籠ノ中ノ蝶

綾織 茅

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第三章―愛するが故に―

11

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※ 十夜 side ※


「小羽チャン、寝ちゃったみたいダネ。フフ、可愛いナ」
「じろじろ見ないでよ」


 後ろの座席を身を乗り出して見る彼。

 できれば車から今すぐにでも出したい。


「酷いナァ。あのままいけば、君、完璧完全に彼女に嫌われてたヨ? それなりにリスクを払ったんだカラ、逆に感謝して欲しいくらいだヨ」
「……小羽に余計なことしないで」


 悔しいけど、小羽は彼のことを信頼してる。

 それが彼の狙い。

 彼の常套手段だ。

 信頼させといて、何をしたいのかは分からないけれど。


「……祭りは君が食事したいだけでしょ?」
「ん? 否定はしないヨ。それもまた事実だからネ」
「……小羽を騙すなんて」
「君だってそうデショ? 自分の事を棚に上げちゃ駄目ダヨ」


 そうやってのらりくらりと僕の言葉をかわす。

 ふいに彼の指が彼自身の片目に伸びた。

 ゆっくりと指を入れ、何かを取り出す。


「カラコンって便利だよネ?」


 その指先には、取り出されたブルー用のカラコンがついていた。

 金髪の前髪を下ろし、彼本来の姿を見せる。

 前髪に隠れた片目の色は……血のように赤い。


「便利なものはどんどん有効活用しないとね。たとえ人であっても物であっても。ねぇ、十夜?」
「……」


 どこかわざとらしいまでの片言だった日本語が、途端に流暢なものへと変わった。

 そして呼び名までも本来呼んでいるものに戻る。


「クスッ。……楽しみだね。これから色々と」


 窓の外に視線を移した彼の横顔をちらりと見て、小羽の姿をミラーで見た。

 籠の中から出されたと安心して眠りにつく蝶を。


※ 十夜 side end ※


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