ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

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あなたはどちら?

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□ □ □ □


 すったもんだがあった大儺の儀の翌々日。

 私は綾芽と一緒に市街に繰り出していた。瑠衣さんのところに行くでも、青龍社の神様のところに行くでもない。


「寒ぅて寒ぅてかなんわぁ」
「しっ!」


 うるさくしちゃダメ! 今、大事な尾行びこう中なんだから!

 後ろで着物のそでに両手をつっこんでいる綾芽をキッとにらみつけて黙らせる。ハイハイと肩をすくめ、綾芽は私達が今追っている人物がいる方に目をやった。

 キョロキョロと何かを探す素振りを見せる長身の男の人が、路地を曲がって視界から消えていく。見失うまいと、私はその背を追った。もちろん綾芽も後をついてくるに決まってるので、後ろは気にしない。

 全身黒ずくめの男の人――劉さんは、三軒さんけん先のお店に入っていった。

 うーん。私もお店に入っちゃったら確実にバレる。
 ……お店の窓から様子見が一番かな。

 お店の入り口ではなく、あえてとなりのお店側からの窓チラ見を実行しようと一歩を踏み出した時だった。


「ちょい待ち」
「ぐふっ」


 綾芽に後ろからお腹を抱えられ、身体が宙に浮いた。

 なんだなんなんだと身体をひねって綾芽の方を見ると、綾芽は私の身体を持っている方とは逆の手で携帯をいじっていた。どこか真剣そうな顔をしている気がしなくもないけど、今はそれどころじゃない。


「はーなーしーてー」
「ちょい待ちって。すぐやから」
「えー」


 何がすぐだって言うのさ。

 そもそも何やってんの?

 綾芽がいじる携帯の画面を見ようと身を乗り出すと、携帯をひょいっと見えないところまで上げられた。

 むぅと怒って見せると、ニヤニヤと笑ってる。

 おちょくって遊んでないで! 早く!

 少しの間そのまま携帯をいじった後、画面を消して袖にしまった綾芽が、私を抱えなおしながら尋ねてきた。


「なんで劉を追いかけてるのか知らへんけど、なんか勘違いしてへん?」
「かんちがい?」
「そや。自分、猪突猛進ちょとつもうしん型やから。また何や変な誤解して、自分から首つっこもうとしてんのと違う?」
「そ、そんなこと……ないよー」


 覚えがないわけでもない。だから、返事をする声がだんだんと小さくなってしまった。

 こっちの世界に来てから起こした事案は数知れず。反省はしてるけど、後悔こうかいはしてない事案も同じだけ。

 ……うん、もっと反省しよー。この件が終わったら。


「そもそも、なんで劉追いかけてるん?」
「えぇっとぉー、はなせばながくなるといいますかー」
「んー?」


 えっ、怖い。顔、怖い。笑顔でせまって来んといて。しかも、無駄に綺麗な顔と来たもんだ。

 ……ずるいぞ、このやろー! 白状するしかないやんかー! 


「このまえねー、まだばれてませんって、りゅうがだれかとはなしてるの、きいちゃったんだぁ。なにがばれてないんだろうっておもって」
「……あー。はいはい、なるほどなぁ」
「なにかしってるの?」
「まぁなぁ。そやけど、自分が心配するようなことはなぁんもないで?」
「ほんとぉにぃ?」
「ほんま、ほんま。さ、解決したんやから、屋敷戻ろか」


 解決、したのかなぁ?
 無理くり納得させられただけの気がするけど。

 まぁ、劉さんが何か失敗しちゃって怒られるようなことになってないならそれでいいんだけどさ。


「あやめさん? みやび?」


 綾芽が東のお屋敷がある方にきびすを返して歩き出そうとした時、お店からくだんの人物、劉さんが出てきてしまった。普段の散歩コースからも、見回りのコースからも外れているこの場所に現れた私達二人に、劉さんも目を丸くしている。


「やっ、やっほー」


 なんとも間抜けな返しをしたもんだと自分でも思う。この返しはない。

 微妙びみょうな空気が辺りに立ち込め、本当に、ほんっとーに後悔した。
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