ひよっこ神様異世界謳歌記

綾織 茅

文字の大きさ
240 / 314
目的のためには手段を選ばず

2

しおりを挟む

「そんな悩める君に、一日早いけど、バレンタインデーのプレゼントを持ってきたんだ」
「え? は? い、いらないっ」
「まぁまぁ、そう言わずに受け取ってよ。それに、君に受け取らないって選択肢せんたくしはないんだから」


 皇彼方が背後に手をやり、何かを引っ張り出した。

 それは、私の身体よりも小さくて……。


「はい、プレゼント」


 次の瞬間、ソレは簡単に宙に放り投げられた。力を使ったのか、見た目にそぐわずかなり高い位置まで放られたソレが、すぐに重力に従って落ちてくる。

 ……ものすごく甲高かんだかい悲鳴とともに。


「……あ、あせった」


 ソレが私の所まで来る寸前で浮いてくれたおかげで、一緒になって地面に激突するのはまぬがれた。

 反射的に両腕は前に出していたけれど、この身体では支えきれなかっただろう。

 その代わり、私の心臓はまだバクバクいっている。もうポクポクじゃなくてバクバクだ。なんなら、何かが口から出てきそうな気もするんだけど、大丈夫かな? 私の身体、大丈夫なのかな!?

 ……よし、一旦落ち着こう。深呼吸大事。
 すぅーはぁー。よし、準備おっけー。

 恐る恐る、降ってきたソレを見ると。


「ぷ、ぷれぜんとって……こ、こども!?」


 よ、よく分からないけど、見た目は一歳から二歳くらい? その子が大きな目にたっぷり涙を浮かべ、紅みを帯びた顔をくしゃりとゆがませている。

 プレゼントが子供で、子供が子供で、ぶん投げられて降ってきて……。

 ……いやいやいや、誘拐ゆうかいしてきただろう上に、幼児虐待ぎゃくたいですか、お兄さん! やることえげつないよ、お兄さん! 

 この場合、元老院に110番? ……いやいや、奏様だ。奏様に言いつけてやる! やーいやーい、怒られろー! そして今までのことも引っくるめて謝るがいい!


「相変わらず思ってることダダれだよ、お疲れ様。しかも、それ、本物の子供じゃないからね?」
「……どーゆーこと?」
「君と同じように身体がちぢんでるんだよ。といっても、その子の場合は精神も見た目相応に後退しているんだけど」
「は、はぁっ!?」


 私がつい大声を上げてしまったものだから、その子は余計甲高い声で泣き出した。

 よ、よしよーし。いい子だねぇー。いい子だよねぇー。
 ……お願いだから、泣きやんでぇー。

 こんな時、下に弟妹がいれば違ったのかもしれないけど、残念ながら私は一人っ子。意思疎通そつうはかれそうな子供ならまだしも、ここまで小さいとお手上げなんです! 大事なことなのでもう一度。お手上げなんです!

 あっちへフリフリこっちへフリフリ。思いつく限りのあやし方をやってみるも、全て玉砕ぎょくさい

 そんな私を面白そうに見ていた皇彼方がこちらへ背を向けた。


「じゃあ、僕、もう帰るね。あとよろしく」
「あっ! まって!」


 制止の声もむなしく、まばたきをしている間に皇彼方の姿は見えなくなってしまった。

 その代わり、お兄さんが屋根の上で立ち上がり、目の前に降ってくる。本当にダルそうな顔で、私とまだちょっとだけ宙に浮いてくれているこの子を見下ろしてきた。


「まったく。面倒なことは全部僕に押し付けるんだから」
「……ねぇ、どうしたらいいの?」
「その子の体内には、これくらいのたまめ込んであるわけ。で、その子はその珠に今まで成長してきた“時間”をうばわれてる」
「……」


 お兄さんが指で輪っかを作ってその珠とやらの大きさを示してくれる。

 丁度ビー玉くらいの大きさの珠が、この子の時間を奪ってる? どゆこと? 
 ……まさか、いやいやいや。そんな。

 一、二、三秒。お兄さんが言ったことの意味を頭で考え、真っ先に浮かんだのを無理矢理かき消す。だって、これが答えじゃあんまりだ。

 すると、ほんの僅かな時間しか待たせていないのに、これ以上は待てぬと、お兄さんが再び口を開いた。


「つまり、その子は生きてきた時間を逆行させられているんだよ。そうなると、最終的にどうなるかは……分かるでしょ?」
「え、えっと……いなくなっちゃうってこと?」
「そう。まぁ、正しくは死ぬわけじゃないけど、行きつく所まで行っちゃったら戻すのは不可能だし、その考えで間違いじゃない。で、君がやらなくちゃいけないのは、その珠に君の力を流し込むこと。その珠によって退行するのを、君の力と相殺そうさいさせて均衡きんこうを保つんだ。一日三回が妥当だとうかな。珠もえさだと思ってるわけだし。でもまぁ、安心しなよ。それを永遠にやり続けろって言うと馬鹿らしいから、期限を区切るんだってさ。二週間後までこの状態だったら珠を取り出してあげようって。珠を取り出せたら後は元老院が何とかするでしょ」
「……に、しゅうかん」


 二週間ということは、つまり十四日間。十四日間も文字通りこの子の命を預かる。

 顔見知りや家族同然の人達の怪我を力を使っていやすのとはまた訳が違う。正真正銘本物の命だ。

 責任重大すぎて、ゴクリとつばみこんだ。


「なに? できないの? たった二週間が」
「で、できるよっ!」


 ……あぁ、またやってしまった。
 薫くんや千早様で慣れているはずのあおり方に、今回もまんまとのってしまった。

 後悔は先に立たず。一度口から出てしまった言葉は二度と戻らない。

 頭を抱えてうずくまる私に、お兄さんの声が頭上から続けて降ってきた。


「言っておくけど、途中で元老院に助けを求めるのは駄目だからね。あいつが取り出すやり方以外で出そうとすると、途端に爆発する仕様になってるらしいから」
「ばっ!? はぁ!? ちょ、いま、ばくはつっていった!? ばくはつっていったよね!?」
「流し込むやり方だけど」


 顔を勢いよく上げて反応する私に、お兄さんはすずしい顔して話を続ける。

 は、な、し、を! 聞いて!
 どうして人外って、誰も彼も話を聞いてくれないんだよ、このやろー!


「君がいつも治療している時にしているようなやり方で構わないよ。心臓の辺りに珠があるから」
「……なんでわたしのちりょうしているときのやりかたしってるの?」
「そこは気にしなくていいから」


 いやいや、気にするよ! 見張られてる? 誰かに見張られてるの!?
 ちょっと色々ありすぎて、ツッコミが追いつかないんですけどっ!

 言いたいことを言い終えたらしいお兄さんは、地面に下りていた猫を抱きかかえ、再び屋根の上に飛びあがる。


「じゃあ、僕も帰るから。せいぜい頑張って」
「あっ! まだききたいことが……って、おにいさん、あなたもかっ!」


 そのままお兄さんも消えてしまった。

 戻し方はそれでいいかもしれないけど、人形じゃないんだから世話もしなきゃ駄目でしょうよー!

 それに、成長を逆行させているってことは、当然今までがあったわけで。そこら辺は……って、それもあっての二週間? まぁ、二週間くらいなら病欠セーフ? アウト? 大学生までならセーフなんだろうけど。社会人だったら……目も当てられないよね。当然無断だろうし。

 ……いやいや、大学生まででも駄目だった。
 そもそも誘拐やん、これ。あかんやん、これ。

 それに……ははっ。夏生さんに面倒事を持ってきやがってって、また怒られるのかぁ。……ねぇねぇ、君、一緒に怒られてくれる? なぁーんちゃって。

 ……はぁーーっ。

 この盛大な泣き声にも関わらず出てきてくれない大人達。
 軽く絶望に打ちひしがれ、縁側にそっと子供を下ろし、せっせせっせとあやしながら誰かが通りすがるのを待った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

底辺から始まった俺の異世界冒険物語!

ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
 40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。  しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。  おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。  漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。  この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

処理中です...