愛慕

平 一

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1 経緯

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人類が星間帝国に参加して以来、
その政治には関心を持っている。
政府から重大発表があるというので、
報道映像を見た。

束ねた髪を向かって右側に垂らした、
体格が良く、元気そうな少女が、
視聴者に向かって微笑んでいる。 
……ヴォラクだ。



正確には〝新帝国〟の理事種族、
ヴォラクの代表人格だ。
帝国の最先進種族達は
量子頭脳への人格転移マインドアップローディングによって、
大量高速演算と共有人格形成を可能とし、
神魔の如き力を備えた高度な文明活動を営んでいる。

ヴォラクは量子人格化種族の複製計画から
生まれた、双子種族の一方だ。
人類向けの放送などで、
人間型の分離個体ヒューマノイド・アバターを使う時には、
姉妹種族のアミーと区別するため、
髪型や装飾品アクセサリーの左右を変えている。

『皆様、お早うございます。
本日私、新帝国の理事種族ヴォラクは、
現在進行中の軍事裁判で判明した重大事実について、
帝国内の全星域に対し、次のとおり報告します』

最先進種族は個々の人格を保ちつつ、
種族の総意を体現する共有人格も持てるので、
代表者が種族として喋る形式をとったり、
種族の代名詞が単数形だったりして、ややこしい(笑)。

『ご存知のように、銀河系中央部に近い
〝旧皇帝領〟にある惑星メギドでは、
〝大戦〟すなわち旧帝国を滅ぼした内戦における、
戦争犯罪についての裁判が行われています』



『〝先帝〟種族が率いる旧帝国は、
銀河系統一の偉業を成し遂げましたが、
後に側近軍事種族の腐敗と抗争から、
悲惨な内戦が生じてしまいました。
これにより〝先帝〟を初め多くの種族が滅亡し、
あるいは甚大な被害を受けました』

『〝剣の王〟〝炎の王〟〝慈愛の王〟
そして〝啓示の王〟の四大種族は、
〝先帝〟の側近団をなす〝中枢種族〟の中でも
特に絶大な権力を持つ、量子人格化種族でした。
〝先帝〟種族と同様に、
彼女達もまた銀河帝国の権威を示すため、
その真名まなを用いることなく、
別名によって呼ばれたのです』



『〝剣の王〟は、
鷲に似た猛禽もうきん類から進化した種族で、
巨大な宇宙艦隊を建造し、
親衛軍の総司令官を務めていました』

『〝炎の王〟は、
獅子に似た肉食動物から進化した種族で、
惑星攻撃兵器、後には恒星破壊兵器も生産する、
軍需省長官でした』

『〝慈愛の王〟は、
猿に似た雑食動物から進化した種族で、
資源・環境負荷が少ない生物化学戦を担当し、
民需省長官に任命されました』

『〝啓示の王〟は、
牛に似た草食動物から進化した種族で、
量子頭脳技術による情報戦を得意とし、
情報省長官となりました』

『多くの種族が覇権を巡って争う中、
四大種族はそれぞれの分野において
帝国の拡大と銀河系の統一に貢献し、
他の種族から恐れうやまわれました』



『旧帝国では文明開発長官であった
現皇帝種族サタンが、〝先帝〟種族の命により、
発展途上種族を支援するために用いた神話にも、
四大種族が登場したほどです』

『将来の帝国との関係を良好にできるよう、
現皇帝の分離個体が自ら悪役を演じる一方で、
四大種族の基本形態は、〝先帝〟をする善神の
守護天使達の姿として紹介されたのです』



そう、私達は知っている。 遥か昔の時代から……。
空想科学小説サイエンス・フィクションの巨匠A.C.クラークが書いた
「幼年期の終わり」という傑作は、
完全一致ではなくても、予言的作品となったわけだ。

『しかし〝大戦〟により、状況は一変しました。
〝剣の王〟と〝炎の王〟は、最終決戦となる
〝アンドロメダ戦役〟において滅亡し、
大部分の戦略兵器とその運搬手段を失った
〝啓示の王〟と〝慈愛の王〟は、
新帝国に降伏しました』

『裁判に向けた取調べにおいて、
四大種族の中でも特に〝啓示の王〟は、
量子人格化種族の判断にも干渉できる
不正演算指示ウイルスプログラムを開発し、
他種族の重要な決定に対して強い影響力を
及ぼしていたことが判明しました』

『そのため彼女は現在、特別法廷において
集中的な審理を受けつつあります。
〝大戦〟は中枢種族による〝先帝〟種族の傀儡かいらい化と
相互の抗争から生じたものだったので、
彼女がその黒幕として、最も責任を
負うべき種族と推認されたのです』

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