婚約破棄された、女はすごくあざとい

ルイ

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 森の小道を進みながら、私はゆっくりと深呼吸をした。

 澄んだ空気に、木々の葉擦れの音。王都の華やかな喧騒とは違う、静かで穏やかな時間が流れている。

(……こうしてみると、本当に旅に出たんだなって感じるわね)

 王都を離れるまでは「婚約破棄された令嬢」という立場を最大限に利用して、私の評判を高めることに集中していた。でも、これからはどうやってこの旅を「有意義なもの」にするかを考えなければならない。

(このまま普通に旅を続けるだけじゃダメ。私はただの令嬢じゃないもの)

 私の目的は「新たな人生を見つけること」——でも、それは単に静かに生きることじゃない。私はどこへ行こうとも、愛され、注目される存在でなければならない。

(そのためには……まず、私の唯一の同行者であるレオン様を、もっと強く味方につけることね)

 彼はすでに「私を護る」と誓ってくれた。だけど、それだけでは不十分。私は彼の「護衛すべき令嬢」ではなく、「彼自身が心から庇護したいと思う存在」にならなければならない。

 そこで私は、森の奥へと視線を向けた。

「リリエル様、お疲れではありませんか?」

 レオン様が私の歩調に合わせながら、気遣うように尋ねる。

「ええ、大丈夫ですわ。ただ……」

 私は少しだけ俯き、わざと口をつぐんだ。

「……ただ?」

「……いえ、こんな風に長い距離を歩くことに慣れていなくて……少しだけ、足が……」

 声を小さくしながら、裾を引くような仕草を見せる。

 すると、案の定——

「リリエル様!」

 レオン様がすぐに足を止め、私の側に寄る。そして、彼の視線が私の足元へと向かった。

「靴擦れをされているのでは……?」

 彼の言葉に、私はほんの少しだけ驚いた表情を作る。

「……そんな、大丈夫ですわ。こんなことで旅を止めるわけにはいきませんもの」

 ここで「辛い」とか「歩けない」と言ってしまうのはダメ。あくまで**「無理をしてでも頑張ろうとする健気な令嬢」**という立場を崩してはいけない。

 だけど、騎士というのは「無理をしている者」に対して放っておけない生き物。だからこそ、私はほんの少しだけ足を引きずるように見せながら、一歩を踏み出した。

「……っ」

 小さく息を呑む。それだけで、レオン様の動きが止まるのがわかった。

「やはり、無理をしないでください」

 彼は強い口調でそう言うと、突然しゃがみ込み——

「!? ちょ、ちょっと……!?」

 気づいたときには、私はレオン様の腕の中にいた。

「歩けないなら、私が運びます」

 低く落ち着いた声とともに、彼は私を軽々と抱き上げる。

(……ふふ、まさかここまでしてくれるなんて)

 私はほんの少しだけ、彼の胸元に顔を埋めるように身を寄せた。そして——

「……恥ずかしいですわ」

 そう、小さく呟いてみせる。

「気にすることはありません」

 レオン様はそう言いながらも、耳がわずかに赤く染まっているのを私は見逃さなかった。

(これで……彼の意識の中で、私は単なる護衛対象じゃなくなる)

 私はただ守られるだけの令嬢じゃない。彼が「特別に庇護したくなる」存在になるのが重要なのだ。

 私はそっと目を伏せ、微笑む。

「……ありがとうございます、レオン様」

 彼の腕の中で、私はそっと息を吐いた。

 ——これで、さらに一歩前進ね。

 だって私は——すごくあざといのだから。

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