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レオン様の「あなたは護るに値する方です」という言葉が、静かな森の空気に溶けていった。
私の手の甲に触れる彼の指先。騎士としての礼儀を守りながらも、そこに滲むのは明らかに「個人的な感情」。
——よし、ここで少し揺さぶりをかけてみましょうか。
私はほんの少しだけ頬を染め、目を伏せる。そして、わざと控えめな声で呟く。
「……レオン様がそうおっしゃってくださると……とても、心強いですわ」
ここで「嬉しいです!」と無邪気に喜ぶのはまだ早い。あくまで「慎ましく、でも心に響いた様子」を見せるのがポイント。
レオン様は私の言葉に、僅かに表情を和らげた。
「……そう言っていただけるなら、光栄です」
私の手からそっと指を離しながらも、彼の視線はまだ私を見つめている。その眼差しが先ほどまでよりも柔らかい。
(ふふ、順調ね。レオン様はもう、単なる護衛としての枠を超え始めているわ)
でも、ここで一気に距離を縮めすぎるのは逆効果。
あくまで彼自身に「もっと近づきたい」と思わせることが重要なのだから。
私は何事もなかったかのように微笑み、水筒を手に取り直した。
「そろそろ行きましょうか?」
「……ええ」
レオン様は私を見つめたまま、少しだけためらうように頷いた。
——はい、この反応が欲しかったの。
彼の中で、私に対する感情が少しずつ変化している。
「守らなければならない存在」から、「もっと知りたい存在」へ。
そして、「ただの護衛」ではなく、「私の傍にいたい」と思うようになるまで——私は、じっくり時間をかけるつもりだった。
***
旅を再開してから数時間後。
日は徐々に傾き、空が茜色に染まり始めていた。
レオン様は私を休ませるため、小さな村で一泊することを提案した。
「この先、街道に出るまでは人里が少ない。今日はこの村で宿を取るのが良いでしょう」
彼の提案に、私は優雅に頷いた。
「そうですわね。……レオン様にお任せいたしますわ」
「あなたを信頼している」ということを伝えるのも、大切な要素。
それを受けた彼は、どこか誇らしげな表情を浮かべた。
(ええ、その調子よ、レオン様)
私たちは村の宿へと向かった。
***
宿はこぢんまりとしていたが、掃除が行き届き、清潔感があった。
「リリエル様、私は隣の部屋を取りますので、ご安心を」
レオン様はそう言いながら、私の部屋の前で足を止めた。
私は微笑みながら、ほんの少しだけ視線を伏せる。
「……レオン様」
「はい?」
私は、静かに彼の顔を見上げた。
「今夜も……護っていただけますか?」
私の言葉に、レオン様の肩がわずかに強張るのがわかった。
(ふふ、やっぱりこのくらいで揺らぐのね)
もちろん、「部屋に入れてほしい」などとは言わない。私はただ「護ってほしい」と言っただけ。
だけど、それが「騎士としての義務」なのか、それとも「女性としての関心」なのか——彼自身が意識し始めるには十分な言葉だったはず。
「……当然です。私は、リリエル様の護衛ですから」
そう言いながら、彼は一瞬だけ視線をそらした。
(……ふふ、可愛い)
私は静かに微笑み、ドアノブに手をかけた。
「では、おやすみなさいませ、レオン様」
そっと部屋に入り、扉を閉める。そして、私はベッドの端に腰掛けた。
(……この旅、思ったより楽しめそうね)
レオン様は、もう「ただの護衛」ではいられなくなっている。
私はこれから、どんなふうに彼を「転がして」いこうかしら?
でも、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
私の手の甲に触れる彼の指先。騎士としての礼儀を守りながらも、そこに滲むのは明らかに「個人的な感情」。
——よし、ここで少し揺さぶりをかけてみましょうか。
私はほんの少しだけ頬を染め、目を伏せる。そして、わざと控えめな声で呟く。
「……レオン様がそうおっしゃってくださると……とても、心強いですわ」
ここで「嬉しいです!」と無邪気に喜ぶのはまだ早い。あくまで「慎ましく、でも心に響いた様子」を見せるのがポイント。
レオン様は私の言葉に、僅かに表情を和らげた。
「……そう言っていただけるなら、光栄です」
私の手からそっと指を離しながらも、彼の視線はまだ私を見つめている。その眼差しが先ほどまでよりも柔らかい。
(ふふ、順調ね。レオン様はもう、単なる護衛としての枠を超え始めているわ)
でも、ここで一気に距離を縮めすぎるのは逆効果。
あくまで彼自身に「もっと近づきたい」と思わせることが重要なのだから。
私は何事もなかったかのように微笑み、水筒を手に取り直した。
「そろそろ行きましょうか?」
「……ええ」
レオン様は私を見つめたまま、少しだけためらうように頷いた。
——はい、この反応が欲しかったの。
彼の中で、私に対する感情が少しずつ変化している。
「守らなければならない存在」から、「もっと知りたい存在」へ。
そして、「ただの護衛」ではなく、「私の傍にいたい」と思うようになるまで——私は、じっくり時間をかけるつもりだった。
***
旅を再開してから数時間後。
日は徐々に傾き、空が茜色に染まり始めていた。
レオン様は私を休ませるため、小さな村で一泊することを提案した。
「この先、街道に出るまでは人里が少ない。今日はこの村で宿を取るのが良いでしょう」
彼の提案に、私は優雅に頷いた。
「そうですわね。……レオン様にお任せいたしますわ」
「あなたを信頼している」ということを伝えるのも、大切な要素。
それを受けた彼は、どこか誇らしげな表情を浮かべた。
(ええ、その調子よ、レオン様)
私たちは村の宿へと向かった。
***
宿はこぢんまりとしていたが、掃除が行き届き、清潔感があった。
「リリエル様、私は隣の部屋を取りますので、ご安心を」
レオン様はそう言いながら、私の部屋の前で足を止めた。
私は微笑みながら、ほんの少しだけ視線を伏せる。
「……レオン様」
「はい?」
私は、静かに彼の顔を見上げた。
「今夜も……護っていただけますか?」
私の言葉に、レオン様の肩がわずかに強張るのがわかった。
(ふふ、やっぱりこのくらいで揺らぐのね)
もちろん、「部屋に入れてほしい」などとは言わない。私はただ「護ってほしい」と言っただけ。
だけど、それが「騎士としての義務」なのか、それとも「女性としての関心」なのか——彼自身が意識し始めるには十分な言葉だったはず。
「……当然です。私は、リリエル様の護衛ですから」
そう言いながら、彼は一瞬だけ視線をそらした。
(……ふふ、可愛い)
私は静かに微笑み、ドアノブに手をかけた。
「では、おやすみなさいませ、レオン様」
そっと部屋に入り、扉を閉める。そして、私はベッドの端に腰掛けた。
(……この旅、思ったより楽しめそうね)
レオン様は、もう「ただの護衛」ではいられなくなっている。
私はこれから、どんなふうに彼を「転がして」いこうかしら?
でも、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
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