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静かな夜が訪れた。
小さな村の宿屋は素朴ながらも温かみがあり、窓の外からは虫の音と、時折吹き抜ける風の音が聞こえてくる。
私はベッドの端に座りながら、ゆっくりと夜空を見上げた。
——レオン様の反応、とても良かったわね。
「今夜も護っていただけますか?」とお願いしただけなのに、彼の肩は僅かに強張り、目を逸らしていた。
(もう、ただの護衛としての意識ではいられないはず)
ここまでくれば、彼の中で私の存在が「義務」ではなく「個人的な感情」に変わるのは時間の問題。
でも——
(もう少し、確実に距離を縮めておきたいわね)
私はベッドから立ち上がり、ゆっくりとドアへと向かった。
***
扉をそっと開けると、すぐ隣の部屋の前に、レオン様が立っていた。
彼は手を腰に当て、剣の柄に軽く触れながら、静かに廊下の様子を見守っていた。
(……本当に律儀な方ね)
普通、護衛とはいえ、ここまで厳重に見張る必要はない。だが、彼は私のために休むことなく警戒を続けている。
私の気配に気づいたのか、レオン様は振り向いた。
「……リリエル様? どうかされましたか?」
私はほんの少しだけ不安げな表情を作り、ドア枠に手を添えた。
「……すみません、レオン様。少しだけ……お話ししてもよろしいでしょうか?」
夜に突然話がしたいと言われれば、当然驚くだろう。
案の定、レオン様は少しだけ目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。
「ええ、もちろん。どうぞ」
私はゆっくりと彼に近づき、廊下の壁に背を預ける。そして、静かに息を吐いた。
「……ふふ、なんだか不思議ですわ」
「……何が、ですか?」
レオン様が首を傾げる。私は少しだけ夜空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「わたくし、ずっと王都で生きてきました。でも、こうして旅に出てみると……なんだか、本当に自由になったような気がして」
私はそっと微笑み、続ける。
「もちろん、公爵令嬢としての立場は変わりませんし、旅の目的もはっきりしているのですけれど……それでも、なんというか……今までとは違う景色が見える気がするのです」
レオン様は私の言葉を静かに聞いていた。
(ここで、少しだけ「距離を縮める隙」を作るのが大事)
私はゆっくりと彼の顔を見上げた。
「……レオン様は、どうして騎士になられたのですか?」
彼は一瞬驚いたように目を瞬かせた。
「……なぜ、そんなことを?」
私はそっと微笑む。
「知りたくなったのです、レオン様のこと」
——はい、ここで彼を意識させる。
「護衛だから知りたい」ではなく、「あなた自身に興味がある」と伝えることで、彼は「私個人として見られている」と感じるはず。
レオン様は少しだけ視線を逸らした後、静かに答えた。
「……父が騎士だったのです。幼い頃からその背中を見て育ちました」
「まあ……」
私は小さく驚いたように目を見開く。
「お父様も……?」
「ええ。父は生涯、王と国に忠誠を誓い、その剣を捧げました。私は、そんな父を誇りに思っていました」
彼の言葉には、確かな誇りと敬意が滲んでいた。
(なるほど、レオン様の忠誠心はここから来ているのね)
つまり、彼にとって「護ること」はただの義務ではなく、誇りなのだ。
私はそっと微笑んだ。
「レオン様は……きっと、とても素敵なお父様のもとで育たれたのですわね」
彼は少し驚いたように私を見つめる。そして、静かに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
少しずつ、彼の心が開いてきているのを感じる。
(……あと一押しね)
私はほんの少しだけ、寂しそうに微笑んでみせる。
「……少しだけ、羨ましいですわ」
「……リリエル様?」
私は夜空を見上げながら、ゆっくりと声を落とす。
「わたくしの父は、公爵家の当主として、常に公の務めを優先していました。もちろん、それは誇るべきことです。でも……」
ここで言葉を詰まらせ、少しだけ躊躇う仕草をする。
そして、静かに続ける。
「……わたくしは、一度でもいいから、“普通の娘”として父と過ごしてみたかった……そんな気がしますわ」
——はい、ここで「守りたくなる隙」を作る。
「公爵令嬢としてではなく、一人の女性としての弱さ」を見せることで、彼の庇護欲をさらに刺激する。
すると——
「……リリエル様」
レオン様の声が、僅かに低くなった。
私がゆっくりと視線を戻すと、彼は真剣な目でこちらを見つめていた。
「……私は、あなたを護ります」
「……」
「あなたがどこへ行こうとも、何を求めようとも……私は、あなたの傍にいます」
彼の言葉に、私はほんの少しだけ目を見開く。そして、ゆっくりと瞬きをして——
「……ありがとうございます、レオン様」
彼の目をじっと見つめながら、微笑んだ。
(……これで、もう彼は「ただの護衛」ではいられなくなったわね)
私は静かに息を吐き、夜空をもう一度見上げる。
——これで、次のステージに進める。
でも、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
小さな村の宿屋は素朴ながらも温かみがあり、窓の外からは虫の音と、時折吹き抜ける風の音が聞こえてくる。
私はベッドの端に座りながら、ゆっくりと夜空を見上げた。
——レオン様の反応、とても良かったわね。
「今夜も護っていただけますか?」とお願いしただけなのに、彼の肩は僅かに強張り、目を逸らしていた。
(もう、ただの護衛としての意識ではいられないはず)
ここまでくれば、彼の中で私の存在が「義務」ではなく「個人的な感情」に変わるのは時間の問題。
でも——
(もう少し、確実に距離を縮めておきたいわね)
私はベッドから立ち上がり、ゆっくりとドアへと向かった。
***
扉をそっと開けると、すぐ隣の部屋の前に、レオン様が立っていた。
彼は手を腰に当て、剣の柄に軽く触れながら、静かに廊下の様子を見守っていた。
(……本当に律儀な方ね)
普通、護衛とはいえ、ここまで厳重に見張る必要はない。だが、彼は私のために休むことなく警戒を続けている。
私の気配に気づいたのか、レオン様は振り向いた。
「……リリエル様? どうかされましたか?」
私はほんの少しだけ不安げな表情を作り、ドア枠に手を添えた。
「……すみません、レオン様。少しだけ……お話ししてもよろしいでしょうか?」
夜に突然話がしたいと言われれば、当然驚くだろう。
案の定、レオン様は少しだけ目を見開いたが、すぐに静かに頷いた。
「ええ、もちろん。どうぞ」
私はゆっくりと彼に近づき、廊下の壁に背を預ける。そして、静かに息を吐いた。
「……ふふ、なんだか不思議ですわ」
「……何が、ですか?」
レオン様が首を傾げる。私は少しだけ夜空を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「わたくし、ずっと王都で生きてきました。でも、こうして旅に出てみると……なんだか、本当に自由になったような気がして」
私はそっと微笑み、続ける。
「もちろん、公爵令嬢としての立場は変わりませんし、旅の目的もはっきりしているのですけれど……それでも、なんというか……今までとは違う景色が見える気がするのです」
レオン様は私の言葉を静かに聞いていた。
(ここで、少しだけ「距離を縮める隙」を作るのが大事)
私はゆっくりと彼の顔を見上げた。
「……レオン様は、どうして騎士になられたのですか?」
彼は一瞬驚いたように目を瞬かせた。
「……なぜ、そんなことを?」
私はそっと微笑む。
「知りたくなったのです、レオン様のこと」
——はい、ここで彼を意識させる。
「護衛だから知りたい」ではなく、「あなた自身に興味がある」と伝えることで、彼は「私個人として見られている」と感じるはず。
レオン様は少しだけ視線を逸らした後、静かに答えた。
「……父が騎士だったのです。幼い頃からその背中を見て育ちました」
「まあ……」
私は小さく驚いたように目を見開く。
「お父様も……?」
「ええ。父は生涯、王と国に忠誠を誓い、その剣を捧げました。私は、そんな父を誇りに思っていました」
彼の言葉には、確かな誇りと敬意が滲んでいた。
(なるほど、レオン様の忠誠心はここから来ているのね)
つまり、彼にとって「護ること」はただの義務ではなく、誇りなのだ。
私はそっと微笑んだ。
「レオン様は……きっと、とても素敵なお父様のもとで育たれたのですわね」
彼は少し驚いたように私を見つめる。そして、静かに微笑んだ。
「……ありがとうございます」
少しずつ、彼の心が開いてきているのを感じる。
(……あと一押しね)
私はほんの少しだけ、寂しそうに微笑んでみせる。
「……少しだけ、羨ましいですわ」
「……リリエル様?」
私は夜空を見上げながら、ゆっくりと声を落とす。
「わたくしの父は、公爵家の当主として、常に公の務めを優先していました。もちろん、それは誇るべきことです。でも……」
ここで言葉を詰まらせ、少しだけ躊躇う仕草をする。
そして、静かに続ける。
「……わたくしは、一度でもいいから、“普通の娘”として父と過ごしてみたかった……そんな気がしますわ」
——はい、ここで「守りたくなる隙」を作る。
「公爵令嬢としてではなく、一人の女性としての弱さ」を見せることで、彼の庇護欲をさらに刺激する。
すると——
「……リリエル様」
レオン様の声が、僅かに低くなった。
私がゆっくりと視線を戻すと、彼は真剣な目でこちらを見つめていた。
「……私は、あなたを護ります」
「……」
「あなたがどこへ行こうとも、何を求めようとも……私は、あなたの傍にいます」
彼の言葉に、私はほんの少しだけ目を見開く。そして、ゆっくりと瞬きをして——
「……ありがとうございます、レオン様」
彼の目をじっと見つめながら、微笑んだ。
(……これで、もう彼は「ただの護衛」ではいられなくなったわね)
私は静かに息を吐き、夜空をもう一度見上げる。
——これで、次のステージに進める。
でも、大丈夫。
だって私は——すごくあざといのだから。
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