トラブルメーカー系モブに転生したけど主人公が優秀すぎて何も起こらない

香山

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第1部

09 ギルドでのトラブル

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週が明けて、俺はいつも通り仕事に出ていた。
今日も薬を納品しに冒険ギルドに向かう。休日降り続けた雪は地面を覆い、辺り一面真っ白な雪化粧が施されている。辺境のいつもの冬の景色だ。

リリーの気持ちに気付いてから、無理にストーリー通りに進めなくてもいいんじゃないかって思うようになった。小説の結末では、ギルはリリーと両思いになるのだ。もしかしたらもう既に、ギルもリリーが気になっているかもしれない。そこにわざわざ、他のヒロインとのエピソードを追加しなくても良いんじゃないか。
であれば、俺が態々凌辱未遂を受けなくても良いし、いいこと尽くめだ。

転ばないように気を付けながら進みギルドの前に付くと、ちょうどナタリーが入っていくところだった。

「ナタリー! 待って!」
「あ、レイレイおはよー! はい、どーぞ」
「ありがとう、助かったよ」

ナタリーに抑えてもらった扉を通り、ギルドに入った。



カウンターで納品手続きをする。
いくら雪深くてもダンジョンには関係ない為、辺境には季節を問わず多くの冒険者が滞在している。だから薬品の補充は欠かせない。
しかしさすがに早朝のギルド内では、人影はまばらだった。

伝票を受け取り帰ろうとすると、ギルドの入り口付近で言い合う声が聞こえた。
冒険者は粗野な人も多いから、ただの会話もけんか腰のように聞こえることもある。今回もその類だろうとは思ったが、どうにも気になるのでそちらに、目を向けると、そこではナタリーが、見知らぬ男に腕を掴まれていた。

「離してよ!」
「良いじゃねーか。こんな辺鄙な所、ろくな男が居ねーだろ? 俺が相手してやるよ」

体格がよく、立派な装備を身に着けたその男は、間違いなく高位の冒険者だろう。それを示すかのように胸元には金の勲章が輝いていた。
咄嗟に周りを見回したが、運悪く周囲には新人らしき冒険者の姿しかない。ナタリー以外は完全に委縮してしまっていた。

俺はいてもたってもいられず、ナタリーの前に飛び出した。

「おい、嫌がってるだろ?」

見たところ20代前半といったところか。明るい金髪のその男は一見整った顔立ちをしてはいたが、目は充血し、眉はつり上がり、眉間には深いしわが刻まれていた。これでは美形が台無しだ。

「なんだテメェ」

男は俺を一瞥すると、ナタリーから手を離し、俺の顎を持ち上げた。

「ふーん、なかなか可愛い顔してんじゃねえか。お前でも良いぜ?」
「臭っ! このにおい、ヘドロサーペント……?」

丁度そのタイミングで、ギルドのドアが開きギルマスが入って来た。

「なんだぁ? ヘドロサーペント級の口臭かぁ?」

ヘドロサーペントは汚れた沼地などに現れる魔物で、強さはそれほどでもないが、ひどい刺激臭が特徴だ。目の前の男からは、僅かにそのにおいがする。でもそれは口からではなく――

ギルマスの言葉に、男の顔色はみるみる赤くなった。

「てめえ、俺をバカにしてんのか!?」

怒りをあらわにした男は、俺の襟首を掴み上げた。

「待ってください! そうじゃなくて――」
「るせえ!」
「おい、これ以上揉めるんなら出禁にするぜ?」

ギルマスの言葉に男は黙り込むと、チッと舌打ちし、ギルドを出ていった。

「あいつ、ちょっと前からここに来るようになったんだが、A級冒険者ってことを鼻にかけて好き勝手やってるんだ。俺がいる時は注意するんだが、すまんかったな」
「いえ、俺は大丈夫です。ナタリーは……」
「私は平気だよ。それよりレイレイが目を付けられちゃったんじゃないかって、そっちの方が心配」

ナタリーの言葉にゆるゆると首を振る。小説では出てこなかったが、これは事件のフラグだろうからある意味仕方がない。
それより俺は、別の事が気になった。

「あの人、ヘドロサーペント症候群にかかっているのかもしれません」
「ヘドロサーペント症候群?」

それはヘドロサーペントに噛まれたときにごくまれに発症する、とても珍しい病気だ。発症してすぐは体のだるさ、節々の痛み程度の症状しか無い。しかし、徐々に痛みなどの感覚を失っていき、それとともに性格が狂暴化するため自覚症状を持つことが難しく、周囲の人間も離れて行ってしまう為に病気の発見が困難になる。
また、病気の末期には噛み跡からヘドロサーペントに似た強烈なにおいを放つようになる。今の段階では近付いたときにようやく気付くレベルだから、すぐに治療を開始すれば助かるだろう。

「だが、もしにおいが病気のせいなら会話が成立するのはおかしくねえか?」

ギルマスの指摘通り、噛み跡がにおいを発する頃には錯乱状態に陥り、意思疎通すら困難になることが多いらしい。
しかし魔力が高い場合、それを理性で押しとどめることが出来る可能性があると指摘されている。

「ええ。ですがあの人はA級冒険者でしょう? かなり魔力が高いはずです。それに、あの人は国から賜る金勲章を付けていました。あの凶暴な性格は病気のせいではないでしょうか」

金勲章は国から贈られる勲章の中でも特別なもので、能力だけでなく人格的にも優れた、いわば英雄のような人物でないと叙勲対象にならない。あの勲章を持っている時点で、性格が本来のものでは無くなっている可能性は高いと思う。
俺の意見にギルマスはうーんと唸ると、

「分かった。俺の方でもあいつについて調べとく。送るから、とりあえず研究所へ戻れ」
「えっ、一人で大丈夫ですよ」
「何かあってからじゃ遅いだろ。おまえは戦えないんだから、しばらくは十分注意しろよ」

確かに、凌辱未遂事件のフラグが立ってしまった以上、用心するに越したことはない。
俺はギルマスに礼を言い、送ってもらう事にした。



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