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クラブ「Foxy(フォクシー)」と獅子谷さん
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微睡みから僕を呼び起こすかのように、携帯の着信が鳴った。
獅子谷(ししや)さんからだった。
僕は腕の中で眠る彼女を起こさないようにそっとベットから起きてマンションを出ると、獅子谷さんが飲んでいるであろうクラブ「Foxy(フォクシー)」へとタクシーを向かわせた。
獅子谷さんは僕のアルバイト先の社長でSEO対策の会社を経営していた。
僕に営業やSEO対策のノウハウを教えてくれたのもこの獅子谷さんだ。
黒服に席へ案内されると、僕は獅子谷さんに挨拶をした。
獅子谷さんは両脇にドレスの女性を侍らせている。
獅「悪いな急に呼び出して。」
獅「どうだ調子のほうは?」
僕「おかげ様で、順調に進んでいます。」
獅子谷さんは「そうか。」と言ってタバコを取り出し口にくわえると、隣の女性が手際よくそれに火をつけた。
獅子谷さんが煙を吐く。
獅「お前さ、なんで俺がお前に独立を許したか分かるか?」
僕は唇を触り、少し考えた。
獅「普通な?トップの営業マンが独立したいですって言って、それを引き留めねぇ社長がいると思うか?」
僕「そうですね…いないと思います。」
獅「ましてや、同じ畑でさ。はい、どうぞ独立して下さいって言ってやれる奴がどこにいる?」
僕は相槌を打った。
獅「お前さ、母ちゃん好きか?」
僕「え?えぇ、好きですね。」
獅「前にさ、お前に昼飯に蕎麦食わせに連れてってやったときにさ、お前『母ちゃんにも食わせてやりたいですね。』って言ってたよな?世間の奴はさ、マザコンだなんだって言うか知らねえけどさ、俺にとって世界で一番愛してる女っつーのはさ、俺のお袋なんだよ。」
僕は頷いた。
獅「俺のとこのオヤジはさ、働かねークソ親父だったからさ、お袋はまぁ苦労したんだわ。」
獅「だから俺はさ、男っつーのは働いて家族を養って一人前だって…そう思ってたんだけどな。」
獅子谷さんがすぅーっと息を吐いた。
獅「お前さ、もし自分の母ちゃんがガンになって、治療費1000万円しますって言われたらどうする?」
僕は少し間をおいてから答えた。
僕「そうですね…お金を…作ると思います。」
獅「どうやって作る?」
僕は眉間にしわを寄せて考えた。
だが、すぐには答えは出ない。
獅「あの時俺がもう少し早く会社をやって今みたいに金があったら、俺はもう少しお袋を長生きさせてやれた。」
僕は獅子谷さんが言わんとしたことを理解した気がした。
獅子谷「いいか?男っつーのはな?大切なもンがあったら、それを命懸けで守らなきゃならねぇんだ。じゃなきゃ愛する資格なんてねぇ。だから俺たちは戦わなきゃいけねぇ。」
獅「守るっつーのは優しく抱き締めることじゃねぇ。そいつの為に命を懸けて戦うってことだ。」
獅「どうしてか分かるか?」
僕は息を吸った。
獅「この世の全てに金がいるからだ。」
獅「この世が奪い合いの世界なら、俺らは戦わなきゃならねぇんだ。」
獅「母ちゃんをタクシーで病院に通わせるのにも金がいる。治療法を選ぶのだってそうだ。」
獅「俺が力を欲しがった理由はそれだ。あの時俺に独立したいって言ったお前が、昔の俺と似ていたから、俺はそれを許した。あれこれ聞くのは野暮だと思ったからだ。」
母さんが泣き崩れたあの日、僕たち一家の幸せは崩れた。
僕たち一家は路頭に迷い、父はそれから程なくして仕事をクビになった。
道化師は人を笑わせることが出来ても、大切なものを守れるわけではない。
僕はそれを痛いほど分かっていた。
僕は道化師ではなく、何者かになるため力が欲しかったのだ。
獅子谷さんは僕に「お前も命を懸けて戦って、守りたいもンがあるならそれを守れ。」と言った。
僕は小さく頷くと、少し考えた後でグラスを一気に飲み干した。
獅子谷(ししや)さんからだった。
僕は腕の中で眠る彼女を起こさないようにそっとベットから起きてマンションを出ると、獅子谷さんが飲んでいるであろうクラブ「Foxy(フォクシー)」へとタクシーを向かわせた。
獅子谷さんは僕のアルバイト先の社長でSEO対策の会社を経営していた。
僕に営業やSEO対策のノウハウを教えてくれたのもこの獅子谷さんだ。
黒服に席へ案内されると、僕は獅子谷さんに挨拶をした。
獅子谷さんは両脇にドレスの女性を侍らせている。
獅「悪いな急に呼び出して。」
獅「どうだ調子のほうは?」
僕「おかげ様で、順調に進んでいます。」
獅子谷さんは「そうか。」と言ってタバコを取り出し口にくわえると、隣の女性が手際よくそれに火をつけた。
獅子谷さんが煙を吐く。
獅「お前さ、なんで俺がお前に独立を許したか分かるか?」
僕は唇を触り、少し考えた。
獅「普通な?トップの営業マンが独立したいですって言って、それを引き留めねぇ社長がいると思うか?」
僕「そうですね…いないと思います。」
獅「ましてや、同じ畑でさ。はい、どうぞ独立して下さいって言ってやれる奴がどこにいる?」
僕は相槌を打った。
獅「お前さ、母ちゃん好きか?」
僕「え?えぇ、好きですね。」
獅「前にさ、お前に昼飯に蕎麦食わせに連れてってやったときにさ、お前『母ちゃんにも食わせてやりたいですね。』って言ってたよな?世間の奴はさ、マザコンだなんだって言うか知らねえけどさ、俺にとって世界で一番愛してる女っつーのはさ、俺のお袋なんだよ。」
僕は頷いた。
獅「俺のとこのオヤジはさ、働かねークソ親父だったからさ、お袋はまぁ苦労したんだわ。」
獅「だから俺はさ、男っつーのは働いて家族を養って一人前だって…そう思ってたんだけどな。」
獅子谷さんがすぅーっと息を吐いた。
獅「お前さ、もし自分の母ちゃんがガンになって、治療費1000万円しますって言われたらどうする?」
僕は少し間をおいてから答えた。
僕「そうですね…お金を…作ると思います。」
獅「どうやって作る?」
僕は眉間にしわを寄せて考えた。
だが、すぐには答えは出ない。
獅「あの時俺がもう少し早く会社をやって今みたいに金があったら、俺はもう少しお袋を長生きさせてやれた。」
僕は獅子谷さんが言わんとしたことを理解した気がした。
獅子谷「いいか?男っつーのはな?大切なもンがあったら、それを命懸けで守らなきゃならねぇんだ。じゃなきゃ愛する資格なんてねぇ。だから俺たちは戦わなきゃいけねぇ。」
獅「守るっつーのは優しく抱き締めることじゃねぇ。そいつの為に命を懸けて戦うってことだ。」
獅「どうしてか分かるか?」
僕は息を吸った。
獅「この世の全てに金がいるからだ。」
獅「この世が奪い合いの世界なら、俺らは戦わなきゃならねぇんだ。」
獅「母ちゃんをタクシーで病院に通わせるのにも金がいる。治療法を選ぶのだってそうだ。」
獅「俺が力を欲しがった理由はそれだ。あの時俺に独立したいって言ったお前が、昔の俺と似ていたから、俺はそれを許した。あれこれ聞くのは野暮だと思ったからだ。」
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僕はそれを痛いほど分かっていた。
僕は道化師ではなく、何者かになるため力が欲しかったのだ。
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僕は小さく頷くと、少し考えた後でグラスを一気に飲み干した。
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