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麦田(母子)
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「まさきこそ本当に男?」
もう頭に来た。トラウマ与えちゃう。
「おとこだよ」
「はー? じゃー見せてみなよ。男の子のアカシ。ついてんでしょ? おちんちん」
くっと睨んでくるクソガキをわたしは煽る。
「ばかなの?」
まさきは首を傾げた。
「タイホされるよ」
「ナマイキ」
わたしは言う。
「ママと一緒ならまだ女湯に入れる歳の子のおちんちんなんてタイホされませんーっ!」
ハーフパンツのチャックに手をかける。子供のくせにちゃんと社会常識を身につけてるのがなんか腹立たしい。男子なんか意味もなく脱ぐじゃん。女子に見せびらかすじゃん。
「やめろよ。やめっ……!」
「いー子だから黙っときなさい」
叫び出しそうなところを口を押さえ、わたしはチャックの中に手を入れる。痴女みたいなことしてるけど、わたし、触るのはじめて?
「ううう……!」
「十年後、まさき、わたしに感謝してるよ」
パンツの中に手を突っ込む。
「こんなケーケンないよ。よかったねー?」
ぐにゅ。
あ、これ玉だ。
わたしはのぞき込みながらそれを外に引っ張り出す。ヒロヒロのを見た後だともう小さくしか見えないけど、形は意外とちゃんとしてた。
このくらいでできあがってるんだ。
「おー。男だ。立派立派」
「……」
まさきはムッとしている。
悔しくてたまらないという顔。ちょっと泣きそうだけど、それよりもわたしに怒りをぶつけようという感じは軟弱な子ではないってことだ。
十年後に復讐されるかも。
「えいっ」
わたしはさきっちょを摘んだ。
「!」
流石に子供でも敏感な器官ではある。まだ理解できない刺激だろうけど、まさきは電気でも走ったみたいに仰け反って震えた。
「なめてあげてもいーよ?」
なんかクソガキが可愛く見えてきた。
「!!」
まさきは首を横に振る。
「ムリヤリがいー? そーゆーのもアリかもしれないけど、わたし、噛んじゃうかもよ?」
「!?」
目におびえが過ぎる。
「ね、やさしいのがいーでしょ? まさきが大人しくしてたら、気持ちよーくして」
あれ、これ男が言うセリフっぽくない?
わたしはなにをしてるんだろ。
これってただのレイプ?
年端もいかない男の子を公衆トイレに連れ込んで、欲情の赴くままに性的いたずらをする。逮捕されるじゃん。女子高生逮捕されるじゃん。
ガン!
正気に返ったところで、トイレのドアが乱暴に叩かれる。心臓が跳ねて、わたしは手をすべてはなして両手を挙げてしまう。終わった。
なにもかも。
「まさき、ここにいるの!?」
「ママ!」
呼びかけに泣きながら答える。
「あけなさい! あけないとっ!」
切迫した女性の声に、わたしは素直に鍵を外した。まさきのママだ。考えてみれば、小さい子供がひとりで遊んでるんだから家のすぐそば、近所の人がわたしの様子を見て、母親に連絡したんだ。そして駆けつけてきた。
「まさきっ」
「ママ!」
内開きのドアに押されて、壁に押しつけられながら、息子を抱き抱える母親の顔を見る。息子の無事を喜ぶ顔が、チャックから出たおちんちんに向けられ、憤怒の表情に変わる。
あれ、この人。
「あなた、どういうつもりでうちの子をっ!」
「麦田さん」
「! セン、く。リツさん?」
なんでこんなことに。
わたしは大人しく麦田さんのアパートについて行った。すぐさまケーサツに通報はされない。でもそれが良かったとも思えなかった。この人と話をすることなんて、なにもないから。
「なんて言ったらいいのかわからないわ」
麦田さんはまさきにディズニーのアニメを見せて、ヘッドホンで音を聞こえないようにしてから、小声で喋り出す。
「グーゼンです」
わたしは言った。
「グーゼン、この辺りに迷い込んで、グーゼン、公園があって休んでたら、グーゼン、麦田さんのお子さんに出会って、グーゼン」
「偶然な訳ないでしょう」
声のボリュームを抑えながらも、怒りの抑えきれない声で、麦田さんはテーブルを叩いた。背後のまさきが少しこちらを見たけど、すぐにアニメに戻った。
ダンボは文句なしに名作だ。
「なにをしたの」
「おちんちんに触りました」
わたしは正直に答えた。
「おっぱいを見せたら、変だって言われたので、ついカッとなって、ごめんなさい」
謝っても許してはもらえない。
わかっている。
たぶんもうトラウマを与えてしまった。まさきは一生、年上の女にムリヤリされる妄想を抱いたまま、まともな性的嗜好を持てず、満たされない一生を送ることになる。
わたしみたいな美少女二度と現れないから。
「なにを言ってるかわからないわ」
「わたしもです」
「でも、それだけなのね」
「はい」
麦田さんが来なくてもあの先までは進まなかったと思う。なんの言い訳にもならないけど、わたしの中では最後に残った正気だった。
おにい、ごめん。
刑務所で性犯罪者はいじめられるらしいけど、双子の妹が性犯罪者になったら、その兄もやっぱり性犯罪者ってことにされるだろう。女装してることの意味も変わってくる。子供に手を出したからロリコン扱いされるかも。
変態が許容されるのは犯罪未満だけだ。
美少女の女子高生が性犯罪で捕まったら、マスコミが黙ってないだろう。そしたらもう井岡家の異常も世間に公表されることになるはずだ。ミコシーも、もしかしたらヒロヒロやタケシも、なんでわたしの周りは変態ばっかりなのかわからないけど、ともかく大騒動になる。
大変だ。
「……」
麦田さんはずっとわたしの顔を見ていた。
「あの、ケーサツ、呼ばないんですか?」
「よく似せてるわね。センくん」
「え?」
「顔のつくりが同じなだけじゃ、そこまで似ないでしょう? 睫毛の角度とか、リツさんの自然な顔をよく見てなければね」
「……」
この人はなんの話を。
わたしの胸を変と言い切るまさきの母親だけあって、おっぱいのある人だった。生活に疲れた感じはあるけど、ちゃんとすればきっと綺麗になる人だ。男なんていくらでも選べる。
「オレはリツが好きだから」
麦田さんは口を開いた。
「そう言われたわ。昨日のことだけど」
「こ、告白したんですか?」
「ええ。好きだけど、兄妹だから、手は出さない代わりに、姿だけでもなりきってるって。妹も知ってるって。すごい家族ね。理解できない」
「わたしも、理解できません」
褒められてないことはわかるけど。
「リツさんは、センくんが好きなのよね?」
「わかりますか?」
そんな態度見せてきただろうか。
「双子ってそういうことじゃないの?」
麦田さんは苦笑いする。
「意識はしてなかったです、本当に」
わたしは喋ってしまうことにする。
もうだれに聞いてもらえもしないから。
「たぶん、おにいが女装しなかったら、気付くこともなかったと思います。わたしは、そんなに恋愛とか興味なかったというか」
「意識しないようにしてただけでしょう?」
「……」
そうなのかな。
「怒ってるのよ?」
麦田さんは言う。
「大事なまさきに手を出した。あなたのことを許したくはない。本当に。でも、そうしたらセンくんの人生もおかしくなる。もう十分におかしいけど、それは別として」
「はい」
わたしは頷く。
「でも、だれの人生もおかしいのよ。多かれ少なかれ。リツさんぐらいのときに、まさきを授かった。それはおかしいことだったけど、今は大切なことになってる。そうでしょう?」
「そうだと思います」
言いたいことはなんとなくわかる。
「リツさん。ちゃんと正面から向き合って」
「それは、おにいに」
「考えるのはリツさん自身」
麦田さんは首を振る。
まさきとよく似ている。母子なんだ。
「おかしいことになるのは仕方ないかもしれないけど、大切なことを見失っちゃだめ。あなたたちは両想いなんだから。なにかは得られるはず」
「なにか」
それはなんだろう。
「二度とまさきの前に現れないで」
「はい」
追い出されるように、わたしは麦田さんのアパートを後にする。帰り道はわからないままだったけど、この場にはいられなかった。どこへかは自分の脚で進むしかない。それだけはわかる
考えなければいけないのだ。
おにいと正面から向き合う方法を。
もう頭に来た。トラウマ与えちゃう。
「おとこだよ」
「はー? じゃー見せてみなよ。男の子のアカシ。ついてんでしょ? おちんちん」
くっと睨んでくるクソガキをわたしは煽る。
「ばかなの?」
まさきは首を傾げた。
「タイホされるよ」
「ナマイキ」
わたしは言う。
「ママと一緒ならまだ女湯に入れる歳の子のおちんちんなんてタイホされませんーっ!」
ハーフパンツのチャックに手をかける。子供のくせにちゃんと社会常識を身につけてるのがなんか腹立たしい。男子なんか意味もなく脱ぐじゃん。女子に見せびらかすじゃん。
「やめろよ。やめっ……!」
「いー子だから黙っときなさい」
叫び出しそうなところを口を押さえ、わたしはチャックの中に手を入れる。痴女みたいなことしてるけど、わたし、触るのはじめて?
「ううう……!」
「十年後、まさき、わたしに感謝してるよ」
パンツの中に手を突っ込む。
「こんなケーケンないよ。よかったねー?」
ぐにゅ。
あ、これ玉だ。
わたしはのぞき込みながらそれを外に引っ張り出す。ヒロヒロのを見た後だともう小さくしか見えないけど、形は意外とちゃんとしてた。
このくらいでできあがってるんだ。
「おー。男だ。立派立派」
「……」
まさきはムッとしている。
悔しくてたまらないという顔。ちょっと泣きそうだけど、それよりもわたしに怒りをぶつけようという感じは軟弱な子ではないってことだ。
十年後に復讐されるかも。
「えいっ」
わたしはさきっちょを摘んだ。
「!」
流石に子供でも敏感な器官ではある。まだ理解できない刺激だろうけど、まさきは電気でも走ったみたいに仰け反って震えた。
「なめてあげてもいーよ?」
なんかクソガキが可愛く見えてきた。
「!!」
まさきは首を横に振る。
「ムリヤリがいー? そーゆーのもアリかもしれないけど、わたし、噛んじゃうかもよ?」
「!?」
目におびえが過ぎる。
「ね、やさしいのがいーでしょ? まさきが大人しくしてたら、気持ちよーくして」
あれ、これ男が言うセリフっぽくない?
わたしはなにをしてるんだろ。
これってただのレイプ?
年端もいかない男の子を公衆トイレに連れ込んで、欲情の赴くままに性的いたずらをする。逮捕されるじゃん。女子高生逮捕されるじゃん。
ガン!
正気に返ったところで、トイレのドアが乱暴に叩かれる。心臓が跳ねて、わたしは手をすべてはなして両手を挙げてしまう。終わった。
なにもかも。
「まさき、ここにいるの!?」
「ママ!」
呼びかけに泣きながら答える。
「あけなさい! あけないとっ!」
切迫した女性の声に、わたしは素直に鍵を外した。まさきのママだ。考えてみれば、小さい子供がひとりで遊んでるんだから家のすぐそば、近所の人がわたしの様子を見て、母親に連絡したんだ。そして駆けつけてきた。
「まさきっ」
「ママ!」
内開きのドアに押されて、壁に押しつけられながら、息子を抱き抱える母親の顔を見る。息子の無事を喜ぶ顔が、チャックから出たおちんちんに向けられ、憤怒の表情に変わる。
あれ、この人。
「あなた、どういうつもりでうちの子をっ!」
「麦田さん」
「! セン、く。リツさん?」
なんでこんなことに。
わたしは大人しく麦田さんのアパートについて行った。すぐさまケーサツに通報はされない。でもそれが良かったとも思えなかった。この人と話をすることなんて、なにもないから。
「なんて言ったらいいのかわからないわ」
麦田さんはまさきにディズニーのアニメを見せて、ヘッドホンで音を聞こえないようにしてから、小声で喋り出す。
「グーゼンです」
わたしは言った。
「グーゼン、この辺りに迷い込んで、グーゼン、公園があって休んでたら、グーゼン、麦田さんのお子さんに出会って、グーゼン」
「偶然な訳ないでしょう」
声のボリュームを抑えながらも、怒りの抑えきれない声で、麦田さんはテーブルを叩いた。背後のまさきが少しこちらを見たけど、すぐにアニメに戻った。
ダンボは文句なしに名作だ。
「なにをしたの」
「おちんちんに触りました」
わたしは正直に答えた。
「おっぱいを見せたら、変だって言われたので、ついカッとなって、ごめんなさい」
謝っても許してはもらえない。
わかっている。
たぶんもうトラウマを与えてしまった。まさきは一生、年上の女にムリヤリされる妄想を抱いたまま、まともな性的嗜好を持てず、満たされない一生を送ることになる。
わたしみたいな美少女二度と現れないから。
「なにを言ってるかわからないわ」
「わたしもです」
「でも、それだけなのね」
「はい」
麦田さんが来なくてもあの先までは進まなかったと思う。なんの言い訳にもならないけど、わたしの中では最後に残った正気だった。
おにい、ごめん。
刑務所で性犯罪者はいじめられるらしいけど、双子の妹が性犯罪者になったら、その兄もやっぱり性犯罪者ってことにされるだろう。女装してることの意味も変わってくる。子供に手を出したからロリコン扱いされるかも。
変態が許容されるのは犯罪未満だけだ。
美少女の女子高生が性犯罪で捕まったら、マスコミが黙ってないだろう。そしたらもう井岡家の異常も世間に公表されることになるはずだ。ミコシーも、もしかしたらヒロヒロやタケシも、なんでわたしの周りは変態ばっかりなのかわからないけど、ともかく大騒動になる。
大変だ。
「……」
麦田さんはずっとわたしの顔を見ていた。
「あの、ケーサツ、呼ばないんですか?」
「よく似せてるわね。センくん」
「え?」
「顔のつくりが同じなだけじゃ、そこまで似ないでしょう? 睫毛の角度とか、リツさんの自然な顔をよく見てなければね」
「……」
この人はなんの話を。
わたしの胸を変と言い切るまさきの母親だけあって、おっぱいのある人だった。生活に疲れた感じはあるけど、ちゃんとすればきっと綺麗になる人だ。男なんていくらでも選べる。
「オレはリツが好きだから」
麦田さんは口を開いた。
「そう言われたわ。昨日のことだけど」
「こ、告白したんですか?」
「ええ。好きだけど、兄妹だから、手は出さない代わりに、姿だけでもなりきってるって。妹も知ってるって。すごい家族ね。理解できない」
「わたしも、理解できません」
褒められてないことはわかるけど。
「リツさんは、センくんが好きなのよね?」
「わかりますか?」
そんな態度見せてきただろうか。
「双子ってそういうことじゃないの?」
麦田さんは苦笑いする。
「意識はしてなかったです、本当に」
わたしは喋ってしまうことにする。
もうだれに聞いてもらえもしないから。
「たぶん、おにいが女装しなかったら、気付くこともなかったと思います。わたしは、そんなに恋愛とか興味なかったというか」
「意識しないようにしてただけでしょう?」
「……」
そうなのかな。
「怒ってるのよ?」
麦田さんは言う。
「大事なまさきに手を出した。あなたのことを許したくはない。本当に。でも、そうしたらセンくんの人生もおかしくなる。もう十分におかしいけど、それは別として」
「はい」
わたしは頷く。
「でも、だれの人生もおかしいのよ。多かれ少なかれ。リツさんぐらいのときに、まさきを授かった。それはおかしいことだったけど、今は大切なことになってる。そうでしょう?」
「そうだと思います」
言いたいことはなんとなくわかる。
「リツさん。ちゃんと正面から向き合って」
「それは、おにいに」
「考えるのはリツさん自身」
麦田さんは首を振る。
まさきとよく似ている。母子なんだ。
「おかしいことになるのは仕方ないかもしれないけど、大切なことを見失っちゃだめ。あなたたちは両想いなんだから。なにかは得られるはず」
「なにか」
それはなんだろう。
「二度とまさきの前に現れないで」
「はい」
追い出されるように、わたしは麦田さんのアパートを後にする。帰り道はわからないままだったけど、この場にはいられなかった。どこへかは自分の脚で進むしかない。それだけはわかる
考えなければいけないのだ。
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