アメン

平 一

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4 親衛軍

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「〝純真侯〟グラシャラボラスは〝歴史あるもの〟の中では若き種族ですが、親衛軍バールゼブル艦隊の情報部門副司令官にまで昇任できたのは、その労苦と努力によるところ大でありました。彼女は〝未来あるもの〟の時代、近隣星系の三つの種族と交戦状態にあったため、恒星間航行技術を開発しながらも帝国への加入を留保されていました。他の種族はいずれも技術水準においては彼女と同程度でしたが、排他的かつ好戦的な性質を持ち、彼女の和平提案にも応ずることなく相互に戦闘を継続しました」

「彼女は戦争による資源の消耗や惑星攻撃手段の発達を憂慮し、侵攻型宇宙艦隊の建造中止と広域的な星系防衛手段の構築を決定しました。彼女の攻撃戦力の弱体化に気づいた他の三種族は連合してその星系を攻略しましたが、母なる恒星を動力源とする惑星規模の電磁障壁と対宇宙迎撃兵器により、撃退されました。しばらく後に彼女の偵察艦隊が三種族の星系を訪れたところ、いずれも相互の対惑星攻撃により絶滅に瀕しておりました。彼女は寛大にも、悲劇的な戦乱に培われた強靱さを以て各種族の存続と復興を支援し、図らずも近隣宙域における指導的な地位に就くと共に、帝国への加入を承認されました」

図14:成長


「彼女は優れた軍事種族と認定され、その後は親衛軍に所属して文明発展の段階を上りましたが、本来は戦争を好む性質ではありませんでした。特に宇宙進出後の歴史においては、平和的で豊かな文化の恩恵を得ることが叶わなかったので、これを求めて憧れる感情が著しく、その悩みを友好種族アスモデウスに告げたところ、現皇帝の友好種族バールゼブルを紹介されました。バールゼブルも、元々はその戦闘能力から親衛軍に配属されたのですが、種族融合化以降は才知によって他種族との権力闘争を回避し、あるいは彼女達を教化することによって、その地位を保持していました。加えて彼女は、銀河系の多種多様な文明形態に関する関心と造詣が深く、さらに重要なことに、戦争は政治のための止むを得ざる一手段に過ぎないことを深く知る、当時の強権的な親衛軍の司令官には数少ない、賢明な種族だったのです。彼女達は親交を深めました」

図15:友愛


「グラシャラボラスはバールゼブル艦隊への異動を希望して配属された後、苛酷な宇宙戦闘における惨害を最小化すべく、高性能な防御兵装の研究を提案しました。彼女はかつて自らが考案した電磁障壁の概念をさらに発展させ、あらゆる発射体・照射型兵器のみならず、最新の遠隔素粒子操作兵器にも対応が可能な、統一力場障壁の展開装置を開発することに成功しました。この新装備は全親衛軍への配備が決定され、彼女は同艦隊の副司令官に昇任しました。ただしその開発に際しては、当時すでに同艦隊の技術部門副司令官であったアミーに加え、その姉妹種族ストラス・ヴォラクもまた多大な貢献を果たしたことは、無用の関心を避けるため秘匿されました。前王朝の疑惑が判明した時、サタンはこれをバールゼブルとアスタロトに通知すると共に、前者からは秘密裏に力場障壁の技術を入手しました。彼女はまた〝戦闘中における味方からの奇襲〟に備えるべく、障壁が受けた攻撃を自動的に反撃用動力へ変換出力できるよう、ストラスにさらなる改良を依頼したうえで、その技術を両者に提供したのです」

図16:防備


「〝皇帝領の戦い〟と呼ばれる戦闘において、バールゼブル艦隊はアミーの航法計算に基づき、非人道的な超新星化攻撃を行っていた敵艦隊を追撃しました。その際に先鋒を務めたのが、グラシャラボラスの分艦隊です。彼女の艦隊に捕捉された敵艦隊の司令官は、中枢種族ザフィエルの認証符号付き秘密通信によって停戦を求めると同時に、バールゼブルの暗殺と引換えに司令官職を与える旨の密約を提案しました。しかしザフィエルは、彼女がこれを拒絶するや、超空間駆動による逃走準備に入ると同時に、全力で奇襲攻撃を実行しました」

図17:陥穽


「後に、同駆動装置は従来型とは桁違いの出力と速度を供給できたものの、燃費改善の失敗や攻撃優先の思想といった理由から、燃料・武器の搭載のため防御設備や損傷対策が犠牲となっていたことが判明しました。グラシャラボラス艦隊の力場障壁は、奇襲に耐え抜きました。少壮の艦隊副司令官が真に憎んでいたものは秩序の崩壊それ自体ではなく、一部種族の利益のために引き起こされた戦争の惨禍でした。歴史ある旧帝国の中枢種族が、自ら帝国の主要部を荒廃させたばかりか、そうした心情を最期の時まで遂に理解し得なかったことは、誠に残念な事実です」

「グラシャラボラスは銀河系の平和が回復された後、旧皇帝領復興開発長官となったバールゼブルの軍事部門副長官として、情報部門の同輩アミーと共に同星域の再建に従事することとなりました。彼女は現在、歴史的・文化的調査及び物質・動力の回収を行いつつ、被災惑星の移動と再生、さらには力場障壁技術を応用した恒星の再創造計画にも成功し、その歴史において最も幸福な時期を迎えているものとみられます」

図18:成就
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