婚約破棄された、女はすごくあざとい

ルイ

文字の大きさ
9 / 15

9

しおりを挟む
 レオン様の「あなたは護るに値する方です」という言葉が、静かな森の空気に溶けていった。

 私の手の甲に触れる彼の指先。騎士としての礼儀を守りながらも、そこに滲むのは明らかに「個人的な感情」。

 ——よし、ここで少し揺さぶりをかけてみましょうか。

 私はほんの少しだけ頬を染め、目を伏せる。そして、わざと控えめな声で呟く。

「……レオン様がそうおっしゃってくださると……とても、心強いですわ」

 ここで「嬉しいです!」と無邪気に喜ぶのはまだ早い。あくまで「慎ましく、でも心に響いた様子」を見せるのがポイント。

 レオン様は私の言葉に、僅かに表情を和らげた。

「……そう言っていただけるなら、光栄です」

 私の手からそっと指を離しながらも、彼の視線はまだ私を見つめている。その眼差しが先ほどまでよりも柔らかい。

(ふふ、順調ね。レオン様はもう、単なる護衛としての枠を超え始めているわ)

 でも、ここで一気に距離を縮めすぎるのは逆効果。

 あくまで彼自身に「もっと近づきたい」と思わせることが重要なのだから。

 私は何事もなかったかのように微笑み、水筒を手に取り直した。

「そろそろ行きましょうか?」

「……ええ」

 レオン様は私を見つめたまま、少しだけためらうように頷いた。

 ——はい、この反応が欲しかったの。

 彼の中で、私に対する感情が少しずつ変化している。

 「守らなければならない存在」から、「もっと知りたい存在」へ。

 そして、「ただの護衛」ではなく、「私の傍にいたい」と思うようになるまで——私は、じっくり時間をかけるつもりだった。

 ***

 旅を再開してから数時間後。

 日は徐々に傾き、空が茜色に染まり始めていた。

 レオン様は私を休ませるため、小さな村で一泊することを提案した。

「この先、街道に出るまでは人里が少ない。今日はこの村で宿を取るのが良いでしょう」

 彼の提案に、私は優雅に頷いた。

「そうですわね。……レオン様にお任せいたしますわ」

 「あなたを信頼している」ということを伝えるのも、大切な要素。

 それを受けた彼は、どこか誇らしげな表情を浮かべた。

 (ええ、その調子よ、レオン様)

 私たちは村の宿へと向かった。

 ***

 宿はこぢんまりとしていたが、掃除が行き届き、清潔感があった。

「リリエル様、私は隣の部屋を取りますので、ご安心を」

 レオン様はそう言いながら、私の部屋の前で足を止めた。

 私は微笑みながら、ほんの少しだけ視線を伏せる。

「……レオン様」

「はい?」

 私は、静かに彼の顔を見上げた。

「今夜も……護っていただけますか?」

 私の言葉に、レオン様の肩がわずかに強張るのがわかった。

 (ふふ、やっぱりこのくらいで揺らぐのね)

 もちろん、「部屋に入れてほしい」などとは言わない。私はただ「護ってほしい」と言っただけ。

 だけど、それが「騎士としての義務」なのか、それとも「女性としての関心」なのか——彼自身が意識し始めるには十分な言葉だったはず。

「……当然です。私は、リリエル様の護衛ですから」

 そう言いながら、彼は一瞬だけ視線をそらした。

(……ふふ、可愛い)

 私は静かに微笑み、ドアノブに手をかけた。

「では、おやすみなさいませ、レオン様」

 そっと部屋に入り、扉を閉める。そして、私はベッドの端に腰掛けた。

(……この旅、思ったより楽しめそうね)

 レオン様は、もう「ただの護衛」ではいられなくなっている。

 私はこれから、どんなふうに彼を「転がして」いこうかしら?

 でも、大丈夫。

 だって私は——すごくあざといのだから。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

おさななじみの次期公爵に「あなたを愛するつもりはない」と言われるままにしたら挙動不審です

ワイちゃん
恋愛
伯爵令嬢セリアは、侯爵に嫁いだ姉にマウントをとられる日々。会えなくなった幼馴染とのあたたかい日々を心に過ごしていた。ある日、婚活のための夜会に参加し、得意のピアノを披露すると、幼馴染と再会し、次の日には公爵の幼馴染に求婚されることに。しかし、幼馴染には「あなたを愛するつもりはない」と言われ、相手の提示するルーティーンをただただこなす日々が始まり……?

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

王家の賠償金請求

章槻雅希
恋愛
王太子イザイアの婚約者であったエルシーリアは真実の愛に出会ったという王太子に婚約解消を求められる。相手は男爵家庶子のジルダ。 解消とはいえ実質はイザイア有責の破棄に近く、きちんと慰謝料は支払うとのこと。更に王の決めた婚約者ではない女性を選ぶ以上、王太子位を返上し、王籍から抜けて平民になるという。 そこまで覚悟を決めているならエルシーリアに言えることはない。彼女は婚約解消を受け入れる。 しかし、エルシーリアは何とも言えない胸のモヤモヤを抱える。婚約解消がショックなのではない。イザイアのことは手のかかる出来の悪い弟分程度にしか思っていなかったから、失恋したわけでもない。 身勝手な婚約解消に怒る侍女と話をして、エルシーリアはそのモヤモヤの正体に気付く。そしてエルシーリアはそれを父公爵に告げるのだった。 『小説家になろう』『アルファポリス』に重複投稿、自サイトにも掲載。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...