょっと我慢するときっともっと甘くなる。わかってきた。恋の食べ方が。
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