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第一章―飛び立つことさえ許されず―
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「ふぅ~。極楽極楽」
一日の疲れを癒す某入浴剤が入った浴槽の縁に腕をかけ、幸せな気分につかる。
今日は色んなことがあり過ぎたなぁ。
学級委員にはなっちゃったし、月代先生には気をつけろって言われるし。
「依理、あの後本当に怖かったしなぁ」
頭を叩かれ、頬をつねられ。
……グレてもいいやつなんじゃないかなぁ?
「月代先生に何かを耳元で言われた後から、拍車をかけて機嫌悪くなったし」
幸せな時間であるお風呂から上がり、髪の毛を乾かしていると、家の固定電話が鳴った。
「はい、もしもし。結城ですけど」
「……」
「もしもし?」
ガチャ ツーツーツー
無機質な通話の終了音が流れた。
「間違いか悪戯かな?」
あまり気にせずにいると、今度は携帯が鳴り、ディスプレイには日向――弟の名前が出ていた。
「もしもし?」
『なぁなぁ! 怪しい教師が来たって本当か!?』
「怪しい教師って」
……誰情報よ。依理かな?
日向が電話越しだというのに、大音量で話すせいで耳が痛い。
「日向、もう少し声量抑えて。ちゃんと聞こえてるから」
『あ、悪ぃ』
少し不機嫌そうに言うと、大人しく声量を下げた。
この弟は私の鼓膜を破きかねないと常々思っていたけど、とうとう言ってやった。
「……ふぅ。怪しいって言っても、何もされてないし。何とかうまくやっていけるよ」
『去年の夏、その何とかなる精神で挑んだ模試。散々な結果だった』
「それは……って何で知ってるの!?」
『一昨年の冬
「あぁ! もう分かった! 分かったから、ストップ!」
家族ゆえに知られている失態の数々を思い出させられてはかなわない。
依理といい、日向といい。どうして自分の周りには口達者な者が集まってくるんだろう。
おかげで上手く言い包められないようにするのは大変だ。
まぁ……嫌ではないからいいんだけども。
『なぁ、依理さんも通ってんだろ? 姉ちゃんも通えば?』
「こんな時ばっかり姉ちゃんなんて呼んで」
一緒に住んでいた時は姉と思われていないと自負していただけに、ここ最近の心配性は驚きを通り越して薄ら寒いものがある。
ただ、二人っきりの姉弟だから、嬉しくもあるけども。
『なぁ、まだあの……』
日向が何かを言いかけた時、また再び固定電話が鳴った。
「家の電話にかかってきたから切るよ?」
『おぅ。何かあったら絶対電話とか……』
「分かった分かった。じゃあね」
まだ喋ってる途中だったけど、終了ボタンを押し、携帯を閉じた。
まだ鳴りやまない電話の受話器を取り、耳元に持っていった。
「はい、もしもし。結城ですけど」
「……」
先程とは違い、すぐに切られはしないが、ずっと無言だった。
「あの、間違いですか?」
「……」
うんともすんとも言わない。
痺れを切らして、受話器を置こうとすると、ザァーッという音が受話器から聞こえてきた。
何だろう? ちょっと怖いけど……。
好奇心に負けてしまった私は、再び受話器を耳元にあてた。
「あと百日」
「っ!」
機械で声を変えたものが流れてきた。思わず受話器を取り落としそうになり、なんとか電話を急いで切った。
お風呂に入ったばかりだというのに、汗が背中をつたっていく。
今のは、何? 百日?
依理に電話をしたけれど、繋がらない。日向は……さっきの今だ。余計な心配をかけさせるわけにもいかない。
どうせ明日も学校だし、その時話せばいい。
私はソファーにゴロンと横になり、クッションをぎゅっと握り締めて目を瞑むった。そうすることで、カタカタと震える手を誤魔化した。
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