婚約破棄されたので、自由に生きようと思います

ルイ

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王太子妃という名の檻

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 馬車の車輪が石畳を滑る音を聞きながら、私は静かに目を閉じた。

(まさか本当に旅に出ることになるなんてね……)

 昨日までの私なら、こんなことは考えもしなかっただろう。私は王太子妃になるために育てられ、それ以外の人生などありえないと思っていた。

 けれど——そもそも、私が王太子妃に「選ばれた」のは、私自身の意志ではなかった。

 ◆◇◆

 私は公爵家の長女として生まれた。エルステッド公爵家は代々王国に仕える名門で、国王からの信頼も厚い家柄だ。そのため、私が物心つく前から「王太子妃候補」として教育されることは、当然のことだった。

 幼い頃から礼儀作法、政治、外交、歴史、そして舞踏や音楽まで——あらゆる分野を叩き込まれた。間違いは許されず、たとえ小さなミスでも「王太子妃たる者が」と厳しく指導された。

 当時の私は、それが当たり前だと思っていた。

 でも——

「リリエル様、王太子殿下がいらしております」

 そう告げられたときだけは、どうしようもなく憂鬱な気分になった。

 アレクシス・フォン・ルーウェンハルト。私の婚約者であり、未来の王となる男。

 彼は王太子として申し分のない資質を持っていた。優雅で、聡明で、誰にでも優しく、理想的な「王太子様」。

 けれど、私は彼の笑顔の裏にあるものを、ずっと感じ取っていた。

「リリエル、今日も美しいね」

 そう微笑む彼の言葉が、どこか嘘くさい。私に向けられる優しさが、決して本心ではないことを、私は気づいてしまった。

 彼は「王太子として理想の自分」を演じていた。そして私も、「王太子妃としてふさわしい自分」を演じていた。

 そんな関係が、本当に幸せな未来につながるのだろうか?

 ——答えは、婚約破棄という形で示された。

 ◆◇◆

「……良かったのかもしれないわね」

 馬車の窓から見える景色が、少しずつ変わっていく。今まで私が歩んできた道とは、まったく違う道。

(やっと、自由になれた)

 そう思うと、自然と笑みがこぼれた。

 これからの私は、もう誰かの期待に縛られることはない。自分の足で、自分の人生を歩んでいくのだ。

(さて、最初の目的地は……)

 新たな人生の幕開けに、胸が高鳴るのを感じながら、私は旅路を進んでいった。
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