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夏といえばアレ
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しおりを挟む……さて。
周囲から見ればこの状況、父親と娘が仲良く並んでベンチに座り、お菓子を食べている微笑ましい光景に映るだろう。
が。
そう簡単に親子という関係を認めることができないのが、私とコノ人の距離感だ。
「ひとつ、きいてもいいでしゅ……いいですか?」
持っているミニ大福の袋に視線を落としたまま尋ねた。
「なんだ?」
「どうして、おかあさんとわたしをすてたの?」
「捨てる? 誰がだ?」
あくまでもしらを切るつもりですか? そうですか。
思わず横を見て段々と細まっていく私の目に、コノ人は何やら勘付いたらしい。僅かに僅かーに片眉が上げられた。
「待て。我とそなたには大きな見解の相違があるようだ」
「けんかいのそーい?」
「うむ。そもそも、我はそなたに嫌われるようなことはしていない」
「こそこそすとーかーしてました」
「あれはすとぉかぁではない。心配で後ろからついて行っていただけだ」
開き直ったぞ、この人。
そして、そういう人のことをストーカーと呼ばず、何と呼ぶ。
「捨てるなど、どうしてそういう思考が出てくるのか。どうもそなたは、優姫の母親の血が良くない方向で作用しておる」
「おばあちゃんの?」
「うむ。あれも大概だが、そなたもまた思い込みの激しい娘よ」
「お、おばあちゃんと……いっしょ」
私のお母さんのお母さん、つまり私のおばあちゃんにあたる人はとても……その……天然で、猪突猛進型で、とにかくすんごい人だ。
そんなおばあちゃんと一緒……大好きなんだけど、なんだかすごく複雑な気分。
「優姫とそなたの傍から離れることなどないというに、捨てるなどありえん」
「うそ。だって、ずっといなかった!」
「あちらの世界ではそなたが一つになるかならないかの時に、優姫曰く、我のせいでそなたが只人に拐かされてな」
「かどわ……って、ゆうかい? え? ゆうかい!?」
「うむ。それからというもの、視る力を持つ者にしか我の姿は見えぬようにしておいたのだ。他の者と違う故に悲しむやもしれんそなたのことが可哀想だと、優姫に頼まれてそなたの視る力に一定の制限をかけた。我は優姫に我の姿が見えていればなんら問題ない。だから、そなたが分からぬだけで、我はずっと傍にいた」
「……」
お母さんてば、ほんとに大事なことを私に色々言ってない。
ほんのちょっとだけ、私の心が動いた。
「……そばにいたっていうしょーこはありましゅか?」
「証拠?」
「あい」
「証拠と言われれば……そうだな。そなたが六つの時、社の境内で隠れて犬を飼っていたか。優姫にそなたの祖母がアレルギーだから飼えんと言われてしょぼくれておった。……まぁ、本当はその犬が送り狼だったからなんだが。それから四つだったか、幼いそなたが寝ている間に粗相をして起きた時、あまりにも動揺して優姫に言いだせずにいたものだから、我が庭の池に布団を落としてやったこともあったな。あれは後から優姫に我が怒られた。がっこうなるものに行き始めてからは昼食後の学問の時間に爆睡して教師に怒られていたり、優姫譲りの俊足で走るので一番をとっておったな。他にも
「すとーっぷ!」
これ以上はダメだ。
私が忘れている黒歴史も掘り出されかねない。
「どうだ? 我はそなたの傍にいたであろう? 人とは違い、我ら神は嘘はつかぬ」
「……わたしはあなたきらい、なわけじゃない、かもしれない」
ま、まぁ、小さい頃から燻っていた父親への想いも少しは昇華できた、気がする。
「ならば、呼んでみよ」
「なにを?」
「我を、パパさんと、だ」
「……」
やっぱり、前言撤回、しようかな。
変人が父親は嫌だ。
なんでその呼称に異常にこだわるのさ。
「いたいた! お二人さん、探したぜ」
「自分らも一緒にお祭り楽しませてもらうわ。……もうえぇですやろ?」
「うむ」
見回りの交代時間になったのか、綾芽と海斗さんが合流した。
二人は私達親子の関係が少しでも縮まったのを感じ取ったのか、私の頭をわしゃわしゃと撫でてくる。
せっかく綺麗に結ってもらったのに、やめてほしい。
しかも、なんでコノ人に許可をとる必要があるんだろう?
よく分かんないけど、まぁいいや。
「良かったなぁ、仲直りできて」
「……うん」
綾芽の言葉に、私は背中の帯に挟んでいたうちわで顔を隠した。
「まずはそうだな……金魚すくいでもやるか」
「やる! わたし、やる!」
「おっ、なら勝負だ」
ニヤッと笑う海斗さん。そんな海斗さんを見上げる私。
バチバチっと目には見えない電流が私と海斗さんの目の間で光ったかと思えば、同時に目に入っていた金魚すくいの屋台へと走っていた。
「よっしゃ、俺が一番! 親父、網二つ。俺と、あのチビの分」
「あいよ。ほれ、網とカップだ」
「ま、まって」
「ほらよ。水が入ってるから溢すなよ?」
「わ、わかってる……ありがと」
息が、く、るし……ちょっと、休憩、してからにしよ。
その後、四人でお祭りを回り、はしゃぎすぎてその日の夜、疲れ果ててぐっすりと眠れたことは言うまでもない。
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