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最初の目的地と不穏な噂
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馬車は王都を離れ、徐々に田園地帯へと入っていった。公爵家の馬車は最高級のものだが、それでも揺れを完全に防ぐことはできない。それでも、私の心は晴れやかだった。
(最初の目的地は……アルト村ね)
王都から半日ほどの距離にある小さな村。以前、王太子妃としての学習の一環で「王国の現状」についての資料を読んだことがある。その中に「近年、魔物の被害が増えている」という記述があった。
(王都で暮らしていたら、そんなこと実感する機会もなかったけれど……実際のところはどうなのかしら)
何かを学ぶなら、まず自分の目で確かめることが大事だ。
そう思っていると、御者台から声がかかった。
「お嬢様、そろそろ村が見えてまいります」
「ありがとう」
私は窓の外を見た。確かに遠くに小さな集落が見えてきている。だが——
(……なんだか、妙に静かね)
村の入り口には誰の姿もない。普通なら、畑仕事をする人や、子供たちが遊ぶ様子が見えてもいいはずなのに。
馬車が村の中央に入ると、ようやく人影が見えた。だが、村人たちはどこか怯えた表情をしている。
「あなたたちは……?」
勇気を出して話しかけてきたのは、一人の中年男性だった。
「私はリリエル・エルステッド。旅の途中でこちらに立ち寄らせていただきました」
公爵家の名前を出すと、村人たちはざわめいた。
「エルステッド……公爵家の?」
「まさか、本当に……」
何か様子がおかしい。
「どうかしましたか?」
私が尋ねると、村長と思われる老人が重々しく頷いた。
「……実は、最近この村の近くに魔物が出るようになりましてな」
「魔物?」
「ええ。以前はここまで降りてくることはなかったのですが……最近、急に村の近くに現れ、家畜を襲ったり、時には人を傷つけたりするようになったのです」
(魔物の被害……やはり本当にあったのね)
王都にいたころは、「魔物の被害」と言われてもどこか遠い話のように感じていた。でも、こうして実際に被害に苦しむ人たちを目の当たりにすると、その深刻さがよく分かる。
「ですが……なぜ、皆さんはそんなに私の名前に反応されたのですか?」
村長は一瞬言い淀んだ後、意を決したように言った。
「実は、先日王都から『エルステッド公爵家の令嬢が視察に来る』という話を聞いていたのです。しかし……まさか、本当にお一人で来られるとは」
「……え?」
私は驚いて、思わずまばたきをした。
(そんな話、聞いたことないわよ?)
私が旅に出ることを知っていたのは、せいぜい家族とごく一部の使用人だけのはず。なのに、なぜ村の人々は「私が来ることを知っていた」と言うのか?
——何かがおかしい。
「すまないが、その話の詳細を教えていただけますか?」
胸の奥に小さな違和感を抱えながら、私は村長の話に耳を傾けるのだった。
(最初の目的地は……アルト村ね)
王都から半日ほどの距離にある小さな村。以前、王太子妃としての学習の一環で「王国の現状」についての資料を読んだことがある。その中に「近年、魔物の被害が増えている」という記述があった。
(王都で暮らしていたら、そんなこと実感する機会もなかったけれど……実際のところはどうなのかしら)
何かを学ぶなら、まず自分の目で確かめることが大事だ。
そう思っていると、御者台から声がかかった。
「お嬢様、そろそろ村が見えてまいります」
「ありがとう」
私は窓の外を見た。確かに遠くに小さな集落が見えてきている。だが——
(……なんだか、妙に静かね)
村の入り口には誰の姿もない。普通なら、畑仕事をする人や、子供たちが遊ぶ様子が見えてもいいはずなのに。
馬車が村の中央に入ると、ようやく人影が見えた。だが、村人たちはどこか怯えた表情をしている。
「あなたたちは……?」
勇気を出して話しかけてきたのは、一人の中年男性だった。
「私はリリエル・エルステッド。旅の途中でこちらに立ち寄らせていただきました」
公爵家の名前を出すと、村人たちはざわめいた。
「エルステッド……公爵家の?」
「まさか、本当に……」
何か様子がおかしい。
「どうかしましたか?」
私が尋ねると、村長と思われる老人が重々しく頷いた。
「……実は、最近この村の近くに魔物が出るようになりましてな」
「魔物?」
「ええ。以前はここまで降りてくることはなかったのですが……最近、急に村の近くに現れ、家畜を襲ったり、時には人を傷つけたりするようになったのです」
(魔物の被害……やはり本当にあったのね)
王都にいたころは、「魔物の被害」と言われてもどこか遠い話のように感じていた。でも、こうして実際に被害に苦しむ人たちを目の当たりにすると、その深刻さがよく分かる。
「ですが……なぜ、皆さんはそんなに私の名前に反応されたのですか?」
村長は一瞬言い淀んだ後、意を決したように言った。
「実は、先日王都から『エルステッド公爵家の令嬢が視察に来る』という話を聞いていたのです。しかし……まさか、本当にお一人で来られるとは」
「……え?」
私は驚いて、思わずまばたきをした。
(そんな話、聞いたことないわよ?)
私が旅に出ることを知っていたのは、せいぜい家族とごく一部の使用人だけのはず。なのに、なぜ村の人々は「私が来ることを知っていた」と言うのか?
——何かがおかしい。
「すまないが、その話の詳細を教えていただけますか?」
胸の奥に小さな違和感を抱えながら、私は村長の話に耳を傾けるのだった。
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