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第1部
04 初のトラブル発生!
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前世を思い出してから数日が経った。
思い悩んだところで時間は待ってくれない。
ここのところあまり良く眠れていないが、今日も仕事だ。
いつも通りに身支度を整えリビングに向かうと、机の上には朝食が用意されていた。
ギルの姿は見えない。
入団式を終え、正式な騎士団員になったギルは今日も早朝から鍛錬に向かったようだ。
朝が弱い俺の為に、ギルは以前から朝食を用意してくれていた。騎士団員になってからも、忙しいだろうに俺の分まで朝食を用意してくれている。
「俺、ギルの負担にしかなってないよな……」
入団式のギルを思い出す。美しい白いマントを羽織った堂々とした立ち姿に、俺は会場の最前列でポーっと見とれていた。しかし、新入団員代表の挨拶が終わるころ、周囲から聞こえた感嘆の声にハッとした。
騎士になる前からも領主の義息として人気が高かったギルだが、これからは更に人気が高まるだろう。
対して俺は第二王子の地位くらいしか持っていないし、その地位も微妙なものだ。小説とか関係無く、俺とギルでは到底釣り合いが取れないんだ。
「はぁ、へこむなぁ……」
失恋が確定したことを理解していても、なかなか心から受け入れられはしない。その上、ギルは騎士団に入ってから朝は俺が起きるより早く出るようになり、夜は団の懇親会が続いていてなかなか顔を合わせることすら出来ていないのだ。
「いや、合わせる顔もないけど」
好きバレしているのだと思うと、ギルの顔をまともに見れそうにない。だから、このすれ違いは却ってありがたい面もあるんだ。
そう考えつつ俺は朝食を食べ終えると、のろのろと職場に向かった。
安全になったこの街に、魔法薬の研究所が出来たのは今から4年前。今年の春に辺境の学園を卒業してからは、俺も薬師として研究所で働いている。
ここでは第二王子ではなく、働き始めて数か月の下っ端研究員として扱ってくれるからとても気が楽だ。
というのも、俺は辺境に来てからずっと身分を隠している。俺が第二王子だと知っているのはギルの他には辺境伯くらいだ。
「レイ! 今日の分はこれだよ」
「はい、ありがとうございます」
「重いから気を付けろよー」
下っ端研究員の仕事は多岐にわたる。今日は冒険者ギルドに魔法薬を納品する日だ。俺は魔法薬の入った箱を受け取り、研究所を出た。
「いい天気だな~」
秋晴れの空は雲一つなく、爽やかな風が心地いい。街路樹の紅葉を楽しみながら道を歩いていたその時だった。
「わあっ!」
地面に敷かれたレンガのほんのわずかな段差に足を取られ、バランスを崩す。魔法薬の入った箱が手元を離れ、放物線を描いて飛んでいった。
「危ない!」
ちょうどそのタイミングで、道の向こう側からギルとミアさんが駆け寄って来た。思い出した。これもまたトラブルの一つだ。
小説での流れはこうだ。
ギルとミアが街を巡回中、転びそうになったレイを見かける。ミアは魔法薬の入った箱を受け止めるが、勢いで後ろに倒れかけてしまう。それをギルが抱き留める。
そんな感じの、よくあるラッキースケベ的な出来事だ。
レイは地面にぶつかるが、魔法薬が無事なだけでも良いとしよう。
俺は来るであろう痛みに備え、ぎゅっと目をつぶった。
「……?」
思っていたような衝撃は来なかった。俺の体は筋肉質な胸と、二本の腕でしっかりと抱き止められていた。
「間に合ってよかった。レイ、もう大丈夫だよ」
頭上から聞こえる甘い声に思わず顔を上げると、すぐ近くにギルの顔があった。
走ってきてくれたからか、少し上気した頬に真っ直ぐな黒髪が一筋はらりと落ちた。
かっこいい……じゃなくて!
「ミアさんは!?」
顔を起こして周囲を見回すと、ミアさんは箱を抱えたまま尻もちをついていた。
「大丈夫ですか!?」
「はい。魔法薬は無事です」
ギルの腕から抜け出し、慌ててミアさんに駆け寄る。
俺がギルと仲良くなりすぎたせいで、ギルは目の前の俺を助ける方を優先してしまったんだ。
「ごめんなさい、ミアさん。俺のせいで怪我を……」
ミアさんは大した怪我ではないと言うけど、小説なら負わなくていいはずの怪我を負わせてしまったのだ。
俺は魔法薬をポーチから取り出すと、ミアさんに渡した。
「これ、良かったら使ってください」
新人とはいえ薬師の端くれとしては自作の魔法薬くらい常備している。ミアさんに渡したやつは打撲に効くタイプの魔法薬だ。
ミアさんは俺が差し出した魔法薬をじっと見つめると、チラリと俺の後ろーーギルの様子を伺った。
その仕草にハッとした。
小説のによればミアさんもギルの事を意識しているはずだ。気になる人の前でモブ男からの贈り物を受け取るなんてしたくないかもしれない。
それにギルだってモブ男から贈り物を受け取るミアさんを見たくないかもしれない。
「あ、騎士団にはもっと良い魔法薬がありますよね。これはやっぱりーー」
「受け取ります。ありがとうございます」
ミアさんは早口でそう言うと、魔法薬を俺の手から取った。
これで良かったんだろうか。でも、俺の魔法薬はよく効くから使ってくれると嬉しいな。
「で、これは冒険者ギルドまで運べば良いんだよね? 俺が持つから一緒に行こう」
いつの間にかギルは魔法薬の入った箱を手にしていた。
「だ、駄目だよ。ギルも仕事中だろ?」
「でもまた転んだら危ないだろう? 市民を助けるのも騎士の仕事の内だよ。行ってきて良いですよね、先輩?」
「……分かりました。お手伝いしてきなさい」
「はい! さ、行こうか」
俺が口を挟む間もなく決まってしまったようで、ギルは片腕で箱を抱えるともう片手で俺の腰を支えた。
「支えてもらわなくたって大丈夫だって!」
「ふふ、でもさっきみたいに何にもないところで転んだら危ないだろう?」
「むぅ、それはそう、だけど」
久々に面と向かって会話をすると、気まずい思いなんか全く無かった。以前と同じような小気味良い会話に自然と笑顔が零れる。
ギルも嫌な顔一つせず目を細めて笑ってくれていた。
ギルとヒロインとの仲を深めるためには遠慮すべきなんだろうけど、ギルが嫌がってないなら、良い、かな?
冒険ギルドに着くまでの間、俺はギルの体温を隣に感じつつ会話を楽しんだ。
思い悩んだところで時間は待ってくれない。
ここのところあまり良く眠れていないが、今日も仕事だ。
いつも通りに身支度を整えリビングに向かうと、机の上には朝食が用意されていた。
ギルの姿は見えない。
入団式を終え、正式な騎士団員になったギルは今日も早朝から鍛錬に向かったようだ。
朝が弱い俺の為に、ギルは以前から朝食を用意してくれていた。騎士団員になってからも、忙しいだろうに俺の分まで朝食を用意してくれている。
「俺、ギルの負担にしかなってないよな……」
入団式のギルを思い出す。美しい白いマントを羽織った堂々とした立ち姿に、俺は会場の最前列でポーっと見とれていた。しかし、新入団員代表の挨拶が終わるころ、周囲から聞こえた感嘆の声にハッとした。
騎士になる前からも領主の義息として人気が高かったギルだが、これからは更に人気が高まるだろう。
対して俺は第二王子の地位くらいしか持っていないし、その地位も微妙なものだ。小説とか関係無く、俺とギルでは到底釣り合いが取れないんだ。
「はぁ、へこむなぁ……」
失恋が確定したことを理解していても、なかなか心から受け入れられはしない。その上、ギルは騎士団に入ってから朝は俺が起きるより早く出るようになり、夜は団の懇親会が続いていてなかなか顔を合わせることすら出来ていないのだ。
「いや、合わせる顔もないけど」
好きバレしているのだと思うと、ギルの顔をまともに見れそうにない。だから、このすれ違いは却ってありがたい面もあるんだ。
そう考えつつ俺は朝食を食べ終えると、のろのろと職場に向かった。
安全になったこの街に、魔法薬の研究所が出来たのは今から4年前。今年の春に辺境の学園を卒業してからは、俺も薬師として研究所で働いている。
ここでは第二王子ではなく、働き始めて数か月の下っ端研究員として扱ってくれるからとても気が楽だ。
というのも、俺は辺境に来てからずっと身分を隠している。俺が第二王子だと知っているのはギルの他には辺境伯くらいだ。
「レイ! 今日の分はこれだよ」
「はい、ありがとうございます」
「重いから気を付けろよー」
下っ端研究員の仕事は多岐にわたる。今日は冒険者ギルドに魔法薬を納品する日だ。俺は魔法薬の入った箱を受け取り、研究所を出た。
「いい天気だな~」
秋晴れの空は雲一つなく、爽やかな風が心地いい。街路樹の紅葉を楽しみながら道を歩いていたその時だった。
「わあっ!」
地面に敷かれたレンガのほんのわずかな段差に足を取られ、バランスを崩す。魔法薬の入った箱が手元を離れ、放物線を描いて飛んでいった。
「危ない!」
ちょうどそのタイミングで、道の向こう側からギルとミアさんが駆け寄って来た。思い出した。これもまたトラブルの一つだ。
小説での流れはこうだ。
ギルとミアが街を巡回中、転びそうになったレイを見かける。ミアは魔法薬の入った箱を受け止めるが、勢いで後ろに倒れかけてしまう。それをギルが抱き留める。
そんな感じの、よくあるラッキースケベ的な出来事だ。
レイは地面にぶつかるが、魔法薬が無事なだけでも良いとしよう。
俺は来るであろう痛みに備え、ぎゅっと目をつぶった。
「……?」
思っていたような衝撃は来なかった。俺の体は筋肉質な胸と、二本の腕でしっかりと抱き止められていた。
「間に合ってよかった。レイ、もう大丈夫だよ」
頭上から聞こえる甘い声に思わず顔を上げると、すぐ近くにギルの顔があった。
走ってきてくれたからか、少し上気した頬に真っ直ぐな黒髪が一筋はらりと落ちた。
かっこいい……じゃなくて!
「ミアさんは!?」
顔を起こして周囲を見回すと、ミアさんは箱を抱えたまま尻もちをついていた。
「大丈夫ですか!?」
「はい。魔法薬は無事です」
ギルの腕から抜け出し、慌ててミアさんに駆け寄る。
俺がギルと仲良くなりすぎたせいで、ギルは目の前の俺を助ける方を優先してしまったんだ。
「ごめんなさい、ミアさん。俺のせいで怪我を……」
ミアさんは大した怪我ではないと言うけど、小説なら負わなくていいはずの怪我を負わせてしまったのだ。
俺は魔法薬をポーチから取り出すと、ミアさんに渡した。
「これ、良かったら使ってください」
新人とはいえ薬師の端くれとしては自作の魔法薬くらい常備している。ミアさんに渡したやつは打撲に効くタイプの魔法薬だ。
ミアさんは俺が差し出した魔法薬をじっと見つめると、チラリと俺の後ろーーギルの様子を伺った。
その仕草にハッとした。
小説のによればミアさんもギルの事を意識しているはずだ。気になる人の前でモブ男からの贈り物を受け取るなんてしたくないかもしれない。
それにギルだってモブ男から贈り物を受け取るミアさんを見たくないかもしれない。
「あ、騎士団にはもっと良い魔法薬がありますよね。これはやっぱりーー」
「受け取ります。ありがとうございます」
ミアさんは早口でそう言うと、魔法薬を俺の手から取った。
これで良かったんだろうか。でも、俺の魔法薬はよく効くから使ってくれると嬉しいな。
「で、これは冒険者ギルドまで運べば良いんだよね? 俺が持つから一緒に行こう」
いつの間にかギルは魔法薬の入った箱を手にしていた。
「だ、駄目だよ。ギルも仕事中だろ?」
「でもまた転んだら危ないだろう? 市民を助けるのも騎士の仕事の内だよ。行ってきて良いですよね、先輩?」
「……分かりました。お手伝いしてきなさい」
「はい! さ、行こうか」
俺が口を挟む間もなく決まってしまったようで、ギルは片腕で箱を抱えるともう片手で俺の腰を支えた。
「支えてもらわなくたって大丈夫だって!」
「ふふ、でもさっきみたいに何にもないところで転んだら危ないだろう?」
「むぅ、それはそう、だけど」
久々に面と向かって会話をすると、気まずい思いなんか全く無かった。以前と同じような小気味良い会話に自然と笑顔が零れる。
ギルも嫌な顔一つせず目を細めて笑ってくれていた。
ギルとヒロインとの仲を深めるためには遠慮すべきなんだろうけど、ギルが嫌がってないなら、良い、かな?
冒険ギルドに着くまでの間、俺はギルの体温を隣に感じつつ会話を楽しんだ。
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