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本当は怖い賑やかなお祭り
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しおりを挟む夏生さん達の部屋に戻ると、巳鶴さんが黒木さんや瑠衣さんと三人でお茶を飲みながら皆の帰りを待っていた。
「ただいまー」
「お帰りなさい。どうでしたか?」
「むふふ」
グッとサムズアップ。
ちょぉーっと予想外のことも起きちゃったけど、それは言わないでおこう。
あれはなかった。うん、なかった。
……よし。
「こちらでお茶でも飲みながら待ちましょう」
「はーい」
巳鶴さんの隣に座って淹れてもらったお茶を一口飲む。
はぁー落ち着くわぁー。
「そういえば、ここの神様、人柱はなくなっても今までの蓄積的なヤツは大丈夫なのかな?」
「そうですね。確かにそれはなんとかしなければいけないでしょう。夏生さんも考えてはいるでしょうから、帰って来てからでも聞いてみましょうか」
「そっか」
ピコンと誰かの携帯が鳴った。
私の、ではないな。
持たされたスマホを見ても画面は変わっていない。
「巳鶴さんのではないですか?」
「……そうみたいですね」
黒木さんが巳鶴さんへそう尋ねると、巳鶴さんがスマホを操作して目を通し始めた。結構な長文だったのか、視線は随分と長い間スマホに釘付けだった。
「……ふぅ」
「何かありましたか?」
「あぁ、いえ。ちょっとこの土地のことを調べて欲しいと南の凛に頼んでいたんですが、その連絡が来ましてね。どうやら、この土地は他にも後ろ暗いところがあるようですね」
「……う、後ろ暗いところって?」
「貴女は知らなくてもいいことですよ」
巳鶴さんがニコリと笑う。
こういう時の巳鶴さんは何がどうなっても教えてはくれない。
下手にそれ以上知りたいような素振りを見せると本気で怒られるから、この話題に乗っかるのはやめておこう。どう考えても楽しい話にはならないだろうし。
黙ってお茶を飲む私の判断は正しかったようで、巳鶴さんは頭を撫でてきた。その後、子瑛さんと一緒に難しい顔をして地図やスマホと睨み合っている。
瑠衣さんと黒木さんも、待っている間が勿体無いと、部屋に置いてあった紙とペンでお店の新作メニューを考え始めた。
瑠衣さんが雅ちゃんもと誘ってくれて途中まで参加してたけど、二人が考える美味しそうなメニューに今すぐにでも食べたい気持ちが募り、あえなく自主脱落。
だってお腹、空いてきたんだもの。それなのに紙の上にしかない美味しそうなスイーツ。どれだけ辛い拷問か。
……あー。
「雅さん?」
私が立ち上がって襖を開けたのを見て、巳鶴さんが声をかけてきた。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
トイレがある方を指差して襖を閉めた。
結構お茶を飲んだからか、寒いからか、トイレがいつもより近い。お茶は美味しいけど、利尿作用があるからちょっと困ったものだ。
手早くお手洗いを済ませ、部屋に戻ろうと襖に手をかけた時、背後から鈴の音が聞こえた、気がした。
時間的に旅館の人は皆寝静まっている頃だろうし、綾芽達が帰ってきているとも聞いていない。
唾をゴクリと飲みこんだ。
「ゆ、幽霊さんなら一回、違うなら二回鳴らしてください」
チリンチリン
よ、良かった。とりあえず幽霊じゃない。
……じゃあ、何よって話になるんだけどもね。
アノ人もまだ部屋にいるし、何も言わないってことは害はないんだろうけど。
……ちょっと覗いてみるだけ。
スススーッと滑らかに動く出口の襖をほんの少しだけ開けてみた。
そこにいたのは一匹の猫だった。しかも、どこか見覚えがある気がする。
「どこから入ってきたのー?」
襖をさらに開け、その猫を抱き上げようと屈んだ、ら。
「君、学習しないよね」
その声はっ!
上から降ってきた声は聞き覚えがありまくるものだった。
顔を上げると、やはりというか、奏様に栄太と呼ばれていたお兄さんのものだった。
そして、横から猫をかっ攫っていってしまった。
「……もしかして、貴方もこの件に関わってる?」
「僕が? まさか」
フンと鼻を鳴らすお兄さんは本当のことを言っている気がする。勘だけど。
でも、それなら何でここにいるんだろう?
「忠告しに来てあげたんだよ。君、あんまり自分の力を過信しないことだね」
「どういうこと?」
「神の娘だからって結構力に任せて色々やってるみたいだけど、人間は愚かだよ? 口約束なんてすぐに反故にするからね」
「……あっ!」
外の廊下に出て、猛ダッシュした。目指すは大女将さんのお部屋だ。
部屋の襖を開けると、そこはもぬけの殻だった。
「……なんで」
「口約束を信じる方も馬鹿なんだよ」
「うぅうるさい!」
とりあえず、まずはみんなに報告だ。
私は元いた部屋にとんぼ返りした。
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