6 / 15
6
しおりを挟む
馬車は静かに王都を離れ、なだらかな丘陵を越えていく。
窓の外には広がる緑の草原。時折、小さな村の風景が目に入る。王都の喧騒から離れるにつれ、私はようやく一息つくことができた。
(これでひとまず「婚約破棄された可憐な令嬢の旅立ち」っていうシナリオは完成ね)
王都にいる人々は、きっとしばらく私の話題で持ちきりになるでしょう。**「傷心の令嬢が旅に出た」**という物語は、貴族たちの興味を惹くには十分すぎる。
(でも、ここからが本番よね)
私はここから新たな人生を歩む——けれど、それはただの「悲劇の令嬢」のままではつまらない。もっと、もっと魅力的な立場にならなくては。
そのために、まず必要なのは——旅の同行者を確実に味方につけること。
「リリエル様」
馬車の外から声がした。
「どうぞ、少し休憩なさいませんか? この先の森を抜けるまで、時間がかかります」
馬車の扉を開けると、そこにはレオン様がいた。
王太子直属の騎士である彼は、銀の髪を陽に輝かせながら、真剣な眼差しで私を見つめていた。旅の護衛として同行してくれている彼を、私は確実に味方にしなければならない。
「……ありがとうございます。少し、外の空気を吸いたいですわ」
私は優雅に馬車を降り、足元の草をふわりと踏みしめる。
「お足元にお気をつけください」
レオン様が私の手を取り、そっと支えてくれる。彼の手は騎士らしく大きく、そして温かい。
(……さて、ここで彼に「護る価値のある令嬢」だと強く印象づけなくちゃ)
私は森の入り口に立ち、そっと風に髪をなびかせながら、わずかに目を伏せる。そして、ほんの少しだけ声を震わせた。
「……王都を離れるのは、やはり少し寂しいものですね」
ここで「辛い」とは言わない。「寂しい」と言うことで、強くはあるけれど、ほんの少しだけ弱さを覗かせるのがポイント。
レオン様は驚いたように私を見つめた。
「リリエル様……」
彼の目が僅かに揺らぐのを、私は見逃さない。
(よし、このまま……もう一押し)
私はそっと胸に手を当て、静かに微笑んだ。
「ですが……この旅を通して、きっと新しい私を見つけられる気がしますわ」
儚く、それでいて前向き。貴族社会にいる令嬢なら誰もが「なんて健気なの……!」と思うような理想のセリフ。
そして、案の定——
「……あなたは、強いお方なのですね」
レオン様の声が、少しだけ柔らかくなる。
(ふふ、悪くない反応ね)
彼は真剣な表情のまま、私の手を握る力を少しだけ強めた。
「どこへ向かおうとも、私は必ずリリエル様をお護りします」
その言葉を聞いた瞬間、私はほんの少しだけ頬を染めてみせた。
「……ありがとうございます、レオン様」
これで彼は、私を「護らなければならない存在」として意識するようになる。騎士というものは、誰かを護ることに価値を見出す生き物なのだから。
そして、そんな存在が私のそばにいる限り——私が「ただの婚約破棄された令嬢」で終わることはない。
(さて、次は……)
私は空を見上げた。どこまでも澄み渡る青い空が広がっている。
王都を出たばかりの今、まだ旅は始まったばかり。
だけど、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
窓の外には広がる緑の草原。時折、小さな村の風景が目に入る。王都の喧騒から離れるにつれ、私はようやく一息つくことができた。
(これでひとまず「婚約破棄された可憐な令嬢の旅立ち」っていうシナリオは完成ね)
王都にいる人々は、きっとしばらく私の話題で持ちきりになるでしょう。**「傷心の令嬢が旅に出た」**という物語は、貴族たちの興味を惹くには十分すぎる。
(でも、ここからが本番よね)
私はここから新たな人生を歩む——けれど、それはただの「悲劇の令嬢」のままではつまらない。もっと、もっと魅力的な立場にならなくては。
そのために、まず必要なのは——旅の同行者を確実に味方につけること。
「リリエル様」
馬車の外から声がした。
「どうぞ、少し休憩なさいませんか? この先の森を抜けるまで、時間がかかります」
馬車の扉を開けると、そこにはレオン様がいた。
王太子直属の騎士である彼は、銀の髪を陽に輝かせながら、真剣な眼差しで私を見つめていた。旅の護衛として同行してくれている彼を、私は確実に味方にしなければならない。
「……ありがとうございます。少し、外の空気を吸いたいですわ」
私は優雅に馬車を降り、足元の草をふわりと踏みしめる。
「お足元にお気をつけください」
レオン様が私の手を取り、そっと支えてくれる。彼の手は騎士らしく大きく、そして温かい。
(……さて、ここで彼に「護る価値のある令嬢」だと強く印象づけなくちゃ)
私は森の入り口に立ち、そっと風に髪をなびかせながら、わずかに目を伏せる。そして、ほんの少しだけ声を震わせた。
「……王都を離れるのは、やはり少し寂しいものですね」
ここで「辛い」とは言わない。「寂しい」と言うことで、強くはあるけれど、ほんの少しだけ弱さを覗かせるのがポイント。
レオン様は驚いたように私を見つめた。
「リリエル様……」
彼の目が僅かに揺らぐのを、私は見逃さない。
(よし、このまま……もう一押し)
私はそっと胸に手を当て、静かに微笑んだ。
「ですが……この旅を通して、きっと新しい私を見つけられる気がしますわ」
儚く、それでいて前向き。貴族社会にいる令嬢なら誰もが「なんて健気なの……!」と思うような理想のセリフ。
そして、案の定——
「……あなたは、強いお方なのですね」
レオン様の声が、少しだけ柔らかくなる。
(ふふ、悪くない反応ね)
彼は真剣な表情のまま、私の手を握る力を少しだけ強めた。
「どこへ向かおうとも、私は必ずリリエル様をお護りします」
その言葉を聞いた瞬間、私はほんの少しだけ頬を染めてみせた。
「……ありがとうございます、レオン様」
これで彼は、私を「護らなければならない存在」として意識するようになる。騎士というものは、誰かを護ることに価値を見出す生き物なのだから。
そして、そんな存在が私のそばにいる限り——私が「ただの婚約破棄された令嬢」で終わることはない。
(さて、次は……)
私は空を見上げた。どこまでも澄み渡る青い空が広がっている。
王都を出たばかりの今、まだ旅は始まったばかり。
だけど、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
0
あなたにおすすめの小説
嘘をありがとう
七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」
おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。
「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」
妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。
「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」
おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です
ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
四季
恋愛
明日結婚式でした。しかし私は見てしまったのです――非常に残念な光景を。……ではさようなら、婚約は破棄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる