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本当は怖い賑やかなお祭り
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しおりを挟むよく分からない場所だけど、声がずっと聞こえてるせいで道に迷ったりしないから全然問題じゃない。
それは、それだけはっ! 問題じゃないけどもっ!
「……これは問題だよぉ」
人が好きだった。
神位の低かった自分を祀ってくれて、ここまで高くなれた。
毎日せっせと掃除をしてくれ、話しかけてくる人が、好きだった。
人が、好きだった、のに。
神様の気持ちが流れ込んでくる。
人が好き“だった”と過去形になっていることに、神様は気付いているのかな?
ううん。気付いているから余計に悲しいんだ。本当に人が大好きな神様だからこそ。
ズズッと出てきた鼻水をすすった。視界が歪んでくる。
「助けて」
今までで一番その声が大きく聞こえた時、気付いたら少し離れた先に誰かが背を向けて立っていた。
その人が、伸ばした片手をゆっくりと上げていく。何をする気かなんて、背後から聞こえてくる音でよく分かる。
後でとんでもなくお腹が減るだろうけど、そんなこと気にしてられない。
音がする方を振り返って、自分にできることをしなきゃいけないんだから。
「神様はっ! この土地が、ここの人達が大好きなんじゃないのっ!? 自分で壊しちゃっていいの!?」
あっ。どうしよう。やっぱりすごく怖い。
土砂崩れなんて初めて見た。しかも、もうこれは土砂崩れっていうよりも、土石流って言った方が正しいかもしれない。
ただ一つ救いなのは、ここがまだ山の中腹の開けたところだってこと。
いつのまにか、人には通れない道を通ってきたのかもしれない。遠くに温泉郷の明かりが見える。
そうだ。
神様だけじゃなくて、私にだって、あそこに守りたい人達がいる。
一人だったら絶対に逃げ出してただろうけど、というかこんな所に来さえしないだろうけど、今の私は一人じゃない。
離れていても、同じ時に頑張っている綾芽達がいる。
だから私は頑張れるし、頑張るしかない。
今、どれだけ自分の力があるのか分からないけど、自分にできる限りの全力を出し切る。
そう決めて踏ん張った。
土石流が流れてくる方へ手を伸ばし、急いで広範囲に結界を張って流れをせき止めた。
でも、神様してきた年月が違い過ぎるから、いつまでコレが防げるかは分からない。下手したら山全体が崩れちゃうってことも十分にあり得る。
それを根本的に解決するには、やっぱり神様を止めないとダメだ。
「私は聖人君子じゃないからっ! 全員を助けようとは思わないけどっ! 助けられるとも思ってないけどっ! せめて自分の大好きな人達には笑顔でいて欲しいと思うよっ! 神様はっ!?」
声を張り上げて、離れた所に立っている神様に向かって叫んだ。
それでも神様がこちらに反応を見せてくれることはない。
あぁ、もうっ! なんで声が届かないの!?
神様は助けを求めてきているはずなのに、自分で自分の耳を塞いでしまっている。そんなんで誰かが救いの手を差し伸べても気付けるはずがない。
……なんだかすっごくイライラしてきた。
そもそも、今の時代まで人柱が続いたのも神様が途中で断らなかったからだと思うのよ。信仰心が本物なら、ちゃんとやめてると思うの。
こうなったのも、確かにこの土地の人達のせいってのもあるけど、神様だって少なからず悪い。
つーまーりー。
「ふっざけんなー!」
ご褒美で温泉旅行もらってるのに、なんでみんなとゆっくりできないの!?
大事な場所や大事な人達なら、自分で守らなくちゃ誰が守ってくれるっていうのさ!
感情が昂るにつれて、身体の内側から何かが沸き起こってきた。
張っている結界の範囲が一気に広がっていく。
「はい、どうどう」
声と同時に見覚えのある背中が目の前に立ち塞がった。
白く長い髪がフワリフワリと宙に浮いている。
「あんまり他所の神域で勝手するのは良くないけど、今は非常事態よねぇ?」
「オネェさん!」
「ハッアーイ。……ふふっ。やっぱり元の姿の方がイイじゃない」
「……あ」
い、今はそれどころじゃないよね?
目の前のことに集中する方が大事だと思いまーす。
「オネェさん、これ、なんとかできる?」
「まぁね。可愛らしくおねだり」
「ねぇ、オネェさん。とっても困ってるの。お願い」
そんなのお安い御用だ。
若干言いかけたのもあったみたいだけど、ショートカットさせてもらいますよ?
だって、時間がないんだもの。
片手で服を掴んでいつものお菓子買ってもらいたい時のおねだりフォームで言ってみたら、オネェさんたら口を押えて横を向いてしまった。
「なにこの子。やだこの子」
ブツブツ聞こえるけど、気にしてられないくらい私はこれでも切羽詰まってるんだけど。
オネェさん、今の状況本当に分かってる?
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