悪役公爵令嬢に転生した話

ルイ

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一章 婚約破棄の序曲

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 舞踏会の華やかな音楽が流れる中、貴族たちは皆、同じ一点に注目していた。
 王太子アレクシスと、エミリアの登場。

 彼の隣に立つエミリアは、純白のドレスを身にまとい、まるで「未来の王妃」であるかのような雰囲気を纏っていた。
 そして何より、彼女の表情には一切の不安がない。

(ふふ、もう勝ったつもりなのね)

 その姿を見て、私は確信した。
 この場で、正式に**「婚約破棄」**が宣言されるのだと。

(いいでしょう。受けてあげるわ)

 ただし――このまま黙って終わるつもりはない。

***

 王太子の登場によって、舞踏会の空気は一変していた。
 貴族たちはささやき合いながら、私とアレクシスを交互に見つめている。

 その中心にいるのは、当然、私。
 **「婚約者を奪われた公爵令嬢」**として、どんな反応を見せるのか――それを期待する視線が集まっていた。

(本当に、人の不幸が大好きな人たちね)

 だが、それに屈するつもりはない。

 私はいつも通り、優雅な笑みを浮かべたまま、静かにワイングラスを傾ける。

(さて、どんな手を打ってくるのかしら?)

 そして、ついにアレクシスが動いた。

***

「皆の者、本日はこのような舞踏会にお集まりいただき、誠に感謝する」

 王太子としての威厳を持ち、アレクシスは堂々と語り始める。
 彼の声が響くと、ざわめいていた会場は自然と静まり返った。

「本日、私は一つの決断を皆に伝えたい」

(さあ、どうするの?)

 私の心は、驚くほど冷静だった。

「私は、レティシア・ヴェルネ公爵令嬢との婚約を、ここに正式に破棄する!」

 ――その瞬間、舞踏会の空気が凍りついた。

 あまりにも唐突で、公衆の面前で発せられた婚約破棄の宣言。
 驚きのあまり、息をのむ者、慌てて周囲とささやき合う者、そして何より――

 「婚約破棄を言い渡された本人」である私の反応を、誰もが待っていた。

(さて、ここが勝負どころね)

 私は、あえてゆっくりと目を伏せ、軽く息を吐く。
 まるで、動揺しているかのように。

 そして――静かに顔を上げた。

***

「……まあ、それはそれは」

 私は、笑った。

 誰もが私が激怒するか、涙を流すか、あるいは王太子に縋ると思っていたのだろう。
 だが、私が見せたのは、ただの優雅な微笑み。

 その瞬間、会場は一層静まり返った。

(ふふ、予想外だったかしら?)

 私はワイングラスを持ったまま、ゆっくりと立ち上がる。

「殿下のご判断、誠に尊重いたしますわ」

 そう言うと、アレクシスが僅かに驚いたように目を見開いた。

(何か問題でも?)

 彼の表情を見て、私は心の中で小さく笑う。

 きっと彼は、「泣き崩れる私」や「激怒する私」を期待していたのだろう。
 だが、私は王太子妃の座に固執していたわけではない。

(むしろ、これで私は自由になれるのだから)

「レティシア……お前は、それでいいのか?」

 戸惑ったような声で、アレクシスが問う。

「ええ。殿下が決められたことなのですもの。私には、それに従う義務がありますわ」

 そう言って、私は静かに頭を下げた。

 その瞬間、貴族たちの間に再びざわめきが広がる。

 「レティシア・ヴェルネは、婚約破棄を受け入れた」

 だが、それだけでは終わらない。

***

「――ただし」

 私は、わざと少し間を置いてから、言葉を続ける。

「ヴェルネ公爵家の令嬢として、一つだけ申し上げておきます」

 舞踏会の空気が、再び張り詰めた。

「殿下がどのようなご決断をなさるのも自由ですわ。ですが、その決断が国政に影響を及ぼすようなものであれば、当然、それ相応の責任を負うべきですわね?」

 そう、私は**「王太子の婚約破棄」が単なる恋愛の問題では済まない**ことを、公の場で指摘したのだ。

(この場にいる貴族たちは皆、この意味を理解するはずよ)

 王太子が自らの意思で婚約を破棄し、庶民出身の令嬢を選ぶという決断は、国の安定に直結する問題。

 貴族社会のバランスを崩せば、それは政争を引き起こす火種にもなる。

 だからこそ、私は最後に釘を刺しておいた。

「殿下が望む未来が、必ずしも穏やかであるとは限りません。どうか、その点もお忘れなきように」

 私の言葉に、貴族たちがざわめき始める。

「……レティシア、お前は……!」

 アレクシスが、何かを言いかける。
 だが、その言葉を遮るように、私はワイングラスをそっとテーブルに置いた。

「どうか、殿下の未来が良きものでありますように」

 それだけ言い残し、私は舞踏会の会場を後にした。

(さて、これでどう動くかしら?)

 アレクシスが選んだ未来が、本当に幸せなものかどうか――それを決めるのは、これからよ。

 私のざまぁは、まだ始まったばかりなのだから。

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