婚約破棄された、女はすごくあざとい

ルイ

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 レオン様に抱きかかえられたまま、私は彼の腕の中で静かに息を整えていた。

 騎士らしいがっしりとした体格。規則正しく鼓動する心音。軽々と私を支える強い腕。

 (……こういうの、嫌いじゃないわね)

 もちろん、これは計算済みの展開。護衛としての使命感だけでなく、レオン様自身の「庇護欲」を刺激することが重要だった。

 護るべき相手としてだけでなく、「彼が自ら守りたいと思う存在」になること。 そのためには、距離を縮める必要がある。

(さて、どう動くべきかしら)

 私は彼の胸元に顔を寄せたまま、そっと表情を作る。

「……恥ずかしいですわ」

 あくまで「抗えない状況」に置かれているかのように、でもほんの少しだけ親しみを込める。すると——

「……すぐに休める場所を探します」

 レオン様は私の言葉には答えず、少し強く腕を回した。

(ふふ、悪くない反応)

 彼は私の言葉に揺らぎつつも、意識をそらすように行動を優先している。つまり、すでに少しだけ意識している証拠。

 それからしばらく歩き、小さな森の中の広場にたどり着いた。木々に囲まれ、涼しい風が吹き抜ける静かな場所。

 「ここで休みましょう」

 レオン様は私をそっと下ろし、すぐに水筒を差し出してきた。

「水をどうぞ」

「ありがとうございます……」

 私は両手で水筒を受け取り、ゆっくりと口をつける。

(……ここで、次の仕掛けをしましょうか)

 私は飲み終わると、そっと手を滑らせ——水筒を地面に落とした。

「あ……」

 すぐにレオン様が反応し、手を伸ばした。

 その瞬間、私はわざと指先を重ねるようにして、水筒を拾い上げる。

「……っ」

 一瞬、彼の動きが止まる。

 指先が触れ合う程度の接触——たったそれだけなのに、彼は一瞬固まった。

(ふふ、やっぱりね)

 騎士としての自制心があるからこそ、些細な接触でも彼の意識は揺らぐ。私はそのまま何もなかったかのように微笑んだ。

「すみません、慌ててしまいましたわ」

「……いえ」

 彼は視線を逸らし、ほんの少しだけ喉を鳴らした。

(ここで深追いはしない。あくまで、少しずつ距離を縮めるのが重要)

 私は水筒を両手で持ち直し、改めて彼を見つめる。

「レオン様は……王太子殿下から、わたくしの護衛を命じられたのですよね?」

「……そうです」

「では、もし……王太子殿下が『もう護らなくていい』と言われたら?」

 レオン様の眉がピクリと動く。

「それでも、わたくしを護ってくださるのかしら?」

 私の問いかけに、彼はすぐには答えなかった。

 彼の中で「騎士としての義務」と「彼自身の意思」が少しずつぶつかり始めている。

(そう、これが大事)

 私を守るのが王太子の命令だからではなく——レオン様自身が「護りたい」と思うように仕向けること。

 しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。

「……私は、護衛としてだけではなく」

 彼は私をじっと見つめ——

「リリエル様ご自身を、お護りしたいと考えています」

 その瞬間、私はほんの少しだけ驚いた表情を見せる。

(……予想以上に、良い反応ね)

 ここで「嬉しい」とは言わない。むしろ、少し戸惑った様子を見せる。

「……そんな、恐れ多いですわ」

 彼は静かに微笑むと、私の手の甲にそっと触れた。

「……あなたは、護るに値する方です」

 鼓動が少しだけ早くなるのを感じる。

 (これは……本当に、面白くなってきたわね)

 レオン様はもう、ただの護衛ではなくなった。

 これから先、彼は私を「騎士として」ではなく、「ひとりの男として」意識し始めるはず。

 そして、それこそが——私が求めていた「次の展開」。

 私はそっと、微笑んだ。

「……ありがとうございます、レオン様」

 王都を離れてから、まだ数日。

 でも、私の計画は順調に進んでいる。

 だって私は——すごくあざといのだから。

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