トラブルメーカー系モブに転生したけど主人公が優秀すぎて何も起こらない

香山

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第1部

11 平穏な日常

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「おはようございます、レイさん。今日もお美しいですね」
「ヨハンさん、おはようございます! そうですね、今日は天気が良いので雪が光って綺麗ですね」

ギルドの入り口で俺に声をかけてきたのはヘドロサーペント症候群が完治した冒険者――ヨハンさんだった。
あれ以来、ヨハンさんとはこうして天気の話をする程度には仲良くなった。

ヨハンさんは、王都ではけっこう有名な冒険者だったらしい。王都からほど近い街で発生した魔物発生スタンピードを一人で食い止め、被災した住民たちへ支援を行ったことが評価され、金勲章を叙勲された立派な人だと、ギルマスが言っていた。
病気の発症をきっかけに様々ないざこざを起こすようになり、各地を転々としながらついにこの地に流れ着いたのだという。

「体調はどうですか?」
「レイさんの薬のおかげで絶好調です。……本当に、天使のようだ」

最後の方は声が小さくて聞こえなかったが、今日もヨハンさんは血色が良い。病気のぶり返しは無さそうだ。
カウンターに行き、いつも通り納品手続きを終えて帰ろうとしたところをもう一度呼び止められた。

「ところでレイさん、今日の夜、お時間ありますか? 良ければお食事でも――」
「今日は俺と先約があるので」
「ギル!」

振り向くと、そこにはギルの姿があった。どうやら騎士団から冒険者ギルドに依頼を出すらしく、ギルはその書類を持ってきたところらしい。
仕事中にギルに会えるなんてラッキーだ。緩みそうになる頬を抑えながら、俺はヨハンさんに向き直った。

「ヨハンさん、せっかくお誘いくださったのにすみません。ギルの言う通り、今日は先約があって」

普段は家で夕食を摂る俺とギルだが、定期的に街のレストランや酒場巡りもしている。今日は新しく出来たワインの美味しいレストランに行く予定なのだ。
ヨハンさんは爽やかな笑顔を崩さずに口を開いた。

「それは残念です。ですが私は明日でも明後日でも構いませんよ。もしくは休日でも――」

ヨハンさんはそこまで口にしてハッと息を呑んだ。

「――すみません、用事を思い出したので、失礼します」

俺の後ろ――ギルのいる辺りを一瞥して、ヨハンさんは足早に去っていった。振り返るとギルは、ヨハンさんの後ろ姿をじっと見つめていた。
つられて俺も視線を戻す。

すらりと伸びた長い手足。しなやかについた全身の筋肉。まさに俺のなりたかった体格だ。それだけでなく、人好きのする甘い顔立ちも一般に魅力的と思われるだろう。
ギルも、ヨハンさんくらいの美形なら男でも恋愛対象になるんだろうか。

「ギルはヨハンさんみたいなタイプ、好きなの?」
「え?」
「俺はヨハンさんみたいに背も高くないし、筋肉もつかないけど……いや! 別に! 大した意味はないんだけど!」

言ってて思ったが、これじゃ俺がギルの好みになりたいと思っていることがバレバレだ。
何とかごまかそうと慌てる俺を見て、ギルはクスクス笑った。

「レイはそのままでいいんだよ」

ギルは友人を容姿で差別するような人じゃないから、友人である俺の容姿にはこだわらないだろう。でも俺が聞きたかったのは恋愛対象としてどうかという点だ。

男が恋愛対象なら、俺もワンチャン――いや、無いか。

男が恋愛対象だったからといって俺程度の容姿じゃ問題外だろう。それでも、少しの可能性に縋ってしまうほど、俺はギルを諦めきれなかった。


午後は薬の製造か研究をする事が多い。
以前は製造を主にやっていたが、スキルをうまく使えるようになってからは研究の方も任されるようになってきた。
今日も研究用のデータを取りながら、隙間時間にもう一つ、別の薬も調合していた。

冒険者ギルドから買い取った粘液は、そのままでは緑色をしているが。だが、月の光に十分晒すと薄い桃色に変化する。これをベースに俺は、最後の仕上げに必要となる媚薬を作った。『創薬』スキルを駆使して作ったそれは、持続時間は1時間、体格の良い騎士がギリギリ理性を失わない程度の効果、それでいて効いている間の記憶はしっかりと残るという細やかな仕様のものだ。

「結構時間かかったな。最近は曇りや雪が多かったし」

確かに、最初の工程を終えるまでに時間はかかった。しかし、気が進まず、なかなか手が動かなかったことも大きな要因だった。
凌辱未遂事件は起こらなかったが、俺の心には性的に襲われることに対する恐怖感が根付いている。媚薬を使えば、俺はギルに対して同じような狼藉を働くことになるのだ。自分があれだけ嫌だったことを、大好きなギルに対してしなくてはいけないなんて、考えるだけで憂鬱だった。

「これ、使わなきゃいけないのかな……」

味気ない瓶に詰められた薄桃色の液体を指先で小突く。
一般に流通する媚薬は愛の妙薬と呼ばれているが、無理やり引き出される衝動のどこが愛なのだろうか。
しかし小説で主人公は、媚薬で引き出された性衝動が切っ掛けで自分の恋心を自覚するのだ。

「……やっぱり、違う方法を考えよう」

要はギルにリリーが好きだと自覚してもらえれば良いんだ。これまでも小説と全く同じだったわけじゃない。今は思いつかないけど、きっと何か別の方法があるはずだ。
それに、媚薬を使わなければ、リリーと結ばれた後も俺と友人でいてくれるかもしれない。ギルが幸せになっていく様子を間近で見ているのは、それはそれで辛いかもしれないけど、それでも。

「こんなもん使うよりずっと良いよな。……これは家の薬品棚にしまっておこっと」

俺は媚薬を手に取ると、鞄の奥深くにしまった。



終業の鐘と共に研究室を飛び出す。エントランスに目当ての人影を見つけて、軽く身だしなみを整えてから声をかけた。

「ごめん、待った?」
「いや、今来たところだよ」

グレーのロングコートがよく似合っている。飾り気のないシンプルなコーディネートは、ギルのスタイルの良さをより引き立てていた。

「じゃあ行こうか」

転ばないよう差し出してくれた手を取り、研究所を出る。サクサクと雪を踏みしめながら、目的の店に向かった。



賑やかな表通りから1本入ったところにあるその店は、落ち着いた雰囲気のレストランだった。最初に出てきたシャンパンは繊細で口当たりが良く、ついつい食が進む。
美味しい料理とお酒、目の前には好きな人の笑顔。
あまりに幸せで、心がふわふわする。我慢出来ずに笑みが溢れた。

「ふふ~」
「レイ、飲み過ぎなんじゃない?」
「うーん、そうかな?」

まだ5杯……いや、6杯?くらいのはずだ。ギルは俺の持っていたグラスを取り上げて、代わりにジュースの入ったコップをくれた。うん。おいしい。

「で、ギルはぁ、どんな子がタイプなのぉ?」
「唐突だね。どうしたの?」

飲みの席での話は恋バナって決まってるだろ?
俺が説得すると、ギルは困ったように眉を下げてから、それでも真剣に考えてくれた。
これはただの酔っぱらいの絡みなんかじゃない(そもそも俺はまだ酔ってはいないが)。ギルに好みを自覚させ、リリーがそれに該当するのだと気付かせるための高度な作戦なのだ!

「そうだね」

ギルは俺の顔をじっと見つめた。

「優しくて、可愛くて、頭は良いけどちょっと抜けていて」

聞きながら、俺はうんうんと頷いた。リリーは優しいし、可愛いし、頑張り屋さんだ。あまり抜けているなんて所は無いが、もしそういう所があればギャップが良い、といった感じだろうか。

「素直で、純粋で、頑張り屋さんで」

ギルが酔っているからだろうか。その視線に熱を感じてしまう。これじゃまるで……

「俺をずっと好きでいてくれる、一途な子、かな」

まるで好きって言われてるんじゃないかって、勘違いしそうだ。
ぽっと顔が熱くなり、心臓が痛いほど高鳴る。
不意にギルに手を握られて、俺はビクッと体を震わせた。

「俺だけ言うんじゃ不公平だよ。レイは? 好きなタイプは、どんな人?」
「俺、は……」

そんなの決まってる。

「強くて、かっこよくて、なんでも出来て」

今、俺の目の前にいる

「優しい人……かな」

だんだん恥ずかしくなってきて目を伏せた。だから、この時ギルがどんな顔で俺の頭を撫でていたかなんて、知らなかった。


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