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第1部
05 異母妹が来た!
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次の休日。久しぶりに俺とギルの休みが重なった。
こういう日は二人で街に出かけることも多いのだが、今日は二人そろって家にいた。
なぜなら……
「レイライトお兄様! お邪魔しますわ!」
リビングの奥に設置された転移陣が突然光を放つ。そこから飛び出してきたのは、俺の可愛い異母妹、リリーだった。
「いらっしゃい、リリー。待ってたよ」
いつも通りぎゅっと抱き止める。淑女らしくない振る舞いも、この家の中では無礼講だ。
「少し背が伸びたのかな? 今日もとっても可愛いね。空色のワンピースも良く似合ってるよ」
「お兄様は少し顔色が悪いわ。何か心配事でもありますの?」
鋭い指摘にドキッとする。俺は咄嗟に笑顔を取り繕った。リリーに心配かけたくない。
「ちょっと仕事が立て込んでたんだ。でも今は大丈夫」
「ふーん……」
そうして話しているうちに、キッチンからお茶の用意を持ったギルが現れた。
「いらっしゃいませ、リリー殿下」
「もう! この家では堅苦しいのは無しって決めたでしょう? ギルバートはいつも通り元気そうね」
「はは、そうだったね」
リリーがじーっとギルを見つめた。何年経っても変わらない、いつものやりとりだ。
「ところで俺の事もお兄様って呼んでくれて良いんだよ?」
「呼ぶわけないじゃない。わたくしはまだ認めていませんからね」
「フッ……」
ギルが意味ありげに口端を上げる。
ふたりは互いに視線で何かを語り合っているようだった。
俺の考えた小説の主人公とメインヒロインのツーショットだ。興奮しない訳がない。
俺は二人の邪魔にならないよう気配を消しながら、ふたりの様子を眺めていた。壁になった気分だ。
親し気に見つめ合う二人の姿は、まるでお伽話の王子様とお姫様のようで、実に絵になっていた。
この二人の並びを何度も見ていながら、俺にも脈があるんじゃないかと思っていたなんて、おこがましいにもほどがある。
この空間で、俺の存在は異物でしかない。
何だか息がし辛いような気がしてそっと目を伏せる。気を紛らわそうと胸元をきゅっと掴むと、頬に温かくて大きな手が触れた。
「レイ、お茶の準備が出来たよ。おいで」
「お、俺……」
「お兄様が居なければ始まりませんわ! というかわたくしはお兄様と二人きりが良いのですけど?」
「さあ、三人で仲良くお茶にしよう」
ギルは俺の頬をひと撫ですると、そのまま俺の肩を抱いてソファへ座らせた。二人掛けのソファには俺とギルが並んで座り、向かいのソファにリリーが座る。三人でお茶をするときはいつもこの席だ。
リリーの目の前にはもうすでにチーズタルトが置かれている。甘いものが苦手なリリーは、甘さ控えめのこのタルトがお気に入りだった。
対して、甘党の俺にはいつも季節のケーキを買ってきてくれる。
「レイはモンブランと葡萄のショートケーキ、どっちが良い?」
「うーん、悩むなぁ……じゃあ、ショートケーキにしようかな」
「分かった。じゃあ俺がモンブランだね」
ケーキをお皿に取ると、ギルは各々の前に置いた。
真っ白なクリームの上に乗せられた宝石のように輝く葡萄。そっとフォークを入れると柔らかなスポンジの手ごたえがした。
まずは一口。
「……美味しい!」
中に挟まれた葡萄の果汁がクリームと合わさって、甘さと酸味が完璧なハーモニーを奏でている。
「喜んでもらえて良かった」
ギルもモンブランを口に運ぶ。その手元をじっと見つめていると、ギルがフォークを差し出してきた。
「一口食べる? モンブランも美味しいよ」
「うん! ありがとう」
そのままかぶりつくと、濃厚な栗の風味が口いっぱいに広がる。滑らかなマロンクリームは舌の上でとろりと溶けた。
「うーん、こっちも美味しい!」
お返しに俺もケーキを一口差し出す。
「はい、ギルも良かったらどーぞ」
「喜んでいただくよ。ありがとう」
ギルも甘いものが好きなようで、いつもこうして一口シェアしあっている。お行儀の悪い行為だからリリーにはいつも物言いたげな視線を送られるが、この家では無礼講だから問題ないのだ!
「葡萄の風味が良いね。甘さと酸味のバランスもちょうど良いよ」
「だろ~?」
ギルの笑顔を見ると、関係ないのに自分の手柄のように思えてしまう。
もう一口ぱくり。うん。やっぱり美味しい。
「あっ、レイ、クリームついてる」
「えっ! どこ?」
「ほら、ここ。取れたよ」
ギルの指が俺の下唇を拭う。指先に付いたクリームを、ギルはペロリと舐めとった。
赤い舌先がぬるりと動く様子にドキドキして顔が熱くなる。
そんな俺の反応が面白かったのか、ギルはクスクス笑った。
「……完全に二人の世界ですわね」
「? リリー? なんか言った?」
「いえ。何でもありませんわ」
リリーが小さく何か呟いた。クリームを口に付けてしまうなんてだらしないと思われてしまったかと心配したけど、リリーも笑っていたから大丈夫かな?
三人でケーキを食べながらくだらない話に興じる。こうして過ごしたことは、きっと小説後の人生での支えになる。だから一瞬も見逃さないよう、ふたりの笑顔を心に刻んだ。
こういう日は二人で街に出かけることも多いのだが、今日は二人そろって家にいた。
なぜなら……
「レイライトお兄様! お邪魔しますわ!」
リビングの奥に設置された転移陣が突然光を放つ。そこから飛び出してきたのは、俺の可愛い異母妹、リリーだった。
「いらっしゃい、リリー。待ってたよ」
いつも通りぎゅっと抱き止める。淑女らしくない振る舞いも、この家の中では無礼講だ。
「少し背が伸びたのかな? 今日もとっても可愛いね。空色のワンピースも良く似合ってるよ」
「お兄様は少し顔色が悪いわ。何か心配事でもありますの?」
鋭い指摘にドキッとする。俺は咄嗟に笑顔を取り繕った。リリーに心配かけたくない。
「ちょっと仕事が立て込んでたんだ。でも今は大丈夫」
「ふーん……」
そうして話しているうちに、キッチンからお茶の用意を持ったギルが現れた。
「いらっしゃいませ、リリー殿下」
「もう! この家では堅苦しいのは無しって決めたでしょう? ギルバートはいつも通り元気そうね」
「はは、そうだったね」
リリーがじーっとギルを見つめた。何年経っても変わらない、いつものやりとりだ。
「ところで俺の事もお兄様って呼んでくれて良いんだよ?」
「呼ぶわけないじゃない。わたくしはまだ認めていませんからね」
「フッ……」
ギルが意味ありげに口端を上げる。
ふたりは互いに視線で何かを語り合っているようだった。
俺の考えた小説の主人公とメインヒロインのツーショットだ。興奮しない訳がない。
俺は二人の邪魔にならないよう気配を消しながら、ふたりの様子を眺めていた。壁になった気分だ。
親し気に見つめ合う二人の姿は、まるでお伽話の王子様とお姫様のようで、実に絵になっていた。
この二人の並びを何度も見ていながら、俺にも脈があるんじゃないかと思っていたなんて、おこがましいにもほどがある。
この空間で、俺の存在は異物でしかない。
何だか息がし辛いような気がしてそっと目を伏せる。気を紛らわそうと胸元をきゅっと掴むと、頬に温かくて大きな手が触れた。
「レイ、お茶の準備が出来たよ。おいで」
「お、俺……」
「お兄様が居なければ始まりませんわ! というかわたくしはお兄様と二人きりが良いのですけど?」
「さあ、三人で仲良くお茶にしよう」
ギルは俺の頬をひと撫ですると、そのまま俺の肩を抱いてソファへ座らせた。二人掛けのソファには俺とギルが並んで座り、向かいのソファにリリーが座る。三人でお茶をするときはいつもこの席だ。
リリーの目の前にはもうすでにチーズタルトが置かれている。甘いものが苦手なリリーは、甘さ控えめのこのタルトがお気に入りだった。
対して、甘党の俺にはいつも季節のケーキを買ってきてくれる。
「レイはモンブランと葡萄のショートケーキ、どっちが良い?」
「うーん、悩むなぁ……じゃあ、ショートケーキにしようかな」
「分かった。じゃあ俺がモンブランだね」
ケーキをお皿に取ると、ギルは各々の前に置いた。
真っ白なクリームの上に乗せられた宝石のように輝く葡萄。そっとフォークを入れると柔らかなスポンジの手ごたえがした。
まずは一口。
「……美味しい!」
中に挟まれた葡萄の果汁がクリームと合わさって、甘さと酸味が完璧なハーモニーを奏でている。
「喜んでもらえて良かった」
ギルもモンブランを口に運ぶ。その手元をじっと見つめていると、ギルがフォークを差し出してきた。
「一口食べる? モンブランも美味しいよ」
「うん! ありがとう」
そのままかぶりつくと、濃厚な栗の風味が口いっぱいに広がる。滑らかなマロンクリームは舌の上でとろりと溶けた。
「うーん、こっちも美味しい!」
お返しに俺もケーキを一口差し出す。
「はい、ギルも良かったらどーぞ」
「喜んでいただくよ。ありがとう」
ギルも甘いものが好きなようで、いつもこうして一口シェアしあっている。お行儀の悪い行為だからリリーにはいつも物言いたげな視線を送られるが、この家では無礼講だから問題ないのだ!
「葡萄の風味が良いね。甘さと酸味のバランスもちょうど良いよ」
「だろ~?」
ギルの笑顔を見ると、関係ないのに自分の手柄のように思えてしまう。
もう一口ぱくり。うん。やっぱり美味しい。
「あっ、レイ、クリームついてる」
「えっ! どこ?」
「ほら、ここ。取れたよ」
ギルの指が俺の下唇を拭う。指先に付いたクリームを、ギルはペロリと舐めとった。
赤い舌先がぬるりと動く様子にドキドキして顔が熱くなる。
そんな俺の反応が面白かったのか、ギルはクスクス笑った。
「……完全に二人の世界ですわね」
「? リリー? なんか言った?」
「いえ。何でもありませんわ」
リリーが小さく何か呟いた。クリームを口に付けてしまうなんてだらしないと思われてしまったかと心配したけど、リリーも笑っていたから大丈夫かな?
三人でケーキを食べながらくだらない話に興じる。こうして過ごしたことは、きっと小説後の人生での支えになる。だから一瞬も見逃さないよう、ふたりの笑顔を心に刻んだ。
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